婚約破棄に感謝します。

卯月02

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第一章 ~The Budding of Love~

ヴァールローズ魔法帝国立帝国魔導士団付属学園

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「それでは、これよりヴァールローズ魔法帝国立帝国魔導士団付属学園の入学試験合格者名簿を公表いたします」

 学園に張り出された合格者名簿を見て、アンリは一人で小さくガッツポーズをとった。

 庶民家庭の少女であるアンリがこの学園を目指したのは、自立のためである。

 一年前、両親が他界し、頼れるのが自分だけとなったアンリは、学園への入学を決意したのだった。

「頑張らなくちゃ……」

 アンリは両手で頬をパンパンと叩き、気合を入れた。


 翌日、入学式が行われた。

 学園長から自由に校内を見て回ることを許された生徒たちは、各々に行動し始める。

「みなさん、くれぐれも騒がないようにですよ」

 学園長は優しそうなお爺さんだ。

 アンリも廊下を歩き、校内を見て回る。

「ちょっと待ちなさい!!」

 後ろから自分を呼び止める声が聞こえ、振り返ると、そこには三人の女子生徒がいた。

 三人はアンリよりも背が高く、身なりは良家のお嬢様といった感じだ。

 どうやらアンリと同じ新入生らしい。

「あなたのような庶民が、この学園に何をしに来たのかしら」

 三人の内の一人が、鋭い言葉を投げかけた。

 それに続くように後ろの二人も嘲笑を始める。

「ちんちくりんで」

「か弱い小動物のようですわ」

 体つきを馬鹿にされたのはまだいいが、学園を目指して頑張ってきた自分の努力を笑われたように感じたアンリは、つい頭に血を上らせ、反論する。

「貴女たちみたいな、お金にものを言わせて入学してきたテカテカ金髪に言われたくないです」

「テカテカ金髪!?」

 金髪のお嬢様二人は、その言葉に驚きと憤りを見せたが、三人の中でただ一人金髪ではない黒髪のお嬢様は、膝を叩いて、お嬢様らしくない大笑いをしていた。

「アンタなに笑ってんのよ!!」

「だって……ふふ……テカテカ金髪……たしかにテカテカ金髪ですわ……」

 金髪二人が黒髪にとびかかり、取っ組み合いが始まる。

「何なの……」

 アンリは呆れて、大きなため息をついた。

「ああ、君たち、喧嘩はよくないよ……」

 通りがかりの男子生徒がお嬢様たちをなだめる。

 制服をビシッと着こなしたその男子生徒は、アンリたちの上級生のようだ。

 優しさを感じる整った顔立ちで、アンリは思わず見惚れてしまう。

 ひとまず、お嬢様たちのことは上級生に任せて、アンリは教室に戻ることにした。


 教室では、校内を見終えて戻ってきた生徒たちがお喋りをしていた。

 もう友人ができた生徒もいるようで、アンリは感心する。

 聞こえてくる会話の中に、なにやら不穏な噂があった。

「隣国の、ガルトバッハ魔法王国ってあるだろ……そこで、侯爵が殺されたって騒ぎになってるらしいぜ……」

「それだけじゃないわ、村が焼かれたりもしているみたい……」

 そんな物騒な噂が、教室内で徐々に広がっていった。

 教室の戸が開き、爽やかな空気を纏った背の高い女子生徒が入ってくる。

 さっきの黒髪のお嬢様だ。

 その時、不意にアンリとそのお嬢様の視線が合った。

 アンリはすぐに視線を逸らすが、お嬢様はアンリの許へ笑顔で駆けてきた。

「先程の無礼な行い、お詫び申し上げますわ。 貴女、とっても素敵な方ですわね」

 面倒な相手に気に入られてしまったと、アンリは落胆する。

 お嬢様はアンリを長い腕でぎゅっと抱きしめ、アンリの肩に顔をうずめた。

 肩に、鼻がピクピクと動く、くすぐったいような不思議な感触が伝わってくる。

「んあっ……」

「ああ……わたくし好みの匂いですわ」

 アンリの体格ではお嬢様を振りほどくことができず、終始されるがままであった。

 やがて満足してアンリを抱きしめるのをやめると、お嬢様は、自分の胸に手を当て、名を名乗った。

「私はフェティー・セントと申します。 貴女の御名前、聞かせていただけますか?」

 フェティーはそう言って、アンリに、握手の手を差し伸べる。

「アンリ……、アンリ・セラです……」

 アンリは少し視線を逸らしながら、フェティーの手を握った。
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