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第6章
第四話 色々と再会するババァ
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デュランがノックをし、応接間の扉を開き中を見た途端、ラウラリスは盛大に顔を顰めた。
「お久しぶりですね、ラウラリスさん」
「ああ、そちらもお元気そうで何よりだよ」
下手の良い椅子にソファーに座るっている女性──ラクリマの声に、ラウラリスは顰め面を引っ込めて嬉しそうに呟いた。最後に顔を合わせたのは、彼女が極度の疲労でベッドから起き上がれなかった時だ。今は完全に回復しているようで、ラウラリスは安心した。
問題はラクリマの正面に座っている人間だ。もう一度目を向けると、やはり顔の筋肉が歪むのを止められない。
「──相変わらず、人の顔を見るなり酷い反応をしますね、あなたは」
「鏡で自分の顔を拝んでみな。胡散臭さの塊みたいな男がいるから」
ラウラリスが皮肉を多分に込めたセリフを吐くが、言葉を投げかけられた張本人は気を悪くした素振りを微塵にも見せずニコニコしていた。
アクリオ・レブン。
国内で屈指の規模を誇るレヴン商会の会長だ。第一印象は笑みの絶えない気さくな男であるが、必要であれば辣腕を振るうのも厭わない非常にやり手の商売人だ。ラウラリスが交友を深めたいとは思わない珍しい人間でもあった。
「実際に、胡散臭いですからね、うちの会長」
「他人事みたいに言ってんじゃないよヘクト。あんたも十分すぎるくらいに胡散臭い」
「えっ、僕もですか?」
心外だと言わんばかりに自身を指差すのは、アクリオの背後に立っている男だ。
ヘクト・レヴン。
アクリオの兄の息子──つまりは甥であり、こちらも商会の人間だ。なよっとした優男に見えるが、斧槍を自在に操る凄腕の金級のハンターでもある。人となりはともかく、実力の面で言えばラウラリスも認めるところだ。
「つかあんた、もう動けるのかい。しばらくはベットから起き上がれないくらいに全身をガタガタだっただろ」
「ガタガタにしたのはラウラリスさんなんですけどね……」
ヘクトは以前、ラウラリスと戦ったことがある。最終的な結果として、ラウラリスの完勝であり、代償として彼は酷い重傷を負った。
「とりあえず、得物を扱えるくらいには回復しましたよ。流石に全快とは程遠いですけどね」
言いながら袖をまくると、痛々しい包帯が撒かれていた。おそらく見せた部分だけでなく体の至る所に包帯があるのだろう。立ち姿に以前ほどの覇気がないのは、当人の言葉通り怪我が完治していないからだ。
胡散臭い商会長と、やはり胡散臭いその甥の組み合わせ。ラウラリスが顰めっ面になるのも無理はない。
「立ったままというのもアレですし、ラウラリスさんもお座りになって」
ラクリマの言葉に促され、ラウラリスは彼女の空いている隣のスペースに腰を下ろした。
もしレヴン商会が取引をしに来たのであれば──しかもわざわざ会長が出向くのであれば、教会側にはラクリマよりももっと適任がいる。財務を統括している枢機卿だ。実際に幾度か商談があったとは聞いている。
「私はラクリマさんに会いに来ただけであって、レヴン商会と面を合わせに来たんじゃないんだがな」
アクリオを睨め付けると、アクリオは笑みのまま木を開いた。
「実は王都には所用で来ていまして。さすがに私ごときが教皇様ご本人にお会いできるわけもないのですが──奇しくも枢機卿がいらっしゃるという話を耳に入れましたので、是非ともご挨拶にと」
「ちなみに僕は、会長の補佐と護衛の兼業です。本来はもうちょっと病院のベットで寝ていたいんですが。あと色々と入り用なので稼がなくちゃなので」
「そうか、頑張れ」
「やっぱり、僕に対してはちょっと冷たくありません?」
あまりにも短い返しに、ヘクトは少し悲痛な声を上げた。ただ、彼は商会やラウラリスに対して色々とやらかしているので自業自得だ。重傷を負ったのも、その過程で愛用の武器が破損したのも、武器を新調するための資金が必要なのも含めて。ついでに商会に対して不利益を行ったことへの罰則も全てが全てだ。フォローしてやる義理は一切ない。
