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3.渉
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◇◇◇
あれ以来、雄大は俺に絡んで来なくなった。
しかもあんなに勝てなかった成績も簡単に抜いてしまった。
仕事もそつなく熟していたヤツなのに、いつの間にか俺は営業部のエースの座まで奪ってしまったらしい。
そしてもう一つ変わったのが、俺が仕事をしていると、たまに視線を感じるのだ。
見返すと、さっと目を逸らすのだが、またチラッとこちらを見る。
何か言ってくるのかと思いきや、ただ見ているだけ。
一体何なんだ?
無視するのが一番良いと判断した俺は、雄大を無視して仕事を続けた。
ただちょっと気になってしまって雄大の仕事ぶりを探っていたが、普段しない凡ミスも多いようだ。
このまま転落してくれれば良いと思う気持ちはあるのに、雄大と張り合うことが出来ずに調子が狂う。
悩みに悩んで、仕事が終わると俺は雄大につかつかと歩み寄った。
今日は会社で決まっている残業禁止の曜日なので、アイツも帰るはずだ。
「おい」
「何ですか?」
雄大は俺と視線を合わせようとはしなかったので、睨み付けた。
でもこっちを見ないから効果が無い。
「用が無いなら帰ります」
雄大は踵を返そうとする。
「用ならあるから、飲み行くぞ」
「断ります」
しかし俺は雄大の手を掴み、強引に引っ張って会社を出る。
そのまま近くの居酒屋に入ると、適当に酒とツマミを頼んだ。
ビールが運ばれてくると、俺は一気に煽る。
雄大は困惑した表情でちびちびと飲んでいた。
「お前、仕事うまくいってないのか?」
「普通です」
雄大は素っ気無く答えるが、俺は騙されない。
「お前がそんなだと張り合いがないんだよ」
俺がそう言うと、雄大は苦笑した。
「何で俺に関わるんですか?もうアンタに極力関わらないように努力してるんだから放っておいてください」
そんな事を言いながらも、どこか寂しげな目をしていた。
「よく言うよ」
俺は小さく呟いた。
仕事中にこっちを見ていたのを知っている。あの日からずっとそうだ。
だから全然諦められていないんじゃないかと思っていた。
ただ、努力をしていると言われて、コイツも案外良いヤツなんだなと見直した。
「今日は奢るから飲め飲め。先輩として仕事の相談に乗ってやるよ」
フレンドリーな俺の態度は雄大にとっては失恋の傷を広げるような行為だったが、鈍感な俺は気付かず雄大に酒を勧めた。
するとやけになったのか暗い顔を更に暗くして、雄大はアルコールの強い酒をグビグビ飲み始めた。
「そうそう。お前モテるんだから俺なんかより良い相手が見つかるよ」
俺は雄大がどんどん落ち込んでいくのが自分のせいだとは思わず、気付いた時には、雄大は潰れていた。
後から聞いて分かったが、すきっ腹に酒を流し込み寝不足も重なって酔いが思うより早く回ったらしい。
やらかしたと俺は思った。
雄大を帰らせるにも雄大のマンションの住所ははっきり覚えていないし、仮に雄大の家が分かったとしてもマンションまでは距離があり、タクシー代が痛い。
だから仕方なくタクシーに押し込んで俺の家に連れて行った。
雄大は半分寝ているような感じだが、支えていれば歩いてくれたからなんとか部屋まで辿り着く。
ベッドに転がすと、服を脱がせてやった。
ネクタイも緩めてやり、靴下も脱がせ、シャツの下に着ていたTシャツとパンツだけにしてやってから布団までかけてやる俺って優しいよな。
それから俺もスーツの上下だけ脱いで床に座り込んだところで俺も酔いが回っていて限界になった。
ワイシャツのボタンを外すのも億劫になり、ベッドの下にそのまま座り込む。
「何で……俺じゃダメなんだよぉ」
雄大が片手で目元を覆って弱々しい声を出した。泣いているのだろうか。
「渉さんが好きだから……、俺を嫌いだって言われても諦められない」
「嫌いなんて言ってないけどな」
男と付き合うのも、その相手が雄大なのもありえないとは言ったが、嫌悪しているわけではない。
意識が無い時に同意無く抱かれたのに嫌いにならなってないって何でだろうな。
「好きなのに……ずっと好きだったのに」
俺から顔を隠すように横向きになり、大の男が小さく丸まって泣く姿に胸が痛む。
俺はその背中をさすってやった。
「優しくするなよぉ」
「そうだな。ごめんな」
「家に来てくれて嬉しかったのに……渉さんがセックスだってしても良いって言ったのに。俺だけだって言われて嬉しかったのに」
そんなこと言ったのか?!
雄大の良いように改変されてないか?
でも俺、ベロベロに酔った日ってオナニーしたくなるから、雄大の家に行ってからもしかしてエッチな気分になったのかも。
「俺なんかじゃなくて早く良い人見つけろよ」
背中を向けていた雄大がぐるっと体を反転して俺をベッドへ引き込んだ。
「嫌だ。渉さんが良い。渉が好き。ずっと好きなのに……なんで」
雄大の目から涙が零れる。泣き顔が子供みたいで警戒心より庇護欲の方が強かった。
俺は涙を指で拭うと、背中に手を回して撫でてやる。
ぐずぐず鼻を啜る雄大が落ち着いてきたのが分かると、俺は立ち上がろうとした。
すると手を掴まれて止められる。
雄大は子供のようにイヤイヤと首を振っていた。
危険は感じられず、放してくれる様子もないので、一緒に布団に入った。
すると俺を抱き込んで何度も好きだと繰り返して、最後には安心した様子で雄大は眠ってしまった。
動けないので溜息を吐いてから俺も仕方なくそのまま眠りについた。
あれ以来、雄大は俺に絡んで来なくなった。
しかもあんなに勝てなかった成績も簡単に抜いてしまった。
仕事もそつなく熟していたヤツなのに、いつの間にか俺は営業部のエースの座まで奪ってしまったらしい。
そしてもう一つ変わったのが、俺が仕事をしていると、たまに視線を感じるのだ。
見返すと、さっと目を逸らすのだが、またチラッとこちらを見る。
何か言ってくるのかと思いきや、ただ見ているだけ。
一体何なんだ?
