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第19話 岬トンネル
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村人に連行される平野達は村から外れて道路を歩く。
一瞬、平野はこのまま解放してもらえるのではないかと期待するも、その想いはすぐに打ち壊される。
道路を進んだ先に会ったのは瓦礫で埋まったトンネルだった。
苔だらけの看板には「岬トンネル」と記されている。
トンネルを見上げた堤田は説明する。
「ここは倒壊事故で封鎖されてるんだがな。実は村が秘密裏に管理している。色々と都合がいいんだ」
具体的に何の都合なのか、平野は何も訊けなかった。
まともな答えが返ってくるとは思えなかったのだ。
トンネルの入り口は瓦礫で埋まっているが、よく見ると人が屈んで通れる程度の隙間があった。
上手く廃材を挟み込んで通路が作ってある。
平野達は姿勢を低くしてそこに入り、身をよじって進んでいく。
狭い通路は二メートルほどで終わった。
トンネル内はそれなりに広く、入り口のような崩落はあまり見られない。
奥へと歩きながら堤田が尋ねる。
「ここで豊穣の儀の準備をしてるんだ。見学していくか?」
「はーい!」
元気よく返事をしたのはミヒロだけだった。
平野は青ざめた顔で黙々と歩く。
有栖川と星原はやはり自分の世界に没頭しており、他人の話を聞いていなかった。
トンネル内はベニヤ板の壁で仕切られていた。
コードに繋がった裸電球が張り巡らされており、それだけが唯一の光源となっている。
足元が暗いせいで、平野は何度も転びそうになった。
彼の隣ではミヒロが軽快にスキップをしている。
数分ほど歩くと、むせ返る血の臭いが漂ってきた。
平野は気分が悪くなり、反射的に込み上げてきた物を堪える。
それに気付いた堤田が眉を寄せた。
「吐くなよ。掃除が面倒だ」
平野はもう引き返したかったが、縄で縛られているので逆らえない。
引っ張られるがままに進むしかなかった。
血の臭いはますます濃くなり、もはや目を開けるのも辛くなる。
そうして辿り着いたのは血みどろの大部屋だった。
ベニヤ板で区切られたそのスペースには夥しい量の肉片が転がっている。
鉈やノコギリ、チェーンソーを持った村人達が談笑しながら肉を切り分けていた
ブルーシートの上には様々な形の骨が積み上げられている。
「なっ……」
平野は言葉を失う。
あまりにもグロテスクな光景に彼の思考は停止していた。
大部屋の中は赤い霧が舞っており、呼吸するたびに血の味がした。
堤田は平然と説明をする。
「ここは生贄を解体する部屋だ。部位ごとに食べやすいサイズに加工している。味やら食感の好みがあるからな。ちゃんと分けなきゃならん」
「食べやすい……って、まさか」
「そう、カニバリズムだよ」
堤田はいともあっさりと打ち明ける。
微塵の罪悪感もない顔だった。
連行を手伝う者や、解体作業に勤しむ村人も同じ様子である。
彼らにとってはこれが日常だった。
「おい! つまみ食いするな!」
「へへ、すまねえ。どうしても我慢できなくって……」
「今年の味はどうだ」
「悪くねえな。適度に歯ごたえがあっていい」
この世のものとは思えない会話を聞き、平野は膝をついて嘔吐した。
胃液が音を立てて地面を汚す。
堤田が「あーあ、誰か流しといてくれ」とぼやいた。
すぐに他の村人がホースの水をかけて嘔吐物を掃除する。
平野はズボンや靴がびしょびしょになったが、一向に気にならない。
精神的な不快感が上回ってそれどころではなかった。
解体部屋を目にしたミヒロは舌なめずりする。
有栖川は下を向いて震えていた。
星原は変わらず澄まし顔のままだ。
それぞれの反応を示す平野達に、堤田は暢気に解説をする。
「夏は腐りやすいから少しずつ殺すんだ。食えない肉が増えたらもったいねえだろ? すぐに食べない生贄はなるべく生かして糞出しさせると美味くなる」
