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第46話 爺、現役最強だったらしい
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結果から言えば、掃討戦は無事に終わった。
懸念されていたオーガ級の強力なモンスターは出現することなく、平時よりも強い個体も現れたりしたがオーガよりも幾段かの格落ちであり、居合わせた猟兵で十分に対処できる存在であった。
ゆえに、ミノタウロスをたった二人で倒したイリヤとシリウスはいやがうえにでも注目を集めることとなった。もとより、開始早々に独断専行して行方をくらませていたのだ。オーガ戦での活躍を考えても無謀極まりない行動に、多くのものが二人は死んだものと考えていたところに、まさかの大金星だ。
猟兵は個人か数人程度の小規模活動が基本。だが掃討戦はしくじれば街に甚大な被害を及ぼす可能性があるだけに、ある程度を足並みを揃えることがギルドから命じられている。目に余る命令無視を行った猟兵に対しては何らかの処罰が課せられる。
だが、一方で信賞必罰というものがある。
前線拠点を襲撃したオーガを含む多くのモンスターを迎え撃ち、その上でミノタウロスの討伐までしてのけたのだ。幾分かの罰はあろうがそれよりもあまりある戦果である。
よって、シリウスは猟兵の階位を第四位から三位に昇格。ついに下級の壁を超えて上級の猟兵に届くこととなった。
イリヤもついでに六位から五位になった。ぶっちゃけイリヤとしては出世に興味がなかったが、断れば余計に面倒になりそうだったので甘んじて受け入れることとなった。
またミノタウロスがいた空間よりもさらに奥があることが調査で分かったが、通路が半ばで崩壊しており、当面の間は調査不可能であるとされた。この辺りのイリヤたちの証言も疑われるようなことはなかった。
──そうして戦いから半月ほどが経過した。
「まずいご飯も今日でお別れね。あー長かった」
ベッドから身を起こし、未だ寝巻きのシリウスがグッと体を伸ばす。掃討戦から期間して今の今まで、彼女はほぼ寝たきり生活を送っていたのだ。
シリウスの負傷はそれほどまでに酷かったのだ。イリヤの回復魔法と調合した特製の薬。他にも味を度外視した栄養満点の料理がなければ、療養期間は年単位を要していただろう。
もっともあの無茶は、己の限界を越えようとする気概はありつつも、死ななければイリヤがどうにかしてくれるというちょっと情けない考えがあったりしたのはここだけの話。
もちろん教え子のそんな浅はかな思惑はちゃんと見抜いているが、あえて口には出さないイリヤである。シリウスの覚悟をカッコいいままで終わらせてやりたい気遣いであった。
怪我自体は完治している。大事をとって数日はベッドで生活してもらうが、それを過ぎれば動き回っても問題ないだろう。とは言え、寝たきり生活で鈍った体を慣らす必要はあるが、さほど時間はかからないだろう。
「これに懲りたら、無茶は控えるんじゃな。少なくとも、儂がそばにいる時以外は止めるように」
「はいはい、わかったわかったって」
小言を聞きたくないとばかりに頭の頂点に立つ耳を手でパタンと閉じるシリウス。二日に一度の割合で同じセリフを言われ続けていれば、対応も投げやりになるのも仕方がない。
「まるで村にいた老人みたい……そう言えばお爺ちゃんだったわねあんた」
「ジジイの小言とお節介はセットじゃからな。諦めい」
ほっほっほと朗らかに笑うイリヤに、シリウスは顔を顰めた。見てくれだけはまさしく子供だが、諸々の所作は紛れもなく老人というギャップには未だに慣れない。
その上だ。
シリウスはイリヤから一度顔を背けると、恐る恐るといった具合に目を向けた。
「……もしかして敬語とか使った方がいい?」
「いきなりなんでじゃよ」
今度はイリヤが顔を顰める番になった。
