7 / 13
7.
しおりを挟む
「和輝さんは、がっかりしましたよね」
「え?何をがっかりするの?」
「会いたいってご飯に誘ってくれましたけど、実際会うとこんな平凡なんだから」
すると和輝は首を傾げた。
「あの日と同じだよ。クールなのは寂しいけど、ユウくんに会えて嬉しいし、がっかりなんてするわけない」
「やっぱり身体目当てですか?」
「あのね。メッセージでも送ったよね?会いたいのはエッチがしたいからじゃないって」
確かに言われたけれど。
信じられないという目で黙って凝視していると、和輝は眉を下げて降参のポーズをした。
「そんなに睨まないでよ。えっと……、正直に白状すると寝ても覚めてももふもふのウサ耳のユウくんが脳裏に焼き付いて離れないくて……。でもエッチ目的じゃないのは本当だからね!」
兎耳が相当気に入ったのか、和輝はあの日から僕の事ばかり考えていたらしい。
「そうですか……」
僕の口からは冷たい声が出た。
兎姿を見たいっていうのは結局セックスしたいだけなんじゃないか。
僕があの姿になったら発情して必然的にあの行為になるんだから。
「しつこく誘ったのが、迷惑だったかな」
「いえ、別に」
僕が素っ気なく返したものだから和輝は居心地悪そうにソワソワし始めた。
そんな姿を見ていたら何だか僕がイジメているような気がしてしまって、僕は溜息を吐く。
「今日はお礼を言いたくて来たんです。強引に連れ込んでしまったけれど、付き合ってくれてありがとうございました」
助かったのは事実だ。
あのまま誰にも助けを求めなかったらどうなっていたことか。僕は素直に頭を下げた。
「いいよいいよ。俺の方が役得っていうかラッキーだったというか」
「あの日はたまたま運悪くて出歩いてしまったけれど、満月の夜はもう外には出ないつもりです。だからもう兎にはならないので、和輝さんにウサギ姿をお見せできません」
「そっ、そうだよね!なんかごめんね。そっかぁ……そうだよね」
心底残念そうな声を出す和輝はそこまで兎姿が見たいのか。
僕がじーっと見つめていたら、その視線に気が付いた和輝は顔を赤くして慌て始めた。
「あっ、えっと。ユウくんが、すごく……ものすごく好みだったんだ。好みっていうより理想が目の前に現れたってくらいで」
言葉尻が萎んでいくのと同じように、和輝の視線も落ちていく。
しゅんと下を向いている姿は叱られた犬のようだ。
その姿を見ていたら、なんだか悪い事をした気がしてきた。
「そんなに僕のことを……?」
「うん。……あの日の事が夢にまで出てきて。でも思い出す度に、ウサ耳フェチの気持ち悪い奴だったから嫌われたんじゃないかとか考えたらどうしても会って挽回しなきゃって……しつこく連絡してごめん」
「気持ち悪いとかは思わないですし、その……和輝さんは優しくしてくれたから」
「ねちっこくなかった?朝起きてからも強引にエッチしちゃったし」
僕は素面に戻ってから抱かれた様子を思い出してしまって、ぶわっと顔に熱が集まるのを感じた。
兎耳も消えてしまっていたのに、あんなに僕を欲しがって貪られた事を思い出し、下肢にじわりとした熱が集まる。発情していなくても気持ち良かった。
「こっ、こんなところでする話じゃないですよ」
小声で制すと、周りを見渡した和輝は苦笑いして口を抑えた。
「そ、そうだよね。ごめんね」
僕はバツが悪くてドリンクに口を付けた。和輝も誤魔化すように珈琲を飲み干す。そして二人共暫く沈黙していたけれど、先に口を開いたのは僕だった。
「あの……一回くらいなら、いいですよ」
「えっ?」
「だから一回くらいなら、また満月の日に会ってもいいですよ」
「ほ、本当に?」
和輝が身を乗り出してくる。その顔は期待に満ちていて、僕を見つめる瞳がキラキラと輝いている。
身体目当てだと思ったら不快だったし、兎への変体は自分が自分じゃなくなる気がして恐怖だったが、よくよく考えれば好きな人に似た顔と精力の強い肉体を持った和輝ともう一度蕩けるかと思ったセックスをしてもらえるチャンスなのだ。
「もちろん、満月の日に会うって事は……この前みたいに助けてもらわないといけなんですけど、良いですよね?」
ビッチ臭い事を言ってしまったなと言い終わった後で後悔したが、和輝はそんなこと気にする様子もない。
こうして和輝と満月デートの約束をすることになった。
「え?何をがっかりするの?」
