転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第十一話 休暇中なババァ

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 ──王妃との会合を経た翌日。

 ここしばらくは起床と同時に早々に身支度と朝食を宿で終え、獣殺しの刃本部がある図書館へと直行していたのだが。

 休息を命じられているラウラリスは、朝の快活な空気のある城下の街をのんびりぶらりと歩いていた。

 王からのお触れ・・・は国民のほぼ全員が知るところ。エフィリス王国が厳戒態勢にあるのは承知であろうが、人々の営みは変わらない。あるいは、必ずや王国が事態を解決してくれるという信頼があるのだろう。もしくは、平和ボケやら楽天的とも取れるが、それだけエフィリス王家の治世が長く安定していたことの証左である。

「こうしてのんびり歩くのは、同盟発足から以降はとんとなかったかねぇ」

 焼き立てのパンを噛みちぎりながら、ラウラリスはボヤいた。さすがは王都。適当に見繕ったパンもいい小麦粉を使っているおかげか、とてもフカフカだ。

「王妃様とのお茶会は有意義にゃ違いなかったが、残念ながら本題の方はてんで捗らなかったなぁ。……あたりまえっちゃぁ当たり前だが」

 亡国の『盟主』にまつわる進展を得るために臨んだセディナ王妃との対話。けれども、よくよく考えるとそうも都合よく行くはずがなかった。

 セディナの為人ひととなりや、昨今における呪具の発展について知れたのは、個人的には有意義であった。

 ただそれが、ラウラリスの目的である『盟主』に繋がる要素であったかはまた別問題である。同盟の中心に近い人物であるとはいえ、国政の中枢にいるセディアに堂々と「背信者がいる」などと直に問いただせるはずがない。少し考えればわかっただろうに。

 昨日になんら進捗が無かったのであれば、なんのために休暇が与えられたのか本当にわからない。これでは単にお茶して和んだだけではないか。

 ──と、王城から帰ってきたラウラリスは宿で一人頭を抱えていたが、一眠りしてその考えが少しばかり変化していた。

「私としたことが……ちょっと根詰めすぎていたみたいだ」

 刻限リミットが迫る中でラウラリスも少し気が急いていた思い返していた。こんな時こそ一度立ち止まり、落ち着いて情報をすべきであると、前世で多く学んだはずなのだ。

 精神的に追い詰められている時というのは、得てして希望的観測に縋りつきたくなるものだ。前世もそれで色々とやらかして大変なことになった。

 皇帝時代ではそれらの経験を元に、焦りは無茶を呼び起こすきっかけとなると重々承知していた。忙しい時ほど身分を隠して城下に赴き、休息する間を設けていた。

 躰が若返った影響で精神も若返り、色々と前のめりになっていたのかもしれない。

 あるいは、こういう緩やかな時間にこそ、閃き・・とは舞い込むものだ。忙しく頭を働かせていては余計雑念すらも一緒に思考に巻き込んでしまう。こういうのは取り除こうとしても簡単に消えはしない。

 ならいっそうのこと、仕事から離れるのも手段の一つ。何気なく過ごす時間こそが、答えを導き出すための近道であることも往々にしてあり得るのだ。

 それに、この休暇が終われば嫌でも忙しくなる。亡国を徹底的に追い込むために全力を尽くすことになるだろう。であれば、今は休むことこそがラウラリスの仕事である。

「しかし、ちょっと買い込みすぎたかな」

 抱えている袋の中には、見繕った出店で購入した食べ物が満載されていた。ここしばらくの間は時短で腹に詰め込めるようなものばかりだったので、どこか食に飢えていたのかもしれない。それにしても、朝ごはんと呼ぶにはいささか量が多い。

 ちょくちょく「朝早くにお使いかい? 偉いねぇ」と店員に温かい目で褒められたものだ。これを全て一人で消費するつもりだと告げたところで、おそらく信じてもらえないだろう。

「別に、全部一人で平らげちまっても良いんだが……」

 肉体的には成長期真っ盛りのラウラリスにとって、この程度・・・・の量・・であれば、少し運動すれば消化し切れる。午後以降の予定を考えれば、昼食を少なめに取れば釣り合いが取れる。

 ただ、それだそ少し味気がない。

 ラウラリスは歩みを止めると踵を返す。

 足先を付近の路地に向けると、その物陰を覗き込んだ。

「どうだいあんたも。朝飯がまだなら一緒にさ」
「は、はははは……おはようございます」

 曲がり角の四角に潜み、仄かに頬を引き攣らせながら愛想笑いを浮かべていたのは、素朴な服を着た可愛らしい少年。まごう事なき、エフィリス王国の王子アベルであった。
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