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第1章 旅立ちの日 編
第 6-2 話 エシャーの家②
しおりを挟む小人族の血を引いてるっていうから、てっきりお父さんは「おじいさん似」かと思ったけど……
「やあ、いらっしゃい」
「あ……どうも、お邪魔します。えっと、僕は……」
「立ってるのもなんだろう。そこの椅子にでも座りなさい」
ルロエは本棚の前に置いてある丸椅子を指さした。すると、丸椅子がフワリと浮き上がり篤樹の目の前に移動してきた。
うわ、この人も魔法使いなんだ……
篤樹は驚きつつも、両手でしっかり丸椅子の座面を 握って安定を確認し、恐る恐る腰を下ろした。
「ははは、そんなに怖がらないでいいよ」
ルロエは篤樹の心を 見透かしたように言葉をかける。
「さて、君の事情は父からの『 伝心』で大体分かってるから安心したまえ」
「え? 伝心?」
「そう。父から『 歓迎と 祝福』を受けただろ?」
篤樹は何のことかと考えた。あ、そういえば部屋を出る時に何か不思議な「 輪」が……
「小さな村とは言っても、ここは数百人のルエルフが住む村だからね。色々な情報を共有しておかないと、共同体としての社会が成りたたない。一人ずつに情報を伝えていくのは時間差もあるし、情報が間違ってしまう場合もある。そこで便利なのがこの『伝心というルー』なんだよ」
「ルー」……古代から在る精霊やエルフ達の魔法みたいなものだって言ってたアレかぁ。おばあちゃんの所の「町内放送」みたいなものかなぁ? あ、それでさっき、初めて会ったエシャーのお母さんからも名前で呼ばれたのかぁ……
「という事で、君も私のことは父から簡単には聞いてるだろう? エシャーの父のルロエだ。初めまして」
ルロエは椅子に座ったまま篤樹に 握手を求めてきた。「あ、ども…」と篤樹も手を差し出す。ルロエの手からガッシリとした力強さを感じた。保体の岡部よりよほど力強い手だ。父さんよりも大きい手だ。
「ところで、君は何歳だい?」
「あ、14……もうすぐ15歳の誕生日です」
修学旅行が終わって10日もすれば15歳の誕生日を迎えるはずだった。受験生だから「絶対にダメだ」と言われてた誕生日のプレゼントのリクエストも、結局は後期から受験が終わるまで 封印するという約束で、最新のテレビゲームを買ってもらう予定だった。買うと決まったらネット通販で買ったほうが安いって、父さんと母さんがパソコンやスマホで調べてたよなぁ。もう注文したのかなぁ……
「そうか15歳か……エシャーも今年で15歳になる。同じ歳なんだね。この村で今年15歳になるのはあの子だけなんだよ。まあ、ここにいる間は仲良くしてやってくれ。ところで君たちの世界では『成者の儀式』は何をするんだい?」
「は? シゲルモノの儀式、ですか?」
「ん? いや、15歳なら 成者だろ? 大人として歩み出す大事な 節目だ。何も無いのかい?」
「大人……あ! 成人式ですか?」
「セイジンシキ? それが成者の儀の名前か? いや、お互い別世界だから勝手が違うなぁ」
「あ、いえ。あ、と……僕はまだ成人式には出ません……っていうか出られません15歳なんで……」
「なに? 15歳は大人の仲間入りの歳……では無いのかい?」
「はい。僕らの世界では18歳……いや、20歳? えっと、どっちかです」
「成者の歳が決まっていないのか?」
「そうじゃなくって……前は20歳って決まってたんですけど、法律が変わって18歳になったんです。でも、20歳は20歳で意味があるからって……それに18歳だと受験生が成人式に出るのは 難しいから……」
「分からん!」
ルロエは 怪訝そうに顔をしかめた。
「いくら違う世界と言っても、大人と子どもの区別くらいはキチンとつけていなければ社会が混乱するんじゃないのか?」
「そうは言われても……」
あれ? なんで俺が怒られなきゃいけないんだ?
