7 / 47
第7話 爺、道具を作る
しおりを挟む「別に年上だから敬えとか、そう言う堅苦しいことは言わんでの。お主とは互いに助け合った中じゃ。五分五分の付き合いで頼む」
「そう言う事を言ってるんじゃないんだけど!?」
うがぁと叫ぶイリヤに、元気の良い子じゃなとニコニコ顔を浮かべるイリヤ。
それからまた少しし、落ち着きを取り戻したシリウスが言った。
「妙に年寄りくさい喋り方をする子供だと思っていたら、まさか本当にお爺さんだったなんてね。理解はできたけど納得が追いつかないわ」
「すんなりと理解された時点で、こっちとしてはちょいと意外じゃよ。普通はこんなの、信じろと言う方が無理な話じゃろうて」
「ドラゴンを一瞬で氷漬けにするようなトンデモない非常識を見せつけられた後だもの。今更あんたがつまらない嘘を付くとは到底思えないわ」
「そういうもんか」
存外に物分かりがいいようで。話が早くて助かる。
それからシリウスはイリヤの言った転生装置を眺める。
「ねぇ、これってももう使えないのよね」
「そうじゃな。さすがの儂も役割はわかっても仕組みや動かし方はてんでわからんでの」
「そっか。ここから運び出せるような代物じゃないし……」
がくっとシリウスは肩を落とした。それをみたイリヤが「ふむ」と顎に手を当てた。
「つかぬ事を聞くが、猟兵というのはなんなんじゃ?」
「モンスターを狩って得た素材を売買したり、迷宮に潜って資源やお宝を持って帰って生計を立ててる人のことよ。それも知らないの?」
「知らないっちゅーか、儂の中じゃぁ『冒険者』の位置付けなんだがな」
「あー、なんか聞いたことある。ずぅぅっと昔には冒険者って呼ばれてたらしいわね。詳しくは私も知らないけど」
『イリヤ』という名前を聞いたシリウスの反応を見た時点で薄々は察していた事ではあるが、やはりそうなのだろう。あるいは本当にただ知らなかっただけであったかもしれないが。
「なぁシリウス。勇者と魔王の戦いは知っておるか?」
「──? 御伽噺に出てくる戦いのことならまぁそれなりに。何百年も前にどうのこうのってのはよく聞くけど」
「やはり……か」
はぁ、とイリヤは胸中に溜まった息を深く吐く。
「随分とまぁ遠いところに来ちまったようじゃ」
どうやらイリヤは、かつての戦いが御伽噺として語られるほどの遠い未来に新たな生を受けてしまったようだ。その事実が、少なからずの思いを抱くのは仕方のないことだった。
──湿った感情を抱くのは腰を落ち着けてから、とイリヤは気持ちを切り替える。
「ちょっと大丈夫?」
「ああ、問題ない。それで話は戻るがなんで肩を落としてたんじゃ?」
「言ったでしょう、猟兵は迷宮のお宝や資源を求めてるって。こんな大それた装置をどうやって持ち帰るのよ。バラして持ち帰ることもできそうにないし」
「容器の部分以外は頑丈にできとるし、そもそも部屋と完全に一体化しておるからな。もし仮にバラせたとしても、下手すりゃこの部屋が崩れるぞい」
イリヤが改めて事実を突きつけると、今度はシリウスが深いため息をついた。
「せっかく死ぬ思いで最下層にきたって言うのに、お宝の一つも持って帰れないなんて」
「表で氷漬けにしてるドラゴンがあるじゃろ。あれも売れば良い値段になるじゃろうて」
「それはそうだけど。あんなどデカいやつなんて丸ごとは持ち帰れないわよ。解体して一人で運べる量を持ち帰ってもかなりの値がつくでしょうけど、ここに来るまでの苦労を考えると……ねぇ」
「なるほど、量の問題か」
気落ちする一方のシリウスに、イリヤは思案顔になる。ふと目についたのは、部屋の片隅にあるガラス容器。破損しているそれではなく、イリヤが作った液体の満たされた方だ。
「シリウス」
「なによ」
「多分、量の問題は解決しそうじゃぞ」
──それから少しの時間が経過した。
シリウスが見守るの中、イリヤの準備が完了する。
彼の目の前には氷漬けになったドラゴンの一部を解凍して採取した角。それを床に描かれた赤色の魔法陣の中心部に置いてある。陣を描くのに使ったのは、イリヤを満たしてい液体だ。
「何をするつもりなの? 妙な液体に血を混ぜたみたいだけど」
「全盛のワシでも大掛かりな設備がなけりゃぁ無理じゃったがな。うまくいけばお前さんの悩みも丸っと解決するわい」
イリヤは今は空になった液体の入っていた容器を見据えてニヤリと笑った。
「それじゃぁ始めるかいの」
両手を叩いてから魔法陣の端に触れると、強い光が陣から放たれる。中心に置かれていたドラゴンの角が宙に浮かび上がると、魔法陣から溢れ出した光が吸い込まれる。やがて角が光に覆われるとその大きさが徐々に小さくなっていく。光に見えるのは高密度に圧縮された魔法式だ。ドラゴンの角は魔法を扱う触媒としては最上級品だ。
何が起こっているのかはわからないが、それでも固唾を飲んで光景を見守るシリウス。
およそ十分ほどを要した頃になれば、床に描かれていた魔法陣の全てが光となって消滅。そして、床にはかつてドラゴンの角であった小ぶりな宝石が鎮座していた。
「ふぅぅぅぅ……どうやら成功したようじゃ。実は成功するかはあんまり自信なかったんじゃがな。やってみるもんじゃわい」
イリヤが暑苦しそうに額を拭う。シリウスはこの時になって、いつの間にか彼が髪を濡らすほどに汗を掻いていたことに気がついた。
「今、何をしたの? 何を作ったの?」
「お前さん、収納箱ってのはこの時代にもあるのか?」
「え、ええまぁ。見た目から想像できないほど大量に物を収納できることができる、猟兵垂涎の品。市場でも滅多に出回らないし出回ったとしても物凄い値が張る──え、まさか」
シリウスはここで察しが付いたのか、顔を盛大に引き攣らせた。まるで悪戯が成功したかのように、イリヤはうししと笑いながら宝石を拾い上げる。
「そのまさかじゃ。収納箱の完成じゃよ」
11
お気に入りに追加
903
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m


特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる