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その後のネズミ
23.
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不機嫌そうなのは気のせいだったのかなと俺は安堵しながら、二人を客間に招き入れた。
襖を閉めると晴助が小声で言う。
「こっえ~!何あれ?あれが紫狼の雇い主?」
「今は引退したけれど、昔は父上様の相棒してたんだよ。今は情報屋だからここで喋ったことは全部筒抜けだと思えよ」
「ヒェッ!お前の親父さんと?やっべ~人じゃん!」
直末も口にしないものの辰彦の怖さが分かったのか顔色が悪い。
「怒らせなければ優しい人だよ」
「紫狼が苦労していなければ良いさ。ところでさ、怪我はもう大丈夫なのか?」
「怪我……?」
「怪我で任務が出来なくなったから、この屋敷で世話になることになったって聞いたけど」
「ああっ!そう!そうなんだよ」
父の後継者から外れるためにそういう設定にしたのだったと思い出す。
もしかしたらそれを聞いて心配したから来たのかもしれない。
「それはもう大変だったけど、今は日常生活には支障が無いんだ」
「でもさお前、親父さんの跡継ぐって言ってたじゃんか」
「あ、うん。でも辰彦様も親切にしてくれてるし、このままお仕え出来たらなって思ってるんだ」
役目より愛を選んだ俺に跡目の資格は無い。
まだ未練が無いとは言えないが、自分の決断に後悔はしていない。俺はそう言って笑うと、晴助が肩を組んできた。
相変わらずスキンシップが激しい奴だ。
すると、直末も同じように俺の背中に手を回してきた。
俺は苦笑いする。二人とも慰めてくれているんだろう。
「ありがとな」
二人は本当に優しくて頼りがいのある仲間だった。
そんなこんなで俺達は昔話に花を咲かせた。
辰彦はおもてなしは出来ないなんて言いながら、昼餉もかなり豪華な物を用意してくれた。
「紫狼はいつもこんな美味いもの食べてんのか?」
「いつもこんな豪華じゃないけど、飯は美味いよ」
「飯のせいなのか、ふっくらツヤツヤしてるよなァ」
直末が俺の頬を摘んでぷにぷにと悪戯してくる。
数日間ろくに飯も食べられない厳しい任務もあった頃とは違って、三食しっかり食べて、辰彦のお相手で若干睡眠不足になる事もあるけどちゃんと布団で寝れる環境なのだ。
鍛練は足りてないかもしれないが、非常に健康的だと思う。
晴助も真似をして直末とは反対側の頬をつつく。
「お前ら~、やめろって」
「ははは、悪い。なんかこうやってると昔に戻ったみたいで楽しくなってきたわ」
「俺も俺も!やっぱり三人一緒は楽しいね、紫狼」
確かに、里にいた時は毎日のように一緒にいたものだ。
またこうやって会えたのは良かったと思う。
そして、楽しい時間は過ぎるのが早い。
もう日が傾き始めていた。
そろそろ帰らなければと二人は立ち上がった。
童心に戻ってまだまだ一緒に馬鹿話をしていたいが、居候の身で引き止めるわけにはいかない。
「二人とも元気でな」
「数日は近くの宿にいるから、帰る前にはまた来る!」
「今日は仕事休ませてもらったけど、俺も働いてるんだから来ても会えないかもしれないぞ」
「それでもっ!また来る!」
「そっか。じゃあ、またな」
名残惜しくも送り出すと、相手もそう思っていたのか門を出て少し歩いた所で晴助は大きく手を振ってから帰って行った。
見送りが終わり、部屋に戻ろうとした俺を待ち構えたように見知った辰彦直属の隠密が立ち塞がり、そのまま座敷牢へ連れて行かれたのだ。
「入らなきゃダメ?」
「辰彦様の命令です。お召し替えもお願いします」
「ハァー……、まぁ良いけどさ。辰彦様、怒ってた?」
「分かりかねます」
何度か一緒に任務も熟して多少仲良くなったとはいえ、影は俺に対して一線を引いている。
まぁ、まかりなりにも主人の恋人だからね。仕方ない。
そんな経緯で冒頭に戻る。
けれど、辰彦の怒るようなしていないとはっきりと主張する。
「辰彦様、アイツらは幼い頃からの知己です。距離感は近いけれど、やましい気持ちはありませんよ」
そんなことは影から聞いて知っているだろう。
少しでも怪しい雰囲気になれば、それこそ辰彦自身が部屋に乗り込んで来たはずだ。
辰彦は苦虫を潰したような顔で、俺を見る。
怒っているというより拗ねているような顔だ。
こんな顔をするなんて珍しいなと、俺は思わず笑ってしまう。
「辰彦様、あいつらに嫉妬したんですか?」
すると辰彦は口をへの字に曲げて俺を睨む。
それは図星と言っているようなもので、俺は立ち上がって格子に近付いた。
「ねぇ辰彦様。今日は抱いてくれるんでしょう?」
客引きをする遊郭の女のように格子にしな垂れかかり隙間から腕を伸ばす。
こっちに来てと誘うようにゆらゆらと腕を動かすと、辰彦が手を取ってくれた。
