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第6章
第十三話 勇ある者たちの軌跡
しおりを挟む──勇者アベル・エフィリス。
帝国領外の僻地にあるユーフォ村にて誕生。
故郷の村を出た後に冒険者として立身。頭角を表していく中で帝国の侵略を目の当たりにし反抗組織に所属。最初の所属組織が壊滅した後は、帝国内で最大規模を誇る『獣殺しの刃』に参加。またもや組織崩壊の憂き目に遭うものの、卓越したリーダーシップによって残存勢力をまとめ上げ、また帝国に対抗するために諸外国同士の同盟を結ぶ橋渡し役として奔走する。
皇帝討伐後にエルダヌス帝国の名を改め『エリフィス王国』として建国。仲間の一人を王妃として迎える。エリフィス姓となったのもこの時からである。国土復興に伴い、帝国打倒に参列した各国との同盟維持に力を注いだ。
王位を息子に譲った後に病気を理由に表舞台から離脱。裏で『獣殺しの刃』を設立し初代の総長として就任。機関の今に至る基盤を作り上げた。
──セルシア・エフィリス。
旧姓セルシア・エンデ。
当時に世界で最も高い学術的水準を誇っていたエンデ王国の王女、。
長きに渡って帝国と同盟を結んでいたが、皇帝ラウラリスの代になってから同盟を一方的に破棄され、大軍勢の侵攻を受けて国は滅亡。討たれた王族の中で唯一逃げ延びた彼女は亡国の姫となる。
身分を隠し放浪の旅を続けていたが冒険者として活動していたアベルと出会い、以降は彼の仲間として活動する。豊富な知識と呪具を扱う術を持って仲間たちの多いな助けとなる。
皇帝討伐後は王となったアベルの妻になり献身的に彼を支えることとなる。
また彼女を中心に城内に呪具を扱う部署が設立。当時は戦争の道具であった呪具を日常に活用するための研究が進められ、今日まで続いている。
──ルルカ
勇者の仲間であり弓兵。
アベルよりも先輩の冒険者であり、新人だった彼と意気投合した最初の仲間。記録ではお調子者ではあるものの、気遣いのできる仲間想いの人物であったとされている。
皇帝討伐後は、戦争が無くなったことでそれらで生計を立てていた者たちを憂い、復興中の帝国内に冒険者ギルドを元にした『ハンターギルド』を設立。
初代ギルドマスターとなり、行き場を失った兵士たちの受け皿を作り、また復興に向かう王国の支援も行う。
なお当時の冒険者は『未開地域にて探索を行う者』であったが、これをもっと『金銭を得て狩猟や雑事を行う者』と広義的に捉えたのが『ハンター』である。
──スティン・レイフ
勇者の仲間であり放浪の騎士。
セルシアと同じく、帝国によって故郷を滅ぼされた亡国の騎士。
アベルの行動力と人柄に惚れて同行するようになり、以降は仲間たちの剣となり盾となる活躍を見せる。
皇帝討伐後は王となった後もアベルの元で活動し、エフィリス王国騎士団の初代団長となる。
アベルが獣殺しの刃を設立した際、騎士団内で見込みのあるものを機関へと斡旋。以降も騎士団の者に適性があれば機関に送り込む習わしが出来上がる。
──王国建国時以降における、初代国王たちについて。
初代国王たち──つまりは悪逆皇帝を打ち倒した勇者とその仲間たちを示している。
ラウラリスがクリンに頼んで集めさせたこの本には、彼らについての記述が残されている。国民や対外的に編纂されたものとは違う、忠実を元に製作され保存された資料だ。
これまでラウラリスは人伝で己を倒した勇者たちの余生について聞いていたが、せっかくどこよりも正確な資料が集まる場所にいるのだ。良い機会として改めて調べておきたくなったのだ。
(この子らには随分と苦労を掛けたからねぇ)
脳裏に去来するのは、かつての己──皇帝ラウラリスを討ちに来た勇者たちの姿。同行は逐一把握し容姿を含めて知ってはいた。だが、実際に彼らを目の当たりにしたのはあの時が初めてだったのだ。
人知れずに数多くの試練を勇者たちに与えた。もし彼らが真実を知れば決して自分を許しはしないだろう。だがそれでいいのだ。恨まれる為にやったことだ。
全てを乗り越えて現れた彼らは、まさしく『勇ある者』に違いなかった。そして剣を交えてより一層に実感した。彼らがふるう剣の一撃は皇帝に比肩しうる強さを宿していた。この者たちであれば、世界を任せることができると。
残された資料には、ラウラリスを討ち取った後の事を記してあり、ラウラリスは己の眼が決して間違いではなかったと実感した。おそらく、ここに書かれていない以上の苦労もあっただろうに、現在に至る平和の基礎を作り上げたのだ。
(……しかし、ユーフォ村か。久々にその名を目にしたな)
勇者の生まれ故郷であることは前世の時点でも知っていたが、今世で思い起こすのはおそらく初めてであろう。直接的ではないにしろ、ラウラリスにとって少しばかり因縁のある村だ。
「やめやめ。今更感傷的になる歳じゃぁないだろ。いや今は若いけども」
『己が皇帝であった頃よりも更に前』を振り返りそうになったところで、ラウラリスは呼び覚まされ掛けていた記憶をパタパタと手で仰いで振り払った。
休憩も終わりだ。そろそろ作業に戻ろうと机に向かおうとしたところで、資料室の扉が開かれた。
現れたのは──ケインとアマンであった。
「やっほー、ラウラリスちゃん。捗ってる? クリンちゃんも元気してた?」
女性二人の顔を見るなりに軽口を述べるアマンであったが、よくよく見ると以前に見た時よりも少しやつれているように見えた。クリンは黙したまま視線を向けるだけであり、変わりではないがラウラリスが声をかける。
「まぁぼちぼちってところだ。ところで、二人揃って何の用だい? 飯の時間にゃまだ早いよ」
「そいつは魅力的な提案だけど、今回は違ってね。……おいケイン、いつまで眉間に皺寄せてんの。これも仕事だろ」
部屋に入ってきた時点で気がついたが、ケインの顔が普段よりも二割増しで難しいものになっている。長い時間とは言えなくとも、それなりに付き合いができている。彼がこうした顔をしているときは、大抵何かがある。
それが果たしてラウラリスにとって愉快か不愉快になるかは、聞いてみなければわからないだろう。机に肘をつくと、ケインが重い口を開くのをラウラリスは口端を吊り上げながら待つのであった。
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