インサイダー

しーたけの手

文字の大きさ
上 下
6 / 11

合流

しおりを挟む
「どこだっ!?どこに行った!!!」

 俺は必死で息を荒げながら、開始地点の周辺を捜索する。だが、周りは人でごった返していて、もはや何が何だか分からない。

「ちょっと、君」

 唐突に誰かに話しかけられた。

「何ですか、俺は急いでるんです!」

 目の前の肥満体型の男性に八つ当たりのようにそう叫んだ。

「そ、そうか。すまない。だが、ここから向こうには行かない方がいい。おそらく国法違反レギュレーションいはんだ。きっと階層越えオーバーラップでもしたんだろう。国警の連中が取り押さえているよ」

「な、なんだって!?それはどこですか!?」

「な、なんだ君、急いでいるんじゃなかったのか……」

 おじさんは、若干俺の反応に引いているが、そんなことに構っている暇などない。

「いいから早く!」

 俺は彼の肩を強く掴む。複数の警告表示ワーニング仮想画面レイヤードスクリーンに浮かび上がる。礼儀規則ポライトネスレギュレーション暴力規則バイオレーション倫理規則モラルレギュレーション音量規則ラウドネスレギュレーションなどなどさまざまなラインナップがお揃いのようで本当に反吐が出る。

「わ、分かった。君がそこまでのリスクを犯して聞くのなら相応の事情があるのだろう。彼女はあそこだ。第2転送魔法陣の前の広場にいるよ」

「ありがとう!恩に着るよ!!!」

 俺は、そういうと、スキルを頭で念じて、活性状態アクティブにする。

(上級知覚加速ハイパーセンシティブ!!!最上級加速オーバードライブアクセル!!!)

 瞬間。

 知覚が、時間を追い越した。

 周りにいる人々は、スーパースロー映像のようにこれでもかと緩慢に動く。

「待ってろよ、清谷さん」

 俺はクラウチングスタートの姿勢を取ると、一気に地面を蹴飛ばした。

 動きは普段の5割増しほどに加速している。

 流れるような風景についていけなくなりそうになるが、なんとかこれまでの経験でカバーをする。

 人混みをかき分け、飛び越え、すり抜けていく。

「うわー、本当に逮捕されてるよー。初めて見た」

「どうして、 階層越えなんてしたのかなー?」

 そんなさまざまな憶測が飛び交う野次馬を押し分け、前へと進みて出る。

 そこには、確かに美人の女の子がいた。

 だが。

「清谷さんじゃ、ない?」

 それは目当ての女の子ではなかった。

 今時なぜ階層越えオーバーラップなどしたのだろう。そんな疑問が浮かぶには浮かぶが、今はそんな些事にかかずらう余裕などない。

 そうだ。逃げろと言ったのは俺自身じゃないか。どうして同じ場所に留まっていると思った?

「手詰まりだ……」

 そう呟いて、俺は闇雲に走り出す。

 神殿と言っても、作りはかなり複雑だ。外側に、特殊な作りの柱が並んでおり、いかにも神聖ですと言った感じの光が射してはいるが、その中身は様々な施設でごった返している。

 アイテムショップに始まり、ブティックや倉庫屋、合成屋や分解屋に改造屋などの、ダンジョンに潜るために必要な施設。さらに人々が安らぐための飲食施設や、リラクゼーションのためのエステ、漫画喫茶やプールにカジノなど娯楽にも事欠かない。それに、人々が居住するプライベートな空間も含まれている。そんな調子だから、神殿の中はごちゃごちゃなのだ。

 まずは、路地を確認するべきだが、もし、ほかの施設に入っていたらそれこそ途方も無い時間がかかる。

 もしかしたら、俺よりも先に国警が彼女を見つけるかもしれない。そんなことになれば大変だ。

「クソ。何処から探せばいい……!」

 俺は、舌打ちしたい気分になった。だが、そんなことをしていてもしょうがない。だから、思考を巡らせる。

 そんな時、遠くで先ほどの野次馬が騒ぎ出す。

「待て!!!大人しく観念しろ!!!」

 国警らしき人物が、彼女を追いかけているようだ。

 だが、周りの野次馬は誰一人彼女を止めようとはしない。下手をすれば、例えば彼女の背にある日本刀で切りつけられるかも知れない。ここはバーチャルであるが同時に異世界でもあるのだ。

 異世界で死んだあと、どうなるのかなど誰も知らない。だからこそ、危険な階層への立ち入りを国警は厳しく制限しているのだ。

「あぁ!!!彼女消えたぞ!!!」

「ログアウトしたんだ!」

 ログ、アウト……?

