婚約破棄に感謝します。

卯月02

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序章 ~The Beginning of Despair~

忠義

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「ルイ様、今夜はここで休みましょう」

 ヨハンの弟、ルイは、二人の使用人と共に、魔女の追手から三日三晩逃れ続けていた。

 ルイは、草の上で横になるが、兄のことを心配に思い、寝付けない。

「私は見張りに行ってきます」

 ベテランの女性使用人は散弾銃を持ち、茂みの外へ出る。

 息を潜め、辺りを見渡していると、近くで足音がすることに気がついた。

 咄嗟に銃を向けると、そこには、翼を生やした美形の男がいた。

「お嬢のいいつけで、皆様方の命を頂きに来ました」

「ルイ様は私がお守りします」

 刹那の静寂の後、森の中に鋭い銃声が響き渡る。

 男は弾を躱し、翼を振り下ろす。

 翼は空気を切り裂いて斬撃を生んだ。

「大地の神よ!!」

 魔法で障壁を生み出し、斬撃をはじく。

「神は何時でも私たちに加護をもたらしてくれます」

「神が崇高ではないこと、教えて差し上げましょう」

 力がぶつかり合うたび轟音が鳴り響き、木々はなぎ倒された。

「ルイ様、今のうちに」

 年配の女性使用人が、ルイに遁走を促す。

「諦めていただけませんか。 レディのお美しい顔に傷をつけたくないのです」

「お上手ですね」

 地面を踏み込み、男の至近距離に詰め寄る。

「これで終わりです……うっ!?」

 視線を下げると、胸を一本の薔薇が貫いていた。

 前方に倒れたところを男に支えられる。

 男は、レディを優しく地面に寝かせると、瞼をそっと閉じさせた。

 その時、鈍い銃声が再び森の中に響く。

 それは、最後の抵抗だった。


 魔法の門から魔女が現れる。

「お嬢、申し訳ございません」

「サタン、あなた翼が……!! このクソ女がやったのね!?」

 魔女は、地面に横たわっている死体を蹴飛ばした。

「アタシに愛をくれるのはあなただけなの。 あなたが完全な大悪魔の力を取り戻せるように、もっと贄を集めなきゃ」


 森の下り坂を、ルイと使用人は駆け下りていた。

「逃がさないわよぉ?」

 魔女が二人の背に向けて魔法を放つ。

「はぁっ!!」

 使用人は魔法を相殺した。

「ババア!!」

「おほほ、老いぼれと侮らないでいただきたい」

 坂道を抜け、ひらけた場所へ出る。

「年の功にかないますかな」

「上等よ!!」

 空間を激しく揺らしながら、二つの魔法がぶつかり合う。

「天国に行けるといいわね!!」

 魔女の魔法は使用人を塵に変えた。

「今ので二人まとめて消せると思ったのにー。 鬱陶しいババアね」

 魔女はルイに歩み寄る。

「ま、いいわ。 どうせ殺すから」

「兄さんの大切な人を返せ!!」

「威勢がいいわね。 武器も無いのに」

 魔女は、魔力を纏った手を振り上げる。

 ルイは魔女を睨み続けていた。

 その時、強い風のようなものが魔女の元に飛び込んでくる。

 次の瞬間、魔女は、銃を咥えさせられていた。

「ルイ様、ヨハン様が貴方のことをご心配になられていました。 どうか、生きてお帰りください」

 ルイは、その言葉に頷いて走り出した。

 魔女は、自分に銃を咥えさせている人間が誰なのか気がついた。

 それは、ヴィクトリア侯爵家使用人の少女であった。

「私は、後悔を振り払ってここに来た」

 その瞳は、決意に満ちていた。

 魔女は、必死に銃を掴み、口から離そうとする。

 やっと銃が口から抜けるが、引き金が引かれ、魔女の左目を撃ち抜いた。

「うあああああぁぁっ!!!」

 目を押さえ、痛みから逃れようと身体を仰け反らせる。

「ルイ様には、お前なんか指一本触れさせない!!」

「ぐぞがあああああぁぁぁぁぁッ!!!」

 魔女は、頭上にすべての魔力を集中させる。

 そこには辺り一帯を消し飛ばすようなエネルギーが生まれた。

 地面をえぐりながら、魔法が射出される。

 使用人の少女は、その絶望の魔法に力強く向かって行く。

「私はヴィクトリア侯爵家使用人、レイラ!! 記憶に刻め!! これが、私の忠義だあああああぁぁぁぁぁ!!!」
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