「会いたいってご飯に誘ってくれましたけど、実際会うとこんな平凡なんだから」
すると和輝は首を傾げた。
「あの日と同じだよ。クールなのは寂しいけど、ユウくんに会えて嬉しいし、がっかりなんてするわけない」
「やっぱり身体目当てですか?」
「あのね。メッセージでも送ったよね?会いたいのはエッチがしたいからじゃないって」
確かに言われたけれど。
信じられないという目で黙って凝視していると、和輝は眉を下げて降参のポーズをした。
「そんなに睨まないでよ。えっと……、正直に白状すると寝ても覚めてももふもふのウサ耳のユウくんが脳裏に焼き付いて離れないくて……。でもエッチ目的じゃないのは本当だからね!」
兎耳が相当気に入ったのか、和輝はあの日から僕の事ばかり考えていたらしい。
「そうですか……」
僕の口からは冷たい声が出た。
兎姿を見たいっていうのは結局セックスしたいだけなんじゃないか。
僕があの姿になったら発情して必然的にあの行為になるんだから。
「しつこく誘ったのが、迷惑だったかな」
「いえ、別に」
僕が素っ気なく返したものだから和輝は居心地悪そうにソワソワし始めた。
そんな姿を見ていたら何だか僕がイジメているような気がしてしまって、僕は溜息を吐く。
「今日はお礼を言いたくて来たんです。強引に連れ込んでしまったけれど、付き合ってくれてありがとうございました」
助かったのは事実だ。
あのまま誰にも助けを求めなかったらどうなっていたことか。僕は素直に頭を下げた。
「いいよいいよ。俺の方が役得っていうかラッキーだったというか」
「あの日はたまたま運悪くて出歩いてしまったけれど、満月の夜はもう外には出ないつもりです。だからもう兎にはならないので、和輝さんにウサギ姿をお見せできません」
「そっ、そうだよね!なんかごめんね。そっかぁ……そうだよね」
心底残念そうな声を出す和輝はそこまで兎姿が見たいのか。
僕がじーっと見つめていたら、その視線に気が付いた和輝は顔を赤くして慌て始めた。
「あっ、えっと。ユウくんが、すごく……ものすごく好みだったんだ。好みっていうより理想が目の前に現れたってくらいで」
言葉尻が萎んでいくのと同じように、和輝の視線も落ちていく。
しゅんと下を向いている姿は叱られた犬のようだ。
その姿を見ていたら、なんだか悪い事をした気がしてきた。
「そんなに僕のことを……?」
「うん。……あの日の事が夢にまで出てきて。でも思い出す度に、ウサ耳フェチの気持ち悪い奴だったから嫌われたんじゃないかとか考えたらどうしても会って挽回しなきゃって……しつこく連絡してごめん」
「気持ち悪いとかは思わないですし、その……和輝さんは優しくしてくれたから」
「ねちっこくなかった?朝起きてからも強引にエッチしちゃったし」
僕は素面に戻ってから抱かれた様子を思い出してしまって、ぶわっと顔に熱が集まるのを感じた。
兎耳も消えてしまっていたのに、あんなに僕を欲しがって貪られた事を思い出し、下肢にじわりとした熱が集まる。発情していなくても気持ち良かった。
「こっ、こんなところでする話じゃないですよ」
小声で制すと、周りを見渡した和輝は苦笑いして口を抑えた。
「そ、そうだよね。ごめんね」
僕はバツが悪くてドリンクに口を付けた。和輝も誤魔化すように珈琲を飲み干す。そして二人共暫く沈黙していたけれど、先に口を開いたのは僕だった。
「あの……一回くらいなら、いいですよ」
「えっ?」
「だから一回くらいなら、また満月の日に会ってもいいですよ」
「ほ、本当に?」
和輝が身を乗り出してくる。その顔は期待に満ちていて、僕を見つめる瞳がキラキラと輝いている。
身体目当てだと思ったら不快だったし、兎への変体は自分が自分じゃなくなる気がして恐怖だったが、よくよく考えれば好きな人に似た顔と精力の強い肉体を持った和輝ともう一度蕩けるかと思ったセックスをしてもらえるチャンスなのだ。
「もちろん、満月の日に会うって事は……この前みたいに助けてもらわないといけなんですけど、良いですよね?」
ビッチ臭い事を言ってしまったなと言い終わった後で後悔したが、和輝はそんなこと気にする様子もない。
こうして和輝と満月デートの約束をすることになった。
42
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる