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第3章 エルグレドの旅 編
第 153 話 予言者の正体
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篤樹はエルグレドに促されるまま、バスの絵を描いた。法術を使えないので当然ながらエルグレドが描く「モノクロ写真」のような出来ではないし、記憶を頼りに描くので自分でも「何かがおかしい」とは思いつつ、しかし「予言者の鏡」がどの位置に付いていたのかを説明するには十分なイラストを皆に見せた。
「あら! アッキーって絵心が有るじゃない。可愛らしい貨車ね」
レイラが微笑みながら作品の講評をする。
「あ……すみません……絵は得意じゃなくて……。それと、これは馬とかに引かれて動くんじゃなくて、エンジンが付いてて……運転手さんが運転して……」
篤樹はしどろもどろな説明をしばらく加えたが、車の運転を「見る」機会は多かったのに、それがどうして動くのかという原理については何も知らないのだという事を改めて思い知る事になってしまった。
「まあとにかく、アッキーは説明出来ないけど、この『バス』って乗りモンには、馬を使わないで走らせる『えんじん』とかいう道具が付いてるってことなんだよな?」
スレヤーが話をまとめ上げてくれたので、篤樹もそれに乗じて頷く事で「バスの説明」は終わりとなった。
「つまりはその『バス』の後方を確認するための『鏡』だったということですね……やっぱり『チガセ』由来の材質でしたか……あの『鏡』は」
エルグレドは納得したように頷きつつ呟く。
「この世界にはいくつかの『伝説の道具』が在ります。その多くが創世の時代から存在していると言われるものです。アツキくんとハルカさんが見つけた『導く者の杖』も、メノウ婆が見つけた『予言者の鏡』も……他にもまだ在るんです」
「『導く者の杖』って……あっ! あの 錆びた棒……」
篤樹は一瞬エルグレドが何の話をしているのか分からなかったが、意味が分かると興奮したように同意する。
「そうです! あの『タフカを操っていた棒』も……僕らの世界で、バスガイドさんが使っていた棒でした」
「って事は、アッキーが持ってる『 成者の剣』も……ですかい?」
スレヤーが口を挟む。エルグレドは首を 傾げながら応えた。
「どうでしょうか? 素材の一部として『チガセ』の道具が混ざっているのかも知れませんね。その『バス』という乗り物は大きな鉄の加工品だという事ですし……」
「エルがアルビで使った『妖精の剣』もそうなのかなぁ?」
エシャーからの質問に、エルグレドは微笑みながら応える。
「そうなのかも知れませんね。あの後もいくつか『法力増幅素材』で作られた剣を持つ機会がありましたが、あれほどの『力』を感じるものにはまだ出会っていません。特別な力……特別な素材の剣なのでしょう。さて……」
エルグレドは「予言者の鏡」の出処を確認し、満足した様子で語り始めた。
「まあ、そういう不思議な『鏡』を通し、私は数百年前のメノウさんとの再会を果たしたんです」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
エグザルレイはなるべく簡単に、理路整然と説明しようと心掛けた。だが、そんな配慮や事情など全くおかまい無しに、メノウは思いつくまま口を挟む。おかげで事情説明に1時間以上も費やす事となってしまった。
「……とにかくメノウ婆さん! 良いですか? そちらは今からが大変な苦しみの時代が始まります。でも、私が必ず……300数十年後には必ずグラディーを囲む壁を打ち破り、グラディーを解放しますから!」
「ふぅ……分かったよエル。お前の言葉……その約束を皆にも伝えておくよ……。でも信じない連中がおるんじゃろ? それが原因で人属戦士達が争うことになるのは……やっぱり嫌じゃなぁ……」
「メノウさん!」
エグザルレイは苦笑しながら呼びかける。
「大事なことなんです……希望の約束を握って下さる方々もいます。その方々のおかげで、私はこちらでもグラディーの戦士として戦えるんです。だから……お願いしますよ!」
「そうじゃなぁ……うん……分かったよ。わしがこんなに無駄に長生きできて来たのも、この使命のためだったのかも知れん。予言者なんて……気は進まんがなぁ……」
エグザルレイは鏡の中のメノウに優しく微笑みかけた。
「よろしくお願いします。あの……ところで……姉さま……ミルカやトッパのことですが……」
「おお!……ミルカか……うん……あの子とは10年ほど前に別れたきりじゃでな……よくは分からん……でもトルパなら……おーい!」
そう大声を出すとメノウが鏡面から消えた。エグザルレイの胸が高鳴る。
トッパは……まだ……
「こっちじゃこっち。ほれ、顔を見せておあげ」
再び鏡面に登場したメノウは誰かの手を引いて来た。
「もう……お婆さまったら……はいはい。こんにちは」
鏡面に現れたのは20代前半の女性……間違いない!
