嫌いなアイツ

如月 永

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4.渉

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   ◇

翌朝、目を覚ますと雄大の腕の中に閉じ込められていて動けなかった。
どうしようかなと思っていると、雄大も目を覚ましたようでぼんやりとした表情のまま俺を目にしてふにゃりと幸せそうに笑んだ。
寝ぼけているのだろうと思ったので「おはよう」と言うと、バチバチと音がしそうなほど瞬きをした後、雄大は飛び起きた。
そして俺を見ると、顔を青ざめさせた。
まぁ当然の反応だよな。
俺は雄大と反対にゆっくりと起き上がる。
「俺っ、また渉さんに?!」
あ、これ昨日のこと覚えていないパターンだ。
「抱き枕にされただけだ。ほら、ワイシャツすら脱いでなかったからシワシワだろ。お前は何もしていない」
何もしていなくて幸いなのか、何もしなかったから残念なのか、雄大は複雑そうな顔をした。
「迷惑かけたのは悪かったけれど、俺なんかを家に入れちゃダメだ」
雄大は真剣な表情でそう言うと、身支度を整え始める。
俺はその姿を眺めながら、何でこんな気持ちになるんだろうと思っていた。
雄大は着替え終わると、俺に頭を下げた。
そのまま帰ろうとするので慌てて呼び止める。
昨日以上に晴れない顔をしている雄大を帰したらダメだと思った。
「お前が俺を好きだってのは分かったよ。きっと酔った俺が変なこと言ったから勘違いさせたんだろうし、無下にしたのは悪かった」
「は?!俺の気持ちを分かったフリしないで!」
「泣きながら何度も好きだって言われたら、そりゃまぁ分かるよな」
言いながら俺は赤面していた。
まっすぐに自分のことを好きと言う雄大に嘘は見えなかった。
雄大は訝しむ顔をしている。
「泣きながら……?何言ってんですか」
「ま、それはいいけど、帰る前に顔は洗った方が良いぞ。洗面所はあっちな」
雄大は俺の指摘通り顔を洗いに行った。
鏡を見た雄大は目が腫れていると分かっただろう。
戻ってきた雄大は昨日の事を思い出したのか、顔を赤く染めて震えていた。
「すみません……。頭冷えました」
「うん。俺もごめん」
雄大は気まずそうに頭を下げる。
俺も謝ると、雄大は恐る恐るという感じで顔を上げた。
俺が怒っていないと分かってホッとしているようだった。
「わた……久森さんが、謝る必要は無いです」
それを見て、憎めないヤツだなと改めて思った。
だからと言って俺が雄大を受け入れるかどうかは別問題だけど。
雄大のことは嫌いではないが、恋愛感情として好きではないのだ。
雄大が俺のことを好きだったなんて気付きたくなかった。
それにしても俺のどこが良かったのだろうか。
俺なんて見た目も中身もフツーだと思うんだけどな。
そう。認めたくはないが、俺は普通だから俺より優れた部分が多い雄大を妬んでいたのだ。
「いや……俺さ、勝手にお前のことライバル視して自分が勝てないからって嫉妬して嫌いだって思い込んでたんだと思う。だからゴメン」
「嫉妬?俺に?確かに成績は俺の方が良かったですけど」
「身長高いし見た目も良いしモテるし、要領良いし……俺が勝てることなんて無いだろ」
俺の言葉を聞いて、雄大はポカンとしていた。
「そんなふうに思っていたなんて知らなかった……」
「そうだな。言ってないし。でも俺がお前にコンプレックス持ってたのは事実だよ」
「俺は、わた…久森さんのほうが仕事を他人に教えるのも上手いし、すぐ人と仲良くなれるし、俺よりもずっとずっと凄いと思ってました」
お互いがお互いに無いものを持っていると思い合っていたのか。
そう思うと、ちょっと可笑しかった。
「言い直さなくて良い。会社以外なら渉で良いよ」
雄大は目を輝かせた。
「あのっ!見た目も良いって言ってくれたし、名前呼びも許してくれたし、少しは脈ありでしょうか?」
「は?調子に乗るな。せいぜい友達だな」
「それで良いです!友達で良いので近くにいさせてください」
「お前はそれで良いのか?」
「はい!良いです。渉さんが好きだから友達でも我慢します」
キラキラした目で見つめられると断りにくい。
俺は溜息を吐いた。
「それなら、これからは会社ではライバルで、会社の外では友人だ。ただし、もう二度と襲うような真似はするなよ。あと、俺がお前を恋愛対象として見ることは無いからな。分かったか?」
「分かりました」
本当に分かっているのかと疑いたくなるくらいあっさりと雄大は了承した。
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