アリスの苦難

浅葱 花

文字の大きさ
上 下
2 / 10

<1>

しおりを挟む
主人公

 有栖川 紘 (アリスガワ ヒロ)




──バシャッ


「うわー、だっさぁ」

「きたなぁい」


クスクス、クスクス


嫌悪、好奇、嫌味、揶揄い、同情、、

毎日こんな目に晒されたら嫌でも慣れた。

今は逆によくもまぁ飽きずにやるな、なんて思考をめぐらせる余裕すらある。


───キーンコーンカーンコーン


(あ…昼休み終わった…)


「片付けはあんたがしといてね」

「よろしく、”アリスちゃん”」


そう言って彼らは教室に戻って行った。

遠くから傍観していた奴らも何事も無かったかのように戻っていく。


(…冷たい、マスクも濡れて気持ち悪い…)


「はぁ、めんどくさ…」


彼らに片付けろと言われたからと言って、はい、そうですかと聞いてやる義理は無い。

そもそも、僕にわざと水をかけてきたのは向こうだ。やるならお前らがやれってんだ。

よって僕は濡れた制服を着替えるためにその場を後にした。





<保健室>

──コンコン


「空いてんぞー」

「失礼します」

「なんだ、お前か…

今日は何されたんだー?」

「見て分かりませんか?」

「大体察しはつく」

「なら聞かないでください」


──はいはい

そう言ってこの学園の保険医、柏木 守(カシワギ マモル)先生はタオルと予備の制服を貸してくれた。


「にしても、毎回容赦ねぇな」

「…」

「ここのお坊ちゃま方は手加減ってのを知らないのかね」

「…」

「お前もよく耐えられるな」

「…」

「…おい、なんか言えよ、俺が1人で喋ってる痛いやつになんだろうが」

「制服ありがとうございます、後で返しに来ます」

「そうゆうことじゃねぇよ」

「あと、マスク新しいの貰えますか?」

「…はぁ、ほらよ」

「ありがとうございます、では失礼します」


マスクを付けて早々に立ち去る。

柏木先生は何か言いたげな顔をしていたが、僕は気付かないふりをして部屋から出た。




今は授業中、廊下には眠気を誘う教師の声が微かに聞こえていた。

僕が途中から教室に入っても生徒はおろか、教師すら見て見ぬふりをするだろう。
それが今のこの学園の普通だ。柏木先生のように僕に普通に絡んでくる方が珍しいのだ。

いや、珍しいというより『命知らず』かな…

この学園は特殊だ。金持ちの息子が通う全寮制の男子校。まぁ、中には一般からの特待生もいるが、学年に数人いる程度だ。
その中でも生徒会、風紀委員に選ばれた生徒は将来世を担うための練習として、学園の一部の運営を任されている。
故に普通の教師よりも立場が上なのだ。
彼らが言ったことには逆らえない。教師も生徒も。

その生徒会が僕に”制裁”を加えるように指示したのだ。
逆らえるはずもない。




(今日はこのままサボろう)

どうしても授業を受ける気になれず僕は”ある場所”に向かった。






──ガラガラ

「お?…おー”アリスちゃん”じゃん
どーしたの?今授業中だよ?」

「…その呼び方、やめろ」

「へーへー」

ここは写真部の部室だ。そして自分のことを棚に上げて僕に話しかけてきたのは、部長の高坂 穂稀(コウサカ ホマレ)。
こいつは僕に普通に話しかけてくる変人だ。

なぜ僕がここに来たかと言うと、別に僕が部員だからという訳では無い。ただ写真は取りに来た。

「ほれ、紘ちゃんのカメラ」
「…ん」

僕にとってカメラを覗いてる時だけが世界に色が着く。写真だけが現実を教えてくれる。
馬鹿らしいと笑う人もいるだろうけど、今の僕にはこれが全てだ。

僕は窓際の僕の定位置となった椅子に座り、マスクを外してカメラを構える。

──カシャッカシャッ

何度かシャッターを押す。
画面には窓から見える綺麗な空が写っていた。

(上手く撮れた)

──カシャッ

「…また僕を撮っただろう」
「気の所為じゃない?」

へらりと笑ったそいつにイラッとした。

「はぁ…相変わらず物好きだね、僕を撮るなんて」
「紘ちゃんこそ、相変わらず人は撮らないの?」

「その質問には何度も答えた」

「変わんないってことね」




僕は綺麗なものしか撮らない。
それが今は人に向かないだけ。綺麗だと思えなくなっただけ。

窓の外を見る。
空は綺麗な青が広がっていて、春特有の暖かい風が吹いてくる。

景色は何も変わっていないのに、どうして僕の周りはこんなにも変わってしまったのか。
…いや、変わったのは僕の方か。

僕は彼らからの仕打ちを何も言わずに受けている。そうすべきだと思うから。
そうすべき存在なんだと自分でも思うから…

彼らがどんな経緯で”あの出来事”を知ったのかは知らないけど、きっと彼らを裏切るには十分な出来事だった。
許してもらおうなんて思わない。許されるとも思っていない。それくらいのことを僕はしてしまったんだ…。

「そろそろ5時間目終わるけど、紘ちゃんどうすんの?もう1時間サボっちゃう?」

「…戻る」

「あぁそう、んじゃ道中お気をつけてー」

僕は高坂にカメラを預けて部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最弱伝説俺

京香
BL
 元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!  有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!

京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優 初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。 そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。 さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。 しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

秘める交線ー放り込まれた青年の日常と非日常ー

Ayari(橋本彩里)
BL
日本有数の御曹司が集まる男子校清蘭学園。 家柄、財力、知能、才能に恵まれた者たちばかり集まるこの学園に、突如外部入学することになったアオイ。 2年ぶりに会う幼馴染みはひどく素っ気なく、それに加え……。 ──もう逃がさないから。 誰しも触れて欲しくないことはある。そして、それを暴きたい者も。 事件あり、過去あり、あらざるものあり、美形集団、曲者ほいほいです。 少し特殊(怪奇含むため)な学園ものとなります。今のところ、怪奇とシリアスは2割ほどの予定。 生徒会、風紀、爽やかに、不良、溶け込み腐男子など定番はそろいイベントもありますが王道学園ではないです。あくまで変人、奇怪、濃ゆいのほいほい主人公。誰がどこまで深みにはまるかはアオイ次第。 ***** 青春、少し不思議なこと、萌えに興味がある方お付き合いいただけたら嬉しいです。 ※不定期更新となりますのであらかじめご了承ください。 表紙は友人のkouma.作です♪

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

王道学園なのに会長だけなんか違くない?

ばなな
BL
※更新遅め この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも のだった。 …だが会長は違ったーー この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。 ちなみに会長総受け…になる予定?です。

処理中です...