爺無双──若返った大魔道士の退屈しない余生──

ナカノムラアヤスケ

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第47話 爺の退屈しない余生

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「いやはや、今世で似たような者に魔法を仕込むことになるとはな。数奇じゃよまったく」
「数奇って私のこと?」
「勇者のやつも身体強化魔法で無茶やらかして、瀕死の時に初めて魔装化を体得した口じゃ」
「──っ!?」
「もっとも、あやつは炎魔法じゃったがな。氷結魔法で魔装化したお前さんとは真逆じゃな」
「私が……勇者と同じ」

 半端者と言われていた自分が、かつて世界を救った勇者と同じ道を辿っている。そう考えると不思議な気持ちになってくる。

 
「まぁ、いらぬ痩せ我慢やら見栄っ張りやらも妙にそっくりなのは困りもんじゃがな」
「うっ……」

 そのせいで痛い目にあったばかりであるだけに何も言い返せないシリウスである。

 改めて気落ちした彼女の頭を、イリヤは頭をポンポンと叩いた。

「あの時代では、無茶も無謀も求められていた。そうしなければ戦い抜くこと──生き残るのは難しかったからな。だが今は違うんじゃろ?」

 魔王の軍勢を相手に、命を差し出すような賭けを何度もしてきた。そうしなければ乗り越えることができなかった。魔王と勇者の戦いに関わる者たちの宿命とも言える。

 イリヤも、名を知った多くの者と、名も知らぬ数えきれぬ者の死を目の当たりにしてきた。見えぬところではもっと多くの人が戦火に飲まれて消えていった。辛い悲しみを胸の中に閉じ込め、戦い続けた。果てに、イリヤは命を落とした。

 わずかばかりの未練はあったが、その人生に後悔はなかった。

 時は巡って今の時代。

 魔王の存在は無くなっても、魔王が生み出したモンスターは存在しているし、きっとそれ以外の危険も多くあるに違いない。だがかつての人の存亡が掛かるような絶望はないのだ。

「強くなろうとする意志は尊重するが、焦る必要はないんじゃ」
「……子供扱いするのはやめてよ」
「見た目はともかく、中身からすりゃお前さんはまだまだ子供じゃ。危なっかしくて目が離せんよ」

 文句は言いつつも、イリヤの手を黙って受け入れているあたり、今回のことはシリウスなりに反省もしているのだろう。もちろんそれはイリヤは同じだ。

 教え子の才能を信じすぎた結果、無茶を許す結果になった。優れた可能性の行き着く先を見てみたいという衝動が、一歩間違えれば命を落とす結果を招くところであった。シリウスだけではなくイリヤも戒めなければならない。

「死んじまったら、昔の仲間に見返すこともできんからな」
「…………うん、わかってる」

 イリヤの言葉を受けて、シリウスは深く頷いた。

 ミノタウロスとの戦いを経て、彼女の中で何かしらの変化があったことをイリヤはなんとなく察していた。だがあえて聞くようなことはしなかった。人に聞かせられない話なんて誰でも秘めている。イリヤだってそうなのだ。シリウスに伝えていないことはまだまだあるのだから。

 いつか話せる日が来るかどうかはわからない。ただそれでも。

「リハビリを終えたら魔装化を含めて本格的に鍛えてやるからな。覚悟しておけよ」
「望むところよ。覚えられることは全部覚えてもっともっと強くなってやるんだから」

 不敵な笑みを浮かべるシリウスをみて、イリヤは思う。

 長き時を経て、己が知っていたものたちは皆、この世を去っている。最も年老いていた己が後の世で新たな生を受けてしまったのは妙な話だ。

 時折に込み上げてくるのは、苦楽を共にした仲間たちへの想い。寂しくないといえば大嘘であり、悲しさはある。願わくば彼らに安らかな最後が訪れんことを。

 だがイリヤは知っている。人とは出会いがくれば必ず別れがやってくる。そして、別離の後には新しい出会いがあるのだと。

 今はこの出会いから紡がれる物語を楽しもうではないか。

 偶然に手に入れた老後の余生、まだまだ退屈はしないようである。
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感想 25

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みんなの感想(25件)

クローバー
2023.06.06 クローバー

転生悪辣女王の爺様版!!楽しく読ませていただいています。

解除
大倶利伽羅(小笠原樹)

ラウラリスの物語を読みながら
ふとスクロールすると
この物語にたどり着きました。

なにこの面白いの!
続き無いの?とツッコミをいれながら
読ませてもらってます。

この物語コミックになったら
お気に入りに登録してますね。
文章でも面白いから
どんな感じになるか楽しみかも。

作者さんの書きかけの物語
他にもありそうなので
それも読ませてもらいますね。(笑)

解除
荒谷創
2022.11.03 荒谷創

まあしかし、未成熟な身体故の制限はその内勝手に無くなる。
成長期ですしね。

解除

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