無視するのが一番良いと判断した俺は、雄大を無視して仕事を続けた。
ただちょっと気になってしまって雄大の仕事ぶりを探っていたが、普段しない凡ミスも多いようだ。
このまま転落してくれれば良いと思う気持ちはあるのに、雄大と張り合うことが出来ずに調子が狂う。
悩みに悩んで、仕事が終わると俺は雄大につかつかと歩み寄った。
今日は会社で決まっている残業禁止の曜日なので、アイツも帰るはずだ。
「おい」
「何ですか?」
雄大は俺と視線を合わせようとはしなかったので、睨み付けた。
でもこっちを見ないから効果が無い。
「用が無いなら帰ります」
雄大は踵を返そうとする。
「用ならあるから、飲み行くぞ」
「断ります」
しかし俺は雄大の手を掴み、強引に引っ張って会社を出る。
そのまま近くの居酒屋に入ると、適当に酒とツマミを頼んだ。
ビールが運ばれてくると、俺は一気に煽る。
雄大は困惑した表情でちびちびと飲んでいた。
「お前、仕事うまくいってないのか?」
「普通です」
雄大は素っ気無く答えるが、俺は騙されない。
「お前がそんなだと張り合いがないんだよ」
俺がそう言うと、雄大は苦笑した。
「何で俺に関わるんですか?もうアンタに極力関わらないように努力してるんだから放っておいてください」
そんな事を言いながらも、どこか寂しげな目をしていた。
「よく言うよ」
俺は小さく呟いた。
仕事中にこっちを見ていたのを知っている。あの日からずっとそうだ。
だから全然諦められていないんじゃないかと思っていた。
ただ、努力をしていると言われて、コイツも案外良いヤツなんだなと見直した。
「今日は奢るから飲め飲め。先輩として仕事の相談に乗ってやるよ」
フレンドリーな俺の態度は雄大にとっては失恋の傷を広げるような行為だったが、鈍感な俺は気付かず雄大に酒を勧めた。
するとやけになったのか暗い顔を更に暗くして、雄大はアルコールの強い酒をグビグビ飲み始めた。
「そうそう。お前モテるんだから俺なんかより良い相手が見つかるよ」
俺は雄大がどんどん落ち込んでいくのが自分のせいだとは思わず、気付いた時には、雄大は潰れていた。
後から聞いて分かったが、すきっ腹に酒を流し込み寝不足も重なって酔いが思うより早く回ったらしい。
やらかしたと俺は思った。
雄大を帰らせるにも雄大のマンションの住所ははっきり覚えていないし、仮に雄大の家が分かったとしてもマンションまでは距離があり、タクシー代が痛い。
だから仕方なくタクシーに押し込んで俺の家に連れて行った。
雄大は半分寝ているような感じだが、支えていれば歩いてくれたからなんとか部屋まで辿り着く。
ベッドに転がすと、服を脱がせてやった。
ネクタイも緩めてやり、靴下も脱がせ、シャツの下に着ていたTシャツとパンツだけにしてやってから布団までかけてやる俺って優しいよな。
それから俺もスーツの上下だけ脱いで床に座り込んだところで俺も酔いが回っていて限界になった。
ワイシャツのボタンを外すのも億劫になり、ベッドの下にそのまま座り込む。
「何で……俺じゃダメなんだよぉ」
雄大が片手で目元を覆って弱々しい声を出した。泣いているのだろうか。
「渉さんが好きだから……、俺を嫌いだって言われても諦められない」
「嫌いなんて言ってないけどな」
男と付き合うのも、その相手が雄大なのもありえないとは言ったが、嫌悪しているわけではない。
意識が無い時に同意無く抱かれたのに嫌いにならなってないって何でだろうな。
「好きなのに……ずっと好きだったのに」
俺から顔を隠すように横向きになり、大の男が小さく丸まって泣く姿に胸が痛む。
俺はその背中をさすってやった。
「優しくするなよぉ」
「そうだな。ごめんな」
「家に来てくれて嬉しかったのに……渉さんがセックスだってしても良いって言ったのに。俺だけだって言われて嬉しかったのに」
そんなこと言ったのか?!
雄大の良いように改変されてないか?
でも俺、ベロベロに酔った日ってオナニーしたくなるから、雄大の家に行ってからもしかしてエッチな気分になったのかも。
「俺なんかじゃなくて早く良い人見つけろよ」
背中を向けていた雄大がぐるっと体を反転して俺をベッドへ引き込んだ。
「嫌だ。渉さんが良い。渉が好き。ずっと好きなのに……なんで」
雄大の目から涙が零れる。泣き顔が子供みたいで警戒心より庇護欲の方が強かった。
俺は涙を指で拭うと、背中に手を回して撫でてやる。
ぐずぐず鼻を啜る雄大が落ち着いてきたのが分かると、俺は立ち上がろうとした。
すると手を掴まれて止められる。
雄大は子供のようにイヤイヤと首を振っていた。
危険は感じられず、放してくれる様子もないので、一緒に布団に入った。
すると俺を抱き込んで何度も好きだと繰り返して、最後には安心した様子で雄大は眠ってしまった。
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