転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第十話 ──幕間──

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 ──ラウラリスとの会合を経たその日の夜。

「ええ、彼女・・とはお話をさせていただきました」

 王妃の私室で、セディアは言葉を紡いでいた。

「ご安心ください。単なる世間話ですよ。陛下やアイゼンが気に掛ける女性に私も興味を持ちまして」

 側に控えているのは、近衛騎士隊長のアイゼンのみ。

「それに、我儘も少ないあの子が──アベルがあれほどに熱心に励んでいるのですもの。少しばかりは気持ちを汲みたいのが親心というものではないでしょうか。その点については、あなたも賛同していただけたはずです」

 セディアの声には、敬意に近い感情が含まれていた。 

「ええ、あなた・・・が彼女を警戒しているのも重々承知しています。接触回数が増えれば、こちらの意図せぬ何かを勘付かれる恐れがあると」

 必要以上に相手に傅くことはないが、己と同等かそれ以上の地位にいる者へと向ける誠意があった。

「ですが逆にお考えください。私が彼女と面と向かって話をすることで、あなた・・・への警戒が薄れる可能性が高くなるのではありませんか?」

 まるで挑発するような、それでいて確認する風にも聞こえる台詞をセディアが嘯く

「それに警戒するあまりに人伝ひとづてだけの情報では、推測一つすら立てるのが危ぶまれるはず。それをお分かりにならないあなたではないでしょう」

 そこまで口にしてから、セディアはギクリと肩を強張らせた。 

「少し……言葉が過ぎましたね。申し訳ありません」

 ……………………………………………………。

「……いえ、不満をありません。抱くはずがありませんでしょうに」

 胸元の首飾りペンダントを指で撫でながら、セディアは語る。

「陛下とアベルに塁が及ばない限りであれば、私があなたに異を唱えることはありません。そこだけはこれまでもこれからも変わりません」


 そこでセディアは目を瞑り、一間ひとまを置いた。

「アイゼン」
「ハッ」

 誠意と敬意を含んだ声色から一転、上位者としての命令を下す声色で配下の名を呼ぶ。直後に、部屋の扉がノックされた。

 王妃の私室への来訪を許される人間というのは数が限られている。ましてや休息中の彼女の元へ訪れるとなれば片手指ほどとなろう。

 アイゼンが扉を僅かに開けば、顔を覗かせたのは息子のアベルであった。無論、付近には護衛兵士が控えているが。彼は兜を向けて目配せすると、王妃は構わないと頷きを返した。アイゼンは王子の護衛には外で待機するように命じると、アベルを中へと促す。

「お、お休みのところ失礼します、母上」
「構いませんよ。息子が母に遠慮することなどありませんよ。それでどうしたのかしら?」
「その……」

 と、アベルはチラリとアイゼンに目を向ける。どことなく気不味げな視線に、アイゼンは胸元に手を当てながら恭しく頭を下げる。

「我が身は王妃様の剣なれば、調度の一つとでも考えていただいて結構」
「そうよアベル。あなたも知っているとおり彼は私の護衛よ。気にする必要は全くないわ。それに、こうして会いに来てくれた息子に謙遜されたら母は悲しいわ。……と言っても難しいですね」

 王妃がサッと手を挙げると、意図を汲んだアイゼンは部屋を退出していった。

 アイゼンほどの者となれば扉越しでも部屋の内部は十分以上に把握できる。警護をする上では支障がなかった。

 室内に残ったのは、部屋の主であるセディア王妃と、息子のアベルだけとなった。

 人目がなくなると、アベルはセディアの元に寄ると縋るように抱きついた。

「ラウラリスさんを招いてくださってありがとうございました。実はそのことで母上にお礼が言いたくて」
「あら、そんなことのためにわざわざ?」

 アベルの頭を撫でながら、セディアが微笑む。

「もし剣術ばかりにかまかけていたら別でしたが、最近のあなたは勉強も十分以上に励んでいましたからね。頑張りには相応の報いがあって然るべきです」

 ──そこにあるのは、王の伴侶でありながら、一人の子を持つ母親であった。
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