岬ノ村の因習

めにははを

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第26話 狩人の悪意

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 安藤は日暮れの山を歩く。
 表情に乏しい顔からは疲労が窺えず、汗もあまり掻いていない。
 息を切らさずに淡々と動く姿は、同僚にもロボットのようだとたびたび言われている。

 先導するのは全身に裂傷を負った村人だ。
 手錠で腕を拘束された状態で、痛みに耐えながら歩いている。
 靴は脱がされているので裸足だった。
 足の裏には小枝や石が刺さって出血している。
 安藤の施した逃走防止の策だった。

 すっかり弱った様子の村人はちらちらと後ろを確認する。

「なあ……まだ歩くのかよ」

「一応ね。銃声で他の村人が集まってくるかもしれないからさ」

 安藤の持つ短機関銃が村人の背中を軽く押す。
 引き金にはしっかりと指がかかっていた。
 安藤の目には欠片の油断もない。
 そして殺人を躊躇うこともないのは仲間の死を以て理解しており、村人は大人しく従うしかなかった。

 松田は二人のさらに後ろを歩く。
 手には自前のリボルバーを握り、連行中の村人から奪った自動拳銃をベルトに差している。
 汗と土で汚れた顔で、松田は不機嫌そうに愚痴る。

「ふざけんなよ、俺を囮にしやがって……」

 安藤は前を向いたまま反応する。

「役割分担さ。効率的でいいじゃないか」

「死ぬところだったんだぞ」

「でも結果的に死ななかった。いい走りっぷりだったね」

「……チッ」

 松田は舌打ちしてリボルバーを見る。
 生意気な安藤を撃ちたくなったが、さすがの彼もそこまでの暴挙は働かない。
 仮に実行したところで、安藤なら回避しそうだという予感もあった。
 実際、安藤は松田のことも警戒しており、それは松田も同様だ。
 互いに全幅の信頼を置いているわけではなかった。

 ため息を吐いた松田は今後について尋ねた。

「このままゲリラ戦法で村の戦力を削るのか?」

「そうだね。地の利は向こうにあるけど、別にやれないことはない。夜になれば尚更かな。さっきみたいに罠を張れば、村人も強気には出られない」

 安藤は無地のダッフルバッグを背負っていた。
 中には車のトランクに隠してあった道具を入れてある。
 その一つがワイヤーだった。

 安藤が森の各所に設置したワイヤーは、迂闊に突っ込めば人体が切断されるほどに鋭利だ。
 テープで目印をしてあるが、これから夜を迎える森で見つけるのは困難だろう。
 それこそ事前に位置を知っていなければ、完璧な対策は不可能に近い。

 もし罠が見つかって解除されても、村人達は捜索や追跡を躊躇せざるを得ない。
 どこに何の罠があるか分からないストレスを常に強いることで、あらゆる行動が遅延されてしまう。
 安藤はそういった効果を期待して罠を仕込んだのであった。
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