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その後のネズミ
22.一年後
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◇◇◇◇
────どうしてこうなった……。
いや、理由は何となく察しているのだが、俺は一年振りに座敷牢に閉じ込められていた。
辰彦と両想いになって、辰彦の補佐的な事務作業も裏方の「影」としての仕事も順調になっていたのに、俺は脱走防止のためにほぼ透けて見えてしまう薄さの紗の着物を着せられ、牢屋の鍵までかけられた。
縛られたり、媚薬などを使われていないだけマシかもしれない。
「まったく辰彦様は何を考えているのか……」
ため息を吐きながら、格子の向こうを見る。
正直、座敷牢は快適だ。仕事もしなくて良いし、食事も出るし不便は無い。
しいて言えば暇な事くらいだろうか。
一人で一晩過ごし、翌日の昼も過ぎたがまだ出してもらえない。
でも、そのうち来てくれるはずだと思って俺は昼寝と決め込んだ。
そしてその夜。
夕飯を食べ終えてしばらくゴロゴロしていたら辰彦がやってきた。
格子越しに仁王立ちして俺を見た。
俺は布団から起き上がり、形ばかりの正座をした。
「反省したかい?」
「え~~……っと、反省って、俺反省しなきゃならない事しましたか?」
辰彦は不機嫌そうに眉を上げる。
そして腕組みをして言った。
「私以外の男とあんなに接近してベタベタしておいて、よくそんな事が言えるな」
「ああ、やっぱりそれですか」
そうだろうなとは思っていたが、俺には全くやましいことは無かった。
◆◆◆
それは昨日の事だ。
俺は手伝うこともなく、手が空いていたので屋敷の門の前を掃いていた。
下働きとして忍び込んだ時にもたまにしていた仕事だし、掃除自体は嫌いじゃない。
するとそこへ若い男が二人やって来た。
笠を被っていて顔は見えないが、こちらへ向かって来ているのであればお客様かもしれないので、さっと箒と塵取りを掴んで門の影に引っ込もうとしたが、二人は俺を見つけるなり駆け寄ってきた。
「し~ろ~!」
聞き覚えのある声に俺は顔を上げる。
その時には一人は黒髪短髪の大柄な男で、もう一人は茶髪で髪を後ろで結っている小柄な男だと視認出来た。
しかし、次の瞬間には茶髪の少年は俺に飛びかかってきたのだ。
「ぎゃっ!」
「本物の紫狼だぁ!久しぶりぃ!」
「晴助ぇ?!え?えっ!?なんでいんの?!」
それは里で忍びの技術を共に学んだ旧友だった。
独り立ちしてからは任務先も異なったし、年に数回くらいしか会うことはなかったが、幼少期は苦楽を共にした幼馴染くらいの親しさだ。
俺に抱き着いたまま離れない晴助を引き剥がそうとしていると、黒髪のほうが小突いてきた。
「紫狼、俺らから逃げようとしただろう?逃げんなコラ」
「おまっ、直末か?!背伸び過ぎ!つか、髪もばっさり切ったなぁ」
直末も晴助と同じく旧友だが、こちらはどうしてかタイミングが合わずに三年振りくらいの再開だ。
直末と晴助は家系の関係で任務が同じ事も多くて、晴助から元気にしていると話は聞いていたのだが、だいぶ見た目が変わっていて驚いた。
辰彦の屋敷に住まうようになってからは里に帰る事も少なくて、晴助とも一年半以上は会っていなかった。
余談だが、晴助は直末と違って残念ながら前に会った時から身長は伸びていないようだ。
「逃げようとしたんじゃなくて、お客様かと思ったから掃除用具片付けようとしたんだよ。まさかお前らだなんて思わないしさ。それよりこのひっつき虫どうにかして」
俺はそう言って晴助の頭を軽く叩いたが、彼はそれでも離れようとしないので、直末が笑った。
笑うところかよと思いつつ、俺は晴助の首衿を引っ張って何とか引き剥がした。
「ぐぇえ!乱暴反対!痛いじゃん!」
「あ~はいはい。それで、二人共どうしたんだ?」
「おう。実はな、紫狼がここに住んでるって聞いて晴助がどうしても会いたいって駄々こねるから会いに来たんだ」
「直末だって会いたかったくせに!」
「はいはい、そうだな。だから付いて来たんだけどな」
珍しく次の任務までの期間も開いており、示し合わせて会いに来たらしい。
会えたのはとても嬉しいが、俺は思わず頭を抱えた。
二人が辰彦に見つかったら厄介だ……。
俺はさりげなく門から離れた場所に移動しようとしたが遅かった。
辰彦がこちらへずかずかと歩いてきていた。
俺に何かあるとすぐに辰彦に連絡が行くんだよね。
それは別に嫌じゃないけど、今日は辰彦の表情が怖い。
晴助も直末もすぐに辰彦に気付き、いつ攻撃されても反応出来るように身体を強張らせた。
頼むからこれ以上事態を悪化させないでくれ。
俺はそう願ったが、辰彦は目の前まで来ると笑顔を浮かべた。
そして、口を開いた。
「四郎、その人達は知り合いかい?」
「はい。里の仲間です。近くまで来たようで、会いに来てくれました」
「そう。じゃあ、立ち話もなんだから中に入ってもらいなさい」
「え、良いんですか?」
「わざわざ四郎に会いに来てくれたんだろう?追い返すなんてしないさ。急で大したおもてなしも出来ないが昼餉でも用意しよう」
