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第6章

第四十四話 同盟部隊の作戦

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 ラウラリス達の拠点制圧作戦と並行して、近隣の街でも同盟部隊の作戦が進行していた。

「治療班は負傷者の運び出しの後に手当てを! 捜索班は建物内の捜査を密に! 紙片一つ見逃さず徹底的にお願いします!」

 献聖騎士団の隊長として抜擢されたデュランは、片手に得物の双剣ツインブレードを携え部下に鋭い指示を飛ばしていた。

 彼らは街に運び込まれていた建物の強硬捜査を担当。案の定、亡国の信者や戦闘員達が建物内に詰めており激しい戦闘が繰り広げられた。とはいえ、すでに戦闘は終了しており、今は事後処理に奔走していた。

「分かっていると思いますが、宿舎に帰るまでが作戦行動内であることをお忘れなく! どこに亡国の構成員が隠れているか分からないことを留意してください!」

 献聖騎士団の本分は、献聖教会の信者やその周辺を守護し治安を維持することにある。その性質上、街中での活動には経験ノウハウがある。戦闘だけに及ばず、一般人への避難誘導等の手引きマニュアルもあることから、こうした街の中で行われる作戦に回されたこととなった。

「適材適所であることは分かっていますが……割り切れないのは私が未熟な証拠ですね」

 デュランはボソリと、誰にも聞こえぬ小さな声でボヤいた。任された任務に私情を挟むことはなかったが、彼女は内心に抱くものがあった。

 対亡国同盟において、献聖騎士団派遣部隊の隊長にデュランを任命したのは、献聖騎士団団長であり、献聖教会次期教皇であるラクリマだ。デュランよりも経験豊富な騎士は探せばいるだろうに、あえて若輩の彼女に任せたのは期待の表れであると誰もが察していた。

 元より総長ラクリマから直々の指導を受け、騎士団の中でも実力は最上位にあった。そこに、ラウラリスと関わる事件の存在。たった一度の模擬戦と細やか助言ではあったが、百聞は一見にしかず。そして一戦は百見ひゃくけんにも勝る経験となり、デュランの成長を大きく促した。

 純粋な剣の腕では既に組織内では三指に入るとされている。総長を除けば、掛け値なしに騎士団の中で頂点に届くのは間違いないであろうというのが騎士達の共通の認識だ。

 ラクリマが正式に教皇となれば、当然だが騎士団総長の席は空白となる。あえて明言こそされてはいないが、その席に誰が座ることになるかを推しはかれぬほど、騎士達も愚昧ではなかった。

 だが、当のデュランからしてみれば、まるで降って沸いたかの様な話だ。

 些か特殊な家庭事情ではあるものの、騎士団に入ったのはデュランの意思であり、献聖騎士としての本分を全うしようと研鑽を努めてきた。ラクリマの元で剣を振るい信者達の守護を誇りとしてきた。

 それがいきなり騎士達を導く側を期待されれば、困惑するのも無理はないだろう。己よりも適任者がいると考えるのも仕方がない。ただ一方で、ラクリマの期待に応えたいという偽らざる気持ちもあった。

(せめて、身内贔屓・・・・などと呼ばれぬよう、精進を重ねなければ──)

「隊長さんっ」

 頭の片隅で考えに耽っていたデュランであったが、背後からの声にそれら全てに一度蓋をした。ただ、正確には声が聞こえてきたのは背後の、さらに上からであった。

 敵意がないことは分かっていたが、違和感を覚えながら声の元に顔を向けると上から舞い降りる人の姿があった。それは軽やかに地面に着地すると、何事もなかった様にデュランの方へと駆け寄った。

「あなたは……確かアイルさんでしたか」
「おっと、名前を覚えててくれたんだ。嬉しいね」

 献聖騎士団と組むことになった派遣部隊はハンターギルドであった。

「先ほど戦いぶりを拝見させていただきましたが、見事なお手前でした」
「そちらこそ。若いってのに隊長を任されただけあるね。若い部分は人のこと言えないけど」

 二人とも建物

 共同での建物への突入が終わった後は方々に散り、街で慌ただしく動きあるいは外へと逃亡を目論むもの達の捕縛を担当していた。ハンターが手配犯を追う仕事もあり、逃亡犯の捕まえ方には心得があるのだ。

 デュランは最初に声が聞こえた地点──民家の屋根とアイルを交互に見やる。結構な高さがあるにも関わらず、アイルはどこかを痛めた様子もなく健常な様子に少しばかり驚く。

「……私でもあの高さから一息には降りられませんよ」
「まぁこれでご飯を食ってる様なもんだから。っと、伝令の仕事ね」

 ほんのりと自慢を滲ませるアイルは、軽く胸を張ってから思い出した様にデュランに告げる。

「案の定、張り込んでた街の外への抜け道を通ろうとしてた不審者がいたから、何人か締め上げたよ。正規の門の方に作ってた検閲にも引っかかったのがいたみたい」

「ハンターの皆さんに被害は?」
「被害はほとんどないよ。勇んで転んだのが一人いた程度さ。さすがに戦闘慣れしてた人員は建物こっちに集まってたみたいだ。逃げ出そうとしてたのは伝令とか内職とかのやつばかりだ。異常事態が起これば笛で知らせる手筈さ」

 アイルは胸元から、ギルドから支給された笛を取り出して揺らした。

「お疲れ様です。今のところこちらも問題は起こっていません」
「そいつは重畳。これでも結構身構えてたんだけど、蓋を開けてみればあっさりと終わりそうで拍子抜けだよ。つっても、ここは薬物クスリの流通の末端みたいなもんだからね」

 今頃ラウラリスらは薬の製造元で大暴れしているんだろうなと、アイルはボヤいた。
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