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第6章
第四十話 近衛騎士隊とババァ
しおりを挟む亡国との違法取引を行なっていた業者の幹部を秘密裏に捕縛、尋問したところ、物資が大量に運び込まれている拠点が判明した。
潜んでいるのは王都から馬車で二週間の距離で辿り着ける森の奥。記録を遡ると、かつては名のある盗賊が隠れ家が存在していた。当然、その何某は郎党全てが捕縛ないし処刑されて無力化されていたが、打ち捨てられた建物に亡国が目をつけて改修したのだと推測される。
問題は、運び込まれた大量の物資で何をしていたかだ。
更なる尋問を行ったところで、具体的にどのような薬物が精製されていたか判明した。
亡国の薬物を使った手口にはいくつか種類があるが、製造されていたのは洗脳に用いられる催眠薬。薬を用いて服用者の判断力を奪い、亡国を憂える者の新たな信者に仕立て上げるというものである。
既に近隣にある一つの町で実験が行われており、洗脳されて信者に成り果てた住人が何十とも出ているらしい。
ここまでの大事になりながらも亡国の存在が露見していなかったのは、徹底した情報規制がなされていたからだ。つまり、町の領主も完全に亡国と通じていると見て間違いない。
薬物によって汚染された町の治安は劣悪化し、その浄化には莫大な費用と長い時間が必要になる。今はまだ極少数に限られているが、実験の段階が進めば他の町村への流入が開始され、一気に広まるだろう。非常に早急な対応が求められる状況であった。
残念であるのは、これらの事実が判明したのは獣殺しの刃が本腰を入れて調査を始めたが故。つまり、切っ掛けさえあればすぐにでもわかったことなのだ。それほどまでに亡国の存在はこの国の裏で暗躍しており、獣殺しの刃がどれほど対応に追われているかが推し量れた。
だが、後手に回るのはこれまでである。
対亡国同盟が本格的に始動すれば、隠されていた亡国が確実に姿を現すであろう。
今回の同盟作戦における目標は、薬物の製造拠点の破壊及びに亡国によって乗っ取られた町の開放。この二つを同時に進行することとなった。
どちらか片一方に専念してしまうと、残ったもう一つが何をしでかすか分からないからだ。最悪の場合、製造に携わった者たちの逃亡、支配された町が壊滅的な被害を負うことになりかねない。
これまでの獣殺しの刃であれば人手の問題でどちらか片一方を選ばなければならない状況であったが、同盟が締結された今であれば戦力を確保できる。
実働部隊は、各組織が選別した精鋭たちと、その代表者たちによる二つ一組で動くことになる。面目としては試運転に近いが、本質は互いが互いを監視する状況を作るためだ。
ラウラリスは二つの部隊のうち、薬物の製造拠点を攻める方に参加することとなった。
ところが、ここで彼女に少し予想外な展開が待ち受けていた。
「んじゃぁ、よろしく頼むよ」
「こちらこソ、頼りにさせて貰ウ」
夜闇が消え始める明朝頃。馬車に揺られて森の近辺に到着したラウラリスの隣には、全身を鎧で固めた人物が佇んでいた。王妃直属の近衛騎士──その隊長であった。
作戦がいよいよ開始されるという段階で、ラウラリスに打診があったのだ。
『王妃直属近衛騎士隊、隊長のガイゼン。命により貴殿と組むこととなっタ』
呼び出されてみればまさか近衛騎士団と組むことになるとは彼女も予想外であった。てっきり、いつかのようにケインとそれが率いる獣殺しの刃と行動を共にするとばかり思っていたのだ。
命令に相違無いのは、近衛騎士隊長との対面直後にやってきたケインから確認が取れている。当初の予定ではやはりケインと組み獣殺しの刃の部隊をと行動する筈だったのだが、王妃直々の打診があったのだ。
ケイン曰く。
『獣殺しの刃とラウラリスが懇意の仲であるとして、それらが揃って動くことは相互監視の意味をなさんとのことだ』
よってラウラリスの人となりを確かめるため、己の代理として近衛騎士と組ませることにした──とのこと。
それっぽい理由に聞こえはするがラウラリスからしてみれば、
(明らかに王妃に目の敵にされているなぁ)
間違いなく、王子に指南した一件が尾を引いていた。
もっとも、王妃の言い分を単なる建前と断じることもできない。
いくら獣殺しの刃が人間性を保証しようとも、ラウラリスの素性がしれないのは事実だ。王妃なりに己が強く信をおく者を近くおき、ラウラリスの正体を確かめようという意図もあるのだろう。
「森周辺に配置された亡国の見張り役ハ、先行した工作員が滞りなく排除したようだナ」
「つっても、定時連絡が無くなりゃ拠点にも異常事態が届く。先の手筈通り、こっからは迅速に動くよ」
「承知しタ」
既に出発前から馬車の中でも手筈は打ち合わせており、森の入り口に到着した時点では最終確認を行うのみである。ラウラリスが目配せするとアイゼンは後ろに控える部下たちに手振りで合図。足並みを揃えて森の中へと侵入していった。
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