「だってほら、イリヤってずっと昔に魔王を倒した勇者の仲間だったんでしょ? つまりは世界を救った当事者な訳だし……ねぇ」
「まさか、ここしばらくの態度が妙によそよそしかったのはそれか」
迷宮で聞かされた御伽噺。話に出てくる魔法使いというのがイリヤであるのを疑うつもりはない。聞かされた限りでは、イリヤが戦っていた魔人というのは、かつてイリヤたちが戦っていた魔人の中でも最弱に部類されるというではないか。
単なる空想の話であった魔王の存在が急激に現実味を帯びてしまったのだ。直接目で見たわけでもないのに、震え上がるような強さを感じた。あれらを総ていた魔王の強大さというのは想像すらできない。
「儂がそういうのを嫌ってるのはこれまでの付き合いで察しているじゃろうに」
「それはそう……なんだけど」
根が真面目なシリウスだ。魔王を倒した勇者一向というだけではなく、圧倒的強者への敬意も感じてしまっているのだろう。気持ちはわからなくもないが。
「かつては大魔道士と呼ばれるほどには最強じゃったけど、今は割とへぼいからな。それに敬語なんぞ使われた日には背中が痒くなって仕方がない」
「そこは自分で最強って言っちゃうんだ……」
「魔法使いの腕に関しちゃ生涯現役じゃったからな。人間の枠組みに限れば、九十歳を超えてからのタイマンではほぼ負けなしじゃよ」
熟練した魔法使いは、体内の魔力流を無意識に調整することで体調を常に最適に維持し健康体だったため、通常の人間よりも寿命を長く保つことができる。それでも百歳を超えて現役を維持し続けたのはあの時代ではイリヤ以外には数えるほどしかいなかっただろう。
「ついでに言えば、勇者に戦い方を仕込んだんも儂じゃぞ。最終的に、なんでもありの総力戦じゃ勝てなくなっちまったがな」
「あんた、本当になんでもありね……」
「伊達に大魔道士を自称してるわけじゃないんでの」
誇張ではないとのだろう。今のイリヤがかつての数割程度の実力しかないというのであれば、全盛期の頃は果たしてどれだけ強かったのか。疑うのも今更だ。
懸念されていたオーガ級の強力なモンスターは出現することなく、平時よりも強い個体も現れたりしたがオーガよりも幾段かの格落ちであり、居合わせた猟兵で十分に対処できる存在であった。
ゆえに、ミノタウロスをたった二人で倒したイリヤとシリウスはいやがうえにでも注目を集めることとなった。もとより、開始早々に独断専行して行方をくらませていたのだ。オーガ戦での活躍を考えても無謀極まりない行動に、多くのものが二人は死んだものと考えていたところに、まさかの大金星だ。
猟兵は個人か数人程度の小規模活動が基本。だが掃討戦はしくじれば街に甚大な被害を及ぼす可能性があるだけに、ある程度を足並みを揃えることがギルドから命じられている。目に余る命令無視を行った猟兵に対しては何らかの処罰が課せられる。
だが、一方で信賞必罰というものがある。
前線拠点を襲撃したオーガを含む多くのモンスターを迎え撃ち、その上でミノタウロスの討伐までしてのけたのだ。幾分かの罰はあろうがそれよりもあまりある戦果である。
よって、シリウスは猟兵の階位を第四位から三位に昇格。ついに下級の壁を超えて上級の猟兵に届くこととなった。
イリヤもついでに六位から五位になった。ぶっちゃけイリヤとしては出世に興味がなかったが、断れば余計に面倒になりそうだったので甘んじて受け入れることとなった。
またミノタウロスがいた空間よりもさらに奥があることが調査で分かったが、通路が半ばで崩壊しており、当面の間は調査不可能であるとされた。この辺りのイリヤたちの証言も疑われるようなことはなかった。
──そうして戦いから半月ほどが経過した。
「まずいご飯も今日でお別れね。あー長かった」
ベッドから身を起こし、未だ寝巻きのシリウスがグッと体を伸ばす。掃討戦から期間して今の今まで、彼女はほぼ寝たきり生活を送っていたのだ。
