転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第十九話 悪ガキとお母さん

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 やいのやいのと好き勝手に騒ぐ三人を前にして、デュランは胸中の感情に蓋をし努めて冷静に言葉を連ねる。

「確かに、あの程度のゴロツキ・・・・、あなた方ほどの実力者が揃えばワケなかったでしょうが、それでも未成年をああした荒場あればに連れて行くのは褒められませんね」
「ちょっとした社会見学のつもりだったんだよ。そうお小言は勘弁してくれないかい」

 デュランのもっともな正論に、ラウラリスは少し気まずげである。騒ぎを大きくした事に反省はなくとも、アベルから申し出たとはいえ少年カレまで献聖騎士団の世話になってしまった点については、本当に申し訳なく感じているのだ。

「ふぅ……」と今日、何度目になるか分からない溜息の回数を、デュランがもう一つ重ねる。
「そもそも、ラウラリスさんでしたら『あのレリーフ』をお出しすれば──」
「嫌だね」

 直前のしおらしさはどこへやら。ラウラリスがにべもなく切り捨てると、デュランはまたも悩ましげに頭を振った。事情を知らないヘクトは首を傾げるが、アイルは「あっ」と思い出した風に声を発した。

「そうだよ! 枢機卿から貰ったっていう浮き彫りレリーフ! あれを見せてたら私らは捕まらなくて済んだんじゃん!」

 ──献聖教会はラウラリスに大恩がある。

 最高権力者である教皇の後継をめぐって繰り広げられた大事件。表立っては亡国を憂える者が介入し後継候補たる枢機卿たちを亡き者にしようと企てた──と世間には伝わている。

 けれども真実は違う。

 亡国と内通し、枢機卿を排除しようとしたのは他ならぬ現役の枢機卿であった。この真実を解き明かし、なおかつ亡国による被害拡大を防ぐのに貢献したのが、他ならぬラウラリスなのである。

 別れ際に、ラウラリスは事件解決の礼と友誼の証として、一つの浮き彫りレリーフを渡された。教会関係者に見せれば最大級の便宜を図ってもらえるという、枢機卿が真に信頼を寄せる者だけに渡す逸品である。

 ラウラリスが以前に枢機卿のレリーフを使用したのは、とある事件を調査する為に献聖教会の協力を取り付けた時。アインもその場面に居合わせていたが、デュランの一言を耳にするまで完全に忘れていたのだ。

「今すぐに出しなよ! そしたらすぐに解放されるじゃん!」
「だから嫌だっての。こんなチンケな騒ぎで、枢機卿ラクリマさんから貰ったアレを出したとあっちゃぁ、私の沽券こけんに関わる」

 最初は噛み付く勢いのアイルだったが、ジロリとラウラリスに睨め付けられて意気消沈し方を落とした。強く言ったところで聞く相手ではないと分かりきっていた。引き下がった彼女の代わりではないが、デュランも続く。

「多大な恩義を感じている我々が、あなたに対して申し訳なさを抱く事については?」
「あんたらは職務に忠実に、真っ当に向き合っただけだ。胸を張りな」

 動員された献聖騎士の中にはラウラリスの顔を知っていたり、あるいは要望からすぐさま少女が何者かに行き着いた者も多数いた。そうでありながらも、彼女を教会の留置所に連れて行った彼らの心境たるや。ラウラリス達の早期釈放を嘆願する騎士まで出てくるほどであった。

 ただ、教皇の後継に纏わる事件を通じ、ラウラリスの気質をそれとなく知っているデュランとしては、彼女にこれ以上は言えなかった。破天荒に見えて一本気の筋を通すラウラリスだからこそ、枢機卿は友誼の証を渡したのである。

「それで結局、僕らはいつまでここにいなくちゃいけないのかな?」

 疑問を呈するヘクトにはどこまでも余裕があった。この先の流れを見過ごしていると言わんばかりの態度。実際にその通りなのだろうとデュランは抱きつつも、軽い咳払いをしてから口を開いた。

「あなた達が無力化・・・した多くは、ハンターギルドでも『手配』を受けている者達。他にも要注意人物として各所にも、知れ渡っている者が多々いました」

 ラウラリスが目当てにしていたマフィアのみならず、会合に参加していた者達も界隈ではそれとなく名の知れていた良からず・・・・ばかりであった。ギルド以外にも、治安維持を請け負っていた警邏や協力関係にある教会にも情報は回っていた。

「あくまでも『容疑』の範囲であり確固たる証拠はありませんが、あなた方が狙っていたマフィアとの協力関係が今回の件で浮上しました。おかげさまで、膠着していた捜査が捗るきっかけになると、各所が悲鳴をあげそうです」
「悲鳴って──そこは嬉しくて胸踊りそうだけど?」
「嬉しい悲鳴・・ですよ、本当に」

 対亡国同盟の出向組であるデュランが、こうして治安維持の現場に駆り出されるくらいに、関係各所はとにかく多忙を極めているのである。

「じゃぁ、僕らみたいなのに拘っている暇はないってわけだ」
「それがいいのか悪いのかは判別しかねますが、概ねその通りです」

 ラウラリス達が行ったのは結局のところは、街に蔓延る不穏分子の排除を担ったまでである。
崩壊した建築物も壊滅したマフィアの所有物であり、両隣の建物にも多少なりとも被害は出ているが修理費などたかが知れている。彼女達が拘束されたのは、事情を把握するための一環に近しい状況であった。

「とはいえ、路地裏で起こる喧嘩にしては規模が大きすぎます。数日間はここで過ごすのは覚悟してください。もちろん、その間の食事は用意させていただきますが」
「「「ええぇぇぇ………」」」 
「だから少しは反省の念を見せてください! そこの少年の方がよほど立派ですよ!?」

 まるで、悪戯をしたのに反省していない悪ガキ達に対する母親さながらに、デュランは三人に叱りつけるのであった。

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