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第6章
第十一話 【転生ババァは見過ごせない!第四巻】が発売されましたよ!
しおりを挟む──亡国を憂える者。
亡国──つまりは滅びた帝国を憂い亡き皇帝陛下を信奉し、それらの復活を願うという妄執に囚わた集団であり、現代において暴力的政治主張紛いの犯罪を繰り返し、人々の暮らしを大いに脅かしている。ラウラリスにとっては、人生を懸けて成し遂げた大願にケチをつける傍迷惑な集団だ。
「ケイン執行官は、獣殺しの刃に所属する構成員の中で年齢的には若手に入りますが、所属年数はすでに長く、ベテランの域に達しています」
話には聞いていたが、過去の事例を読み解くとかなりの規模の被害が出ていることがよく分かった。実際に、ラウラリスが直面してきた事件でも、放置していれば被害者の数が二桁どころか三桁にも匹敵する事態になっていただろう。
「十代の半ば頃からシドウ総長が直々にスカウトし、自らの弟子として鍛え上げた今では筆頭と呼ばれるほどの実力者になりました」
亡国が活動を始めたとされるの当初は特に被害が甚大であった。獣殺しも対応が万全ではなく、町が一つを巻き込む凄惨な事件も起きている。人災においては、戦乱が絶えて浸しくなった近年においては稀に見るほどの犠牲者が出ていた。
「彼の補佐官であるアマンは、人としてはともかく能力は疑いようもなく、特に現地に赴いての情報収集能力は卓越しています。あれで機関に所属する女性の方々にもちょっかいを出す軟派なところがなければいうことはないのですが」
初期での対応が遅れた大きな理由の一つはやはり、亡国を憂える者が『突如』として出現したこと。前兆を把握できなかったことで、初動が完全に後手に回っていたのが被害拡大の理由だ。当時はこれで獣殺しも責任追及されてかなり肩身の苦しい時代だった記録にも記されている。
「また、当人は否定していますが、既に次期の総長との期待も寄せられており、かくいう私もシドウ総長の後を継がれるのはケイン執行官だと──」
ちなみに、これまでずっと喋り続けているのはラウラリスではなくクリンである。
いくらラウラリスでも無限に集中力が続くはずもなく、ずっと同じ姿勢で作業をしていれば躰も固まってくる。資料の熟読を中断し躰をほぐしている最中に、目についたのは背後に佇むクリン。
ラウラリスが資料室に篭り、夜になってケインに連れ出されるまでの間は、ずっと監視業務を遂行している。こちらから声をかけない限りは一言も喋らずに黙々とラウラリスを見据えている。しかも、常に適度な緊迫感を出していることから、力を抜いてサボっているわけでもない。こうした仕事には慣れているのだろう。
別にこれといった意図があったわけではない。ただなんとなくだ。本当に気まぐれにクリンにケインのことを聞いたのだ。本人からそれとなく話は聞いているが、具体的にケインがこの組織でどのような立場にいるのかにちょっとした興味を抱いたのだ。
──そこから抑揚もなく、淡々とであるが延々とケインの話がクリンの口から一時間近くも垂れ流されているのである。ラウラリスが休憩をやめ、作業を再開してからもずっとだ。
機密に関わるような内容はなく、ラウラリスが聞いてもさほど問題ない程度の話題を選択するあたりはさすがであるのだが。つまりクリンはケインの強火勢であることが話を聞いているだけでもよくわかった。案外と愉快な人間なのかもしれない。
ちなみにラウラリスは多忙を極める皇帝の時代から、書類作業をしながら部下の報告を聞くようなことは日常茶飯事。二つ三つの作業を同時進行するのは得意であり、 クリンの話を聞きながらも資料の読解もしっかり続けていた。
まだ全ての資料を読み解いてはいなかったが、ラウラリスの抱いた疑問を裏付けるには十分な材料が揃いつつあった。仮説の域を出なかった可能性が、残念なことに実態を帯び始める。
「──やっぱりそうか。あんまし当たっては欲しくはなかったんだがねぇ」
亡国を憂える者と最初に遭遇し、相対したエカロという幹部は『降霊術』と呼ばれるものに手を出していた。過去に死亡した戦歴豊富な人間の魂を呼び出し、今を生きる人間に憑依させることによって短時間で強い兵を生み出すという試みだ。
かつては帝国も同じような研究に手を出していた。あまりにも低い成功率の上に、兵の使い捨てを良しとしない皇帝自ら研究施設も資料も全て抹消したのをよく覚えている。
始末の悪いことに、エカロが最終的に呼び出そうとしていたのが、亡国の主──悪逆皇帝ラウラリス・エルダヌスだったのだ。つまりはどう足掻いてもエカロの試みは実を結ぶはずもなく、ラウラリスにとってはただただ迷惑な犯罪者と言った体であった。
以降もラウラリスは亡国を憂える者と関わっていくが、それらが手を出していた実験や所業は、かつては帝国が手を出し何かしらの形で破綻を迎えたものばかり。最初は単なる偶然だと。『馬鹿の考えることは似るのか』と思ったことがある。
しかし、時を置くごとにその考えは変化していった。
──あまりにも似すぎている、と。
だが、決めつけるには情報の数が足りなすぎる。ラウラリスが遭遇した事例だけでは、まだまだ『偶然』の域を超えなかった。獣殺しの刃にて亡国の資料を求めたのは、より多くの事例を正確に把握するため。
エカロ以前にも降霊術に手を出していた幹部もいたようだ。他にも似たような例が複数あるのは、他の幹部と共同で研究を行っていたか、幹部が捕縛ないし討伐された時に遺された資料を誰かしらが引き継いだから。
人格を呪具に複製し、個人を量産しようという計画。
肉体を保存し延命を行おうとする者。
呪具そのものを肉体に埋め込み、身体強化を図ろうとする試み。
マトモな良識を持つ人間であれば間違いなく目を覆いたくなるような行いの数々。全てそうではないにしろ、ラウラリスが知る過去の帝国の非道が、現代に甦った記録が多く確認できた。
ここまでの数が揃うとなるともはや偶然ではない。
必然の領域だ。
──誰かが意図的に、過去の研究を復活させている可能性がある。
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