47 / 47
第47話 爺の退屈しない余生
しおりを挟む「いやはや、今世で似たような者に魔法を仕込むことになるとはな。数奇じゃよまったく」
「数奇って私のこと?」
「勇者のやつも身体強化魔法で無茶やらかして、瀕死の時に初めて魔装化を体得した口じゃ」
「──っ!?」
「もっとも、あやつは炎魔法じゃったがな。氷結魔法で魔装化したお前さんとは真逆じゃな」
「私が……勇者と同じ」
半端者と言われていた自分が、かつて世界を救った勇者と同じ道を辿っている。そう考えると不思議な気持ちになってくる。
「まぁ、いらぬ痩せ我慢やら見栄っ張りやらも妙にそっくりなのは困りもんじゃがな」
「うっ……」
そのせいで痛い目にあったばかりであるだけに何も言い返せないシリウスである。
改めて気落ちした彼女の頭を、イリヤは頭をポンポンと叩いた。
「あの時代では、無茶も無謀も求められていた。そうしなければ戦い抜くこと──生き残るのは難しかったからな。だが今は違うんじゃろ?」
魔王の軍勢を相手に、命を差し出すような賭けを何度もしてきた。そうしなければ乗り越えることができなかった。魔王と勇者の戦いに関わる者たちの宿命とも言える。
イリヤも、名を知った多くの者と、名も知らぬ数えきれぬ者の死を目の当たりにしてきた。見えぬところではもっと多くの人が戦火に飲まれて消えていった。辛い悲しみを胸の中に閉じ込め、戦い続けた。果てに、イリヤは命を落とした。
わずかばかりの未練はあったが、その人生に後悔はなかった。
時は巡って今の時代。
魔王の存在は無くなっても、魔王が生み出したモンスターは存在しているし、きっとそれ以外の危険も多くあるに違いない。だがかつての人の存亡が掛かるような絶望はないのだ。
「強くなろうとする意志は尊重するが、焦る必要はないんじゃ」
「……子供扱いするのはやめてよ」
「見た目はともかく、中身からすりゃお前さんはまだまだ子供じゃ。危なっかしくて目が離せんよ」
文句は言いつつも、イリヤの手を黙って受け入れているあたり、今回のことはシリウスなりに反省もしているのだろう。もちろんそれはイリヤは同じだ。
教え子の才能を信じすぎた結果、無茶を許す結果になった。優れた可能性の行き着く先を見てみたいという衝動が、一歩間違えれば命を落とす結果を招くところであった。シリウスだけではなくイリヤも戒めなければならない。
「死んじまったら、昔の仲間に見返すこともできんからな」
「…………うん、わかってる」
イリヤの言葉を受けて、シリウスは深く頷いた。
ミノタウロスとの戦いを経て、彼女の中で何かしらの変化があったことをイリヤはなんとなく察していた。だがあえて聞くようなことはしなかった。人に聞かせられない話なんて誰でも秘めている。イリヤだってそうなのだ。シリウスに伝えていないことはまだまだあるのだから。
いつか話せる日が来るかどうかはわからない。ただそれでも。
「リハビリを終えたら魔装化を含めて本格的に鍛えてやるからな。覚悟しておけよ」
「望むところよ。覚えられることは全部覚えてもっともっと強くなってやるんだから」
不敵な笑みを浮かべるシリウスをみて、イリヤは思う。
長き時を経て、己が知っていたものたちは皆、この世を去っている。最も年老いていた己が後の世で新たな生を受けてしまったのは妙な話だ。
時折に込み上げてくるのは、苦楽を共にした仲間たちへの想い。寂しくないといえば大嘘であり、悲しさはある。願わくば彼らに安らかな最後が訪れんことを。
だがイリヤは知っている。人とは出会いがくれば必ず別れがやってくる。そして、別離の後には新しい出会いがあるのだと。
今はこの出会いから紡がれる物語を楽しもうではないか。
偶然に手に入れた老後の余生、まだまだ退屈はしないようである。
10
お気に入りに追加
903
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(25件)
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
転生悪辣女王の爺様版!!楽しく読ませていただいています。
ラウラリスの物語を読みながら
ふとスクロールすると
この物語にたどり着きました。
なにこの面白いの!
続き無いの?とツッコミをいれながら
読ませてもらってます。
この物語コミックになったら
お気に入りに登録してますね。
文章でも面白いから
どんな感じになるか楽しみかも。
作者さんの書きかけの物語
他にもありそうなので
それも読ませてもらいますね。(笑)
まあしかし、未成熟な身体故の制限はその内勝手に無くなる。
成長期ですしね。