爺無双──若返った大魔道士の退屈しない余生──

ナカノムラアヤスケ

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第6話 爺、早速暴露する

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 あの空間に居たままでは本格的に風邪を引くということで、二人はイリヤが目覚めた部屋に移動した。

 ドラゴンを倒せたことで再び扉が開くようになったのは僥倖だ。おそらくこの施設から外に出る分にもなんとかなるだろう。

「……まずはお礼を言わせて。おかげで助かった。あなたが居てくれなければ私は殺されていたわ」

「それをいうなら儂もじゃて。今の儂じゃぁあのデカブツを相手にするには些か荷が重すぎじゃった。三と七くらいで負けとったじゃろうしな」

 真剣な面持ちで頭を下げる少女に、イリヤはかっかっかと笑って返した。イリヤの言葉は何もお世辞ではない。改めて考えてみてもやはり、彼一人では相当に困難を極めただろう。

「私の名前はシリウス。見ての通り猟兵イェーガーよ」
「イリヤじゃ」
「そう。よろしくね、イリヤ」
「よろしくシリウス」

 二人は笑い合いながら握手を交わしたが、手を握ったままイリヤは怪訝な顔になる。

「ところでお前さん。なんであんなところで死にかけとったんじゃ?」
「それを言ったら、私はどうして迷宮の奥深くに子供がいたのかを知りたいわよ」
「そりゃごもっとも」

 互いに疑問を抱くのは当然の状況だ。だがイリヤはそれらの疑問を解く前に、もっと大前提の話から始めた。

「申し訳ないが、とりあえず儂が何も知らない記憶喪失という体で質問をさせてくれ?」
「意味がわからないんだけど」
「だったら見た目通りの子供が色々と知りたがってるという設定でもかまわん。話を擦り合わせようにも儂も分からない事尽くしなんでな」
「わ、分かったわ。命を助けてもらった恩人だし、なんでも聞いて」

 かなり無茶振りしている自覚はあったが、シリウスはオズオズと頷いた。人の良い子じゃと微笑ましく思いつつも、話を進める。

「まず、ここはどこなんじゃ?」
「え、そこから? ……とと、記憶喪失って設定だものね」

 律儀に設定を思い出しながらシリウスが咳払いをする。

「ここは『ヘルヘイズ』の付近にある迷宮の最下層よ。ヘルヘイズっていうのは、迷宮街のことね。あ、迷宮街はわかる?」
「迷宮のそばで発展しとる街のことじゃろ。迷宮があったから街ができたというほうが正しいかの」
「うん、その認識で大丈夫よ」

 イリヤの記憶の中にも迷宮──ダンジョンというものは存在している。おおよその概念としては先ほどのようなドラゴン──いわゆるモンスターと呼ばれる類の種が蔓延る超危険地域の総称だ。

 また、迷宮にもいくつかの種類が存在している。

 長年に渡って濃厚な魔力が土地に集まり、性質が丸ごと変異する自然発生型の迷宮。だがしかし、この迷宮はそのタイプではない。

 なぜなら、内部にこうした建造物が存在しているのだから。

「誰かしらによって生み出された人工型か」
「お陰で、迷宮のモンスターから取れる素材や、得られる天然の資源とかで商人が集まる上に、各地の猟兵も一旗あげようと集まってくる。しかもヘルヘイズの付近にはこう言ったダンジョンがいくつかあるから、おかげでいつでも大儲かりなのよ」
「お前さんも、その一旗あげようとしていた猟兵というやつの一人というわけか」
「あ、うん。……まぁそうなるわね」

 どうしてか、肯定しつつも言葉が曖昧になるシリウス。何やら事情があるようだが。

「必要最低限のことはわかったかの。多分まだまだ足りんじゃろうが、そりゃおいおいだな。質問攻めじゃぁ不公平じゃろうし」
「そっか……うん、じゃぁ次はこっちの番ね」

 イリヤの気遣いを察し、シリウスは申し訳なさそうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに気持ちを切り替えて問いかける。

「なんで子供が危険極まりない大迷宮の最下層に──ってあんな芸当ができるなら危険かどうかは疑問だけれど、その辺りも。しかもどうして奥の扉から?」
「そりゃ儂も気になっとる。おおよその検討はもうついとるがな」

 と、イリヤが指差した先にあるのは、力を失った大掛かりな装置だ。

「ここに入ってきてからずっと気になってはいたけれど、あれってなんなの?」
「死んだ人間を生き返らせる為の転生装置じゃ」
「……へ?」
「実は儂、一回死んどるんじゃよね」

 自分で言っておいてなんだがあまりにも荒唐無稽な話に、イリヤは思わずはっはっはと高笑いをする。一方シリウスは、彼の言葉をいまいち理解できていないのか眉を顰めるだけだ。

「あの……意味がわからないのだけれど」
「無理もない。儂もお前さんの立場なら頭の医者をお勧めしとるじゃろうからな」

 イリヤは壊れたガラス容器に歩み寄ると、コツコツと手で叩いた。

「理論はめちゃくちゃ面倒で説明するのも嫌になるので省くが、つまりは肉体が死んだ後に抜け出た魂をここの装置にぶち込めば、新しい肉体で生き返ることができるって寸法じゃ」
「いや待って待って。当然のように話を進めないで」
「ちょっとした手違いじゃよ。本来入るはずの魂・・・・・・・・が影も形もなく完全に消滅したせいで、近くを漂ってた儂の魂がここに誤って転送され封入された。どうやら、儂の仮説はいよいよ正しかったようじゃな」

 頭を抱えるシリウスには悪いが、イリヤはうんうんと納得したふうに頷く。

 数分の時間を要して唸っていたシリウスがようやく調子を取り戻すと、イリヤに聞いた。

「つまり、イリヤは一度死んだけど、この仕掛けのおかげで生き返ったってこと?」
「そんなところじゃ。つっても、この事態は儂も想定外じゃったがな。しかも、まさかこんな小童の姿でとは思いもせんかったわい」
「はぁ…………え、イリヤって本当は何歳なの?」

 ハッとなったシリウスから出た質問に、イリヤはしれっと答える。

「くたばった時の年齢で言うと、精神的には百と二十くらいかの」
「嘘でしょ!? ものすごくお爺ちゃんじゃないの!!」
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