「トッパ……トッパ……ですよね?」
ミルカを見ているような気持になるくらい、エグザルレイの記憶に残る姉の顔立ちそっくりの女性に語りかける。しかし、その反応は……
「あーあ……今日はいつもより疲れた顔してるなぁ……しっかりしないと!」
トルパはそう言うと、自分の頬を両手で包むようにパシンと叩く。
「さあさ、お婆さま。『鏡遊び』は終わりにされて、もうお戻り下さいな」
「トッパ……聞こえて……いないんですか……」
エグザルレイは食い入るように鏡面を覗き込む。鏡面から一瞬見えなくなったトルパはもう一度鏡を覗き込むように顔を出し、おもむろに満面の笑顔を作る。
「お婆さま、先に出ますけどお早めにね。私もそろそろ交代の時間ですから」
そう言い残し、今度こそ鏡面から消えてしまった。代わって、再びメノウが顔を出す。
「あの 娘には見えも聞こえもしとらんようじゃのう……エル。分かったかい? 今のがトルパじゃ」
「ええ……姉さまそっくりに成長したんですね……元気そうでなによりです……」
複雑な気持ちでエグザルレイは答えた。
元気そう?いや……トッパもメノウさんももう今はいない……300年以上も昔に……
「そう言えばメノウさん。そこは……どこなんですか? 私たちの集落では無いですよね?」
「んん? どこと聞かれてもなぁ……わしもよくは分からん。ミルカたちに連れられて集落を出、森や山を転々と渡り歩いて来たからのぉ……前の集落からはかなり東に移ったところ……じゃないかのぉ……」
前の集落からかなり東……という事は位置的にも、今のこの村と合致しますね……
「エルフのフィリーちゃんがお前と一緒にあの集落を出た後……ほどなくしてあの『壁』に囲まれてなぁ。10年くらいが経つ頃には、グラディーの各部族は自分達の部族が生き延びるために 小競り合いを始めおった。それだけじゃなく、集落の中でも争いが起こってなぁ……ミルカやトッパ、あと何人かの未亡人たちは冷遇されてな。わしも役立たずな食い 扶持じゃと言われて……」
「皆で集落を出られたんですね?」
エグザルレイが確認するように尋ねると、メノウは深く頷いた。
そうでしたか……思っていたよりも早い時期から、姉さまたちはあの集落を出ていたんですね……
「……移動の途中で盗賊にも襲われたりしてなぁ……ミルカとは10年前に離れ離れになったっきりなんじゃ……」
ということは……フィリーと私が集落を出て20年ほどって事ですか……メノウさんとトッパの「今」は……
「ここには、わしらのように他の集落から居場所を追われた人属が何人か集まっておってな……で、この 祠を見つけたんじゃ。不思議な水晶鏡が有ってなぁ……」
「そうですね……不思議な素材です。この『鏡』は一体誰が……メノウさん?」
エグザルレイは鏡面に変化が起こった事に気付いた。メノウの姿がまるで霧の中に消えて行くように白くボンヤリとかすみ出している。
「メノウさん! メノウさん!」
両手で「鏡」を握りしめて叫ぶエグザルレイの声に対し、メノウからの返事は聞こえてこない。やがて、鏡面は再びエグザルレイの顔を映し出していた。
「終わったのかい?」
祠の外からアイルが声をかける。エグザルレイはまだ鏡面を見つめながら応じた。
「……不思議な『鏡』ですね……予言者の鏡……」
そう呟きながら顔を上げる。
「どうやら『予言』は、今日この時までのことしか分かっていないみたいです……これから先については……私たちが自分の手で切り 拓いていくしかありません……」
私が今、メノウさんに語った内容が「予言」として伝えられて来たというわけですから……
「そうか……何か秘策でも有ればと期待したんだけどな……仕方ない。作戦を練ろう」
アイルは残念そうに呟きつつも笑顔で応え、エグザルレイに外へ出てくるように手招きをした。エグザルレイはその招きのまま出口へ向かう。
「予言者の鏡」ですか……こんなものがなぜここに……。一体誰が……
「ダメッ!」
「予言者の鏡」を持ったまま祠を出ようとしたエグザルレイの意識の中に、何者かの叫び声が<攻撃>してきた。
「グアッ!」
突然、意識の中への「攻撃」を受け、エグザルレイは膝をつき片手で頭を押さえる。
「その鏡をここから出してはダメ! すぐに元の場所に戻して! 早く!」