俺は拍子抜けした。
辰彦はそれ以上何も言わずに踵を返して行ってしまった。
────どうしてこうなった……。
いや、理由は何となく察しているのだが、俺は一年振りに座敷牢に閉じ込められていた。
辰彦と両想いになって、辰彦の補佐的な事務作業も裏方の「影」としての仕事も順調になっていたのに、俺は脱走防止のためにほぼ透けて見えてしまう薄さの紗の着物を着せられ、牢屋の鍵までかけられた。
縛られたり、媚薬などを使われていないだけマシかもしれない。
「まったく辰彦様は何を考えているのか……」
ため息を吐きながら、格子の向こうを見る。
正直、座敷牢は快適だ。仕事もしなくて良いし、食事も出るし不便は無い。
しいて言えば暇な事くらいだろうか。
一人で一晩過ごし、翌日の昼も過ぎたがまだ出してもらえない。
でも、そのうち来てくれるはずだと思って俺は昼寝と決め込んだ。
そしてその夜。
夕飯を食べ終えてしばらくゴロゴロしていたら辰彦がやってきた。
格子越しに仁王立ちして俺を見た。
俺は布団から起き上がり、形ばかりの正座をした。
「反省したかい?」
「え~~……っと、反省って、俺反省しなきゃならない事しましたか?」
辰彦は不機嫌そうに眉を上げる。
そして腕組みをして言った。
「私以外の男とあんなに接近してベタベタしておいて、よくそんな事が言えるな」
「ああ、やっぱりそれですか」
そうだろうなとは思っていたが、俺には全くやましいことは無かった。
◆◆◆
それは昨日の事だ。
俺は手伝うこともなく、手が空いていたので屋敷の門の前を掃いていた。
下働きとして忍び込んだ時にもたまにしていた仕事だし、掃除自体は嫌いじゃない。
するとそこへ若い男が二人やって来た。
笠を被っていて顔は見えないが、こちらへ向かって来ているのであればお客様かもしれないので、さっと箒と塵取りを掴んで門の影に引っ込もうとしたが、二人は俺を見つけるなり駆け寄ってきた。
「し~ろ~!」
聞き覚えのある声に俺は顔を上げる。
その時には一人は黒髪短髪の大柄な男で、もう一人は茶髪で髪を後ろで結っている小柄な男だと視認出来た。
しかし、次の瞬間には茶髪の少年は俺に飛びかかってきたのだ。
「ぎゃっ!」
「本物の紫狼だぁ!久しぶりぃ!」
「晴助ぇ?!え?えっ!?なんでいんの?!」
それは里で忍びの技術を共に学んだ旧友だった。
独り立ちしてからは任務先も異なったし、年に数回くらいしか会うことはなかったが、幼少期は苦楽を共にした幼馴染くらいの親しさだ。
俺に抱き着いたまま離れない晴助を引き剥がそうとしていると、黒髪のほうが小突いてきた。
「紫狼、俺らから逃げようとしただろう?逃げんなコラ」
「おまっ、直末か?!背伸び過ぎ!つか、髪もばっさり切ったなぁ」
直末も晴助と同じく旧友だが、こちらはどうしてかタイミングが合わずに三年振りくらいの再開だ。
直末と晴助は家系の関係で任務が同じ事も多くて、晴助から元気にしていると話は聞いていたのだが、だいぶ見た目が変わっていて驚いた。
辰彦の屋敷に住まうようになってからは里に帰る事も少なくて、晴助とも一年半以上は会っていなかった。
余談だが、晴助は直末と違って残念ながら前に会った時から身長は伸びていないようだ。
「逃げようとしたんじゃなくて、お客様かと思ったから掃除用具片付けようとしたんだよ。まさかお前らだなんて思わないしさ。それよりこのひっつき虫どうにかして」
俺はそう言って晴助の頭を軽く叩いたが、彼はそれでも離れようとしないので、直末が笑った。
笑うところかよと思いつつ、俺は晴助の首衿を引っ張って何とか引き剥がした。
「ぐぇえ!乱暴反対!痛いじゃん!」
「あ~はいはい。それで、二人共どうしたんだ?」
「おう。実はな、紫狼がここに住んでるって聞いて晴助がどうしても会いたいって駄々こねるから会いに来たんだ」
「直末だって会いたかったくせに!」
「はいはい、そうだな。だから付いて来たんだけどな」
珍しく次の任務までの期間も開いており、示し合わせて会いに来たらしい。
会えたのはとても嬉しいが、俺は思わず頭を抱えた。
二人が辰彦に見つかったら厄介だ……。
俺はさりげなく門から離れた場所に移動しようとしたが遅かった。
辰彦がこちらへずかずかと歩いてきていた。
俺に何かあるとすぐに辰彦に連絡が行くんだよね。
それは別に嫌じゃないけど、今日は辰彦の表情が怖い。
晴助も直末もすぐに辰彦に気付き、いつ攻撃されても反応出来るように身体を強張らせた。
頼むからこれ以上事態を悪化させないでくれ。
俺はそう願ったが、辰彦は目の前まで来ると笑顔を浮かべた。
そして、口を開いた。
「四郎、その人達は知り合いかい?」
「はい。里の仲間です。近くまで来たようで、会いに来てくれました」
「そう。じゃあ、立ち話もなんだから中に入ってもらいなさい」
「え、良いんですか?」
「わざわざ四郎に会いに来てくれたんだろう?追い返すなんてしないさ。急で大したおもてなしも出来ないが昼餉でも用意しよう」
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