アリスの苦難

浅葱 花

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<3年>

西園寺 葵(サイオンジ アオイ)






「戻ってきてたんですね」


「うん、5日前くらいかな?日本に帰ってきたのは」


「おかえりなさい」


「ただいま、アリス」


この人は西園寺 葵先輩。

この1年、海外に留学をしていた人だ。


留学する前は何かと僕を気にかけてくれて、良くしてくれた先輩だ。


僕が今の状況になる前にお世話になっていた人。


だからあお先輩は今の僕の現状を知らないはずだ。


話さなきゃ…いけない…。

これ以上この人に迷惑をかけられないから。


「それで、さっきアリスが怯えていたのと、今のこの学園の出来事は関係あるんだね?」


その問いは質問なんかじゃなかった。

答えを知っていて、確認するための言葉。


(…知られていた)


この人も軽蔑、するんだろうか…。


今まで誰に軽蔑されても、そこまで深く考えなかったけど、この人にされるのは少し、悲しいかもしれない。


「アリス、君は…」


(次の言葉は今まで散々言われてきた言葉だ、大丈夫、大丈夫…)


──ギュッ


「よく耐えてきたね」


「…え?」


思っていた反応と違っていたから、驚いてしまった。


「もう、大丈夫だよ」


いいこいいこ、そうやってあお先輩は頭を撫でてくれた。


前から、この人には触られても平気だった。

優しくて包み込んでくれるような、そんな安心感がある。


「あお、先輩…、僕に何があったか知ってるんですよね…」


「うん、知ってる」


「じゃあなんで…」


あお先輩は優しく微笑んだ。


「俺はアリスの味方だからだよ」


柄にもなく泣きそうになった。






───食堂


「え!!西園寺先輩!?」

「帰ってきたんだ!!」

「久しぶりの先輩だー!!」

「やっぱりかっこいい!」

「なんでアリスが横にいんだよ」

「まじありえない!身の程を弁えなよ!」



(やっぱり、あお先輩は人気者だな…)


味方って言ってくれたのは嬉しいけど、やっぱり…。


「アリス、気にしちゃダメだよ」


「えっ…」


「アリスの考えてる事なんてすぐ分かっちゃうんだから」


そう言って頭を撫でられる。


(バレてた…)


嬉しさと、若干の気恥しさを感じた。


「お、おい!紘のこと”アリス”って呼ぶなよ!紘が嫌がるだろ!!」


「…あと、手も退けろ」


そう言ってきたのは、転入生と氷室玲二で。


前に僕が言ったことを気にして言ってくれたようだった。


「あっ、それは…この人は」


「へー、君たちアリスにそれ言われたんだ」


僕の言葉を遮って先輩は口を挟んだ。


「そ、そうだよ!本人が嫌がることすんなよ!お前もアイツらと同じなのか!」


「本人の嫌がること、ねぇ…」


そう呟くとあお先輩はこちらを向いて微笑んだ。


(何をする気だ?)


この人がこんな笑い方をする時は、何か企んでる時だ。


「ねぇ、アリス…おいで」


そういって両手を広げた。


(これは…)


自分から動けってことか…。


「はぁ…」


1つ、ため息をついて、先輩の企みに乗ることにした。

なんだかんだ、この人に僕は逆らえないのだ。



──ギュー


先輩に後ろから抱きしめられる。


「…お前、こいつなら大丈夫なのか」


氷室玲二に聞かれる。


「うん、この人は大丈夫」


「…そうか、ならいい」


そう言ってテーブルに歩いていく。


頭の上で満足気な先輩の顔が浮かぶ。


そして、まだ納得のいってないやつが1人。


「なっなっなんで!抱きついてるんだよ!」


「これはアリスから来てくれたんだよ」


「だからその、”アリス”って言うのやめろよ!」


「なんで?アリスはアリスでしょ?俺が付けたあだ名なんだからいいじゃん、ねーアリス」


「おれが、付けた?」


「はぁ…」


(この人はこんなに独占欲が強い人だったか…?)