声はなおも攻撃的にエグザルレイの意識に叫び続ける。一体……
「何者……ですか?……あなたは……」
エグザルレイは意識の苦痛に耐えながら、声の主に向かって問いかけた。
「この鏡は『ガラス』で出来てるの! 気づかれたら『あの 娘』が来ちゃう! この結界から出してはダメ! 元の場所に置いてここから出て行って!」
なにを……言ってるんですか……この人は……? この 女? ガラス? あの 娘」とは……
「お願い!『あの子たち』が来るまでは、この鏡をここから出さないで!」
声の力はますます強くなって来る。エグザルレイは向きを変え、ヨロめきながら祠の中を移動し「鏡」を元の石棚の上に置いた。
メノウさんではない……誰だ?……この『鏡』に宿る強大な力……ミツキさんを上回るほどの力なんて……
「あなたの身の上話は聞いたわ。でも……ごめんなさい。あなた方の力にはなれないの……ごめんなさい……」
エグザルレイが「鏡」から両手を離す間際、その「声」は申し訳なさそうに語りかけて来た。
やれやれ……「旅の宿題」がまた増えてしまいましたね……
額に浮かぶ汗を手で拭い、エグザルレイは鏡面に向かい苦笑いを映した。
……あなたが一体何者なのか……いつか突き止めてみせますよ「鏡の中の本物の予言者」さん……
「おい! 大丈夫か? 何か問題でも……」
アイルが再び祠の入口から顔を覗かせる。
「いえ、大丈夫です」
エグザルレイは答えると、祠の出口に向かい歩き出した。
「お時間をとらせてすみませんでした……さあ、皆さんの所へ戻りましょう!」
森の出口に着くまでに、エグザルレイはアイルに祠の中での出来事を報告する。
「……にわかには信じられない話だが……ま、あんたがそう言うんならそうだったんだろうよ」
「すみませんね。とにかく『この先』をどう切り拓くか……まずは皆さんと合流して……」
エグザルレイは言葉を切った。村の人々が慌ただしく駆け回っている。何人もが村と森を囲む石積の防塁壁によじ登って騒いでいた。
「どうしたんだ?」
アイルもその様子に気付く。2人は目配せと同時に、防塁壁へ向かい駆け出した。
「あら! アッキーって絵心が有るじゃない。可愛らしい貨車ね」
レイラが微笑みながら作品の講評をする。
「あ……すみません……絵は得意じゃなくて……。それと、これは馬とかに引かれて動くんじゃなくて、エンジンが付いてて……運転手さんが運転して……」
篤樹はしどろもどろな説明をしばらく加えたが、車の運転を「見る」機会は多かったのに、それがどうして動くのかという原理については何も知らないのだという事を改めて思い知る事になってしまった。
「まあとにかく、アッキーは説明出来ないけど、この『バス』って乗りモンには、馬を使わないで走らせる『えんじん』とかいう道具が付いてるってことなんだよな?」
スレヤーが話をまとめ上げてくれたので、篤樹もそれに乗じて頷く事で「バスの説明」は終わりとなった。
「つまりはその『バス』の後方を確認するための『鏡』だったということですね……やっぱり『チガセ』由来の材質でしたか……あの『鏡』は」
エルグレドは納得したように頷きつつ呟く。
「この世界にはいくつかの『伝説の道具』が在ります。その多くが創世の時代から存在していると言われるものです。アツキくんとハルカさんが見つけた『導く者の杖』も、メノウ婆が見つけた『予言者の鏡』も……他にもまだ在るんです」
「『導く者の杖』って……あっ! あの 錆びた棒……」
篤樹は一瞬エルグレドが何の話をしているのか分からなかったが、意味が分かると興奮したように同意する。
「そうです! あの『タフカを操っていた棒』も……僕らの世界で、バスガイドさんが使っていた棒でした」
「って事は、アッキーが持ってる『 成者の剣』も……ですかい?」
スレヤーが口を挟む。エルグレドは首を 傾げながら応えた。
「どうでしょうか? 素材の一部として『チガセ』の道具が混ざっているのかも知れませんね。その『バス』という乗り物は大きな鉄の加工品だという事ですし……」
「エルがアルビで使った『妖精の剣』もそうなのかなぁ?」
エシャーからの質問に、エルグレドは微笑みながら応える。
「そうなのかも知れませんね。あの後もいくつか『法力増幅素材』で作られた剣を持つ機会がありましたが、あれほどの『力』を感じるものにはまだ出会っていません。特別な力……特別な素材の剣なのでしょう。さて……」
