擬人化スキルで百合ハーレム

葛野桂馬

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第一章:暗中逍遥編

9話 少女達と新たな旅立ち

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「さ、そろそろ出発しましょうか」

「うん! ありあ、たてる?」

「お姉ちゃん待って……腰が抜けちゃって……」


 二人でアリアを散々可愛がった結果、アリアは茹で上がって腰を抜かしてしまった。ミントが手を貸して何とか立ち上がれる有り様だ。


「アリア、行けそう?」


 少し時間を置いてはいたが、完全に回復はしなかったらしい。ガクガクと足を震わせている姿に、申し訳なさも感じてしまう。


「ありあ? もうちょっとやすむ?」

「ううん、これ以上出発を送らせたくないんです」

「じゃあ、ゆっくりいこう。つらくなったらやすもうね」

「はい! お姉ちゃん、ありがとうございます」

「うん! なにかあったら、おねえちゃんにいうんだよ!」


 ミントがお姉ちゃん風を吹かせながらも、アリアを気遣っている。

 アリアも素直にその言葉に頷いているし、いいコンビかもしれない。


 ミントの案内に従ってゆっくりと洞窟を進む。一本道なので迷うことはなかったけれど、先導するミントが楽しそうなので、これはこれで良しとしておこう。


 アリアに手を貸しながらも、楽し気に私達を誘導するミントとその後に続く私達。

 周囲は暗闇のまま姿を変えず、私達の足音だけがコツコツと反響する。


 どれくらい歩いたのだろうか。体感時間ではそろそろ一時間に達したようにも感じる。時々小休止もいれていたので、歩いた時間はそこまでないと思うけれど。


 同じ調子で歩みを続け、アリアの足腰が問題なくなった頃、それは訪れた。


 蒼の世界。


 天井からは青い水晶の柱が無数に伸び、周囲に眩い輝きを放っている。

 水晶に覆われた壁は蒼穹の如く、吸い込まれそうな深い蒼を帯びている。

 床は銀白色だが、天井を覆う水晶の光と壁の蒼を吸い、うっすらと青く色づいていた。


「綺麗ね……」


 思わずぽつりと零してしまう。溜息が出るような景色というのはこういうものを指すのだろう。


 アリアも私と同じように驚き、言葉を失っている。

 ミントは自慢げな表情で私達を見ていた。


「ミント、すごいわ。よく見つけたわね」

「えへへ。あんずに、ほめられちゃった」


 頬を緩めて飛び跳ねるミントの頭をゆっくり撫でる。

 くっついてくるミントを片手で抱きしめながらも、蒼い世界から目が離せない。


 気がつくと、アリアも私に寄り添って、小さな手で私の服をぎゅっと掴んでいた。


「アリア、大丈夫?」

「あ、はい。こんな場所があったんだって感動しちゃって……。ずっとこの洞窟で暮らしていたけど、気付きませんでした……」

「まあ、アリアの活動域は正反対だったからね」

「そうなんですけど……なんだか勿体ないことをしていた気がします」

「ふふ、その気持ちも分かるわよ。でも、私はこの光景をアリアと一緒に見れて良かったと思うわ」

「そうですね……。綺麗だと感じるだけじゃなく、なんだか胸が温かくなってくるんです。杏とお姉ちゃん、二人と一緒に見ているからなんですね……」


 私がアリアと話していると、ミントがぐりぐりと頭を押し付けてきた。


「ミント? どうしたの?」

「むぅ……。みんともあんずといっしょに、はじめてをみたかった……」

「あー。ミントは先行して見ちゃったもんね」

「うー。ありあ、ずるいー」

「ふええぇぇ!?」


 ミントの顔には笑顔があり、怒っている訳でも拗ねている訳でもなさそうだ。しかし、アリアはミントの言葉をまともに受け取ってしまったようで、少し間の抜けた悲鳴を上げた。


「お、お姉ちゃん!? ど、どうしよう……。どうしたら……あ、あんずぅ……」

「アリア落ち着いて。ミントも、アリアをからかっちゃダメよ」

「え……。わたし、からかわれたんですか?」

「ごめんね、ありあ。そんなにあわてるなんて、おもってなかったの」

「お姉ちゃん……。びっくりしたよう」

「ふふ。次は三人一緒に見ましょうね」

「うん!」

「はい!」


 元気な返事を聞いて、私は二人と手を繋ぎ歩き出した。

 ミントは疑問を抱かずついてくるが、アリアは少し後ろを振り返ったりとキョロキョロしている。


「アリア? 何かあった?」

「えっと、このまま進むんですか? こんなに明るいのに、さっきまで歩いていた道にほとんど光が漏れていないのが気になって……」

「ああ、そのことね。アリアは森の端まで行ったことはなかったっけ?」

「はい……。基本は洞窟の入り口周辺で狩りをしてました」

「そういうことね」


 私はアリアの疑問に答えるべく、闇の森に入った時の話を聞かせた。

 私が推測していた「概念によってフィールドが完全に分けられている」という話はピンと来なかったみたいだけれど、それでも「劇的に風景が変わる場所がある」ということは理解できたらしく、このまま進むことを納得してくれた。


「じゃあ、アリアも納得できたことだし、進みましょうか――ミント? どうしたの?」

「んー? なんでもない!」

「そう? ならいいのだけど……」


 アリアと話をしている間がよほど暇だったのだろうか。ミントは洞窟の奥をじっと見つめたまま微動だにしていなかった。


「あんずー」

「何かしら?」

「あたらしいかぞく、ふえるかな?」

「どうかしら……。ミントは増えてほしいの?」

「うん! そして、あんずとありあがけんかしたのを、みんとがなかなおりさせるの!」

「そ、それは……」

「お姉ちゃん……」


 あの修羅場について、ミントはミントで思うところがあるらしい。お姉ちゃんになったから、と張り切っている部分もあるのだろう。

 困った顔のアリアと目が合う。私が肩をすくめると、アリアも少し引き攣った笑顔を返した。


「ほら、ミントいくわよ。もう、私は喧嘩しないから」

「えー、みんともなかなおりさせたい!」

「ミントのお願いでもダーメ。すごく悲しかったでしょ。あんなのはもう嫌なの」

「うん……。わかった! じゃあ、けんかはなしね!」


 他愛ない話を続けながら私達は洞窟の奥へと足を踏み入れた。


 私は気付かなかった。

 私とアリアが困ったように顔を見合わせていた時、ミントもまた目配せをしていたのだと。


 ミントが急に家族の話を始めた理由。

 それが分かったのは、ほんの少しだけ先の話だった。
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