もっとも、アクリオがこうして己の側に置いているということは、ヘクトはなんだかんだで得難い人材であることの証左でもあった。
ラクリマが口を開く。
「商会とのお話でしたら、私よりもビジネ枢機卿の方が適任ではあるのでしょうけど、レヴン商会には日頃から融通を利かせてもらってますから。稚拙ながら私が対応することになったのです」
「いえいえ、ご謙遜せずとも。次期教皇様のご尊顔を拝見できただけでも十分すぎるほどに成果はありましたとも」
アクリオの言葉は実に胡散臭いが、それを正面から受け止めて和かに対応できているあたりに、ラクリマも曲者だなとラウラリスは思った。|双剣を携えて戦う様は英傑さながらではあるが、人を束ねる上での狡猾さも兼ね揃えている。
「流石にビジネ卿を介さずに物資の購入をしたら大目玉ですので、ほとんどが世間話になっていたのですが、ちょうど共通の話題で盛り上がっていまして」
「……まさか、私のことで盛り上がってたんじゃないだろうね」
「相変わらず察しが良いですね」
ラウラリスの言葉をラクリマが肯定した。
教会と商会で盛り上がる共通の話題。商談以外で考えると一番最初に思い浮かぶのが自分だ。もちろん、探せば他にいくらでもあるだろうが、少なくとも直近で考えれば明白だ。
「ちょうどラウラリスさんの話をしていたら、大聖堂に当人がいらっしゃったという報告が来まして。もしよろしければと思ってデュランを向かわせたんです」
具体的にどんな話がされていたのかは気になるが、藪蛇の可能性もあるので置いておく。
「ところで、商会の方はいいとしてなんでラクリマさんまで王都に来てんだい? 拠点は別にあるだろう」
「私もアクリオさんと同じく所用で。ただ、私は名代です。本来であれば教皇猊下が呼ばれているのですが、あのお方は別件で今の本山にはおりません。そこで次期教皇という立場もあり、非常に面倒なのですが代わりに私がこちらに来た次第です」
「ぽろっと本音が出たね」
「あら嫌だ、聞かなかったことにしてちょうだいね」
口元に手を当てて「ほほほ」と誤魔化し笑いをするラクリマ。枢機卿という立場で普段は落ち着いた物腰なのだが、彼女は元々献聖騎士団の出身。若い頃はかなりヤンチャだったという話だ。根っこのところは武人肌で、時たまこういう雑なところが出てくるが、その辺りは愛嬌だろう。
「お久しぶりですね、ラウラリスさん」
「ああ、そちらもお元気そうで何よりだよ」
下手の良い椅子にソファーに座るっている女性──ラクリマの声に、ラウラリスは顰め面を引っ込めて嬉しそうに呟いた。最後に顔を合わせたのは、彼女が極度の疲労でベッドから起き上がれなかった時だ。今は完全に回復しているようで、ラウラリスは安心した。
問題はラクリマの正面に座っている人間だ。もう一度目を向けると、やはり顔の筋肉が歪むのを止められない。
「──相変わらず、人の顔を見るなり酷い反応をしますね、あなたは」
「鏡で自分の顔を拝んでみな。胡散臭さの塊みたいな男がいるから」
ラウラリスが皮肉を多分に込めたセリフを吐くが、言葉を投げかけられた張本人は気を悪くした素振りを微塵にも見せずニコニコしていた。
アクリオ・レブン。
国内で屈指の規模を誇るレヴン商会の会長だ。第一印象は笑みの絶えない気さくな男であるが、必要であれば辣腕を振るうのも厭わない非常にやり手の商売人だ。ラウラリスが交友を深めたいとは思わない珍しい人間でもあった。
「実際に、胡散臭いですからね、うちの会長」
「他人事みたいに言ってんじゃないよヘクト。あんたも十分すぎるくらいに胡散臭い」
「えっ、僕もですか?」
心外だと言わんばかりに自身を指差すのは、アクリオの背後に立っている男だ。
ヘクト・レヴン。
アクリオの兄の息子──つまりは甥であり、こちらも商会の人間だ。なよっとした優男に見えるが、斧槍を自在に操る凄腕の金級のハンターでもある。人となりはともかく、実力の面で言えばラウラリスも認めるところだ。
「つかあんた、もう動けるのかい。しばらくはベットから起き上がれないくらいに全身をガタガタだっただろ」
「ガタガタにしたのはラウラリスさんなんですけどね……」
ヘクトは以前、ラウラリスと戦ったことがある。最終的な結果として、ラウラリスの完勝であり、代償として彼は酷い重傷を負った。
「とりあえず、得物を扱えるくらいには回復しましたよ。流石に全快とは程遠いですけどね」
