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第7章 それぞれのクエスト 編

第 413 話 一緒に居たい

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「 三月みつきと……会ったの?!」

 遥とタフカから、ここに到る経緯を聞いていた篤樹は思わず声を上げた。

「ちゃうって! せっかちやなぁ……ちゃんと話を聞きなさいよぉ!」

 話の腰を折られた遥が苦笑いを浮かべ、手刀で篤樹の腹を軽く叩く。その様子を面白く無さそうに睨みつつ、タフカが話を続ける。

「カミュキ族の村を出た後、サーガワーの分身体を見つけた。まあ、その時はそれがヤツ本体だと思ったんだが……弱すぎた。討ち取った感が無かった。だから情報を得るため、子どもたちがエルとミツキを見送った うろを再度調べた。彼に会えたなら、道を示してくれるだろうと思ったからな」

 タフカは少し寂し気な目を伏せ、再び鋭い視線を篤樹に向け直す。

「賢者の森への行き方はやはり分からなかったが、ミツキ以上の情報提供者と会うことが出来た。……例の『光る子ども』だ」

 篤樹はタフカの言葉に驚き目を見開く。横に立つエシャーも、篤樹の腕をギュッと掴み反応する。

「ウチと兄さまは抵抗する間も無くアイツの光に飲み込まれてな……で、強制的にアイツから『体験』させられたんよ。この世界で起こった全ての出来事を……最初っからな。情報多くて、もう、頭がおかしゅうなるか思ったで!」

 遥はわざとらしくウンザリ顔を作り、肩をすくめた。

「ハルカたちも……全部『見て来た』んだ……」

 確かめるように声を発したエシャーに、遥は苦笑いを見せうなずいた。

「ほんでな……こっからが本題や!」

 口調を改め、遥が篤樹とエシャーを見る。

「あの運転手さん本体の復活が差し迫っとるやん? で、賀川を急いで相沢くんのとこに行かせろって言われたんよ、あの光るチビから」

「へ? 相沢……『タクヤの塔』ってこと? ってか、なんで俺をあの光る子どもが指名すんだよ!」

 篤樹の質問に、遥は一瞬言葉に詰まったが、すぐに話を続けた。

「そりゃ……なんか……補佐官が賀川を指名したとか……なんとか……」

「補佐官……エルグレドさんが……」

 妖精王の子どもたちからの情報で、エルグレドは賢者の森……杉野三月が創り出した特殊空間に連れて行かれている……そのことを、篤樹は改めて認識した。「この世界」に来て以来、篤樹を助け支え導いてくれた「頼れる大人」と、もう……「終わりの時」まで会えない……

「とにかくや!」

 思い巡らす篤樹に向かい、遥が有無を言わせぬ口調で投げかけた。

「あの運転手さんがこの世界をどうするつもりなんか知らんけど、絶対、良くないことをやるつもりに決まっとる! 賀川も『見て来た』やろ? あのオッサン、完全に頭イッてるで! 人が苦しんだり悲しんだり嫌がったりするんを見て『輝く』とか、無茶苦茶やん?」

 遥の言葉に、篤樹はハッと目を上げる。神村勇気から得た「情報」には、バスガイド加藤美咲の「記憶」も含まれていた……そこで「見た」運転手佐川の異常性……力によって弱者を貪り喰らうサーガの本質そのものを思い出し、篤樹は嫌悪感を眉に表わす。

「先生たちの力も弱ぁなって来とるらしいしな。あのオッサン……先生たちもこの星の人たちも、全部まとめて『喰う』つもりやで? ヨダレ垂らして嬉しそうに『輝き』ながらなぁ……」

「そんな真似、絶対にさせない!」

 怪談話でもするかのような顔芸付きで焚き付ける遥に、篤樹は真顔で応えた。「せやろ?!」と相槌を打って遥は続ける。

「そこで賀川の出番っちゅうワケよ! この星の地核への入口・全地を巡る法力の中心基点上に建てられた『タクヤの塔』に、すぐに向かってちょうだいな! あのオッサンが出て来んごと、ガツンと一発かましちゃって!」

 交渉のまとまり具合に手応えを感じた遥が、満面の笑みで篤樹に指示を出す。

「遥……お前やっぱ何か企んでんじゃ無いの?」

 遥の様子に引っ掛かりを感じ、篤樹は怪訝そうに尋ねる。遥は「ヤバッ!」と目を見開き、首を左右にブルブルと振った。

「な、なんも企んどりゃせんよ! 適材適所の共同作業やで? 賀川は『タクヤの塔』に行って佐川のオッサンを相手にする、ウチらはヒョコヒョコ顔出すオッサンの分身体を潰して回るってことよ! モンマッ!」

