102 / 161
第6章
第十七話 眉間に皺寄せババァ
しおりを挟む補佐を含む代表者たちが全て退席し静まり返った会議室で、ラウラリスとアマンだけはそのまま残り続けていた。
会議の本題──同盟の締結については無事に終了した。参加した代表者たちの全員が賛同し、亡国に一丸となって対処することとなった。これ自体は非常に良いことだ。シドウを介して国が提示した条件や見返り等々。全てに納得したわけではないだろうが、妥協はできたということだ。
ただ、ラウラリスがこの同盟に全幅の信用を置いているかといえば、また違った。
「ケインがラウラリスちゃんに会議の参加を要請してきた時と同じくらいに、珍しい顔をしちゃってるね」
「比較対象がケインって事は、眉間の皺は相当だろうね」
アマンに指摘され、ラウラリスは己の眉間を揉みほぐす。若いうちから皺が寄りっぱなしだと、歳を取ってからが大変だ。
「んで、何が聞きたいのかな? ラウラリスちゃんもこの同盟では重要な立ち位置なんだ。俺に許される範囲であればなんでも答えるよ」
「そこは『全部』って保証するところだろ」
「個人的にはそうしてあげたいけど、俺も自分の命は惜しくてね」
アマンは苦笑しながら、己の首を手刀で叩く。余計な情報を漏らせば首が飛ぶという事だろう。おそらくは物理的な意味も込みで。
「ま、おおよそは答えられると思うけどね。だからこそ、うちの総長を俺を残していったんだろうし」
シドウは一足先に退席していた。後に続こうとしていたアマンだが、難しい顔のままラウラリスが席から立ち上がる様子が無いのを見て、この場に残るようアマンに指示を出したのだ。
「レヴンとこの会長とは違った意味でやりにくいよ、まったく」
「褒め言葉として、後で伝えておくよ」
悪口なのに、あの男に対しては本当に賞賛になりそうなのが少し腹立たしい。
物申したい気持ちを飲み込み、ラウラリスは会議の最中に抱いていた懸念をアマンに投げかける。
「ぶっちゃけた話、同盟に参加した組織の信憑性はどの程度なんだい?」
「やっぱり、そこは気になるよねぇ」
アマンは頭をぐしぐしと掻く。まさに、痛いところを突かれた風だ。
「私の見立てじゃ、いくつかの団体は亡国と裏で繋がってるね」
「ご明察だよ。参加した団体の中で亡国と繋がってる団体があるのは機関の方でも確認してる。参加要請の書状を送った時点で、機関もおおよそのアタリは付けてたんだ。ここしばらくはその裏どりで大忙しさ。しかも、最近に入ってきた『新人』が実に優秀でね。手土産にこちらでも把握してなかった情報を持ち込んできた」
その『新人』とやらが持参した情報によって、亡国と繋がっている組織を確実に絞り込むことができた。代償として、さらに情報精査に睡眠時間を削られたとアマンは嘆く。今この瞬間、目の前にベッドがあれば、確実に飛び込む自信があるとのことだ。
「疑惑がある組織まで、あえて呼び出したって事か」
「これだけ大々的に参加を呼びかけてんだよ? 呼ばなかったら「国はあなたの組織を疑ってます」って言ってるようなもんさ」
逆に呼び出したという事実があるなら、表立っては信用したって意思表示にはなる。
ラウラリスも皇帝時代によく使っていた手法だ。疑惑のある家臣をあえて懐に招く事で、信用していると見せかける。そのまま裏切らずにこちらに仕えるのなら良し。背信の兆候があればいち早く察知し『処理』することも可能だ。
「けど、そうなると事故の防止を保証した事が足枷にならないかい? 以前からアタリを付けてたって事は、獣殺しの標的候補だったわけだし」
同盟参加の見返りに、シドウは代表者と組織の長の身の安全を保障した。もしこれを反故にしたとなれば、根底が覆り同盟が瓦解する。戦々恐々でこの同盟発足の会議にやってきた者たちにとっては渡りに船の提案だったはずだ。
「亡国を本気で崩壊させるためだ。機関としても多少のおいたには目を瞑る。約束を反故にするつもりは毛頭ないよ」
だけど、とアマンは口端を釣り上げる。
「総長は別に犯罪行為まで見逃すとは言ってないよ」
「……なるほど、そういう事か」
その言い回しに、ラウラリスもすぐに合点が入った。
同盟の締結以降、亡国と内通している組織の要人を『獣殺しの刃』が暗殺する事はない。
だがそれは全ての違法を見逃すのと同義ではない。
亡国と裏で取引、内通をする組織だ。他にもきっと後ろ暗い何某に手を出していると考えるのが自然だ。シドウはその違法行為まで見逃すとは一言も口にしていなかった。
「むしろ、言葉の裏も理解できず、調子に乗って隙を見せてくりゃぁ儲けもん。証拠を集めて真正面から断罪するだけだ」
「これを機に、真っ当な組織に生まれ変わったとしたら?」
獣殺しの刃が身辺警護を担うという事は、言い換えればお膝元に監視役を入り込ませるという事だ。暗殺の心配は格段に減るが、悪事を為すのは難しくなる。もしかすれば、そのまま阿漕な行為から完全に手を洗う可能性もなくはない。
「その時は素直に喜ぶさ。組織の浄化に一役担ったってな具合にね。……軽蔑するかい?」
おそらく、そうした組織の悪事に泣かされた者が必ずいるはずだ。もしこの同盟を機に組織が健全化すれば、それまでの被害者の恨みつらみの全てに蓋をする事になる。真っ当な神経の持ち主であれば残酷な仕打ちであろう。
「残念なことに、その辺りに異を唱えられるほど私も真っ当な人生は歩んじゃいないんだ。軽蔑する資格はないよ」
ただ、とラウラリスは付け足す。
「表から叩き潰すときには是非とも声を掛けとくれ。喜んで参加させてもらうよ」
173
お気に入りに追加
13,882
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。