擬人化スキルで百合ハーレム

葛野桂馬

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第一章:暗中逍遥編

8話 少女達とお洋服

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 アリアとミントの食事を終えた後、私達は旅立ちの準備を行っていた。と言っても特に用意するものはなく、簡単な後片付けくらいのものだったが。


「アリア。この布はどうするの?」

「あ、それなら置いていって問題ないですよ」

「勿体なくない? かなり上質だと思うんだけど……」

「いえ、わたしの糸で作ってますし、そこまで時間もかからないので」

「アリアの糸って……あ、そういうこと」


 そういえば、アリアに粗相をさせてしまったとき、替えの服はたくさんあった。あれは人型になったアリアがせっせと自分の糸で作っていたものだったのだろう。


 ――どうしよう、すごく可愛い……。


 洞窟の隅で黙々と服を織り続ける、デフォルメされたミニアリアを想像して思わず和んでしまった。


「杏? どうかしましたか?」

「何でもないわ。アリアが可愛いなって」

「そんな……可愛いだなんて……」


 赤く染まった頬に手を当て、恥ずかしがるアリアが尚愛しい。顔が茹であがるという言葉の意味が、これ以上ないくらいよく分かる赤面具合だ。


「あ、杏! お洋服どうですか。汚れがとれているとはいえずっと着ているものですし」

「そうね。一着頂ける?」

「はい!」


 ごまかすように服の準備をし始めるアリアに苦笑し、先行するミントに想いを馳せる。

 ミントが進んでいるのは洞窟の奥。うっすらと青く輝く岩壁の先だ。


 ほのかに光る壁を眺めながら、私はミントが出発する前のことを思い出すのだった。



 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



「ありあー。このおくって、どうなってるの?」

「えっと……ごめんお姉ちゃん。よく知らないです」

「ふーん」


 アリアの回答に空返事を返しながら、ミントは洞窟の奥を眺めている。その視線は気の入っていない返事とは対照的に、真剣な色を帯びている。


 私は、何か失敗したのかとオロオロしているアリアの手を握って安心させた後、ミントに向かって口を開いた。


「ミント、何か気になることでもあるのかしら。さっきから集中できていないみたいだけれど」

「あんず……このさき、きっとそとにつながってるよ」

「本当に? 分かるの?」

「うん、こっちから、くうきのながれがきてるの。もりのくうきとは、ちがうみたい」


 ミントの言葉が正しければ、すごい事だろう。光が差すことのない暗闇を手探りで迷う必要がなくなる。攫われる可能性も少なくなるはず。


「あんず、ちょっとみてきていい?」

「一人で行くの? 危険じゃないかしら」

「へいきだよ! ちょっと、いってくるね!」


 ミントは言い残すと一目散に洞窟の奥へ駆け出して行った。


「元気なのはいいのだけれど……少し無鉄砲になってない?」

「きっと杏に格好いいところ見せたいんだと思いますよ」


 一人呟いた言葉に、アリアが答えてくれた。

 ミントもそういうことを考えるようになったのかと、少し感慨深いものを感じる。


「今までこんなことはなかったのだけれど、成長しているのね」

「再会した時は褒めてもらえる余裕がなかったですし……。それにわたしがお姉ちゃんって呼んだから、張り切っているのかもしれません」

「分かりやすいわね……。まあ、そこも可愛いのだけれど」

「はい、お姉ちゃん、可愛いです」


 私達はミントが消えて行った先を眺めながら、肩を寄せ合って彼女の可愛らしさを語り合ったのだった。



 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



「勢いよく飛び出していったけど……ミント、大丈夫かしら」


 ミントが離れてから、どれくらい時間が経っただろうか。

 数時間のような気もするし、1時間も過ぎていない気もする。


「お姉ちゃんは強いから大丈夫ですよ」

「分かってるのだけどね。どうも心配で……。もう少し姿が大きくなってくれたら安心できるのかもしれないけど」


 十歳くらいにしか見えない少女が、一人で洞窟の奥へ探索に行くなど、よくよく考えたら狂気の沙汰としか思えない。段々と不安が募り、心の落ち着きがなくなっていくのが分かる。