言いながら袖をまくると、痛々しい包帯が撒かれていた。おそらく見せた部分だけでなく体の至る所に包帯があるのだろう。立ち姿に以前ほどの覇気がないのは、当人の言葉通り怪我が完治していないからだ。
胡散臭い商会長と、やはり胡散臭いその甥の組み合わせ。ラウラリスが顰めっ面になるのも無理はない。
「立ったままというのもアレですし、ラウラリスさんもお座りになって」
ラクリマの言葉に促され、ラウラリスは彼女の空いている隣のスペースに腰を下ろした。
もしレヴン商会が取引をしに来たのであれば──しかもわざわざ会長が出向くのであれば、教会側にはラクリマよりももっと適任がいる。財務を統括している枢機卿だ。実際に幾度か商談があったとは聞いている。
「私はラクリマさんに会いに来ただけであって、レヴン商会と面を合わせに来たんじゃないんだがな」
アクリオを睨め付けると、アクリオは笑みのまま木を開いた。
「実は王都には所用で来ていまして。さすがに私ごときが教皇様ご本人にお会いできるわけもないのですが──奇しくも枢機卿がいらっしゃるという話を耳に入れましたので、是非ともご挨拶にと」
「ちなみに僕は、会長の補佐と護衛の兼業です。本来はもうちょっと病院のベットで寝ていたいんですが。あと色々と入り用なので稼がなくちゃなので」
「そうか、頑張れ」
「やっぱり、僕に対してはちょっと冷たくありません?」
あまりにも短い返しに、ヘクトは少し悲痛な声を上げた。ただ、彼は商会やラウラリスに対して色々とやらかしているので自業自得だ。重傷を負ったのも、その過程で愛用の武器が破損したのも、武器を新調するための資金が必要なのも含めて。ついでに商会に対して不利益を行ったことへの罰則も全てが全てだ。フォローしてやる義理は一切ない。
もっとも、アクリオがこうして己の側に置いているということは、ヘクトはなんだかんだで得難い人材であることの証左でもあった。
ラクリマが口を開く。
「商会とのお話でしたら、私よりもビジネ枢機卿の方が適任ではあるのでしょうけど、レヴン商会には日頃から融通を利かせてもらってますから。稚拙ながら私が対応することになったのです」
「いえいえ、ご謙遜せずとも。次期教皇様のご尊顔を拝見できただけでも十分すぎるほどに成果はありましたとも」
アクリオの言葉は実に胡散臭いが、それを正面から受け止めて和かに対応できているあたりに、ラクリマも曲者だなとラウラリスは思った。|双剣を携えて戦う様は英傑さながらではあるが、人を束ねる上での狡猾さも兼ね揃えている。
「流石にビジネ卿を介さずに物資の購入をしたら大目玉ですので、ほとんどが世間話になっていたのですが、ちょうど共通の話題で盛り上がっていまして」
「……まさか、私のことで盛り上がってたんじゃないだろうね」
「相変わらず察しが良いですね」
ラウラリスの言葉をラクリマが肯定した。
教会と商会で盛り上がる共通の話題。商談以外で考えると一番最初に思い浮かぶのが自分だ。もちろん、探せば他にいくらでもあるだろうが、少なくとも直近で考えれば明白だ。
「ちょうどラウラリスさんの話をしていたら、大聖堂に当人がいらっしゃったという報告が来まして。もしよろしければと思ってデュランを向かわせたんです」
具体的にどんな話がされていたのかは気になるが、藪蛇の可能性もあるので置いておく。
「ところで、商会の方はいいとしてなんでラクリマさんまで王都に来てんだい? 拠点は別にあるだろう」
「私もアクリオさんと同じく所用で。ただ、私は名代です。本来であれば教皇猊下が呼ばれているのですが、あのお方は別件で今の本山にはおりません。そこで次期教皇という立場もあり、非常に面倒なのですが代わりに私がこちらに来た次第です」
「ぽろっと本音が出たね」
「あら嫌だ、聞かなかったことにしてちょうだいね」
口元に手を当てて「ほほほ」と誤魔化し笑いをするラクリマ。枢機卿という立場で普段は落ち着いた物腰なのだが、彼女は元々献聖騎士団の出身。若い頃はかなりヤンチャだったという話だ。根っこのところは武人肌で、時たまこういう雑なところが出てくるが、その辺りは愛嬌だろう。
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