エルグレドは「予言者の鏡」の出処を確認し、満足した様子で語り始めた。
「まあ、そういう不思議な『鏡』を通し、私は数百年前のメノウさんとの再会を果たしたんです」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
エグザルレイはなるべく簡単に、理路整然と説明しようと心掛けた。だが、そんな配慮や事情など全くおかまい無しに、メノウは思いつくまま口を挟む。おかげで事情説明に1時間以上も費やす事となってしまった。
「……とにかくメノウ婆さん! 良いですか? そちらは今からが大変な苦しみの時代が始まります。でも、私が必ず……300数十年後には必ずグラディーを囲む壁を打ち破り、グラディーを解放しますから!」
「ふぅ……分かったよエル。お前の言葉……その約束を皆にも伝えておくよ……。でも信じない連中がおるんじゃろ? それが原因で人属戦士達が争うことになるのは……やっぱり嫌じゃなぁ……」
「メノウさん!」
エグザルレイは苦笑しながら呼びかける。
「大事なことなんです……希望の約束を握って下さる方々もいます。その方々のおかげで、私はこちらでもグラディーの戦士として戦えるんです。だから……お願いしますよ!」
「そうじゃなぁ……うん……分かったよ。わしがこんなに無駄に長生きできて来たのも、この使命のためだったのかも知れん。予言者なんて……気は進まんがなぁ……」
エグザルレイは鏡の中のメノウに優しく微笑みかけた。
「よろしくお願いします。あの……ところで……姉さま……ミルカやトッパのことですが……」
「おお!……ミルカか……うん……あの子とは10年ほど前に別れたきりじゃでな……よくは分からん……でもトルパなら……おーい!」
そう大声を出すとメノウが鏡面から消えた。エグザルレイの胸が高鳴る。
トッパは……まだ……
「こっちじゃこっち。ほれ、顔を見せておあげ」
再び鏡面に登場したメノウは誰かの手を引いて来た。
「もう……お婆さまったら……はいはい。こんにちは」
鏡面に現れたのは20代前半の女性……間違いない!
「トッパ……トッパ……ですよね?」
ミルカを見ているような気持になるくらい、エグザルレイの記憶に残る姉の顔立ちそっくりの女性に語りかける。しかし、その反応は……
「あーあ……今日はいつもより疲れた顔してるなぁ……しっかりしないと!」
トルパはそう言うと、自分の頬を両手で包むようにパシンと叩く。
「さあさ、お婆さま。『鏡遊び』は終わりにされて、もうお戻り下さいな」
「トッパ……聞こえて……いないんですか……」
エグザルレイは食い入るように鏡面を覗き込む。鏡面から一瞬見えなくなったトルパはもう一度鏡を覗き込むように顔を出し、おもむろに満面の笑顔を作る。
「お婆さま、先に出ますけどお早めにね。私もそろそろ交代の時間ですから」
そう言い残し、今度こそ鏡面から消えてしまった。代わって、再びメノウが顔を出す。
「あの 娘には見えも聞こえもしとらんようじゃのう……エル。分かったかい? 今のがトルパじゃ」
「ええ……姉さまそっくりに成長したんですね……元気そうでなによりです……」
複雑な気持ちでエグザルレイは答えた。
元気そう?いや……トッパもメノウさんももう今はいない……300年以上も昔に……
「そう言えばメノウさん。そこは……どこなんですか? 私たちの集落では無いですよね?」
「んん? どこと聞かれてもなぁ……わしもよくは分からん。ミルカたちに連れられて集落を出、森や山を転々と渡り歩いて来たからのぉ……前の集落からはかなり東に移ったところ……じゃないかのぉ……」
前の集落からかなり東……という事は位置的にも、今のこの村と合致しますね……
「エルフのフィリーちゃんがお前と一緒にあの集落を出た後……ほどなくしてあの『壁』に囲まれてなぁ。10年くらいが経つ頃には、グラディーの各部族は自分達の部族が生き延びるために 小競り合いを始めおった。それだけじゃなく、集落の中でも争いが起こってなぁ……ミルカやトッパ、あと何人かの未亡人たちは冷遇されてな。わしも役立たずな食い 扶持じゃと言われて……」
「皆で集落を出られたんですね?」
エグザルレイが確認するように尋ねると、メノウは深く頷いた。
