アリスの苦難

浅葱 花

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<会計>

名城 凛(ナシロ リン)







俺は去年、生徒会役員だった。

役職は庶務で、他の役員達との関係も良好だった。

あの日までは…。




「生徒会補佐?」


「ああ、理事長からのお達しだ、生徒会の負担を減らすために導入したいらしい」


会長が話した内容を聞いた時は、まあ5人でやるには少し大変だし、人が増えて助かるに越した事はないなと思った。


「誰か候補はいるんですか?」


質問したのは副会長だった。


「何人かピックアップしてあるからその中から1人選べ、だそうだ」


理事長が候補を探したのなら安心か。


「え~どれどれ?…あ、この子いいんじゃない!」


横から資料を見て会計の凛先輩が声をあげた。

凛先輩が選んだ人は、男にしては可愛い系でこの学園では”チワワ”と呼ばれるような見た目をしていた。


「…ちなみに判断基準は?」


「見た目~」


「はぁ…あなたって人は」


副会長と凛先輩のやりとりを横目に、再度資料に目を通す。

どの親衛隊にも所属していなくて、成績も優秀。素行も悪くない。

他の人の資料を見ても似たり寄ったりの人材だった。


資料を見比べていると肩に重みを感じた。


「あ、朔起きた?」


書記の伊澄 朔が僕の肩に寄りかかってきた。


「な…これ…?」


生徒会唯一の同級生である朔は、話す事が苦手らしく少し言葉がつまってしまう。

ゆっくり話す事を意識するように話すと、伝わる事が多くなったようで喜んでいた。


「生徒会補佐を募るんだって」


「…補佐?な…で?」


「生徒会の負担を減らすためだって」


「ふ…ん…」


あ、これはあんまり興味がないやつだな。

案の定、朔はあくびをしてソファに戻っていった。


「会長の候補はいるんですか?」


黙って様子を見ていた会長に話を振る。


「あ?誰でも同じだろう」


あー、会長は基本人に興味がないんだった。

内に入れると基本的に優しいんだけどな。


「俺の足を引っ張らなければ誰でもいい」


少し俺様気質はあるけど、いい人ではある。


「私も仕事ができるなら誰でも構いません」


凛先輩との会話が終わったらしい副会長が、会話に加わってきた。

凛先輩の方は、ぶつぶつと文句を言いながら頬を膨らませていた。


「紘はどう思いますか?」


副会長に意見を求められる。


「うーん…僕も仕事してくれるなら誰でも」


朔は置いておいて、3人の意見が一致する。


「じゃあこの子でいいじゃん!」


凛先輩がここぞとばかりに口を開く。

僕たち3人は、まあいいかと若干諦めの気持ちで納得した。

本人に断られたら別の人に声をかけよう、そう決めてこの話は終わった。


凛先輩が選んだ生徒の名前は”姫野 晶”。

この生徒が後に、僕たちの関係を壊す存在になるなんて思いもしなかったんだ。








「よ、よろしくお願いします…!」


生徒会補佐として生徒会室にやってきた姫野晶は、緊張しているのか頬を赤らめながら僕たちに挨拶をした。


「あぁ、早速だが姫野、説明した通りお前には生徒会の仕事を手伝って欲しい」


会長が話を切り出す。


「ただ俺や楓の仕事は機密事項が多い、補佐とはいえ一般生徒に任せられん」


まぁ庶務の僕でも触れないものもあるしな。


「だからお前には庶務の紘の仕事を主に手伝ってやって欲しい」


前もって決めていた事だ。

僕の仕事は書類の制作とか整理が主だし、何気に仕事量が多い。

手伝ってくれるならとてもありがたい。


「わかりました!…有栖川さん、よろしくお願いします」


「あー、紘でいいよ、同級生だし敬語もなくていいし…よろしく」


「うん!わかった!」


最初の印象は、素直でいい子だった。

仕事の覚えも早いし、気さくで話しやすかった。


「紘、これってどう処理すればいい?」


「あー、これは確認とってあるからこっちの書類の見ながら作ってみて」

「わかった!…紘はすごいね、仕事早いし教えるのも上手いよね!」


「…そんな事ないよ、こういうのは慣れだから」


姫野はよく僕の事を褒めてくれた。

悪い気はしないけど、褒められ慣れてない僕は、その度にどう反応していいのかわからなくて少し困っていた。


「…少し休憩しましょうか」


副会長から声がかかる。

何か言いたげだった姫野は、副会長からの声に口を閉じた。

その様子に気づかないふりをして、席を立ちソファに移動する。

先に座っていた朔の横に座り、お菓子をつまむ。


「…ん、朔これ美味しいよ」


「ん…あ…」


朔は口を開けてこちらを向く。

その口にお菓子を放り込むと、朔の頬は緩んだ。


「紘どれ食べたの?僕も食べたい!」


どかっと僕の隣に姫野が座る。

なんだか距離が近い気がする。


「え、と…これだよ」


「あー」


「え…?」


お菓子を教えると口を開けてこちらを向く。

これは、口に入れろと言う事か…?


「食べさせてくれないの?」


痺れをきらした姫野が首を傾げる。

さっき朔には食べさせたが、それ以外の人にそういった事をした事がない僕は戸惑ってしまった。


「えっと…はい」


待たせる訳にもいかず口にお菓子を入れる。


「ん~、おいしー!」


姫野は満面の笑みを浮かべた。







今まであまり人と関わってこなかった僕は、姫野との距離感を図れず戸惑う事が多かった。

その戸惑いは、他の生徒会メンバーにも伝わっていたみたいで、度々心配されていた。


「紘ちゃん大丈夫~?」


凛先輩と職員室に書類を届けた帰りだった。


「え、と…?」


何の事か分からず首を傾げる。


「晶ちゃんのこと~」


「あぁ…姫野はいい子ですよね、僕がうまく関われなくて申し訳ないです」


そう答えると、凛先輩は微妙な顔をする。


「う~ん…紘ちゃんのせいじゃないと思うよあれは」

「俺があの時見た目であの子を選ばなかったら、もう少し紘ちゃんの負担は少なかったのかな~とか思うんだよね~」

「だからちょっと責任感じてるんだ~」


いつものらりくらりしている凛先輩が責任を感じるくらいには、姫野は少し変わっているのか。


「まぁ俺もみんなもフォローはするし、もー無理ーって思うなら補佐を交換するって手もあるからね~」


いつでも頼って~、そう言って凛先輩は先に生徒会室へ入った。

凛先輩と話して、僕の感覚がずれていた訳ではない事が分かった。

だからと言って補佐を交換するというのは、今のところ考えていない。

実際姫野は仕事ができる。

僕のわがままで交換するというのは申し訳ない。

そう結論付けて僕も生徒会室に入る。


でも、今思うとここが1つの分岐点で、僕の選択肢は間違えていたと思う。

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感想 3

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みんなの感想(3件)

マリア
2023.06.25 マリア

もう更新されませんか?

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林 夜雨
2023.03.10 林 夜雨

主人公くんが不憫で本気で泣きかけました😭個人的にはやっぱりハッピーエンドで終わって欲しいし、今の生徒会の人達は何かしら反省して欲しいなと思いました。更新楽しみに待ってます!

解除
まこ
2023.02.24 まこ
ネタバレ含む
解除

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