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第6章
第二十六話 漫画の四巻が出ます
しおりを挟むこんな不確定な情報を同盟会議の場で発すれば、亡国撲滅に向けて高まった機運を大きく損なっていたのは確かだった。尻込みをして不参加を表明する組織も出てきていたかもしれない。
ラウラリスの話は彼女自身が言うように、確固たる証拠もない要素を消去していった果てにある突拍子も無い仮説。だが、完全に無視を決め込むにはあまりにも危険すぎる可能性。
公には伝えずとも、あくまでも私見の一つとして共有しておくに留めておくのが善策だ。
「シドウに伝えるかは、最初に言った通りあんたの判断に任せる。もしかしたら、あんたにポロッと漏らしたのだって冗談だったかもしれないしね」
「……最悪、お前が危険分子と認識される可能性もあるが?」
内政を担う貴族の耳にでも入れば、過敏な反応を示す者が必ず出てくる。下手をすれば国家反逆の未遂として拘束される恐れもあるだろう。とは言え、シドウもラウラリスと同じ仮説に行き着いてあるのであれば、おいそれと他に漏れる心配はないだろうが。
「その辺りも含めてさ。一言も相談もなしにやるよりかはマシだろ」
あっけらかんとしたラウラリスの物言いであったが、ケインは静かに唾を飲み込んだ。
「結果的に亡国を潰せりゃぁ私としては特に問題はないよ。まぁあんたのいうとおりに反逆罪だなんだってなったら、国外逃亡でもさせてもらうがね。その時はまぁ、知り合いのよしみで手加減してくれるとありがたい」
冗談めいた台詞を笑いながら紡ぐが、根底にあるのは揺るぎない覚悟だ。
ラウラリスという女が思慮が深い女だと、ケインも理解をしている。即断即決に感じられるのは、思考の速度が常人を遥かに上回っているからにすぎない。
つまり──万が一にでも彼女の中に確信めいたものが生じ、狙うべきを定めた時、『必要』と断じれば決して躊躇わない。
ラウラリスが見せる普段の振る舞いは善に偏っている。けれども、その善を行うために悪を為すことに一切の躊躇がない。その覚悟を、ケインは幾度か目の当たりにしてきていた。
この少女は人に悪意を向けられることに慣れすぎている。憎しみを受けるのが当然の日々を生きていたかの如く。その全てを背負って彼女は己の成すべきを成そうとしている。
(これではまるで──)
「前々からちょっと気になってたんだがね」
「──ッ」
戦慄を抱いていたケインの懐に潜り込むと、ラウラリスは上目遣いで見据える。知った相手とは言え、あからさまに隙を晒していた事と自身の内面にまで入り込まれる感覚に、肩がわずかに震える。
「悪の秘密結社に所属してるにしちゃぁ、ちょいと真っ直ぐすぎやしないか、あんた」
「顔に出過ぎるといことか?」
「汚れ仕事をする人間の割には、感性がマトモすぎるって思ってね」
例を挙げるとすれば、ケインの相棒であるアマンであろう。ノリが軽く人当たりも良いが、ラウラリスの見立てでは中々に業を背負っていそうである。裏の仕事を生業にする人間等のはそう言った独特の気配というものがある。図書館の本部ですれ違った構成員や、資料室で対応してくれたクリンだって、差異はあれど同じだ。
だが、ケインはそうした気配が薄い。
己の職務に対する覚悟はあるのは違いない。一方で覚悟を抱くまでの業を、ラウラリスは感じ取ることができていない。この辺りがどうにもちぐはぐで気になるのだが。
「お前には関係のない話だろう、それは」
顔を逸らしながら答えるケインの表情には、いつになく明確な苛立ちが滲み出ていた。最初はキョトンとした顔になったラウラリスだったが、ケインから離れると気まずげに頭を掻いた。
「こいつはちょいとばっかし不粋が過ぎた。謝るよ」
普段の恍けた様子もなく申し訳なさを表すラウラリスに、ケインは喉の奥を重苦しく鳴らした後に、ゆっくりと首を横に振った。
「謝罪を受け取るほど何かをされたわけではない」
「あ、そ。ならいいや。与太話もここまでにして帰ろうかい」
「……それはそれで腹が立つな」
あっけらかんに笑って歩き出したラウラリスに、流石に言葉を向けるケイン。だが直前の嫌な空気は霧散し、いつものような呆れた風だった。
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