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主人公
有栖川 紘 (アリスガワ ヒロ)
──バシャッ
「うわー、だっさぁ」
「きたなぁい」
クスクス、クスクス
嫌悪、好奇、嫌味、揶揄い、同情、、
毎日こんな目に晒されたら嫌でも慣れた。
今は逆によくもまぁ飽きずにやるな、なんて思考をめぐらせる余裕すらある。
───キーンコーンカーンコーン
(あ…昼休み終わった…)
「片付けはあんたがしといてね」
「よろしく、”アリスちゃん”」
そう言って彼らは教室に戻って行った。
遠くから傍観していた奴らも何事も無かったかのように戻っていく。
(…冷たい、マスクも濡れて気持ち悪い…)
「はぁ、めんどくさ…」
彼らに片付けろと言われたからと言って、はい、そうですかと聞いてやる義理は無い。
そもそも、僕にわざと水をかけてきたのは向こうだ。やるならお前らがやれってんだ。
よって僕は濡れた制服を着替えるためにその場を後にした。
<保健室>
──コンコン
「空いてんぞー」
「失礼します」
「なんだ、お前か…
今日は何されたんだー?」
「見て分かりませんか?」
「大体察しはつく」
「なら聞かないでください」
──はいはい
そう言ってこの学園の保険医、柏木 守(カシワギ マモル)先生はタオルと予備の制服を貸してくれた。
「にしても、毎回容赦ねぇな」
「…」
「ここのお坊ちゃま方は手加減ってのを知らないのかね」
「…」
「お前もよく耐えられるな」
「…」
「…おい、なんか言えよ、俺が1人で喋ってる痛いやつになんだろうが」
「制服ありがとうございます、後で返しに来ます」
「そうゆうことじゃねぇよ」
「あと、マスク新しいの貰えますか?」
「…はぁ、ほらよ」
「ありがとうございます、では失礼します」
マスクを付けて早々に立ち去る。
柏木先生は何か言いたげな顔をしていたが、僕は気付かないふりをして部屋から出た。
今は授業中、廊下には眠気を誘う教師の声が微かに聞こえていた。
僕が途中から教室に入っても生徒はおろか、教師すら見て見ぬふりをするだろう。
それが今のこの学園の普通だ。柏木先生のように僕に普通に絡んでくる方が珍しいのだ。
いや、珍しいというより『命知らず』かな…
この学園は特殊だ。金持ちの息子が通う全寮制の男子校。まぁ、中には一般からの特待生もいるが、学年に数人いる程度だ。
その中でも生徒会、風紀委員に選ばれた生徒は将来世を担うための練習として、学園の一部の運営を任されている。
故に普通の教師よりも立場が上なのだ。
彼らが言ったことには逆らえない。教師も生徒も。
その生徒会が僕に”制裁”を加えるように指示したのだ。
逆らえるはずもない。
(今日はこのままサボろう)
どうしても授業を受ける気になれず僕は”ある場所”に向かった。
──ガラガラ
「お?…おー”アリスちゃん”じゃん
どーしたの?今授業中だよ?」
「…その呼び方、やめろ」
「へーへー」
ここは写真部の部室だ。そして自分のことを棚に上げて僕に話しかけてきたのは、部長の高坂 穂稀(コウサカ ホマレ)。
こいつは僕に普通に話しかけてくる変人だ。
なぜ僕がここに来たかと言うと、別に僕が部員だからという訳では無い。ただ写真は取りに来た。
「ほれ、紘ちゃんのカメラ」
「…ん」
僕にとってカメラを覗いてる時だけが世界に色が着く。写真だけが現実を教えてくれる。
馬鹿らしいと笑う人もいるだろうけど、今の僕にはこれが全てだ。
僕は窓際の僕の定位置となった椅子に座り、マスクを外してカメラを構える。
──カシャッカシャッ
何度かシャッターを押す。
画面には窓から見える綺麗な空が写っていた。
(上手く撮れた)
──カシャッ
「…また僕を撮っただろう」
「気の所為じゃない?」
へらりと笑ったそいつにイラッとした。
「はぁ…相変わらず物好きだね、僕を撮るなんて」
「紘ちゃんこそ、相変わらず人は撮らないの?」
「その質問には何度も答えた」
「変わんないってことね」
僕は綺麗なものしか撮らない。
それが今は人に向かないだけ。綺麗だと思えなくなっただけ。
窓の外を見る。
空は綺麗な青が広がっていて、春特有の暖かい風が吹いてくる。
景色は何も変わっていないのに、どうして僕の周りはこんなにも変わってしまったのか。
…いや、変わったのは僕の方か。
僕は彼らからの仕打ちを何も言わずに受けている。そうすべきだと思うから。
そうすべき存在なんだと自分でも思うから…
。
彼らがどんな経緯で”あの出来事”を知ったのかは知らないけど、きっと彼らを裏切るには十分な出来事だった。
許してもらおうなんて思わない。許されるとも思っていない。それくらいのことを僕はしてしまったんだ…。
「そろそろ5時間目終わるけど、紘ちゃんどうすんの?もう1時間サボっちゃう?」
「…戻る」
「あぁそう、んじゃ道中お気をつけてー」
僕は高坂にカメラを預けて部屋を後にした。