「そうだ!!!ログアウトだ!!!」

 俺は何故今まで気がつかなかったのか。

 ログアウトすればリアルでは同じ部屋にいるじゃないか!それに、今場所が割れていても、それだけのことだ。

 国警がまた調べを付けて、捕まえにくるまでには十分ラグがある。

「そうと分かれば話は早い!!!」

 俺は、頭の中で『電源』と念じる。

 すると目の前に、小さな仮想画面レイヤードスクリーンが出てくる。

【ログアウトしますか?】

 という文字列を表示している。俺はそれを二回タップすると、視界が真っ暗になった。

【See you next dive!!!】

 という文字列が視界いっぱいに広がると、暗い画面が、ガラスが砕けるように崩れて行き、リアルの世界が目の前に広がっていた。



-----------------------------------------------






 見慣れた部屋。

 見慣れた家具。

 見慣れた洋服。

 そんな、いつも通りのリアルが目の前を満たしていた。

「あれ?もしかして、目を覚ました?アイツ嘘付いてんじゃねぇか。つっかえね」

 聞き覚えのある声が聞こえた。だけに、頭が混乱した。

 そこには、先ほど出会った美少女がいた。

 綺麗な目鼻立ち。透き通るような肌。ハッとするほど大きく、綺麗な目。

 唯一の違いは、その綺麗な髪を後ろで結んでポニーテールにしていることぐらいか。

 だが、問題はそこではない。

「き、君は……、誰だ……?」

 そう。問題そこではないのだ。

「あぁ?さっき説明したろ?っつってもあれか。記憶を共有しねぇんだったな。ったく。なんで同じ人間に二回も説明しなきゃなんねぇんだよ……」

 ぶっきらぼうな口調。キッと睨みつけるような鋭い目線。瓜二つの別人だと言われた方が納得できるくらいだった。

「俺の質問に答えてくれっ……!」

「ま、辛気臭いアイツよりは可愛げあっていいか。私は、清谷舞。この国に裏切られて処刑された哀れな亡霊さ」

 そう言うと、彼女はニッと笑った。

 おかしい。何なんだこれは。言っている意味が分からない。本当に分からない。

 バーチャルにダイブした人間の体は、システムが勝手に動かして生活上は問題が起きないようにしてくれるとは知っていた。

 だが。しかし……!!!

「驚いたって顔をしてるな?そりゃ、まぁ驚くわな。ログアウトされた後の体に、こんなペラペラ饒舌に喋る人格が宿ってるなんて思ってもみなかったろ?どうだ?こんな事実を知った感想は?」

 受け入れられるはずがなかった。だって、それが事実なら……。

「もしかして、俺の体にも別人がいるってことなのか……?」

「自分だけが例外だって、思ってる?だとしたら相当お花畑だね、あんたの頭」

 背筋が凍った。

 なんだこれは。俺の意識がない間に一体、身体には何が起こっているんだ……?俺がバーチャルに潜っていた間に、何が……!!!

 そんな思考を遮るように、大きな音が外から聞こえた。

 いや、外からではない。

 家のドアが、思いっきり攻撃されている。

「やっぱり来たか。人形が野放しになってるって聞いてたから嫌な予感はしてたんだよ。つくづく私は運が悪いな」

 そう言うと、彼女は俺の手を掴んで引っ張った。

「な、なんだ!?どこに行くんだ!?」

 俺は、急に手を掴まれて挙動不振になる。

「なんだ?童貞くんかな?弄りがいありそう」

 そう言って、ニッと笑いながら彼女はベランダの方へ走る。

 ドアを叩く音が、だんだん歪になって行く。ベコン!ベコン!!!と、まるで断末魔のような金属音に寒気がする。

「いいから早く答えてくれっ!!!」

 彼女は、俺をベランダに連れ出すと、何気なく、壁を蹴りつけた。

 壁はなぜか木っ端微塵に吹き飛ぶ。

「っっっ!!!???」

「どこへって、決まってんだろ?」

 ドカンッッッッッッ!!!!!!!!!

 とドアが吹き飛ぶ。ドアの向こうから現れたのは、人間のものとは思えない殺意を携えた人形だった。

 大きく目を見開き、口の端からは涎が滴る。

 そして、何より特徴的なのはその眼だ。光を受け取る機関であるはずの目が、黄色に発光していた。

 どうやら、男であるようだが、感情は平坦すぎるほどのゼロ。人形という形容はさもあるべしという感じであった。

 その人形が。

 似つかわしくないほどの咆哮を上げる。

「ぐぁぁぁおぉぉおあああおおおおぉぉぉおおおおああああああ!!!!!」

 声すら上げられなかった。

「お外へ逃げるんだぜ?」

 彼女は、俺の疑問に答えをくれると同時に、俺を引っ張ってマンションから落下した。

「な、なぁぁああああああああああ!!!?????」

「ひゃっほーーー!!!!!」

 マンションの三階といえど、十分死ねるっっっ!!!!!

