アリスの苦難

浅葱 花

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<保険医>

柏木 守(カシワギ マモル)


<写真部部長>

高坂 穂稀(コウサカ ホマレ)





5月

僕のクラスに季節外れの転入生がきた。

第一印象は

(ここの生徒が騒ぎそうな容姿だな)

だった。


彼の名前は、佐々木 彼方(ササキ カナタ)と言うらしい。

背が高く、元々色素が薄いのか綺麗なクリーム色の髪と瞳。そして見る人が目を奪われる笑顔。


(これは早々に親衛隊がつきそうだな…)


まぁ、関わることもないだろうと僕は彼から目を逸らす。


「佐々木の席は、あー…有栖川の隣か…

お前ら仲良くしろよー、んじゃHR終わりー」


なんと、転入生の佐々木くんは僕の隣の席らしい。

確かに窓際の一番後ろの席はずっと空席だった。

だからといって僕には彼と関わるなんて選択肢はないのだけど。


「よろしく、俺佐々木彼方。名前聞いてもいい?」


「…」


「えーと…」



「佐々木くんが話しかけてるのに無視するなんて、さいてー」

「佐々木くーん、そんなやつほっといて俺らと話そうぜー!」

「そうそう!なんなら僕が校内案内してあげる!」

「ずるい!抜け駆け禁止ー!!」


クスクス、クスクス


(面倒臭い…)


話しかけても無視しても面倒臭いことになるなら、初めから巻き込まない方がいいに決まってる。






──キーンコーンカーンコーン


4時間目の終わりを告げるチャイム。

生徒たちは一斉にガヤガヤと騒ぎ出す。


僕はと言うと…



ぐったりしていた。


原因は隣の転入生。

初めに無視したにも関わらず、彼はあれからことある事に僕に話しかけてきた。何故かキラキラした笑顔と共に。

その度に僕は周りからの視線や陰口を浴び、うんざりしていた。


視線も陰口も慣れてはいるけど、至近距離からのあの笑顔は疲れる…。


「ねぇねぇ、俺食堂までの道分からないから一緒に行かない?」


行きません。僕以外のやつと行ってください。

そうゆう意味も込めて僕は黙って席を立った。


「あっ、待って」

「佐々木くん!食堂なら僕達が案内するよ!!」


おお、良かったね。一緒に行ってくれるって。それじゃあ僕は失礼します。


「ありがとう、でも僕は彼と一緒に行きたいんだ。ごめんね?」


なんてこと言ってんだ、この転入生…。


案の定誘ったクラスメイトはそれはもうすごい顔をしていた。


(おお、こわっ…)


面倒な飛び火をしかねないから僕は早々に教室から出た。






「ねぇ、あれ…」

「噂の転入生?」

「なんであいつと一緒にいるの?」


僕が聞きたい。

彼はあの後僕の横に並んで歩いている。それはもうニコニコとしながら。

なにがそんなに楽しいのか…。


取り敢えず、人気のない所に行くか…。





──この辺でいいか…


「…あのさ、」


「!やっと喋ってくれた!!」


「あぁ、うん…」


「名前は!名前はなんて言うの!!」


「…取り敢えずさ、クラスの奴らに僕には近づかない方いいとか言われなかった?」


「言われたけど、それが?」


それがって…普通言われたら関わんないでしょ…。


「俺は自分が関わるやつは自分で決める。

ちゃんと自分の目で確かめてどうするか決める」


あぁ、こいつは


(面倒臭いやつに目をつけられたな…)






「どうでもいいけど、僕は忠告したからな

僕は君がどうなっても知らない」


「…心配してくれるんだ?」


なんでそうなる…


「はぁ…もういい…」


「待って!名前教えて!」


これ教えないとずっと付きまとわれるやつか…?


