転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第6章

第三十五話 動き出す同盟(明けましておめでとうございます)

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『亡国』にまつわる新たな情報が伝わったのは、同盟の発足から僅か半月ほどが経った頃であった。情報の出元は、同盟に参加した組織の一つ。観賞用植物の卸問屋の元締めであった。

 食用にも薬草にも使えぬただ鑑賞する植物は一般人にとっては無用の長物。その辺りに摘み取った花を飾って日常の一部を彩る程度は行いはするがその程度だ。

 だが、これが富裕層となれば話は別になる。どの分野にも好事家というのは存在しており、観葉植物も例外ではない。遠方から輸送した花の種や植物の苗を屋敷の庭園で栽培して楽しむ金持ちや貴族というのは案外に多い。未だ発見されていなかった新種の種苗などは、時折にとんでもない額が付く事もあるのだ。

 中には、職人の手によって全面硝子ガラス張の小屋を建てる趣味人もいるのだ。外気を遮断し日光が降り注ぐ事で、硝子小屋の内部は常に一定に保たれる。この仕組みのおかげで、雪降る真冬であろうとも暖かい気温の中で色に咲く花を楽しめるのである。

 余談が過ぎたが、本題はココからだ。

 当然の話であるが、観葉植物に通じているのであれば、医薬品の原料となる植物についてもシェアを有しているのは当然の帰結。亡国の情報はこの薬草取引の一つから露見したものだ。

 卸問屋と取引を行っているある業者が亡国の一部と通じており、大量の原材料が送り込まれているというものだ。同盟に召集されるだけありこの植物問屋もなかなかの規模を誇り、時折に監査の目が行き届かない部分も生じてくる。今回の発覚は、同盟参加を機に改めて注意の目を行き渡らせた結果である。

 ──というのが建前である。

 実際のところは蜥蜴の尻尾切り。卸問屋は業者が亡国と関わりのある事を承知の上で、大量の薬品を卸していたのである。

 だが、取引物はあくまでも国の法律に反しない品に限られており、仮に露見したとしてもギリギリで言い訳が立つ範囲であった。この辺りの采配バランスは流石である。

 当然、獣殺しの刃もこの事実だけは以前より把握していた。だが、取引物そのものは合法であるため、卸問屋を追い込むためには流通ルートを抑える必要があったが、具体的にどのルートを辿っていたかは巧妙に隠されて掴んでいなかったのだ。

 獣殺しや他の組織に表立って糾弾されるよりも早く、自分からというのもある意味での英断であろう。第三者からか自分からかで、印象はガラリと変わる。己の手で業者を告発する事によってあたかも自分を被害者のように装い、信用に対する傷を最低限に抑え込んだのである。


  
 対亡国同盟が発足してから初となる大規模な作戦が迫る中、王立図書館の地下にある獣殺しの刃本部にて、ケインとシドウは剣を交えていた。

 立ち合いの場はラウラリスの為人ひととなりを試す場として使われた闘技場であり、握られているのは当然だが模造剣。しかし、両者は真剣そのものであり、振るわれる剣は刃引きがなされていようとも肉を断ち骨を砕きうる気迫が込められていた。

 剣を幾十幾百と重ね合わせる。まるで轟々と猛る二つの炎が互いを飲み込まんと激しく燃え盛る。

 けれども、炎とは燃やす材料がなければいずれは鎮火する。先の体力ねんりょうを燃やし尽くしたのはケインの方であった。一際に強いシドウの剣圧に耐えきれず躰ごと弾き飛ばされる。どうにか両足で着地し転倒するような失態は晒さなかった。

 鋭く見据えるケインの視線を受け、シドウはしばし構えたままであったが、やがては剣を下ろした。

「今日はここまでだな」
「…………がはっ──」

 彼の言葉を皮切りに、ケインは大きく息を吐き出すと、崩れるように膝を折った。辛うじて剣で上体を支え、無様に倒れ込むのだけは防ぐが、誰がどう見ても限界を超えた状態であった。

「お前に直接稽古をつけるのは久しぶりだが、驚いたな。期間あたりの伸び具合は、ここ数年で間違いなく一番だ」
「……ありがとう……ございました」

 息も絶え絶えのケインとは対照的に、相対するシドウは小さく肩を上下しながらも健全だ。彼は剣を腰に収めながら、教え子に対して掛け値なしの称賛を送った。

「私以外に手本となる者がいた影響だろう。実に結構だ」
「…………くっ」

 あからさまにケインの表情が歪んだのは疲労だけが理由ではなかった。そんな弟子の様子にシドウは苦笑した。彼が顔を顰めた理由はなんとなく察した。

 シドウにも迫る実力者との邂逅によって、ケインは知らずの内に己の中にある壁を一つ壊したのだ。ただ当人としては、それを素直に認めるのが嫌なのであろう。

「しかし、若者の成長というのは時折に羨ましくなってくるな。少し目を離しただけでもこうも見違えるのだからな。彼女ラウラリスも、次に剣を交える時になればどれほどのものになっているのであろうか」

 ラウラリスの実力は、シドウの眼を持ってしても底が測れなかった。先日の手合わせでは肉体的な優位で押し切ったが、彼女の秘めたる技量に身体からだが追いついた時、いかほどの高みにたどり着くか興味半分不安半分というのが正直な感想であった。

「無論、だとしても早々にラウラリス君に遅れをとるつもりは無い。私もこう見えて成長の過程にあるのだからな。歩みの速度こそ君ら若人に劣るがな」

 シドウの言葉は何らハッタリではないのはケインが身に染みて分かっていた。

 ケインは獣殺しの刃の筆頭執行官であり、シドウの一番弟子だ。彼に戦う術を教わり始めるようになって随分の時間が経過していた。にも関わらず、シドウの剣は年を追うごとにより洗礼され、苛烈さを増していくのを剣を通して味わい続けていた。

 それこそ、己が師の領域に届くことがあるのか迷いが生じるほどに。
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