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第3話 爺、少女と出会う(もふもふつき)
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一番に出てきたのは蜥蜴の体に鬼のツノが生えたような巨体。ついでに口からは炎を吐き出していた。
「しまった、ドラゴンじゃったわい」
誰が上手いことを言えと……とイリヤは自分でツッコミを入れたくなったが、ジジィの愉快なボケをかましている余裕はなかった。
扉の先の空間は、イリヤがいた場所よりも遥かに広い。そんな中で、巨大なドラゴンと──一人の人間が対峙していた。
片膝を付き剣で辛うじて体を支えていると言う風体であり、遠目からでも一発で満身創痍と分かるほどに消耗しているのが分かった。
「このクラスのデカブツ相手だと今の儂じゃちと荷が重たい」
幸いといっていいかは不明だが、奥の扉が開いたことは扉を開けた張本人であるイリヤ以外は気がついていないようだ。ドラゴンは殺意のこもった目で目の前の剣士を睨みつけ、剣士も忌々しげにドラゴンを睨め付けている。ここで回れ右をして扉の奥に引っ込めば当面の危機は回避できるだろう。
しかし──。
「仮にも勇者の仲間を名乗っていた身としちゃぁ見捨てられんのじゃよな」
頭をガシガシと掻いてから、イリヤは小さく息を吐く。
そして、指を鳴らす。
次の瞬間、イリヤの背後に彼の背丈ほどの魔法陣が出現すると、身体が突風に煽られて一気に押し出される。小規模な嵐にも匹敵する風量を推進力にし、片膝をつく人物の元へと急接近した。
ドラゴンが口から火炎の吐息を吐き出す。鉄すら溶かすであろう灼熱が剣士を飲み込む直前、寸前で間に合ったイリヤが確保し抱えるよに掴むと一気に離脱。直後に剣士がいた場所を紅蓮が飲み込んだ。
「ふぅぅ……どうやら間に合ったようじゃな。間一髪よの」
「??????」
剣士の胴体にしがみ付くような体勢で、ドラゴンとは離れた位置に着地するイリヤ。直近の危機を脱したことにほっと胸を撫で下ろす。助けられた剣士は自分の身に何が起こったのかを理解できていないようだ。
とはいえ、一息をつくのにはまだ早すぎる。イリヤは剣士から離れようと身を起こすが、後頭部に伸し掛かる重みで動きが鈍る。
「お、なんじゃこれ?」
頭を持ち上げることができず、仕方がなく引っこ抜くような形で身を離す。すると、自分の頭部に乗っていた重みの正体を知ることになった。
「……こりゃまた随分と立派じゃな」
状況も忘れ、驚きと感心と呆れが混ざったような表情を浮かべるイリヤ。その視線の先には、強烈な存在感を表す二つの盛り上がり。
どうやら剣士は女だったようだ。別に戦場に男だ女だと論を述べるつもりはない。イリヤの記憶にも、戦場を駆け抜ける女傑の勇姿が焼き付いている。
だがしかし、ここまで見事なまでの乳房を持った女というのは見たことがない。あったとしても片手で数える程度であろう。しかも、ただの人間ではない。頭頂部からは通常の人とは異なった獣の部位──狼の耳が黒髪の間から伸びている。少し顔を動かしてやれば、背後からはやはり黒い毛並みの尻尾が生えていた。
どうやら狼の血が入った獣人のようだ。黒髪と尻尾の毛並みはところどころが癖っ毛のように跳ねており、みじろぎするだけでもふもふしている。
よくよく顔を見ればまだ齢も二十にも届いていない顔たちだ。年頃は十五か十六あたりか。ようやく大人への一歩を踏み出す頃合いか。既に体のごく一部は大人顔負けであるが。
「…………子供?」
「そうじゃった。今の儂も子供じゃったな」
尻餅をつきへたりこんでいる少女の前で裸にコートを纏ってる子供で中身は老人。これが内面通りの年齢であれば事案どころの話ではなかっただろう。
「まぁあれじゃ。儂の身なりに関してはちくと置いといてくれ。それよりもまず先に、あやつをどうにかせんといかんだろう」
