5 / 9
第一章 ~The Budding of Love~
ヴァールローズ魔法帝国立帝国魔導士団付属学園
しおりを挟む
「それでは、これよりヴァールローズ魔法帝国立帝国魔導士団付属学園の入学試験合格者名簿を公表いたします」
学園に張り出された合格者名簿を見て、アンリは一人で小さくガッツポーズをとった。
庶民家庭の少女であるアンリがこの学園を目指したのは、自立のためである。
一年前、両親が他界し、頼れるのが自分だけとなったアンリは、学園への入学を決意したのだった。
「頑張らなくちゃ……」
アンリは両手で頬をパンパンと叩き、気合を入れた。
翌日、入学式が行われた。
学園長から自由に校内を見て回ることを許された生徒たちは、各々に行動し始める。
「みなさん、くれぐれも騒がないようにですよ」
学園長は優しそうなお爺さんだ。
アンリも廊下を歩き、校内を見て回る。
「ちょっと待ちなさい!!」
後ろから自分を呼び止める声が聞こえ、振り返ると、そこには三人の女子生徒がいた。
三人はアンリよりも背が高く、身なりは良家のお嬢様といった感じだ。
どうやらアンリと同じ新入生らしい。
「あなたのような庶民が、この学園に何をしに来たのかしら」
三人の内の一人が、鋭い言葉を投げかけた。
それに続くように後ろの二人も嘲笑を始める。
「ちんちくりんで」
「か弱い小動物のようですわ」
体つきを馬鹿にされたのはまだいいが、学園を目指して頑張ってきた自分の努力を笑われたように感じたアンリは、つい頭に血を上らせ、反論する。
「貴女たちみたいな、お金にものを言わせて入学してきたテカテカ金髪に言われたくないです」
「テカテカ金髪!?」
金髪のお嬢様二人は、その言葉に驚きと憤りを見せたが、三人の中でただ一人金髪ではない黒髪のお嬢様は、膝を叩いて、お嬢様らしくない大笑いをしていた。
「アンタなに笑ってんのよ!!」
「だって……ふふ……テカテカ金髪……たしかにテカテカ金髪ですわ……」
金髪二人が黒髪にとびかかり、取っ組み合いが始まる。
「何なの……」
アンリは呆れて、大きなため息をついた。
「ああ、君たち、喧嘩はよくないよ……」
通りがかりの男子生徒がお嬢様たちをなだめる。
制服をビシッと着こなしたその男子生徒は、アンリたちの上級生のようだ。
優しさを感じる整った顔立ちで、アンリは思わず見惚れてしまう。
ひとまず、お嬢様たちのことは上級生に任せて、アンリは教室に戻ることにした。
教室では、校内を見終えて戻ってきた生徒たちがお喋りをしていた。
もう友人ができた生徒もいるようで、アンリは感心する。
聞こえてくる会話の中に、なにやら不穏な噂があった。
「隣国の、ガルトバッハ魔法王国ってあるだろ……そこで、侯爵が殺されたって騒ぎになってるらしいぜ……」
「それだけじゃないわ、村が焼かれたりもしているみたい……」
そんな物騒な噂が、教室内で徐々に広がっていった。
教室の戸が開き、爽やかな空気を纏った背の高い女子生徒が入ってくる。
さっきの黒髪のお嬢様だ。
その時、不意にアンリとそのお嬢様の視線が合った。
アンリはすぐに視線を逸らすが、お嬢様はアンリの許へ笑顔で駆けてきた。
「先程の無礼な行い、お詫び申し上げますわ。 貴女、とっても素敵な方ですわね」
面倒な相手に気に入られてしまったと、アンリは落胆する。
お嬢様はアンリを長い腕でぎゅっと抱きしめ、アンリの肩に顔をうずめた。
肩に、鼻がピクピクと動く、くすぐったいような不思議な感触が伝わってくる。
「んあっ……」
「ああ……私好みの匂いですわ」
アンリの体格ではお嬢様を振りほどくことができず、終始されるがままであった。
やがて満足してアンリを抱きしめるのをやめると、お嬢様は、自分の胸に手を当て、名を名乗った。
「私はフェティー・セントと申します。 貴女の御名前、聞かせていただけますか?」
フェティーはそう言って、アンリに、握手の手を差し伸べる。
「アンリ……、アンリ・セラです……」
アンリは少し視線を逸らしながら、フェティーの手を握った。
学園に張り出された合格者名簿を見て、アンリは一人で小さくガッツポーズをとった。
庶民家庭の少女であるアンリがこの学園を目指したのは、自立のためである。
一年前、両親が他界し、頼れるのが自分だけとなったアンリは、学園への入学を決意したのだった。
「頑張らなくちゃ……」
アンリは両手で頬をパンパンと叩き、気合を入れた。
翌日、入学式が行われた。
学園長から自由に校内を見て回ることを許された生徒たちは、各々に行動し始める。