有栖川 紘 (アリスガワ ヒロ)
──バシャッ
「うわー、だっさぁ」
「きたなぁい」
クスクス、クスクス
嫌悪、好奇、嫌味、揶揄い、同情、、
毎日こんな目に晒されたら嫌でも慣れた。
今は逆によくもまぁ飽きずにやるな、なんて思考をめぐらせる余裕すらある。
───キーンコーンカーンコーン
(あ…昼休み終わった…)
「片付けはあんたがしといてね」
「よろしく、”アリスちゃん”」
そう言って彼らは教室に戻って行った。
遠くから傍観していた奴らも何事も無かったかのように戻っていく。
(…冷たい、マスクも濡れて気持ち悪い…)
「はぁ、めんどくさ…」
彼らに片付けろと言われたからと言って、はい、そうですかと聞いてやる義理は無い。
そもそも、僕にわざと水をかけてきたのは向こうだ。やるならお前らがやれってんだ。
よって僕は濡れた制服を着替えるためにその場を後にした。
<保健室>
──コンコン
「空いてんぞー」
「失礼します」
「なんだ、お前か…
今日は何されたんだー?」
「見て分かりませんか?」
「大体察しはつく」
「なら聞かないでください」
──はいはい
そう言ってこの学園の保険医、柏木 守(カシワギ マモル)先生はタオルと予備の制服を貸してくれた。
「にしても、毎回容赦ねぇな」
「…」
「ここのお坊ちゃま方は手加減ってのを知らないのかね」
「…」
「お前もよく耐えられるな」
「…」
「…おい、なんか言えよ、俺が1人で喋ってる痛いやつになんだろうが」
「制服ありがとうございます、後で返しに来ます」
「そうゆうことじゃねぇよ」
「あと、マスク新しいの貰えますか?」
「…はぁ、ほらよ」
「ありがとうございます、では失礼します」
マスクを付けて早々に立ち去る。
柏木先生は何か言いたげな顔をしていたが、僕は気付かないふりをして部屋から出た。
今は授業中、廊下には眠気を誘う教師の声が微かに聞こえていた。
僕が途中から教室に入っても生徒はおろか、教師すら見て見ぬふりをするだろう。
それが今のこの学園の普通だ。柏木先生のように僕に普通に絡んでくる方が珍しいのだ。
いや、珍しいというより『命知らず』かな…
この学園は特殊だ。金持ちの息子が通う全寮制の男子校。まぁ、中には一般からの特待生もいるが、学年に数人いる程度だ。
その中でも生徒会、風紀委員に選ばれた生徒は将来世を担うための練習として、学園の一部の運営を任されている。
故に普通の教師よりも立場が上なのだ。
彼らが言ったことには逆らえない。教師も生徒も。
その生徒会が僕に”制裁”を加えるように指示したのだ。
逆らえるはずもない。
(今日はこのままサボろう)
どうしても授業を受ける気になれず僕は”ある場所”に向かった。
──ガラガラ
「お?…おー”アリスちゃん”じゃん
どーしたの?今授業中だよ?」
「…その呼び方、やめろ」
「へーへー」
ここは写真部の部室だ。そして自分のことを棚に上げて僕に話しかけてきたのは、部長の高坂 穂稀(コウサカ ホマレ)。
こいつは僕に普通に話しかけてくる変人だ。
なぜ僕がここに来たかと言うと、別に僕が部員だからという訳では無い。ただ写真は取りに来た。
「ほれ、紘ちゃんのカメラ」
「…ん」
僕にとってカメラを覗いてる時だけが世界に色が着く。写真だけが現実を教えてくれる。
馬鹿らしいと笑う人もいるだろうけど、今の僕にはこれが全てだ。
僕は窓際の僕の定位置となった椅子に座り、マスクを外してカメラを構える。
──カシャッカシャッ
何度かシャッターを押す。
画面には窓から見える綺麗な空が写っていた。
(上手く撮れた)
──カシャッ
「…また僕を撮っただろう」
「気の所為じゃない?」
へらりと笑ったそいつにイラッとした。
「はぁ…相変わらず物好きだね、僕を撮るなんて」
「紘ちゃんこそ、相変わらず人は撮らないの?」
「その質問には何度も答えた」
「変わんないってことね」
僕は綺麗なものしか撮らない。
それが今は人に向かないだけ。綺麗だと思えなくなっただけ。
窓の外を見る。
空は綺麗な青が広がっていて、春特有の暖かい風が吹いてくる。
景色は何も変わっていないのに、どうして僕の周りはこんなにも変わってしまったのか。
…いや、変わったのは僕の方か。
僕は彼らからの仕打ちを何も言わずに受けている。そうすべきだと思うから。
そうすべき存在なんだと自分でも思うから…
。
彼らがどんな経緯で”あの出来事”を知ったのかは知らないけど、きっと彼らを裏切るには十分な出来事だった。
許してもらおうなんて思わない。許されるとも思っていない。それくらいのことを僕はしてしまったんだ…。
「そろそろ5時間目終わるけど、紘ちゃんどうすんの?もう1時間サボっちゃう?」
「…戻る」
「あぁそう、んじゃ道中お気をつけてー」
僕は高坂にカメラを預けて部屋を後にした。
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