呆けている少女に、イリヤはドラゴンを指差した。どうやら目の前から忽然と消えた少女の姿を探しているのか首を回らせている。そうかからずに別の位置にいるイリヤたちに気が付くだろう。
「もしかして……助けてくれたの?」
「もしかしなくともな。一身上の都合により、見殺しにするには忍びなくてな。それよりもお前さん、動けるかね?」
イリヤに問われると、少女はどうにか身を起こし地に手をついて立ちあがろうとするが。
「……ゴメン無理。動けそうにない」
「ま、そうじゃろうて。待っとれ」
イリヤは指を鳴らし魔法陣を虚空に展開する。それを見た途端、少女は大きく目を見開いた。
「『魔術機』を使わずに……単独で『魔術』を?」
「ほれよっと」
少女に向けて手をかざせばその身体が淡い光に包まれる。体の各部に深く刻まれていた傷がみるみるうちに塞がれていった。同時に己の体力が戻っていくのを感じ取り、いよいよ少女は息を呑んだ。
「傷と体力の完全回復……こんなの……高位の魔術機でも滅多にないのに」
いろいろと気になる単語が出てくるが、今はそれを追求している暇はない。
「これで動けるじゃろ」
「う、うん。大丈夫そう」
女性は手の握りを確認し、膝に力を入れて立ち上がった。己の状態を顧みて再び驚いている。服や鎧にこびり付いた血糊はそのままであったが、内側の肉体に関してはほぼ全快になっていたからだ。
ここでドラゴンがようやくイリヤたちを再発見したようだ。咆哮を轟かせながら突進してくる。その巨体からして動きが鈍いと思いきや、駆け抜ける駿馬と遜色ない速度で突っ込んでくる。
「悪いがもう一度飛ぶぞ」
「え? ぁぅわぁっ!?」
少女の了承を得る前に、イリヤは彼女の胴体を抱きつく形で掴むと再び突風を巻き起こして逃れると、ドラゴンの巨体が通り抜ける。
少し離れた位置にイリヤたちが降りると、ドラゴンが四肢を地面に擦りながら急転回。今度は彼らの姿を見逃さなかったようで、すぐにそちらを振り向く。だが今度はすぐに突っ込んでくるような気配はない。それなりに知能があるようで、突如として姿を現したイリヤを警戒しているのだろう。
「しまった、ドラゴンじゃったわい」
誰が上手いことを言えと……とイリヤは自分でツッコミを入れたくなったが、ジジィの愉快なボケをかましている余裕はなかった。
扉の先の空間は、イリヤがいた場所よりも遥かに広い。そんな中で、巨大なドラゴンと──一人の人間が対峙していた。
片膝を付き剣で辛うじて体を支えていると言う風体であり、遠目からでも一発で満身創痍と分かるほどに消耗しているのが分かった。
「このクラスのデカブツ相手だと今の儂じゃちと荷が重たい」
幸いといっていいかは不明だが、奥の扉が開いたことは扉を開けた張本人であるイリヤ以外は気がついていないようだ。ドラゴンは殺意のこもった目で目の前の剣士を睨みつけ、剣士も忌々しげにドラゴンを睨め付けている。ここで回れ右をして扉の奥に引っ込めば当面の危機は回避できるだろう。
しかし──。
「仮にも勇者の仲間を名乗っていた身としちゃぁ見捨てられんのじゃよな」
頭をガシガシと掻いてから、イリヤは小さく息を吐く。
そして、指を鳴らす。
次の瞬間、イリヤの背後に彼の背丈ほどの魔法陣が出現すると、身体が突風に煽られて一気に押し出される。小規模な嵐にも匹敵する風量を推進力にし、片膝をつく人物の元へと急接近した。
ドラゴンが口から火炎の吐息を吐き出す。鉄すら溶かすであろう灼熱が剣士を飲み込む直前、寸前で間に合ったイリヤが確保し抱えるよに掴むと一気に離脱。直後に剣士がいた場所を紅蓮が飲み込んだ。
「ふぅぅ……どうやら間に合ったようじゃな。間一髪よの」
「??????」
剣士の胴体にしがみ付くような体勢で、ドラゴンとは離れた位置に着地するイリヤ。直近の危機を脱したことにほっと胸を撫で下ろす。助けられた剣士は自分の身に何が起こったのかを理解できていないようだ。