 これ以上勘繰られたくないのか、遥は妖精王の子どもである男児妖精モンマを呼んだ。

「ほな、賀川を『例の うろ』んとこまで連れてってやって!」

 呼ばれたモンマは軽くうなずき、篤樹に顔を向ける。

「その剣を使えば法力走くらい出来るだろ? 全力で走るから、遅れずに付いて来いよカガワアツキ」

「待って!」

 すぐに駆け出しそうなモンマの背に、エシャーが慌てて声をかけ遥に顔を向ける。

「ねえ、ハルカ。私もアッキーと一緒に行って良いよね?」

 話の流れから、自分も同行して良いのかどうか判断出来ず、不安そうにエシャーは尋ねた。

「え? あ……いや……」

 遥は返答に困ったように苦笑いを浮かべる。

「……光るチビ助に言われたんは『佐川と戦えるのはウチらだけや』って話で……どっちでもいいから、1人を向こうに連れて行くって話やったから……」

「ん? 遥……俺が『指名された』ってさっき……」

 遥の言葉に引っ掛かり、篤樹が口を挟む。即座に遥は手をバタバタと振り訂正を入れる。

「そうそう! 補佐官からの推薦な! 光る子ども的にはどっちでもエエってことやったけど、そこは補佐官の推薦に従うんが1番やろって話よ! なんや、あのチビが向こうまで飛ばす方法持っとるらしくってな。ただ……1人だけって言われとるしなぁ……。エシャーちゃんはウチらとこっちに残って一緒に……」

「いやっ! 私はアッキーと一緒に行く!」

 エシャーは遥の目をジッと見つめながら宣言した。

「ハルカだってタフカや子どもたちと一緒に居たいからこっちに残るんでしょ? 私はアッキーと一緒に居たいから、付いて行く!」

 真剣なエシャーの眼差しに遥は唖然とし、細く笑み首を左右に振る。

「…… かなわんなぁ、エシャーちゃんの鑑定眼は。そうや……あの光るチビ助が言うにゃあ、『タクヤの塔』まで連れて行けるんはウチか賀川のどっちか1人だけってこと。ましてや、兄さまも子どもたちもなんて無理なんやと。この世界のルールに従った移動しか出来ひんからって言われてな……スマン、賀川」

 両手を合わせて目を伏せ、遥は篤樹に頭を下げた。

「別に騙すつもりは無かったし、補佐官が賀川を推してるっちゅうのもホントのことや。ただ、光る子どもが『どっちでも良い』っち言うたんも事実なんよ! ウチ……兄さまたちと離れるんは……イヤや!」

 ほぼ開き直りに近い強引な遥の交渉に、篤樹は思わず吹き出した。

「馬鹿か、お前……っと、悪い意味じゃ無くて!」

 タフカからの殺気を帯びた視線に反応し、篤樹は慌てて言葉を選び直す。

「最初からそう言えば良いだろ? 分かったよ……もう。でも、光る子どもが準備してる移動方法ってのが『おひとり様限定』なんだったら、やっぱりエシャーはこっちに残って……」

 篤樹は視線をエシャーに向け、言葉を切った。エシャーの大きな目がさらに見開かれ、今にも怒りの色を帯びそうな気配を感じ、篤樹は即座に話の流れを変える。

「……ってことになるかも知れないけど、とにかく『洞』まで一緒に行ってみようか?」

 どうやら上手く話を繋げられたようで、エシャーの目に射しかかった陰りが晴れ、喜びの色が充ちた。

「うん! 光る子どもの方法で行けなくても、絶対に2人で行こうね!」

 笑顔のエシャーの返答に、篤樹も安堵の笑みを浮かべうなずき返す。ふと、遥がニヤニヤと見つめていることに気付き篤樹はハッとする。

「な、なんだよ……」

「いんにゃあ、別に何でも無いよぉ。何や、エシャーちゃんと会うてから、賀川もオトナの階段のぼっとるんやなぁって思っただけぇ。ええこっちゃ!」

 遥からの明らかな冷やかしに、篤樹は頬の火照りを感じながら「馬鹿……」と小さく呟いた。

「もう良いか? アイツは『急げ』と言ってたぞ?」

 モンマが苛々とした口調で呼びかける。

「せやったな! ほら、そんじゃエシャーちゃんも……」

 遥も表情を改めエシャーと篤樹に声をかけた。篤樹は成者の剣を握り直し、法力走の呼吸を整える。

「……じゃ、行って来るよ」

 篤樹は遥に声をかけ、タフカに軽く会釈をすると、エシャーと視線を合わせ駆け出した。先に駆け出していったモンマに、すぐに追いついた篤樹の走力を遥は感心して見送る。

「ほえぇ……話には聞いとったけど、ホンマに賀川も少しは魔法術使えるようになっとんやねぇ」

「ふん。あの剣の能力に過ぎんさ……さて……」

 遥の感想にタフカが応じ、視線を神殿方向に向け直す。

「神殿の法力に誘われてるのか……立て続けだな。来るぞ……」

 タフカの言葉が終わる前から、遥も妖精王の子どもたちも、土中に潜む敵意を感じ取り臨戦態勢をとっていた。

「兄さま……」

 遥はタフカの横に立ち、視線を「泥中の邪気」に向けたまま語りかける。

「『最後』まで……ウチと一緒におってね……」

「何を今さら……」

 呆れ声で顔を向けたタフカの唇に、遥は自分の唇をしっかりと押し当てた。
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