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第8話 逃避行
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津軽が出刃包丁で安藤を刺そうとする。
安藤は津軽の腕を掴んで止めると、ダッシュボードに叩きつけた。
弾みで出刃包丁が手放されて床に落ちる。
その隙を逃さず、安藤はシートベルトを津軽の首に巻いて絞め上げた。
呼吸ができなくなった津軽は、顔を赤くして呻く。
「ぐおっ」
軽トラックが急発進して加速し始める。
苦しむ津軽の足がアクセルを踏み込んでいた。
車内が激しく揺れる中、安藤は冷静にシートベルトを引っ張って固定する。
「は、なぜぇっ!」
泡を噴く津軽が暴れるも、首は絞まり続ける一方だった。
血走った目があらぬ方向を向き、振り回された手がシートベルトを引っ掻く。
それでも安藤が力を緩めることはなかった。
やがて加速した軽トラックが道を外れ、太い樹木に激突した。
津軽が「ぎゃっ」と声を上げると同時にエアバッグが作動する。
煙を上げて停止した車内で、安藤は運転席を見る。
津軽は死んでいた。
シートベストを剥がそうとする姿勢のまま動かない。
樹木にぶつかった衝撃で首が折れたのだ。
口から垂れた血が彼の衣服を濡らしていく。
安藤は死体を置いて外に出る。
その時、遠くから銃声が聞こえてきた。
立ち止まった安藤は、軽トラックの陰に隠れながら気配を殺す。
その手には自動拳銃が握られていた。
「…………」
銃声のした方角から誰かが走ってくる。
茂みから飛び出してきたのは汗だくの松田だった。
安藤は無言で銃口を向ける。
ほぼ同時に松田も反応し、持っていたリボルバーを構えた。
松田は安藤の風貌から素性を察する。
「サツか!」
「そっちはヤクザかな」
「元ヤクザだ」
言葉を返しながらも松田はリボルバーを下ろさない。
安藤も軽トラックを盾にした位置から動かず、じっと松田を狙い続けていた。
松田は慎重に距離を測りながら尋ねる。
「……お前、奴らの仲間か」
「違う。むしろ敵対している」
安藤は視線で軽トラックの中を示す。
リボルバーを構えたまま、松田は車内を確かめた。
首の折れた津軽の死体を見つけた後、彼は再び安藤を注視する。
説明を求める視線に、安藤は淡々と答えを述べる。
「僕を生贄にすると言って襲いかかってきたんだ。反撃しなければ殺されていた」
「別に責める気はねえよ。俺も似たような状況だった」
嘆息する松田がリボルバーを下げる。
肩の傷が痛むのか、顰め面はそのままだった。
安藤もひとまず自動拳銃を仕舞って訊く。
「さっきの銃声は君かな」
「そうだ。脅されたから撃ってやった」
「よく捕まらなかったね」
「体力と足の速さには自信がある。あんな連中に追いつかれるかよ」
自信ありげに言う松田であったが、村人の複数の怒声が聞こえてきた。
距離はおよそ数十メートル程度だろう。
安藤は首を傾げて指摘する。
「追いつかれそうだね」
「……土地勘で負けただけだ」
「言い訳は格好悪いよ」
「うるせえ。ぶっ飛ばすぞ」
舌打ちした松田が駆け足で移動を始めた。
彼は振り返らず一方的に告げる。
「状況が状況だ。敵じゃねえなら誰とでも組んでやる。たとえ気に食わねえサツでもな」
「同感だね。協力しようか」
「馴れ馴れしくすんなよ」
「そっちこそ」
松田と安藤はその場から足早に立ち去る。
ほどなくして村人達は軽トラックと車内の死体を発見した。
村人達は仲間の死に怒り狂い、よそ者の捜索に執着することになった。
安藤は津軽の腕を掴んで止めると、ダッシュボードに叩きつけた。
弾みで出刃包丁が手放されて床に落ちる。
その隙を逃さず、安藤はシートベルトを津軽の首に巻いて絞め上げた。
呼吸ができなくなった津軽は、顔を赤くして呻く。
「ぐおっ」
軽トラックが急発進して加速し始める。
苦しむ津軽の足がアクセルを踏み込んでいた。
車内が激しく揺れる中、安藤は冷静にシートベルトを引っ張って固定する。
「は、なぜぇっ!」
泡を噴く津軽が暴れるも、首は絞まり続ける一方だった。
血走った目があらぬ方向を向き、振り回された手がシートベルトを引っ掻く。
それでも安藤が力を緩めることはなかった。
やがて加速した軽トラックが道を外れ、太い樹木に激突した。
津軽が「ぎゃっ」と声を上げると同時にエアバッグが作動する。
煙を上げて停止した車内で、安藤は運転席を見る。
津軽は死んでいた。
シートベストを剥がそうとする姿勢のまま動かない。
樹木にぶつかった衝撃で首が折れたのだ。
口から垂れた血が彼の衣服を濡らしていく。
安藤は死体を置いて外に出る。
その時、遠くから銃声が聞こえてきた。
立ち止まった安藤は、軽トラックの陰に隠れながら気配を殺す。
その手には自動拳銃が握られていた。
「…………」
銃声のした方角から誰かが走ってくる。
茂みから飛び出してきたのは汗だくの松田だった。
安藤は無言で銃口を向ける。
ほぼ同時に松田も反応し、持っていたリボルバーを構えた。
松田は安藤の風貌から素性を察する。
「サツか!」
「そっちはヤクザかな」
「元ヤクザだ」
言葉を返しながらも松田はリボルバーを下ろさない。
安藤も軽トラックを盾にした位置から動かず、じっと松田を狙い続けていた。
松田は慎重に距離を測りながら尋ねる。
「……お前、奴らの仲間か」
「違う。むしろ敵対している」
安藤は視線で軽トラックの中を示す。
リボルバーを構えたまま、松田は車内を確かめた。
首の折れた津軽の死体を見つけた後、彼は再び安藤を注視する。
説明を求める視線に、安藤は淡々と答えを述べる。
「僕を生贄にすると言って襲いかかってきたんだ。反撃しなければ殺されていた」
「別に責める気はねえよ。俺も似たような状況だった」
嘆息する松田がリボルバーを下げる。
肩の傷が痛むのか、顰め面はそのままだった。
安藤もひとまず自動拳銃を仕舞って訊く。
「さっきの銃声は君かな」
「そうだ。脅されたから撃ってやった」
「よく捕まらなかったね」
「体力と足の速さには自信がある。あんな連中に追いつかれるかよ」
自信ありげに言う松田であったが、村人の複数の怒声が聞こえてきた。
距離はおよそ数十メートル程度だろう。
安藤は首を傾げて指摘する。
「追いつかれそうだね」
「……土地勘で負けただけだ」
「言い訳は格好悪いよ」
「うるせえ。ぶっ飛ばすぞ」
舌打ちした松田が駆け足で移動を始めた。
彼は振り返らず一方的に告げる。
「状況が状況だ。敵じゃねえなら誰とでも組んでやる。たとえ気に食わねえサツでもな」
「同感だね。協力しようか」
「馴れ馴れしくすんなよ」
「そっちこそ」
松田と安藤はその場から足早に立ち去る。
ほどなくして村人達は軽トラックと車内の死体を発見した。
村人達は仲間の死に怒り狂い、よそ者の捜索に執着することになった。
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