爺無双──若返った大魔道士の退屈しない余生──

ナカノムラアヤスケ

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第7話 爺、道具を作る

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「別に年上だから敬えとか、そう言う堅苦しいことは言わんでの。お主とは互いに助け合った中じゃ。五分五分の付き合いで頼む」
「そう言う事を言ってるんじゃないんだけど!?」 

 うがぁと叫ぶイリヤに、元気の良い子じゃなとニコニコ顔を浮かべるイリヤ。

 それからまた少しし、落ち着きを取り戻したシリウスが言った。

「妙に年寄りくさい喋り方をする子供だと思っていたら、まさか本当にお爺さんだったなんてね。理解はできたけど納得が追いつかないわ」
「すんなりと理解された時点で、こっちとしてはちょいと意外じゃよ。普通はこんなの、信じろと言う方が無理な話じゃろうて」
「ドラゴンを一瞬で氷漬けにするようなトンデモない非常識を見せつけられた後だもの。今更あんたがつまらない嘘を付くとは到底思えないわ」
「そういうもんか」

 存外に物分かりがいいようで。話が早くて助かる。

 それからシリウスはイリヤの言った転生装置を眺める。

「ねぇ、これってももう使えないのよね」
「そうじゃな。さすがの儂も役割はわかっても仕組みや動かし方はてんでわからんでの」
「そっか。ここから運び出せるような代物じゃないし……」

 がくっとシリウスは肩を落とした。それをみたイリヤが「ふむ」と顎に手を当てた。

「つかぬ事を聞くが、猟兵というのはなんなんじゃ?」
「モンスターを狩って得た素材を売買したり、迷宮に潜って資源やお宝を持って帰って生計を立ててる人のことよ。それも知らないの?」
「知らないっちゅーか、儂の中じゃぁ『冒険者』の位置付けなんだがな」
「あー、なんか聞いたことある。ずぅぅっと昔には冒険者って呼ばれてたらしいわね。詳しくは私も知らないけど」

『イリヤ』という名前を聞いたシリウスの反応を見た時点で薄々は察していた事ではあるが、やはりそうなのだろう。あるいは本当にただ知らなかっただけであったかもしれないが。

「なぁシリウス。勇者と魔王の戦いは知っておるか?」
「──? 御伽噺に出てくる戦いのことならまぁそれなりに。何百年も前にどうのこうのってのはよく聞くけど」
「やはり……か」

 はぁ、とイリヤは胸中に溜まった息を深く吐く。

「随分とまぁ遠いところに来ちまったようじゃ」

 どうやらイリヤは、かつての戦いが御伽噺として語られるほどの遠い未来に新たな生を受けてしまったようだ。その事実が、少なからずの思いを抱くのは仕方のないことだった。

 ──湿った感情を抱くのは腰を落ち着けてから、とイリヤは気持ちを切り替える。

「ちょっと大丈夫?」
「ああ、問題ない。それで話は戻るがなんで肩を落としてたんじゃ?」
「言ったでしょう、猟兵は迷宮のお宝や資源を求めてるって。こんな大それた装置をどうやって持ち帰るのよ。バラして持ち帰ることもできそうにないし」
「容器の部分以外は頑丈にできとるし、そもそも部屋と完全に一体化しておるからな。もし仮にバラせたとしても、下手すりゃこの部屋が崩れるぞい」

 イリヤが改めて事実を突きつけると、今度はシリウスが深いため息をついた。

「せっかく死ぬ思いで最下層にきたって言うのに、お宝の一つも持って帰れないなんて」
「表で氷漬けにしてるドラゴンがあるじゃろ。あれも売れば良い値段になるじゃろうて」
「それはそうだけど。あんなどデカいやつなんて丸ごとは持ち帰れないわよ。解体して一人で運べる量を持ち帰ってもかなりの値がつくでしょうけど、ここに来るまでの苦労を考えると……ねぇ」
「なるほど、量の問題か」

 気落ちする一方のシリウスに、イリヤは思案顔になる。ふと目についたのは、部屋の片隅にあるガラス容器。破損しているそれではなく、イリヤが作った液体の満たされた方だ。

「シリウス」
「なによ」
「多分、量の問題は解決しそうじゃぞ」

 ──それから少しの時間が経過した。

 シリウスが見守るの中、イリヤの準備が完了する。

 彼の目の前には氷漬けになったドラゴンの一部を解凍して採取した角。それを床に描かれた赤色の魔法陣の中心部に置いてある。陣を描くのに使ったのは、イリヤを満たしてい液体だ。

「何をするつもりなの? 妙な液体に血を混ぜたみたいだけど」
「全盛のワシでも大掛かりな設備がなけりゃぁ無理じゃったがな。うまくいけばお前さんの悩みも丸っと解決するわい」

 イリヤは今は空になった液体の入っていた容器を見据えてニヤリと笑った。

「それじゃぁ始めるかいの」

 両手を叩いてから魔法陣の端に触れると、強い光が陣から放たれる。中心に置かれていたドラゴンの角が宙に浮かび上がると、魔法陣から溢れ出した光が吸い込まれる。やがて角が光に覆われるとその大きさが徐々に小さくなっていく。光に見えるのは高密度に圧縮された魔法式だ。ドラゴンの角は魔法を扱う触媒としては最上級品だ。

 何が起こっているのかはわからないが、それでも固唾を飲んで光景を見守るシリウス。

 およそ十分ほどを要した頃になれば、床に描かれていた魔法陣の全てが光となって消滅。そして、床にはかつてドラゴンの角であった小ぶりな宝石が鎮座していた。

「ふぅぅぅぅ……どうやら成功したようじゃ。実は成功するかはあんまり自信なかったんじゃがな。やってみるもんじゃわい」

 イリヤが暑苦しそうに額を拭う。シリウスはこの時になって、いつの間にか彼が髪を濡らすほどに汗を掻いていたことに気がついた。

「今、何をしたの? 何を作ったの?」
「お前さん、収納箱アイテムボックスってのはこの時代にもあるのか?」
「え、ええまぁ。見た目から想像できないほど大量に物を収納できることができる、猟兵垂涎の品。市場でも滅多に出回らないし出回ったとしても物凄い値が張る──え、まさか」

 シリウスはここで察しが付いたのか、顔を盛大に引き攣らせた。まるで悪戯が成功したかのように、イリヤはうししと笑いながら宝石を拾い上げる。

「そのまさかじゃ。収納箱アイテムボックスの完成じゃよ」
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