転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第6章

第十八話 ババァの忠告

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 会議室から出ると、廊下を進んだ先に壁に背を預けるアイルの姿があった。

「ようやく出てきた。待ってたんだよ」
「そりゃ悪い事をしたね」
「こっちが勝手に待ってただけだから良いよ」

 少し離れた位置には、若干居心地が悪そうなギルドの幹部がいる。早々に王城を出たいが、護衛役のアイルと離れるわけにもいかずに渋々止まっている……と言った具合か。

「あそこにいる可愛い子は知り合い? でもあの顔……」
「詮索は無しだ。二人で話がしたいから席を外しとくれ。そう時間は掛けないさ」

 アマンが何かに気がついた素振りを見せるが、ラウラリスが先んじて釘を打つ。察した彼は苦笑しながら頷くと、ギルド幹部のところまで歩いて行った。アマンの接近にピクリと反応しつつも、幹部は腕を組んで平静を保とうと努力をする。

「最後に別れてからこんなに早く会うとは思ってなかったよ」
「…………その節はどうも。あんな別れ方しといてこれじゃ、あまりにも格好が付かない」

 会議室にラウラリスが現れた時に、思わず顔を顰めてしまう程度には予想外であった。もっともそれはラウラリスも同じ出会ったが。

「私と顔を合わせるのが嫌なら、さっさと帰ればよかったろうに」
「意地の悪い事を言わないでよ。どんな顔してあえば良いか、君が会議室から出てくる直前までずっと悩んでただけ」

 アイルは少し前に、己の半身とも呼べる大事な人間を失っている。その傷を癒すにはまだまだ時間がかかるであろう。

 気まずげな表情なのは、彼女アイルの中でもまだ完全に整理がついていないからだ。それだけの事があったのはラウラリスも十分承知している。

「ラウラリスには世話になったからね。こうして顔を合わせたのは私なりの礼儀だよ」
「それでお前さんの気が済めば好きにすりゃぁ良いさ。前より元気そうなのは何よりだ」

 ただ、最後の別れ際よりも、今の彼女の顔には生気が満ちていた。確実に気持ちが前を向いている証拠だ。

「あそこにいるギルドのお偉方が、お前さんに脅されてるやつかい?」
「人聞きの悪いことは言わないでほしいな。君の監視業務は完遂したってことでもうお役御免だよ。会議の出席する代表者として選ばれたのは、純粋に彼の功績あってのものだよ」

 どことなく白々しい響きであったが、ラウラリスは深く聞かなかった。

「にしても、前に比べて雰囲気が随分と変わったね」
「……もう、隠す必要もなくなったしね」 

 アイルと出会った時は、躰の線を隠す服装をしており、性別を判断しにくい中性的な印象が強かった。だが今は、全体的にはさほど変わらずだが、誰が見ても『女性』と分かる容姿をしていた。

「よく押し込めてたな。さぞや窮屈だったろうに」
「君ほどじゃぁないけど、それなりには」

 ラウラリスの視線を受け、アイルは少しだけ恥ずかしげに胸の上に手を置いた。新たな自分にまだ慣れていないようだ。

「と、お偉いさんも待たせちゃってるしね。そろそろ私はいくけど、その前に聞きたい事があるんだ」

 ギルドの幹部の隣にいるアマンをチラ見する。和やかに手を振る彼を一瞥してから、アイルは声を顰めてラウラリスに囁いた。

「……『獣殺し』はどこまでやるつもりなの?」
「本題はそれか。どこまでも何も、徹底的にさ。私はそう聞いてる」

 会議室に出る直前に、ラウラリスもアマンに同じ事を問いかけた。

 返って答えは、まさしくラウラリスが言った通りだ。

 内通者がいる以上、対亡国同盟が成立したことは、当の亡国にも伝わることは明白だ。

 それを承知の上での会議開催だった。未だ水面下で蠢いている輩も含めて、まさしく草の根を分けてでも探し出して徹底的に叩き潰すと、アマンは言った。

「……派手なことになるね。少なく無い血が流れるよ」

 これまでは小規模だった戦闘が、大規模な正面衝突に移行するのは火を見るより明らか。参加を表明した組織にも、そして一般人にも被害が出るだろう。

「覚悟の上だとさ。ここは傷を負ってでも、国の奥に潜む膿を出し切るってな。最悪の場合、上層部の幾人かが腹を切る覚悟って言ってたよ」
「──ッ、そこまで」

 亡国を放置すれば、これまで以上の被害が出ることは確実。それを未然に防ぐ為には、身を捧げる所存だと。そしてそのうちの一人は確実にシドウであるのは間違いなかった。

「会議室で私が言っただろ。こいつは亡国を滅ぼすための戦争だ。綺麗事だけじゃ済まされないもんがあるってのは、お前さんもよく知ってるだろ」
「君の口から言われると、凄みが違うね。分かった、覚悟しておくよ」

 話はこれで終わりだと、アイルはラウラリスの元から離れる。

 だがその前にラウラリスが背中に言葉を投げかけた。

副業・・の方はしばらく控えるんだよ。怖い奴らが目を光らせてる」
「まったく、必要だったとはいえ面倒な事をしてくれたよ」

 やれやれと肩を竦めるアイルだったが、そんな彼女の肩を叩きラウラリスは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「ただ、真っ当な手段なら大歓迎だとさ」
「ご忠告どうもありがとう。なら怖い人たちに捕まらない程度には細々とやらせてもらうよ」

 じゃぁね、とアイルは今度こそラウラリスから離れると、ギルドの幹部と共に去って行った。
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