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第29話 爺、夜戦を始める
しおりを挟む現場に赴けば、すでに激しい戦闘が繰り広げられていた。いくつも篝火が炊かれており、魔術機による光源も確保されている。どうにか視界が確保された中で激しいぶつかり合いの音が各所から聞こえてくる。
「んげっ」
「人の顔を見るなり随分じゃな」
駆けつけたところでちょうどベイクと出くわすが、あからさまに嫌な顔をされる。ともあれ、別れ際の一言を考えれば彼の嫌そうな態度もわかりはする。
「……別に戦うのなとは言わないが、なるべく俺らとは離れてくれよ」
顔を顰めつつもそれ以上のことは言わず、ベイクは仲間を連れてイリヤたちから離れていった。まるで腫れ物を扱うような態度だ。
「関わってこないならそれでいいわよ」
「じゃな」
下手に干渉して足を引っ張り合うよりは、最初から不干渉と割り切っていた方が無難だ。早々に話を切り上げた二人はイリヤの索敵魔法の元、最も猟兵が手薄な場所に向けて駆け出した。
向かった先では、数人の猟兵が各々の武器を奮って戦っていた。モンスターに統一感はないが、数は多く猟兵も苦戦しているようだった。
「加勢に来たわよ」
「助かる──って子供ぉ!?」
九死に一生を得たような猟兵であったが、声をかけてきたシリウスや傍のイリヤを見て仰天する。もはや慣れたものであるしいちいち構っている暇はない。最低限の声かけは終わったと、シリウスは剣を引き抜き一気に加速した。
「ほれほれ、まじめにやらんと死ぬぞい」
突然に乱入した新手に、モンスターたちが大いに荒ぶる。大剣を振るうシリウスに敵意が集まる最中に、イリヤは魔法陣を展開していく。他の猟兵たちも気にはなりつつあるも疑問は他所に置き、モンスターに対して向き直った。
「でやぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
付与術を施し魔力を帯びた剣が振るわれると、モンスターたちが派手に薙ぎ払われる。シリウスの攻撃によって吹き飛んだモンスターの半数以上が倒され、致命傷には至らずとも大きな隙は生まれる。体勢を立て直す前に、イリヤが的確に魔法でトドメを刺していく。
シリウスの暴れっぷりに最初に戦っていた猟兵たちは驚くも、イリヤが着々とモンスターを仕留めていくのを見るとすぐに立ち回りを理解したようだ。シリウスが気をひきつけている隙に、浮足だったモンスターに攻撃を加えていく。
ある程度の数がはけたところで、シリウスは一旦イリヤの元に下がる。
「モンスターの数は?」
「近辺は仕留め終わったな」
迷宮から溢れ出したモンスターの数は多くはあったが、本格的な活性化ほどの規模ではなかったようだ。索敵範囲内にちらほらと点在しているくらいだ。
「とりあえず義理は果たせたかの────いや、ちょっと待て」
索敵魔法に、ここから離れた位置にから強い反応が浮かんでいる。イリヤが手で待ったをしようとした直後に、夜半に響く咆哮。付近にいた者を含めこの場に居合わせた誰もが嫌でも意識が引き寄せられた。
「まだデケェのがいるから注意しろと、言いたかったんじゃがなぁ……」
「嘆いていてもモンスターは帰らないわよ」
おねむの時間はまだ先か、と気が滅入りながらもイリヤとシリウスは声がした方角へと駆け出していった。
二人が駆けつけると、なかなかの修羅場に遭遇した。
到着までにすでに戦闘に突入していたのだろう。少なくない数の猟兵が倒れていた。立っているものもほとんどが血を流し疲弊している。どうにか気勢は衰えていないようだが、明らかに旗色は悪い。
相対しているのは、まずは矮小な体躯。ゴブリンと呼ばれる人型のモンスターだ。人型ではあるが、武器を持ったそれらは下手な大人よりも遥かに凶悪だ。一体一体では魔術機を持った猟兵なら楽に倒せるが、徒党を組んでいると油断すれば腕に自信を持つ者でも遅れを取りかねない。なお、一概にゴブリンと言っても種類があり、弓を扱う個体や武装した個体。月日を経て成長した個体などがある。
そしてその背後にいるのが、こちらは大人よりもさらに二回りを超えて体格がでかい。
「オーガ。結構な大物が出てきたわね」
大鬼とも呼ばれているモンスターで、肌の色はゴブリンに違いが遥かに優れた体躯を有しており、危険度で言えばそれを大きく上回る。オーガ一帯の出現によって街が一つ壊滅するという話もよく聞くほどだ。
もちろん、猟兵にとっては決して油断して良い相手ではない。現に、猟兵たちの戦線を崩したのはあのオーガに違いはないだろう。加えてゴブリンの数は相当なもの。ヘタをするとここの場のみならず拠点そのものが飲み込まれる恐れもある。
「あれは簡単にはいかんぞ。注意しろ」
「わかってる!」
イリヤの忠告を胸に刻みながら、シリウスはいつものように剣を担ぎ、攻めあぐねている猟兵たちの間を駆け抜けていく。突然の闖入者に驚きの視線が集まるが、シリウスの集中は目先にあるモンスターにのみ注がれていた。
「雑魚散らしは任せろ!」
ゴブリンの群れに突っ込むシリウスの背後で、イリヤが魔法陣を展開。地面から浮かび上がった数多の土塊が錐のように鋭さを帯びるとゴブリンに向けて一斉に放たれる。
土塊の雨にさらされ、血反吐を撒き散らしながら悲鳴をあげるゴブリン。だが、中央を駆け抜けるシリウスには一切当たる気配はない。またシリウスも己にイリヤの魔法が当たらないと信じきっているが故に走る速度に澱みはない。
速度をそのままに、シリウスはオーガとの間合いを詰めると跳躍。大剣を大上段に構えると一気に振り下ろす。
無論、オーガとてシリウスの接近には気がついていた。己に向けて剣を向ける姿に対して、手にした人の身の丈はありそうな巨大な棍棒を叩きつける。
──ガギンッ!!
オーガの持つ棍棒は木製。だが、シリウスの大剣と衝突した音は金属のそれである。至近距離で耳にしたシリウスは顔を顰めつるも驚きはしない。打ち合う以前から、彼女はオーガの棍棒を覆う濃密な魔力を感じていたからだ。
「──────ッ!!」
吠え猛るオーガはそのまま棍棒を振り抜いた。空中で踏ん張りも効かないシリウスはそのまま吹き飛ばされるがそれは最初から織り込み済みだ。宙を舞いながら器用に体勢を立て直し両足から着地する。
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