そうでしたか……思っていたよりも早い時期から、姉さまたちはあの集落を出ていたんですね……
「……移動の途中で盗賊にも襲われたりしてなぁ……ミルカとは10年前に離れ離れになったっきりなんじゃ……」
ということは……フィリーと私が集落を出て20年ほどって事ですか……メノウさんとトッパの「今」は……
「ここには、わしらのように他の集落から居場所を追われた人属が何人か集まっておってな……で、この 祠を見つけたんじゃ。不思議な水晶鏡が有ってなぁ……」
「そうですね……不思議な素材です。この『鏡』は一体誰が……メノウさん?」
エグザルレイは鏡面に変化が起こった事に気付いた。メノウの姿がまるで霧の中に消えて行くように白くボンヤリとかすみ出している。
「メノウさん! メノウさん!」
両手で「鏡」を握りしめて叫ぶエグザルレイの声に対し、メノウからの返事は聞こえてこない。やがて、鏡面は再びエグザルレイの顔を映し出していた。
「終わったのかい?」
祠の外からアイルが声をかける。エグザルレイはまだ鏡面を見つめながら応じた。
「……不思議な『鏡』ですね……予言者の鏡……」
そう呟きながら顔を上げる。
「どうやら『予言』は、今日この時までのことしか分かっていないみたいです……これから先については……私たちが自分の手で切り 拓いていくしかありません……」
私が今、メノウさんに語った内容が「予言」として伝えられて来たというわけですから……
「そうか……何か秘策でも有ればと期待したんだけどな……仕方ない。作戦を練ろう」
アイルは残念そうに呟きつつも笑顔で応え、エグザルレイに外へ出てくるように手招きをした。エグザルレイはその招きのまま出口へ向かう。
「予言者の鏡」ですか……こんなものがなぜここに……。一体誰が……
「ダメッ!」
「予言者の鏡」を持ったまま祠を出ようとしたエグザルレイの意識の中に、何者かの叫び声が<攻撃>してきた。
「グアッ!」
突然、意識の中への「攻撃」を受け、エグザルレイは膝をつき片手で頭を押さえる。
「その鏡をここから出してはダメ! すぐに元の場所に戻して! 早く!」
声はなおも攻撃的にエグザルレイの意識に叫び続ける。一体……
「何者……ですか?……あなたは……」
エグザルレイは意識の苦痛に耐えながら、声の主に向かって問いかけた。
「この鏡は『ガラス』で出来てるの! 気づかれたら『あの 娘』が来ちゃう! この結界から出してはダメ! 元の場所に置いてここから出て行って!」
なにを……言ってるんですか……この人は……? この 女? ガラス? あの 娘」とは……
「お願い!『あの子たち』が来るまでは、この鏡をここから出さないで!」
声の力はますます強くなって来る。エグザルレイは向きを変え、ヨロめきながら祠の中を移動し「鏡」を元の石棚の上に置いた。
メノウさんではない……誰だ?……この『鏡』に宿る強大な力……ミツキさんを上回るほどの力なんて……
「あなたの身の上話は聞いたわ。でも……ごめんなさい。あなた方の力にはなれないの……ごめんなさい……」
エグザルレイが「鏡」から両手を離す間際、その「声」は申し訳なさそうに語りかけて来た。
やれやれ……「旅の宿題」がまた増えてしまいましたね……
額に浮かぶ汗を手で拭い、エグザルレイは鏡面に向かい苦笑いを映した。
……あなたが一体何者なのか……いつか突き止めてみせますよ「鏡の中の本物の予言者」さん……
「おい! 大丈夫か? 何か問題でも……」
アイルが再び祠の入口から顔を覗かせる。
「いえ、大丈夫です」
エグザルレイは答えると、祠の出口に向かい歩き出した。
「お時間をとらせてすみませんでした……さあ、皆さんの所へ戻りましょう!」
森の出口に着くまでに、エグザルレイはアイルに祠の中での出来事を報告する。
「……にわかには信じられない話だが……ま、あんたがそう言うんならそうだったんだろうよ」
「すみませんね。とにかく『この先』をどう切り拓くか……まずは皆さんと合流して……」
エグザルレイは言葉を切った。村の人々が慌ただしく駆け回っている。何人もが村と森を囲む石積の防塁壁によじ登って騒いでいた。
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