岬ノ村の因習

めにははを

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第22話 狂気的な暴力

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「いのちよりも、たいせつな、やさいを……ッ!」

 有栖川が虚空を見つめている。
 極限の怒りを燃やす彼女は、全身が小刻みに震えていた。
 野菜の欠乏で理性が消し飛び、殺意に支配された存在と化している。

 仲間を殺されたもう一人の村人は混乱していた。
 まさか有栖川がここまでの反撃をしてくるとは思わなかったのだ。
 トンネル内の光景で心を折り、武器で脅せば従うと考えていた。
 多少抵抗されたところで殴って大人しくすればいい。
 今までその方法で上手くいっており、失敗したことなど一度もなかった。
 その自負が油断を生み、この状況を招いてしまった。

 村人は手斧を握り、雄叫びを上げて有栖川に襲いかかる。
 有栖川は振り向きざまに両腕を掲げた。
 手斧の斬撃は有栖川の手を縛る縄に当たって一気に切断する。
 攻撃を利用されたことに村人は怒り、すかさず手斧を振りかぶった。

「小癪なァッ!」

 横殴りの斬撃は空を切った。
 有栖川が潜り込むような姿勢でタックルし、村人を押し倒したのだ。
 馬乗りになった有栖川は自由になった両手で殴りまくる。
 容赦のない打撃が村人を滅多打ちにしていった。

「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」

「うっ、ぎゃっ、や、やめ! やめ、ろっ!」

 村人はまともに抵抗できていなかった。
 殴り返しても有栖川は攻撃の手を一切止めない。
 拳が何度も顔面に命中し、村人は脳震盪を起こしていた。

 顔面を腫らした村人は、唐突に攻撃が止まったことに気付く。
 ひとまずこれ以上の苦痛が来ないことに安堵しかけるも、すぐに凍り付いた。

 有栖川が手斧を振り上げていた。
 いつの間にか落としていた武器を奪われていたのだ。
 村人が絶叫したのと、その額に刃が突き立ったのはほぼ同時だった。
 白目を剥いて痙攣する村人は間もなく絶命する。

 手斧を引き抜いた有栖川はふらりと立ち上がった。
 彼女は野菜の残骸があった場所を見つめる。
 既に手足のない女達が平らげており、何も残っていなかった。

「……みなごろしですわ」

 有栖川が部屋を飛び出した。
 彼女は来た道を駆け戻り、ベニヤ板の通路を全力疾走で突き進む。

 騒ぎを聞きつけたのか、途中の部屋から村人が顔を出す。
 そこに手斧が炸裂した。
 豪快な一撃があっけなく首を刎ねる。
 顔を出した村人はわけも分からず死んだ。

 別の部屋から現れた者も一秒後に首が飛ぶ。
 また別の部屋の者も顔面を切り裂かれて死ぬ。
 有栖川を指差した者が「あっ」と発言した瞬間に殺された。
 背中を向けて逃げた者も追いつかれて後頭部を叩き割られてしまう。

 有栖川はノンストップで走り続ける。
 ドレスとは思えないほどに俊敏な動きだ。
 彼女はスカート部分を切り裂いてスリットを作り、筋肉の付いた美脚を晒して疾走していた。

 血染めの通路を進む有栖川は、左右の手に手斧と肉切り包丁を持っていた。
 後者は死体からどさくさで奪い取ったものだった。
 二種の刃物を得た有栖川は、台風のような勢いで村人の死体を量産していく。
 狂気的な暴力はもはや誰にも止められなかった。
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