「みなさん、くれぐれも騒がないようにですよ」
学園長は優しそうなお爺さんだ。
アンリも廊下を歩き、校内を見て回る。
「ちょっと待ちなさい!!」
後ろから自分を呼び止める声が聞こえ、振り返ると、そこには三人の女子生徒がいた。
三人はアンリよりも背が高く、身なりは良家のお嬢様といった感じだ。
どうやらアンリと同じ新入生らしい。
「あなたのような庶民が、この学園に何をしに来たのかしら」
三人の内の一人が、鋭い言葉を投げかけた。
それに続くように後ろの二人も嘲笑を始める。
「ちんちくりんで」
「か弱い小動物のようですわ」
体つきを馬鹿にされたのはまだいいが、学園を目指して頑張ってきた自分の努力を笑われたように感じたアンリは、つい頭に血を上らせ、反論する。
「貴女たちみたいな、お金にものを言わせて入学してきたテカテカ金髪に言われたくないです」
「テカテカ金髪!?」
金髪のお嬢様二人は、その言葉に驚きと憤りを見せたが、三人の中でただ一人金髪ではない黒髪のお嬢様は、膝を叩いて、お嬢様らしくない大笑いをしていた。
「アンタなに笑ってんのよ!!」
「だって……ふふ……テカテカ金髪……たしかにテカテカ金髪ですわ……」
金髪二人が黒髪にとびかかり、取っ組み合いが始まる。
「何なの……」
アンリは呆れて、大きなため息をついた。
「ああ、君たち、喧嘩はよくないよ……」
通りがかりの男子生徒がお嬢様たちをなだめる。
制服をビシッと着こなしたその男子生徒は、アンリたちの上級生のようだ。
優しさを感じる整った顔立ちで、アンリは思わず見惚れてしまう。
ひとまず、お嬢様たちのことは上級生に任せて、アンリは教室に戻ることにした。
教室では、校内を見終えて戻ってきた生徒たちがお喋りをしていた。
もう友人ができた生徒もいるようで、アンリは感心する。
聞こえてくる会話の中に、なにやら不穏な噂があった。
「隣国の、ガルトバッハ魔法王国ってあるだろ……そこで、侯爵が殺されたって騒ぎになってるらしいぜ……」
「それだけじゃないわ、村が焼かれたりもしているみたい……」
そんな物騒な噂が、教室内で徐々に広がっていった。
教室の戸が開き、爽やかな空気を纏った背の高い女子生徒が入ってくる。
さっきの黒髪のお嬢様だ。
その時、不意にアンリとそのお嬢様の視線が合った。
アンリはすぐに視線を逸らすが、お嬢様はアンリの許へ笑顔で駆けてきた。
「先程の無礼な行い、お詫び申し上げますわ。 貴女、とっても素敵な方ですわね」
面倒な相手に気に入られてしまったと、アンリは落胆する。
お嬢様はアンリを長い腕でぎゅっと抱きしめ、アンリの肩に顔をうずめた。
肩に、鼻がピクピクと動く、くすぐったいような不思議な感触が伝わってくる。
「んあっ……」
「ああ……私好みの匂いですわ」
アンリの体格ではお嬢様を振りほどくことができず、終始されるがままであった。
やがて満足してアンリを抱きしめるのをやめると、お嬢様は、自分の胸に手を当て、名を名乗った。
「私はフェティー・セントと申します。 貴女の御名前、聞かせていただけますか?」
フェティーはそう言って、アンリに、握手の手を差し伸べる。
「アンリ……、アンリ・セラです……」
アンリは少し視線を逸らしながら、フェティーの手を握った。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。
【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました
あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢
しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
追放された令嬢は英雄となって帰還する
影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。
だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。
ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。
そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する……
※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる