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第6章

第十五話 顰めっ面ババァ

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『亡国を憂える者』は近年において、エフィリス王国の平和と秩序を乱す最大の犯罪集団だ。二十年前に最初の活動が確認されて以降、王国は対処を続けてきた。

 だが亡国はこの国の裏に入り込み、どれほど討ち取ってもまるで生命力の強い雑草のように後から湧いてくる。拠点の破壊、幹部の討伐を幾度も行えどその都度に新たに現れるのである。

 だが、ここ一年にも満たない期間の間に、かつてないほどの速度で幾人もの亡国幹部が討伐、無力化され、それに伴い重要とされる拠点の破壊にも成功している。これにより、亡国の全体が大きく動揺しているのが王国の調査部によって確認がなされている。

 これは間違いなく好機ではあるが、同時に警戒すべき事態でもあった。窮地に陥った亡国が起死回生の一手──あるいは自暴自棄になって大規模な破壊活動を行う可能性もあるからだ。

 よって、各所の連携を密にし、再起が不可能になるほどの大打撃を与える必要がある。その為には、王国直下の組織のみならず、国内における有力組織の協力も必要と判断。王の号令の元に、対策会議の開催が決定されたのである。

「強制ではない。王の要請とはいえ、同盟を結び肩を並べるのは難しい面々がいるのも重々承知している」

 前口上を述べながら、シドウが参加者の面々を見据えた。彼らの中には、理由は違えど競合関係にある者たちもいる。平時であれば利があろうとも簡単には協力などしない間柄だ。

「だが、この場にいる皆は等しく『亡国』によって大きく被害をこうむっていると存じている。この千載一遇を逃す手はあるまい。打倒『亡国』のために日頃の諍いを胸の奥にしまいこみ、一致団結してほしい」

 求められるのは、亡国に関わる情報の共有に加え、複数の拠点、幹部を無力化するための実働要員の貸与だ。

 もっとも、参加団体には先触れの時点で会議の主旨については知らされており、この会議に参加した時点で、『共同戦線』への協力を前向きに検討していると捉えても良い。

「無論、国も最大限の見返りバックアップを用意させてもらおう」

 シドウが手を挙げると、背後に控えていたアマンが頷く。

「どうぞ」

 代表者たちの元へと赴き、彼らの手元に折り畳まれた紙片を置いていく。全てを周りアマンが戻ってきたところでシドウが再度口を開いた。

「今、お配りしたリストだが、各組織に入り込んだ『亡国』の内通者だ。是非とも組織の自浄に役立ててほしい。拘束、排除に手がほしい場合は後ほど申し立てて。適切な人員を用意し派遣させてもらおう」

 誰かが紙片を開くと、大きく息を呑んだ。おそらく、身近にいる誰か。あるいは予想外の名前がそこに記されているのであろう。またあるものはリストを目にゆっくりと頷く。予想通りであったのか、あるいはリストが白紙であったか。

 各々が十人十色の反応を見せる中、シドウはさらに続ける。 

「また同盟に参加していただけるこの場にいる各組織の代表者、及びにトップの方々はこれ以降、不慮の事故・・・・・に遭う可能性が格段に減るだろう。もし他にも不安があるのであれば、これについても全力で保障サポートをさせてもらう」

 この提案で、またもや会議室にどよめきが走る。シドウの語った言葉の『』を読み取れないほど、集った面々も愚かではなかった。シドウの正体を測りかねていた者たちもこれで気がついたに違いない。

『不慮の事故』とはつまり『獣殺しの刃』。

 存在は誰しもが噂程度には把握している。不法を持って秩序を守る闇の集団。

 シドウの言葉はつまり、同盟に参加すれば獣殺しの刃がこの場にいる全員と各々の組織のトップが獣殺しの刃の標的にすることは無くなる。加えて、他から差し向けられた暗殺者に対しても要請があれば身辺警護を派遣する、という意味。

 極端の話をすれば、国から身の安全を保障されるのと同義であった。

「ここまでで何か質問、あるいは異論があれば遠慮なく発言してほしい。同盟を結ぶ以上、疑いの余地は可能な限り排除しておきたい」

 シドウが語りを区切ると、代表者たちはざわめく。己の護衛と言葉を交わす者。他の組織を見渡す者。顎に手を当てて考え込む者。変わらず穏やかなままでいる者。

 そんな中で手を挙げるものが現れる。

「申し訳ない。そちらからの提案について今のところ申し上げる点はないが、どうしても分からないことがある」

 馬の畜産及びに育成、調教を行い各所に輸出を行っている大牧場の代表者だ。取引相手は国が有する軍隊やさまざまな商会。貴族とも多く商談を構えており、国内における割合シェアは全体の二割近くに匹敵するとされている。

「この会議に参加し席についている者は、各組織の代表者であるはず。だが、君の隣に座る少女はあまりにも場違いすぎる。まさか、そのお嬢さんもどこかの組織に属する重要な人物であるのだろうか」

 彼の発言に当てられ、多く視線が少女に集まった。まだ十代の半ばほどの少女にこの重要な場に派遣した事実は決して軽くない。果たしてどのような組織であるのか。

 ところが、シドウがその問いに対する答えを出す前に新たに手を挙げるものが現れた。それも三名だ。

「彼女については我ら献聖教会が身を保証いたしましょう」
「レヴン商会も同じく。むしろ、彼女以上にこの場に参加するに適した者もなかなかいない」
「──ハンターギルドとしても、異議を挟む余地はない」

 声を発した代表者たちが属する三つの組織は、規模においてはこの中では間違いなく最上位に食い込む。彼らが一様に認めたことで、一層に彼女への注目が集まる。

「発言された御三方の仰る通りだ。むしろ彼女こそ、この同盟発令の会議を開催するに至った最大の理由。この人物がいなければ、会議を開催するにあと数年。下手をすれば十年単位の時間を要していただろう」

 シドウの口ぶりは、まるで待ってましたと言わんばかりであった。

「ご紹介しよう。『剣姫』と名高い賞金稼ぎラウラリスだ」

 ──手振りを交えて名を呼ばれた当人ラウラリスは、テーブルに肘をついて顰めっ面を浮かべていた。
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