その好機を逃さず、辰彦の目を見つめながら剣だこのある手を羽根が触れるくらいの優しさで撫でて指を絡めた。
襖を閉めると晴助が小声で言う。
「こっえ~!何あれ?あれが紫狼の雇い主?」
「今は引退したけれど、昔は父上様の相棒してたんだよ。今は情報屋だからここで喋ったことは全部筒抜けだと思えよ」
「ヒェッ!お前の親父さんと?やっべ~人じゃん!」
直末も口にしないものの辰彦の怖さが分かったのか顔色が悪い。
「怒らせなければ優しい人だよ」
「紫狼が苦労していなければ良いさ。ところでさ、怪我はもう大丈夫なのか?」
「怪我……?」
「怪我で任務が出来なくなったから、この屋敷で世話になることになったって聞いたけど」
「ああっ!そう!そうなんだよ」
父の後継者から外れるためにそういう設定にしたのだったと思い出す。
もしかしたらそれを聞いて心配したから来たのかもしれない。
「それはもう大変だったけど、今は日常生活には支障が無いんだ」
「でもさお前、親父さんの跡継ぐって言ってたじゃんか」
「あ、うん。でも辰彦様も親切にしてくれてるし、このままお仕え出来たらなって思ってるんだ」
役目より愛を選んだ俺に跡目の資格は無い。
まだ未練が無いとは言えないが、自分の決断に後悔はしていない。俺はそう言って笑うと、晴助が肩を組んできた。
相変わらずスキンシップが激しい奴だ。
すると、直末も同じように俺の背中に手を回してきた。
俺は苦笑いする。二人とも慰めてくれているんだろう。
「ありがとな」
二人は本当に優しくて頼りがいのある仲間だった。
そんなこんなで俺達は昔話に花を咲かせた。
辰彦はおもてなしは出来ないなんて言いながら、昼餉もかなり豪華な物を用意してくれた。
「紫狼はいつもこんな美味いもの食べてんのか?」
「いつもこんな豪華じゃないけど、飯は美味いよ」
「飯のせいなのか、ふっくらツヤツヤしてるよなァ」
直末が俺の頬を摘んでぷにぷにと悪戯してくる。
数日間ろくに飯も食べられない厳しい任務もあった頃とは違って、三食しっかり食べて、辰彦のお相手で若干睡眠不足になる事もあるけどちゃんと布団で寝れる環境なのだ。
鍛練は足りてないかもしれないが、非常に健康的だと思う。
晴助も真似をして直末とは反対側の頬をつつく。
「お前ら~、やめろって」
「ははは、悪い。なんかこうやってると昔に戻ったみたいで楽しくなってきたわ」
「俺も俺も!やっぱり三人一緒は楽しいね、紫狼」
確かに、里にいた時は毎日のように一緒にいたものだ。
またこうやって会えたのは良かったと思う。
そして、楽しい時間は過ぎるのが早い。
もう日が傾き始めていた。
そろそろ帰らなければと二人は立ち上がった。
童心に戻ってまだまだ一緒に馬鹿話をしていたいが、居候の身で引き止めるわけにはいかない。
「二人とも元気でな」
「数日は近くの宿にいるから、帰る前にはまた来る!」
「今日は仕事休ませてもらったけど、俺も働いてるんだから来ても会えないかもしれないぞ」
「それでもっ!また来る!」
「そっか。じゃあ、またな」
名残惜しくも送り出すと、相手もそう思っていたのか門を出て少し歩いた所で晴助は大きく手を振ってから帰って行った。
見送りが終わり、部屋に戻ろうとした俺を待ち構えたように見知った辰彦直属の隠密が立ち塞がり、そのまま座敷牢へ連れて行かれたのだ。
「入らなきゃダメ?」
「辰彦様の命令です。お召し替えもお願いします」
「ハァー……、まぁ良いけどさ。辰彦様、怒ってた?」
「分かりかねます」
何度か一緒に任務も熟して多少仲良くなったとはいえ、影は俺に対して一線を引いている。
まぁ、まかりなりにも主人の恋人だからね。仕方ない。
そんな経緯で冒頭に戻る。
けれど、辰彦の怒るようなしていないとはっきりと主張する。
「辰彦様、アイツらは幼い頃からの知己です。距離感は近いけれど、やましい気持ちはありませんよ」
そんなことは影から聞いて知っているだろう。
少しでも怪しい雰囲気になれば、それこそ辰彦自身が部屋に乗り込んで来たはずだ。
辰彦は苦虫を潰したような顔で、俺を見る。
怒っているというより拗ねているような顔だ。
こんな顔をするなんて珍しいなと、俺は思わず笑ってしまう。
「辰彦様、あいつらに嫉妬したんですか?」
すると辰彦は口をへの字に曲げて俺を睨む。
それは図星と言っているようなもので、俺は立ち上がって格子に近付いた。
「ねぇ辰彦様。今日は抱いてくれるんでしょう?」
客引きをする遊郭の女のように格子にしな垂れかかり隙間から腕を伸ばす。
こっちに来てと誘うようにゆらゆらと腕を動かすと、辰彦が手を取ってくれた。
その好機を逃さず、辰彦の目を見つめながら剣だこのある手を羽根が触れるくらいの優しさで撫でて指を絡めた。
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