「杏、服持ってきました。お姉ちゃんが帰ってくる前に着替えましょう」


 アリアが持ってきたものは、白のキャミソールワンピースだった。

 胸の所には花をかたどった飾りがあしらわれており、裾にも花をイメージした模様が編み込まれている。


「凄いじゃない。これ、アリアが一人で作ったの?」

「はい。裾の模様は使う糸の太さを調節して、濃淡を出しています。花は余った布を加工して作りました」

「作るの大変だったでしょう? かなり時間がかかったんじゃ……」

「1時間くらいだと思います。血を吸いすぎて杏が倒れた後、自分の気持ちを落ち着かせるためにいっぱい作っていたので……」

「ああ、あの服の山はそういうことだったのね……」


 先程萌えていた脳内アリアではないが、あれほどの数の服を作っていた意味がやっと分かった。

 私を死なせたかもしれないという動揺を服を作ることで抑えていたのだろう。せっせと服を作っていたデフォルメアリアが、目を回して動揺しながら服を作っているイメージに変換され、ますます萌え度が上がった気がする。


「ありがとう、これ着させて貰うわね」

「はい、至らないところがあったらごめんなさい」

「そんなところあるわけないじゃない」


 私は天界にいた時から着ていたワンピースを脱ぎ捨て、アリアが作ってくれた服を身に着ける。

 ずっと着ていて、汚れや傷みがあったという点を考慮しなかったとしても、新しい服からは華やかさと品の良さを感じた。体にもぴったり合っていて、とても動きやすい。


「ど……どうですか?」

「これ……想像以上ね。すごく動きやすいし、着ているだけで気持ちまで晴れやかになれるわ」

「――あ、ありがとうございます!」


 自信がなかったのか、それとも私がここまで気に入ると思っていなかったのか。

 私の回答に一拍遅れて返事をしたアリアの目にはうっすらと涙が見えた。


 そんな彼女の頭に手を置き、髪にそってゆっくりと撫でる。


「ふあ…………」


 アリアが気持ち良さそうに吐息を漏らす。


「お姉ちゃんがいない間にこんな……」

「頭を撫でてるだけよ。それにこれは服のお礼」

「でも、でも……あぅぅ……」


 先刻、ミントと大喧嘩になったことを心配しているのだろう。優しい彼女を慈しみながら、細く柔らかな髪を指で梳いていく。


 快楽と罪悪感の間で板挟みになっているのか、アリアはぎゅっと目を瞑り私の服を握りしめて震えている。


「大丈夫よ、ミントのことなら問題ないわ」

「本当? お姉ちゃん、怒らない?」

「どうしてみんとがおこるの?」

「お姉ちゃんがいない間に杏と仲良くしてたら、お姉ちゃんに悪いって――――え?」


 恐々と目を開けるアリア。その眼前には満面の笑みを浮かべるミントがいた。


「お、おおおおお姉ちゃん!?」

「ただいま! ありあ、かんがえすぎだよ」

「ごごごごごめんなさい! 今立ちます――――って杏!? 離してくださいぃぃ!」

「おかえりなさい。ミント、向こうはどうだった?」

「すごかったよ!」


 ミントは興奮したように言うと、アリアの横に腰を下ろした。アリアは、私達に密着され、目を回し始めた。


「お、お姉ちゃん!? なんでわたしの隣に……」

「だってずるいもん!」

「ごめんなさい!」

「みんともあんずみたいに、ありあのかみのけなでたい!」

「そっちですか!?」


 目を白黒させるアリアを二人で愛でる。ミントは目を輝かせながら、アリアの髪を触っていく。


「すごい! やわらかい! ふわふわだぁ」

「お、お姉ちゃん! 恥ずかしいよぅ……」

「ふふ。アリアは真っすぐに褒められると可愛いわよね。顔がすぐ真っ赤になって」

「あんずぅ……やめてくださいぃ……」

「ありあ、かわいい、かわいい」

「おねえちゃんまで……うぅぅ」

「ありあ、こうされるの、いや?」

「嫌じゃないです……嬉しいです……けど、けどぉ……」


 真面目なアリアは先程抱いた罪悪感をまだ払拭できていないのだろう。

 私達は「可愛い、可愛い」と吹き込みながら、身悶える彼女の髪を撫でていく。


 結局私達がアリアを解放したのは、アリアが完全に茹で上がった後だった。
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