シリウスの負傷はそれほどまでに酷かったのだ。イリヤの回復魔法と調合した特製の薬。他にも味を度外視した栄養満点の料理がなければ、療養期間は年単位を要していただろう。
もっともあの無茶は、己の限界を越えようとする気概はありつつも、死ななければイリヤがどうにかしてくれるというちょっと情けない考えがあったりしたのはここだけの話。
もちろん教え子のそんな浅はかな思惑はちゃんと見抜いているが、あえて口には出さないイリヤである。シリウスの覚悟をカッコいいままで終わらせてやりたい気遣いであった。
怪我自体は完治している。大事をとって数日はベッドで生活してもらうが、それを過ぎれば動き回っても問題ないだろう。とは言え、寝たきり生活で鈍った体を慣らす必要はあるが、さほど時間はかからないだろう。
「これに懲りたら、無茶は控えるんじゃな。少なくとも、儂がそばにいる時以外は止めるように」
「はいはい、わかったわかったって」
小言を聞きたくないとばかりに頭の頂点に立つ耳を手でパタンと閉じるシリウス。二日に一度の割合で同じセリフを言われ続けていれば、対応も投げやりになるのも仕方がない。
「まるで村にいた老人みたい……そう言えばお爺ちゃんだったわねあんた」
「ジジイの小言とお節介はセットじゃからな。諦めい」
ほっほっほと朗らかに笑うイリヤに、シリウスは顔を顰めた。見てくれだけはまさしく子供だが、諸々の所作は紛れもなく老人というギャップには未だに慣れない。
その上だ。
シリウスはイリヤから一度顔を背けると、恐る恐るといった具合に目を向けた。
「……もしかして敬語とか使った方がいい?」
「いきなりなんでじゃよ」
今度はイリヤが顔を顰める番になった。
「だってほら、イリヤってずっと昔に魔王を倒した勇者の仲間だったんでしょ? つまりは世界を救った当事者な訳だし……ねぇ」
「まさか、ここしばらくの態度が妙によそよそしかったのはそれか」
迷宮で聞かされた御伽噺。話に出てくる魔法使いというのがイリヤであるのを疑うつもりはない。聞かされた限りでは、イリヤが戦っていた魔人というのは、かつてイリヤたちが戦っていた魔人の中でも最弱に部類されるというではないか。
単なる空想の話であった魔王の存在が急激に現実味を帯びてしまったのだ。直接目で見たわけでもないのに、震え上がるような強さを感じた。あれらを総ていた魔王の強大さというのは想像すらできない。
「儂がそういうのを嫌ってるのはこれまでの付き合いで察しているじゃろうに」
「それはそう……なんだけど」
根が真面目なシリウスだ。魔王を倒した勇者一向というだけではなく、圧倒的強者への敬意も感じてしまっているのだろう。気持ちはわからなくもないが。
「かつては大魔道士と呼ばれるほどには最強じゃったけど、今は割とへぼいからな。それに敬語なんぞ使われた日には背中が痒くなって仕方がない」
「そこは自分で最強って言っちゃうんだ……」
「魔法使いの腕に関しちゃ生涯現役じゃったからな。人間の枠組みに限れば、九十歳を超えてからのタイマンではほぼ負けなしじゃよ」
熟練した魔法使いは、体内の魔力流を無意識に調整することで体調を常に最適に維持し健康体だったため、通常の人間よりも寿命を長く保つことができる。それでも百歳を超えて現役を維持し続けたのはあの時代ではイリヤ以外には数えるほどしかいなかっただろう。
「ついでに言えば、勇者に戦い方を仕込んだんも儂じゃぞ。最終的に、なんでもありの総力戦じゃ勝てなくなっちまったがな」
「あんた、本当になんでもありね……」
「伊達に大魔道士を自称してるわけじゃないんでの」
誇張ではないとのだろう。今のイリヤがかつての数割程度の実力しかないというのであれば、全盛期の頃は果たしてどれだけ強かったのか。疑うのも今更だ。
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