「そうなのか?紘」


「先輩の言う通りだよ」


「紘は嫌じゃないのか?」


「この人は特別だから」


「とくべつ…」


そう言うと嬉しそうなあお先輩と、対照的に落ち込んだ様子の転入生。


(何をそこまで落ち込む必要があるんだ)


僕はこの転入生を一生理解出来ないかもしれない。

…しようとも思わないけど。






──きゃあああああああ!!!



(またか…)



毎回毎回叫ばれて、あいつらは疲れないのだろうか。


「彼方!」


「彼方ちゃ~ん」


「か…な…」


来て早々転入生を取り囲む。


「うわっ、びっくりした!」


急に囲まれるとそりゃびっくりするよな。


「彼方、いつも教室まで迎えに行くと言ってるじゃないですか!」


「なんでいつもアリスなんかと一緒にいるのさ~」


「か…な…、めっ…!」


「なっ!だから、俺は紘と仲良くなりたいから!あんたらには関係ないだろ!」


「昨日話しただろう、こいつが俺たちに何をしたのか、それでもこいつと関わるのか?」


(はな、した…?)


転入生に話したのか…。

じゃあこいつは僕のしたことを知ってる?

なのになんで…?

会長が言うように僕に関わるんだ?


「まだ、紘の口から聞いてないから」


「ちゃんと話してくれるの俺は待つよ」


「紘から聞いてからどうするか決めても良いだろ、俺の勝手だ」


(変な、やつ…)


「ふっ…つくづく面白いやつだな」


そう言って会長はくつくつ笑っていた。



僕は、この転入生の見方を変えた方がいいのか…?

転入生はあいつらと同じじゃない、そう思ってもいい…?

でもまた離れていったら…?

僕はどうすれば…


「アリス」


──ハッ


「あお先輩…?」


「帰っていたのか、西園寺」


「アリス、俺お腹すいちゃった」


あれ?今この人会長のことスルーした?


「早く座ろ?」


「おい、聞こえているだろう西園寺」


会長を無視して僕を引っ張っていくあお先輩。


席につき僕を隣に座らせる。


「何食べようかな?あ、アリスはヨーグルトでいいよね」


ピッピッとタッチパネルを操作していく。


「え、あ、あの…?」


「ん?どうしたの、アリ…」


──ダンッ


──ビクッ


「西園寺、お前何様のつもりだ?」


「やめろよ、アリスが怯えてる」


「そんなやつのことなんてどうでもいい、俺様を無視するとはいい度胸じゃねぇか」


「そんなやつ?どうでもいい?ハッ、二階堂お前本当に目の前のことしか見えてないんだな」


「なに?」


「いいよ、お前らがアリスを虐めた体裁は後回しだ、今はアリスを癒すのが先決だ」


「…は?体裁?お前知らないだけだろう、お前がいない間に何があったのかを」



「知ってるよ、知った上でお前らは馬鹿だと言ってるんだ」


「真実を知ろうともしないで、上辺だけで決めつけて、本当に可哀想なやつら」


「そんなやつらと少しでも仲良くしていた前の自分が嫌になる、信じてた俺が馬鹿だったよ」



(先輩?真実って…何を、僕が全部悪かったのに…何を言って…?)



「真実も何も、有栖川が姫野をレイプしてさらに怪我までさせたんだ、これ以上でも以下でもないだろう、状況証拠も残ってる」


(あ、れ…?)


「それが馬鹿だって言ってるんだよ、もう話にならないね、行こうアリス」


「せんぱ…ぼく…え…?」


僕が、レイプした?

なんで、そんなことに…?

あれ?あれ?

何かおかしい…?

だって、あの時僕がされたのは…


「…っ…カヒュ…はっ…ぁ…」


「アリス!?」


くるしい、くるしい


あたまがいたい


たすけて


………

……



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