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第13話 シリウス、過去を語る
しおりを挟む改めて話をするために、イリヤたちは街の郊外に赴いていた。また誰かしらに乱入されて話残しを折られたら面倒だ。ぎりぎり街の範囲内でありつつも開発もされておらず、木々が生い茂っている場所だ。
「さて、ここなら落ち着いて話ができるじゃろうて。お前さんと組むのは確定として、具体的にコレからどうするかを──」
「それについて何だけど、ちょっと良いかしら?」
話を始めようとしらイリヤに、シリウスが小さく手を上げた。
「まず最初に。ずっと気になっていたことを確認させてほしいの」
「確認とな」
問い返しに頷いてからシリウスが取り出したのは、一本の棒のようなものだった。
「『魔術機』って、知ってる?」
「似たようなもんは。儂の思っているのとは違うようじゃが」
首を横に振るうイリヤに、シリウスが「やっぱり」と合点が言ったように頷いた。
「今どき、田舎村の子供でも知っていることを知らないってことは、本当にこの時代の人間じゃないのね」
「なんじゃい、まだ信じておらんかったんか。……いや、普通は信じられる方がおかしいんじゃろうが」
「別に今更疑っていたわけじゃないわよ。ただちょっとした確認みたいなものよ」
シリウスはそう言ってから棒の先端に火を灯した。
「火の魔術機──着火材。猟兵なら誰もが持っているようなものよ」
火を消してからシリウスはイリヤに『着火材』を投げて渡す。受け取ったイリヤは、実際に火を付けてみながら、それをさまざまな角度から観察する。
「なるほど、よくできておるわい」
「猟兵のほとんどはこの魔術機を使ってモンスターを狩ってる。もちろんコレとは比べ物にならないほどに強い魔術機だけどね」
ある意味では、魔術機を扱ってモンスターを狩っているものこそを猟兵と呼んでいる。もちろん、それ以外の職として魔術機を用いている者も数多くいるというが、世間的な認識としては間違っていないのだろう。
「しかし、じゃ」
着火剤から目を離し、シリウスに目を向けるイリヤ。
「お前さん、迷宮でモンスターと戦ってる時はその魔術機なるものを扱っている気配はなかったな」
「ええそうよ。私は魔術機がほとんど使えないの。そのくらいの低位のモノならどうにか使えるけど、モンスターに通用するほどの強力なものはまったくね」
「それがあの小僧の言っていた『半端者』か」
「魔術機が使えなきゃ、猟兵としては確かに半端だものね。仕方がないわ」
もはや言われ慣れているのか、シリウスは肩を竦めた。だがそれは表面上のことであり内心に思うところはあるのだろう。でなければ彼女の方からこの話はしないはず。
「……でも、イリヤも魔術機の類を使ったようには見えなかった」
「そりゃぁそうじゃよ。儂が使っておるのは『魔法』じゃからな」
イリヤが指をパチンと鳴らすと指先に方陣が展開し、小さな炎が灯った。
「そもそも、魔法って何なの?」
「この世に遍く万象を、魔力で再現するための方程式といったところかな」
魔法というものをより正確に表現するには言葉は足りないだろう。だがそれでも初めて触れる者にとってはまずこの程度の認識で問題ないはずだ。
「……魔術とはとは違うのよね」
「その魔術っつーのは、魔術機で発動できる現象の呼び方って認識でいいのか?」
「ええ。その着火材みたいに発動できる魔術を限定的にしたものや、逆に機能を幅広くしたものとか色々ね。もっとも、後者の場合は扱いが難しいから誰でもってわけには行かないけれど」
「もっとも私は前者でも本当に弱いやつしか使えないけど」と小声で自虐を織り交ぜるのも忘れないシリウス。
それから少し間を取ってから、シリウスは顔を上げる。
「……ねぇ、魔法って私にも覚えられる?」
「それが本題か」
シリウスが真剣な表情で強く頷いた。
「魔術機も使えない半端者の猟兵じゃ、誰も相手にしてくれないわ。せいぜい、ベイクみたいに使い捨ての壁役みたいな扱いで雇われるのが精々よ、でも、もし私もイリヤのような魔法が使えるようになれば話は状況は変わってくる」
正直なところ、イリヤからしてみればシリウスの今の方向性は決して間違ってはいない。敵の攻撃を己に引きつけている間に、仲間が最大火力を放って敵を倒す。イリヤが勇者たちと共に戦っていた時の常套手段だ。それを考えれば、シリウスは発展途上ではありつつも役割としては完成している。
だが、猟兵としては通用しないのだろう。
この時代において、魔術機の有無はそれほどに重要な位置を閉めているのだ。当人の素養に関わらずに。
シリウスが魔法を求める理由は理解できた。だが、イリヤは少しだけ気になることがあった。
「時にお前さん、どうして猟兵にこだわっておるんじゃ?」
「……それは言う必要あるのかしら」
「あまりないな。興味本位じゃよ。しかし、儂はこれからお前さんに教える側の人間になるらしいんじゃがなぁ」
「ちょっと卑怯な言い方ね」
「爺になると、狡っからい手がよく馴染むんじゃよ」
女性が戦いを生業にすることをとやかく言うつもりはない。だが、強力な魔術機を使えないハンデを背負いながら、それでも猟兵を続けようとしているのであればそれなりの理由があると考えるのが当然だ。そもそも、この世界には彼女と同じように簡単な魔術機しか扱えないような人間はごまんといるはずだ。身体能力を生かす方法はきっと、他にもあるはずなのだ。
シリウスは顔を顰めてから諦めたように息を吐いて口を開いた。
「猟兵になった理由はありふれたものよ。何もない田舎町から幼馴染たちと飛び出して、一旗あげようって」
「幼馴染……とな」
「ええ。元々はね、気心知れた四人でパーティーを組んでいたのよ」
幸いに、猟兵──主に戦闘に関わる才能はそれぞれ持ち合わせていたようだ。皆が己の役割を果たし、順調に猟兵としての実績を重ねていくことができた。
「最初の一年はね、とても楽しかったわ。けど、それも徐々に変わってきた」
シリウスが魔術機を使えないことは猟兵となってからすぐにわかった。日常生活に使うような簡単なものなら扱えたため、故郷にいる間には誰も気が付かなかった。だが、猟兵として活動し、魔術機が使えない事実が発覚した後もしばらくの間はパーティーの一人として立ち回れていたのだ。
「自慢じゃないけど、素の身体能力じゃ仲間の誰にも負けなかったわ。だからみんなが低位のの魔術機を使っている間は特に問題なかったの」
だが、実績を重ねて稼ぎを得ていけば、それを元手により強力な魔術機を仕入れてモンスターを狩ろうとするのが当然の流れだ。
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