 数瞬の後、身体が衝撃に曝された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

SFの世界に移転した病弱の少年がチート能力で異世界を救う ー未来からの招待状ー

nusuto
SF
一度も外出することを許されなかった少年は病室で寂しくPCで遊んでいた。ある日、PC画面から出現した少女によって異世界の平和を託され、技術が発達したSFのような世界に移転した。少年は少女からチート能力を貰い、異世界で出会った仲間と共に自由で楽しい生活を送る。

PSY・サティスファクト

韋虹姫 響華
SF
超能力────。 それは人間の中に潜む第六感とも言われている能力の一つとも言えるだろう。 ある時、そんな超能力が犯罪に利用されてしまった事で警察や探偵等の一般の考えでは解決や対処の出来ない怪事件が勃発する。 PSYパッケージと呼ばれた自発的か誘発的か分からない超能力の発現によって行われる超能力犯罪───、それに対抗すべく政府が施策した対超能力捜査一課。 しかし、超能力には同じ超能力による対処をすべく一課配属された超能力者はPSYコードと呼ばれ、怪事件を数多く解決する者達であった。 これは、出生が不明であるPSYコード達と一人の少年が出会った事で動き出す物語である。 ※表紙イラストはAIイラストを使用しています。イラストレーターが決まり次第、変更・編集予定です

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

〜 Another World Online 〜

ロキロキ
SF
 原因不明の病、痺硬病に掛かった主人公、加賀野 秋 突然発生したこの病、痺硬病にかかった人はテレビ、新聞等で報道された。秋はテレビで報道され、痺硬病に関する研究、治療費等の募金が集まったが、治す手段は無かった。 痺硬病により、首から下が動かなくなり、喋ることしか出来無い秋。 その秋がVRMMO Another World Online 通称AWOで無双する話 初投稿です 毎日更新は無理ですが、少なくとも週1で投稿します 誤字脱字報告よろしく☆ アンチはタヒね 受験期に入っても投稿はしますが文字数が少なくなると思います それでもよければ読んでください!

ドエジゲ~ドMが次元干渉スキルで図らずも多次元無双@2222年~

210
SF
世界を「規定」するものは何か? 物理法則と、素粒子もしくは紐。 では、それらを規定するものは? ここに、明確な答えがある。 その答えの前ではビッグバンは、確率的な初期条件による1つの小さな奇跡的現象にすぎない。 もちろん人間存在も、1つの小さな奇跡的現象にすぎない。 一方で、以下も断言できる。 人間存在にとって人間存在の価値は大きい。何物よりも。 ------------------------ 『ドMを極める』 西暦2222年。 それは23歳スタートアップ社員佐伯達郎が転移した、SF異世界における年。 人類は天の川銀河の約半分まで生息域を拡大し、総人口は1000億人を超えていた。銀河内に他の知的生命体はなく、人類の人類による人類のための天の川銀河であった。 転移時に与えられたのは「次元干渉スキル」。別次元に行き、そこにいる何かしらとコミュニケーションが取れるスキル。 転移したのは18歳のプロ格闘esportsプレイヤー「ドゥエム=サイキョー」。 まずはスキルを使用し、「4次元空間に住む次元探索者『ヴァーラ』」と「別3次元空間に住む機械生命体『クチュビー』」を仲間に加える。 そして「訳あり」そうなesportsの人々とも関係を築く。 ストリーマーとプロゲーマーを両立する、躁鬱な美少女ルナ。 すぐに宇宙の話に持っていきたがる、落ち着いたハゲであるサム。 とにかく優しいが2次元にハマりすぎているレオ先輩。 その中で、「ドMをさらに極めるには、成り上がるしかない」と気づいたドゥエムは、ランク一位に無謀な挑戦状をつきつけた。 ----- より強い刺激を求める中で、ドゥエムはこの世界の謎と陰謀に立ち向かうことになる。そして彼の好奇心が図らずも、次元をまたいだ無双状態を引き起こしてしまう。 「認識」と「次元」の基底をドM力でほじくり回す、ハイスピードアドレナリンSF

CORONA

ヤハウェ
SF
ブックマーク、コメントを何卒何卒お願い申し上げます。 なぜ、人は生きるのか? ずっと考えていました。 主 人 公 鈴 木 剛 が 、 他人の 人 生 を 追 憶 す る 事 で 、 剛 が 生 涯 に 渡 っ て 悩 ん だ 「 人 間 の 生 き る 意 味 」 に つ い て 知 る と い う SF 物 語 。 彼 が 死 の 淵 に 立 つ 事 で 、 彼 が な ぜ 教 師 を 目 指 し た の か 、 彼 が 人 間 の 生 き る 意 味 を ど う 考 え て い た か な ど を 思 い 出 し 、 自 分 の 生 き る 意 味 を 見 つ め 直 す こ と と な る 。 そ し て 地 球 と 人類の意義、 真 実 を 知 っ た 後 、 死 を 迎 え た 剛 は 、 第 二 の 命 を ど の よ う に 進 む か 選 択 し 、ヤハウェの 技 術 に よ り 新 た な 生 を 得 る 事 と な る 。

竜と殺人姫

SF
数百年前、突然変異を起こした1人の少女によって人類は救われた。そして、広まっていく「それ」を人々は「危険度」と名付け現在も恐れられている。少年も又、その1人だった。

処理中です...