とはいえ、一息をつくのにはまだ早すぎる。イリヤは剣士から離れようと身を起こすが、後頭部に伸し掛かる重みで動きが鈍る。
「お、なんじゃこれ?」
頭を持ち上げることができず、仕方がなく引っこ抜くような形で身を離す。すると、自分の頭部に乗っていた重みの正体を知ることになった。
「……こりゃまた随分と立派じゃな」
状況も忘れ、驚きと感心と呆れが混ざったような表情を浮かべるイリヤ。その視線の先には、強烈な存在感を表す二つの盛り上がり。
どうやら剣士は女だったようだ。別に戦場に男だ女だと論を述べるつもりはない。イリヤの記憶にも、戦場を駆け抜ける女傑の勇姿が焼き付いている。
だがしかし、ここまで見事なまでの乳房を持った女というのは見たことがない。あったとしても片手で数える程度であろう。しかも、ただの人間ではない。頭頂部からは通常の人とは異なった獣の部位──狼の耳が黒髪の間から伸びている。少し顔を動かしてやれば、背後からはやはり黒い毛並みの尻尾が生えていた。
どうやら狼の血が入った獣人のようだ。黒髪と尻尾の毛並みはところどころが癖っ毛のように跳ねており、みじろぎするだけでもふもふしている。
よくよく顔を見ればまだ齢も二十にも届いていない顔たちだ。年頃は十五か十六あたりか。ようやく大人への一歩を踏み出す頃合いか。既に体のごく一部は大人顔負けであるが。
「…………子供?」
「そうじゃった。今の儂も子供じゃったな」
尻餅をつきへたりこんでいる少女の前で裸にコートを纏ってる子供で中身は老人。これが内面通りの年齢であれば事案どころの話ではなかっただろう。
「まぁあれじゃ。儂の身なりに関してはちくと置いといてくれ。それよりもまず先に、あやつをどうにかせんといかんだろう」
呆けている少女に、イリヤはドラゴンを指差した。どうやら目の前から忽然と消えた少女の姿を探しているのか首を回らせている。そうかからずに別の位置にいるイリヤたちに気が付くだろう。
「もしかして……助けてくれたの?」
「もしかしなくともな。一身上の都合により、見殺しにするには忍びなくてな。それよりもお前さん、動けるかね?」
イリヤに問われると、少女はどうにか身を起こし地に手をついて立ちあがろうとするが。
「……ゴメン無理。動けそうにない」
「ま、そうじゃろうて。待っとれ」
イリヤは指を鳴らし魔法陣を虚空に展開する。それを見た途端、少女は大きく目を見開いた。
「『魔術機』を使わずに……単独で『魔術』を?」
「ほれよっと」
少女に向けて手をかざせばその身体が淡い光に包まれる。体の各部に深く刻まれていた傷がみるみるうちに塞がれていった。同時に己の体力が戻っていくのを感じ取り、いよいよ少女は息を呑んだ。
「傷と体力の完全回復……こんなの……高位の魔術機でも滅多にないのに」
いろいろと気になる単語が出てくるが、今はそれを追求している暇はない。
「これで動けるじゃろ」
「う、うん。大丈夫そう」
女性は手の握りを確認し、膝に力を入れて立ち上がった。己の状態を顧みて再び驚いている。服や鎧にこびり付いた血糊はそのままであったが、内側の肉体に関してはほぼ全快になっていたからだ。
ここでドラゴンがようやくイリヤたちを再発見したようだ。咆哮を轟かせながら突進してくる。その巨体からして動きが鈍いと思いきや、駆け抜ける駿馬と遜色ない速度で突っ込んでくる。
「悪いがもう一度飛ぶぞ」
「え? ぁぅわぁっ!?」
少女の了承を得る前に、イリヤは彼女の胴体を抱きつく形で掴むと再び突風を巻き起こして逃れると、ドラゴンの巨体が通り抜ける。
少し離れた位置にイリヤたちが降りると、ドラゴンが四肢を地面に擦りながら急転回。今度は彼らの姿を見逃さなかったようで、すぐにそちらを振り向く。だが今度はすぐに突っ込んでくるような気配はない。それなりに知能があるようで、突如として姿を現したイリヤを警戒しているのだろう。
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