転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

文字の大きさ
上 下
143 / 161
第7章

第三話 休めババァ

しおりを挟む


 手紙を受け取ってから二日後。

 ラウラリスは王城を訪れていた。こうして足を運んだのは同盟が発足して以来だ。作戦の打ち合わせは獣殺しの刃の地下本部か、王都のどこかで用意された会合場所だった。公にできない場での会議は、少なくとも作戦開始までは気密を保つための措置である。

 勤め人に案内されたのは城の中にある庭園。その手の事には一過言あるラウラリスの目から見ても非常に管理が行き届いており、厳かでありながらも落ち着いた雰囲気がある。まるで外からの喧騒から切り離されたような清浄があった。

「本日は急な呼び出しに応じていただき感謝します、ラウラリスさん」
「そう畏まられると困りますよ。特にあなたのような立場にある方からだと尚更ね」

 庭園の一角に設けられたテラスにで、ラウラリスは己を呼び出した張本人と対面していた。

 ──セディア・エフィリス。

 この国王カイン・エフィリスの妻であり、王妃という立場にある女性だ。

 彼女とはすでに一度、顔を合わせたことがあったが、その時は決して穏やかとは言い難いものであった。

 ラウラリスに届けられた手紙は、その時のことを謝罪するため、もう一度話がしたいと言う内容であった。

「あの時は無礼な態度をとってしまって大変に申し訳けありませんでした」
「謝罪には及びませんよ。あなたの立場であればむしろ当然のことでしたし」

 セディアが言っているのは、ラウラリスが彼女の息子に請われて剣術指南を行った時の話だ。もっと幼い頃は体も弱く、外を元気に歩き回れるようになったのはここ数年。そんな彼に、ある種過酷スパルタとも呼べる指導を行なった事が、母であるセディアの逆鱗に触れたのである。

 だがあれから少しばかりの時間が経過し、王妃も冷静になったのだろう。そこに息子が改めて事情を説明し道理を解き、母親を説得したのだ。

 ちなみに、今のラウラリスは完全に他所行き口調である。一国の王妃様相手に普段の口ぶりで対応するわけにはいかないと、流石に彼女も弁えていた。

「しかし、こんなにも早くお会いになれるとは意外でした。文には特別に期限を設けてはいなかったのですが、早くても一週間──あるいは一月ひとつきは先になると思っていましたし」

 セディアも、ラウラリスが対亡国同盟の一端であるのは以前から知り得ていた。

 同盟には、王妃が保有する『近衛騎士隊』も参加している。加えて、同盟発足から最初に行われた大規模作戦では、王妃の懐刀とも呼ぶべき近衛騎士隊の隊長がラウラリスと肩を並べて戦っているのだ。むしろ、王城内に勤めるそこらの役人よりも遥かに事情には詳しいだろう。

「その辺りはまぁ。確かに忙しいですが、明日の我が身がどうなるか分からん仕事をしていますので、なるべくなら早めの方がいいと思いまして」

 ほとんど建前には近かったが、完全に嘘というわけでもない。戦場の最前線では、不測の事態が常に起こりうるもの。文字通り一騎当千の使い手であるラウラリスも例外ではない。その事については常に心の片隅に留めている。

「幸い、『上』に確認を取ったら、驚くほどにあっさり許可が降りましたよ」

 実はラウラリスとしても、こんなに早急に話が進むとは思っていなかったのである。 

 ──本来であれば、ラウラリスは対亡国同盟内における貴重な戦力の一つ。個人としての武勇では自他ともに認める最強格。そんな彼女を無駄に遊ばせて良い道理は存在していない。

 とはいえ、常識離れした戦闘力を有していながらも、ラウラリスは間違いなく人間だ。あるいは非人間的とも呼べる体力を有しはしているが、それも無限ではない。休息する間もなく動き続ければ疲労も溜まっていくのは必然である。

 同盟が発足し、最初の大型拠点制圧を行なってからというもの、ラウラリスはひっきりなしに現場に出て戦い続けていた。一つの作戦が終わり、急速一日を挟んでまた別の作戦に出るという日々が続いていた。同盟が発足してから、己がそのような立場になることは覚悟していた。

 そんなラウラリスに『待った』を掛けたのが獣殺しの刃である。

 機関獣殺しとしても、ラウラリスという戦力がいかに強力かは理解している。あるいは、同盟に参加しているどの組織よりも実感しているだろう。

 だが同時に、ラウラリスは換えが効かないほどの武勇を持っている。もし万が一にどこかの拍子に戦線を離脱するような事態に陥れば、それこそ同盟にとって計り知れない損害だ。

 故に、早急にラウラリスを休ませるタイミングを見計らっていた。

 問題は、どのような口実で休ませるかである。

 単に口で言ったところでラウラリスが聞き入れるはずもない。彼女は己が動けば同盟側に余計な被害が出ない事を理解しており、現場も痛いほどに味わっていた。そんな中で『休め』と言ったところで聞き入れるのは難しい。

 そこに来て、ラウラリスから来た『王妃からの呼び出し』の知らせである。

 この申し出は、ある意味で渡りに船であった。王妃からの要請であれば大義名分としては十分。これを機に、機関はラウラリスに一週間の休息を命令したのである。精神的にはともかく最低でも体力に関しては万全にするようにとのことだ。

(つって、まさかこんなに長い期間も休まされるだろうね。大方、ケインやシドウ辺りが押し通したんだろう)

 ラウラリスはこの辺りの事情を察しながら、どうせならこの一週間をありがたく使わせてもらおうと決めていた。
しおりを挟む
感想 656

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。