擬人化スキルで百合ハーレム

葛野桂馬

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序章:異世界転生編

2話 少女は異世界で魔物と出会う

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 意識が覚醒すると、森の中だった。
 若葉の隙間から射し込む木漏れ日が、周囲を淡く照らしている。

「いきなり森の中に放置って難易度ハードすぎないかしら?」

 愚痴は木の葉のざわめきに掻き消された。
 タイミング的に嘲笑われているようにも、優しげな音に慰められてるようにも感じる。

「ま、悪く考えて悲観しても仕方ないわね」

 幸い周囲に生物の気配は感じない。転生してすぐに襲われてゲームオーバーなんて洒落にならないからそこは安心した。

「となると……優先すべきは水、かしらね」

 うろ覚えのサバイバル知識から、今すべき事を絞り出す。

「まっすぐ千歩進んだら戻る。これを繰り返して放射状に探索していけばいいのかしら」

 本来は大人数でやるべき方法だったはずだけど、一人しかいない今それを言っても始まらない。この場所に未練は無いけれど、知っている場所との距離や位置関係は把握しておきたい。

 周囲を見渡すと、綺麗なYの字になっている木が見つかったので、そこを中心にしてまずは一番木々が開けている場所を目指して歩き出した。




「千歩……は過ぎたけど、最初に湖を引けたのは幸運だったわ」

 Yの木から約二千歩。私は湖を見つけ出した。
 千歩進んで振り向いたときに最初に目標にした木がはっきりと見えたときは目を疑った。小説や漫画で読むより歩きにくいとは思っていたけど、まさかこれ程進めないとは思っていなかった。

 入れ物がないから煮沸できないが、背に腹は変えられない。歩きなれていない場所を歩いたらせいか、体力もかなりもっていかれた気がする。

 私はヨロヨロと水辺にしゃがみこんだ。透き通った水は鏡のように私を映している。

「あはは……そういうことね。確かにごっそり吸われていたわね……」

 湖に映ったのは10才頃に見える少女の姿。
 思い当たるのは世界樹に養分を吸いとられたあの瞬間。

「自分の体が縮んでいるだなんて、想定してなかったわ……」

 道理で体力は早く尽きるし、歩いても思った程進まないわけだ。しかし、今のサバイバルな状況でこれはまずい。体力も無くなってるし、恐らく瞬発力や判断力も――。

 そう考えた瞬間、湖に映った私の背後で何かが動いた。

 ――ヤバいっ!

 体を捻って迎撃体制を取ろうとするが、思ったように動くことができず、その何かに私は覆い被さられてしまう。

 私を押し倒したそれは、水色の粘液状の生命体だった。スライムという言葉が頭をよぎる。

 スライムには色々な種類がいるが、粘液状の生物の場合は大抵獲物をまるごと消化してしまうタイプだったはず。しかも物理無効持ちが大半の為、のし掛かられてしまったら持ち上げることすらできずに溶かされてしまう。
 体を襲うであろう激痛を予想してぎゅっと目を瞑る。

 もうすぐ体が溶かされ……。

 溶かされ……。

 ………………。

「溶けない……?」

 思っていたダメージが来ず、恐る恐る目を開けると、体をゼリー状に固めて震えているスライムがいた。

「もしかして溶かさないタイプかしら?」

 髪の毛を一本引き抜いて差し出すと、スライムは私から髪の毛を受け取って――。

「見事に消化してるわね」

 やっぱり消化するタイプのようだ。
 でも、もしかしたら髪の毛だけを消化するのかもしれない。

 極限状態から来るおかしな思考に誘導され、恐々指をつき出してみた。スライムは体の一部を私の指に絡ませると収縮運動を開始した。

「なんだろう……マッサージされてるような気分。きっと、消化しようとしてるんだろうけど……」

 とりあえず、溶かされる心配も無くなったので、このスライムを引き剥がせないかと試行錯誤してみる。あちこち撫で回していると、突然スライムがブルリと震えた。

 ――ここが弱点かしら。

 そう思って撫でまわしていると、スライムが少しずつ体からはがれ始めた。
 体を起こして撫でていた右手近くを見る。そこには水色の粘液に包まれた紺色の球体があった。

「たぶんこれがスライムの核なんでしょうね……」
 そう呟いて少し力を入れると、スライムは細かく痙攣してゼリーの塊みたいになった。

 動かなくなったスライムを指で突いてみる。心地よい弾力が跳ね返ってきた。これ癖になりそう。

 抱えるようにしてスライムを持ち上げる。スライムとはいえ10才の子供を押しつぶそうとした大物。急に暴れだした時のために、核の傍に右手を添えることも忘れない。

 湖畔に生えていた大きい木の下にスライムを置き、抱き枕のように抱きしめる。

 ――あぁ、これいいわ……。

 ウォーターベッドのような心地よい弾力に包まれる。時折スライムが震えるが、その度に優しく撫でていく。やがてスライムは諦めたのか、核を私の腕の中に残したまま、体の他の部分で私を包み始めた。
 一瞬消化をし始めたのかと思ったが、圧し掛かられたときに行われた収縮運動は感じられず、ただ包んでくるだけだ。不快感も感じず、ただ体が柔らかな快感に包まれていく。

 ――気持ちいいから、もうこれはこれでいいわ……。

 私は思考を放棄して、スライムのゼリー部分に顔を埋めた。そして、一日の疲れからか、そのまま意識を手放したのだった。




 意識が覚醒したが、体を包む心地よさに目を開ける気になれなかった。
 瞼を通して感じる光は、昨日寝る前のものと全く同じである。それほど時間が経っていないのか、丸一日寝てしまったのか。時計もない現状では定かではない。

 二度寝しよう。
 そう決めてスライムに顔を押し付けた時だった。

「ン…………」

 声が聞こえた。しかも、私の両腕の間から。
 目を開けずにゆっくりと撫でてみると、しっとりとした感触はそのままに、しかし指の間を流れるそれはまさに髪の感触だった。

 ゆっくりと目を開ける。

 私の眼前に美少女が眠っていた。それも全裸で。

 彼女の肌は水色で、その身体を通して向こうの景色が見えている。内臓をはじめとした消化器官は見ることができないが、見覚えのある紺色の球がなだらかな双丘の下に見えた。

 やがて、水色の少女もゆっくり目を開いた。まだ寝ぼけているのか、トロンとした表情で私を見ている。

「イタダキ……マス」

 焦点の合わない目で彼女は呟くと、止める間もなく私の口は彼女の口で塞がれたのだった。
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