ろくでもない補足に平野は小さく鼻を鳴らす。
とても笑えない状況だが、もう笑うしかなかった。
一瞬、平野はこのまま解放してもらえるのではないかと期待するも、その想いはすぐに打ち壊される。
道路を進んだ先に会ったのは瓦礫で埋まったトンネルだった。
苔だらけの看板には「岬トンネル」と記されている。
トンネルを見上げた堤田は説明する。
「ここは倒壊事故で封鎖されてるんだがな。実は村が秘密裏に管理している。色々と都合がいいんだ」
具体的に何の都合なのか、平野は何も訊けなかった。
まともな答えが返ってくるとは思えなかったのだ。
トンネルの入り口は瓦礫で埋まっているが、よく見ると人が屈んで通れる程度の隙間があった。
上手く廃材を挟み込んで通路が作ってある。
平野達は姿勢を低くしてそこに入り、身をよじって進んでいく。
狭い通路は二メートルほどで終わった。
トンネル内はそれなりに広く、入り口のような崩落はあまり見られない。
奥へと歩きながら堤田が尋ねる。
「ここで豊穣の儀の準備をしてるんだ。見学していくか?」
「はーい!」
元気よく返事をしたのはミヒロだけだった。
平野は青ざめた顔で黙々と歩く。
有栖川と星原はやはり自分の世界に没頭しており、他人の話を聞いていなかった。
トンネル内はベニヤ板の壁で仕切られていた。
コードに繋がった裸電球が張り巡らされており、それだけが唯一の光源となっている。
足元が暗いせいで、平野は何度も転びそうになった。
彼の隣ではミヒロが軽快にスキップをしている。
数分ほど歩くと、むせ返る血の臭いが漂ってきた。
平野は気分が悪くなり、反射的に込み上げてきた物を堪える。
それに気付いた堤田が眉を寄せた。
「吐くなよ。掃除が面倒だ」
平野はもう引き返したかったが、縄で縛られているので逆らえない。
引っ張られるがままに進むしかなかった。
血の臭いはますます濃くなり、もはや目を開けるのも辛くなる。
そうして辿り着いたのは血みどろの大部屋だった。
ベニヤ板で区切られたそのスペースには夥しい量の肉片が転がっている。
鉈やノコギリ、チェーンソーを持った村人達が談笑しながら肉を切り分けていた
ブルーシートの上には様々な形の骨が積み上げられている。
「なっ……」
平野は言葉を失う。
あまりにもグロテスクな光景に彼の思考は停止していた。
大部屋の中は赤い霧が舞っており、呼吸するたびに血の味がした。
堤田は平然と説明をする。
「ここは生贄を解体する部屋だ。部位ごとに食べやすいサイズに加工している。味やら食感の好みがあるからな。ちゃんと分けなきゃならん」
「食べやすい……って、まさか」
「そう、カニバリズムだよ」
堤田はいともあっさりと打ち明ける。
微塵の罪悪感もない顔だった。
連行を手伝う者や、解体作業に勤しむ村人も同じ様子である。
彼らにとってはこれが日常だった。
「おい! つまみ食いするな!」
「へへ、すまねえ。どうしても我慢できなくって……」
「今年の味はどうだ」
「悪くねえな。適度に歯ごたえがあっていい」
この世のものとは思えない会話を聞き、平野は膝をついて嘔吐した。
胃液が音を立てて地面を汚す。
堤田が「あーあ、誰か流しといてくれ」とぼやいた。
すぐに他の村人がホースの水をかけて嘔吐物を掃除する。
平野はズボンや靴がびしょびしょになったが、一向に気にならない。
精神的な不快感が上回ってそれどころではなかった。
解体部屋を目にしたミヒロは舌なめずりする。
有栖川は下を向いて震えていた。
星原は変わらず澄まし顔のままだ。
それぞれの反応を示す平野達に、堤田は暢気に解説をする。
「夏は腐りやすいから少しずつ殺すんだ。食えない肉が増えたらもったいねえだろ? すぐに食べない生贄はなるべく生かして糞出しさせると美味くなる」
ろくでもない補足に平野は小さく鼻を鳴らす。
とても笑えない状況だが、もう笑うしかなかった。
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