「…有栖川紘」


「ありすがわ、ひろ…

アリスって呼んでも「やめろ」ですよね…」


悪気はないだろうけどその呼び方はやめて欲しい。






「じゃあ、紘って呼んでもいい?」


「…好きにしろ」


どうせ僕はこいつと仲良くする気は無いし。


「紘!食堂行こう!俺お腹空いたー」


「1人で行けばいいだろ、僕は絶対行かない」


誰が好き好んであんな人が集まる場所に行くか。


「でも俺食堂の場所知らないし」

「誰かに聞けばわかるだろ」

「ここ他に誰もいないし、ここがどこかもわからないし」

「…」

「あーあー、ここで紘に置いていかれたら俺空腹で死んじゃうなー」

「…」


こいつ…うざい…





──ガチャ



「…え、なんであいつがここに?」

「飯が不味くなるじゃねーか」

「最悪」

「一緒にいるのって転入生?」

「えー、かっこいい!」



──やっぱり来るんじゃなかった…


あの後、転入生は駄々をこねた。

それはもう子どものように。

僕はそれを見て引いた。高校生にもなってここまでするのか、と。

そして、見事に負けた。


「紘、どこに座る?」


こいつ、何事も無かった様にニコニコしてやがる。ムカつくな。


「勝手にしろ」


「じゃああそこにしよ!」


そういって指を指したのは窓側の日当たりの良い席だった。

近くに観葉植物も置いてあり周りからは死角になる場所だ。


(まぁ、いいか…)


僕たちは向かい合って座った。






「ねぇ紘、これどうやって使うの?」


転入生はテーブルにあるタッチパネルを指さしていた。


「…カードキー貰っただろ、それをこれに差し込んで注文する。ここではそれ財布の代わりにもなるやつだから」


「ふーん…お、できた、

なに食べようかなぁ…」


そう言いながら転入生はオムライスを注文していた。


「紘は?なに食べる?」


「僕は別に「きゃあああああああ」…っ!」


突然食堂内にいた生徒が悲鳴をあげた。






(なんであいつらが…)


「びっくりしたぁ…何事なの」


僕は急いで席を立った。


「え、紘どこに「彼方!!」…え、副会長?」


「今朝ぶりですね、会いたかったです」

「え、あぁそう、ですね?」


なんでこいつ副会長に気に入られてんの…?


「この子がかえちゃんの言ってた転入生~?」

「そうですよ凛、彼が彼方です」

「へぇ~、結構俺好みの顔してんね、ねぇ今夜良かったらどう?」

「はぁ!?」

「凛!そうゆうこと言うのはやめてください」

「え~?」


「これ…オム、ラ…ス…?」

「へ?あ、あぁそうだけど」

「(ぐぅぅ~)」

「…1口食べますか?」

「ん…!!!…あー…」

「え、あ!あーん…?」

「…!おい、し…!!」

「それは良かったです、ね?」

「え~朔ちゃんずる~い」

「彼方!私にもあーんしてください!」

「え、いや、あの」


「お前ら、いい加減にしとけ、そいつ困ってるだろ。

それに何故お前がここにいる、有栖川紘」


「あっれ~アリスちゃんいたの~?」

「何故彼方と一緒にいるんですか」


彼らの視線が僕に突き刺さった。

(…別にいたくている訳じゃねぇよ)


 「ひ、紘は食堂まで案内してくれたんです!!」


「ならもう用は済んだだろう、早く失せろ」


わかってるよ

僕は食堂の外に向かって歩きだした。






「おい、その言い方はないだろ、紘に謝れよ」


こいつ、余計なことを…


「…はっ、なんで俺が、

お前はあいつがどんなやつか知らないんだろう?なら余計なことは言わないから関わらないことだな」


「確かにまだ紘のこと何も知らない、けど自分が関わる人は自分で選ぶ

ちゃんと自分の意思で決める」


「…ふっ、気に入った

お前名前は?」


「お前みたいなやつに教えるわけない」


「ますます気に入った」


そういって会長は転入生に近づき──
















──キスをした。

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