爺無双──若返った大魔道士の退屈しない余生──

ナカノムラアヤスケ

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第14話 爺、若者のちっぽけな動機を肯定する

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「ここからはもう予想できるでしょう? 強い魔術機を自在に操り始めた他の三人に、私は追いつけなくなったのよ」

 身体能力だけでは超えられない壁が生じ始めたのだ。最初はほんの小さなズレだったはずなのに、時が経つにつれてそれは少しずつだが決定的にシリウスと仲間達を隔てていった。

「私がモンスター一体を相手にしている間に、他のみんなが十体くらいを狩っていた時は流石にへこんだわ」

 そしてある日、とうとうリーダー役だった一人がシリウスに告げたのだ。

 ──君ではもう、うちのパーティーにはついていけない、と。

 事実上の退陣勧告だ。

「自分でも理解しているつもりでも、改めて突きつけられるとやっぱりキツかった。でも、それなりに長い時間を過ごした間柄だったもの。それなりの手切金も貰えたしね」
「儂の知っとる話だと『お前はクビだ!』って装備丸ごと剥ぎ取られた挙句に無一文で迷宮の奥に放り出すような展開とは違うようじゃな」
「流石にそこまでのクズじゃなかったわよ。……中にはいるでしょうね、そういった猟兵も」

 どうやらシリウスにも一人、心当たりがあるようだ。きっとイリヤも同じ人物を想像しているに違いない。まぁ、今の話に出てきたほどのひどい人間でもなかっただろうが。

「今までの話を聞く限りじゃ普通に円満な退職のように思えるんじゃがな。どうして猟兵を続けておるんじゃ?」
「それは……その……」

 気まずそうなシリウスの目が泳ぎ出した。それを見たイリヤはポンと手を打った。

「あれか。悔しいのか。幼馴染たちに憐れまれて」

 ギクリと、少女の肩が震えた。その反応が全てを物語っていた。

「まさか図星とな」
「察しが良すぎるでしょ!」
「これでも百歳越えの経験があるでな」

 羞恥心で顔を真っ赤にし目に涙さえ浮かべそうなシリウスを「どうどう」と宥めるイリヤ。

「そもそも猟兵になろうって言い出したのは私なのよ! なのに他の連中は私よりどんどん先に進んで行っちゃって、これで悔しくないわけがないでしょう!」
「開き直ったなこいつ」
「開き直らなきゃやってられないわよ! ああ悪うございましたね、こんなちっぽけな動機で猟兵にしがみ付いてるこの矮小な器の女を笑えばいいわ!」
「だからお前さん、自分を卑下し出すと止まらないのはどうにかしたほうがええぞ」
「ほっといてよ! 性分なんだから!」

 
 しばらく感情を爆発させたシリウスは、落ち着いた頃になぜか正座していた。

「お見苦しいところをお見せしました」
「どうしてそんなに低姿勢なんじゃ?」
「いや、そうした方がいいかなって」

 とりあえず話は進められそうなので体勢に関しては放置しておこう。

「要約すれば、自分を置いてきぼりにして順調に出世していく仲間を見返したくて、猟兵を続けていたわけと」
「言葉にすると自分のことながら小物臭が半端ないわね。おおむねその通りだけど」

 シリウスは顔を伏せつつも、様子を伺うようにチラチラとイリヤに目を向けている。

「……その、やっぱり失望した? こんなちっぽけな理由で」
「いや全然」
「え?」
「物事のきっかけなんぞ、大概はそういうもんじゃよ。儂は好きじゃよ、そういった人間」

 イリヤの言葉がよほどに意外だったのか、シリウスは口をぽかんと開けた。

 本当に興味本位で聞いただけなのだ。それに、他所からしてみれば本当に取るに足らないちっぽけな事であろうとも、当人にとっては命を懸けるに値する大事なものであることはままあること。

 きっと、シリウスは心の底から悔しかったのだろう。でなければ壁役という低い扱いを受けながらも猟兵にしがみついたりはしない。 

「じゃぁ……」
「お主と組むと決めたわけだが、儂自身が特別に急いでやりたいこともないからな。お前さんにはちょっと聞こえが悪いが、『暇つぶし』にはちょうどいいじゃろうて」
「暇潰しって……本当に聞こえが悪すぎるわね」

 だが、それを耳にしたシリウスの表情は不思議と悪くはなかった。己のちっぽけな理由を否定されなかっただからだろう。そこに込められたものは本当に悪いわけではないと感じたのだ。

「よし分かった、教えてやろうじゃないか」
「いいの!?」
「そもそも、どこかのタイミングでこちらから切り出そうとは思っていたからな。遅いか早いかの違いじゃよ。ただし、はっきりいって相当に荒業になるぞ。一度や二度くらいは死ぬような目に遭うかも知れん」
「そんなの、猟兵をやっていれば日常茶飯事よ。もとより、覚悟はできてるわ」

 シリウスの目には強い光が宿っていた。何がなんでも喰らい付くと決意が見て取れる。

 イリヤはふと懐かしくなった。シリウスが今浮かべている目の光は、イリヤがかつて見たことのあるものと非常によく似ていたからだ。
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