篤樹がは面白く無さそうに顔を曇らせたことに気付き、ルロエは口調を改める。
「ああ、スマない。じゃあ、確認だが、アツキくん……君はまだ、君の世界での成者の儀を終えていない『子ども』なんだね?」
「あ、はい。そうです」
「そうか……」
ルロエは何かを考えるように口を右手で 覆った。何だろう? 子どもだと何か問題でもあるんだろうか? ルロエが口を開くのを待つ。1~2分ほどの時間が、篤樹にはとても長い時間のように思えた。
「明日……」
ルロエが口を開く。
「明日、湖神様のもとにお伺いに行くから、きっとその時にハッキリするとは思うのだが……」
「はい?」
「うん……君も父から聞いたように、私たちルエルフはこの村から生涯に一度だけ外界との往復が許されている……というか、許されることもある。全員じゃないんだ。許しをいただけるのは……」
「……というと?」
「うん……いくつか条件がある……みたいだ」
「条件?」
「そう。定めるのは 湖神様自身なので、私たちがその全てを知るわけではないが……とにかく、今まで外界へ行くことが許されたのは全て『成者の儀』を終えた者、つまり15歳以上の『大人』であることだけは絶対の条件のようなのだよ」
「大人? 15歳?」
「そう……それで、とにかく君の求める答えは、この村の中では得られないだろうから外界へ行くしかないとは思う。だが君はまだ君の世界でも子どもだというし、この世界でも15歳に数日満たないという。それが気になってねぇ……」
「じゃあ……僕はこの村から明日は出ることは出来ない、ってことですか?」
ルロエはおもむろに机の上に置いていた 棒弓銃を持ち上げた。別に、何か意味が有るわけでもなさそうだ。ただ、考えをまとめる間の「もてあます時間」を棒弓銃で 紛らわそうとしている様子だ。
「それは分からない……なにせ決めるのは湖神様だからなぁ。ただ、成者の儀を終えていない者が外界への旅を許可された前例がない、って事は覚えておいたほうが良い。場合によっては君が15歳を迎える日まで、あと……」
「12日……くらいです」
「うん。その間は許されないかも知れないな……」
12日……ってことは10倍で120日!
「そんな、困ります! そんなに長い間帰らなかったら……」
父さんや母さんに心配をかけてしまう! ニュースでも行方不明の中学生として有名になっちゃうかも知れない。それに……高校受験の中学三年生なのに3ヶ月以上も授業が遅れたら……志望校のランクも下げなきゃいけないし……
「とにかく、どうなるかは分からない。明日、湖神様にお伺いするまではね。あと……」
ルロエは机の上に置いていた小さな布を手にとると、棒弓銃を 磨くように撫でながら続けた。
「君は『自分の世界』に帰りたいというが、この村を出て外界に行ったとしても、そこは『君の世界』ではなく私たちの『世界』、まあ、この村を 含めて私たちが生きている『世界』だ、という事を忘れてはいけない」
そうだった……この村から出たら元の世界に戻れるという保証は無いんだ……篤樹もそのことは心の片隅で理解していた。でも「たった数時間」の間に起こった、あまりにも突然の 奇妙な出来事にまだ頭がついていかないのだ。
もしかすると事故で頭を強く打って、悪い夢を見てるだけなのかも知れない。でも「夢」というにはあまりにも意識がハッキリとしている。それとも俺は……実はもう「死」んじゃってて、ここは死後の世界とか? いや、それにしちゃみんな「普通に生活」をしている。エルフとか小人とかだけど……
「それはそうですけど、ここにずっといるわけにはいきません。ここで答えが分からないなら、別の場所……外界……で何かヒントを探さないと……」
「確かにそうだね……うん。行くしか道は無いんだがねぇ……」
ルロエは棒弓銃を元の場所に置きなおした。
「どんな結果が出ても、気を落とさずに次の手を考えていくことを覚えていて欲しいんだよ。そうすれば一度の『結果』で絶望せずに、その『経過』の先に別の『結果』を見つけ出す希望を 抱き続けることが出来るのだからね」
「……はい」
ルロエは篤樹の返事に微笑んで 頷く。
「さて、つまらん不安感を与えてしまったね。お? そろそろかな?」
階段を駆け上がってくるエシャーの軽やかな足音が聞こえてきた。
「ごはんできたよー!」
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