童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ

文字の大きさ
上 下
5 / 17

第5話 流れ着いた森

しおりを挟む
 アントン達が乗る葉っぱの舟は、水が引いた草地の森へ無事に流れ着きました。

「いやぁ……今回はまた 随分ずいぶんと流されちまったなぁ……」

 ギリィは辺りの様子を確認しながら笑います。

「……坊やはこれからどうするつもり?」

 リンから たずねられ、アントンは返答に困りました。

 どうするって聞かれても……

「僕の巣穴……どこに在るんですか?」

「んあ? 元の場所にあんじゃねぇか? アリの巣なんだからよぉ」

 ギリィは手ごろな草を引き抜くと、口に 頬張ほおばりムシャムシャとみ始めます。

「もう! ちゃんと答えて上げなさいよ!」

 リンはギリィの後頭部をコツンと叩きました。

「あっちから流れて来たから……水が全部引いたら、水の あと辿たどって行けば帰りつけるわよ」

 上流を指さしながらリンは優しく 微笑ほほえみ、アントンに帰り道を教えてあげました。でも、アントンはとても不安そうに上流を見つめます。



「リンさん達は……どうするんですか? あの野原には帰らないんですか?」

「帰るさぁ!……秋までにはな」

 そう言ってギリィは、手に残っていた草の 欠片かけらを口に入れました。

「あたし達は別に急ぎの用もないからねぇ……気ままにのんびり演奏旅行でもしながら、秋が来るまでには帰るわよ」

 リンも柔らかそうな薄緑色の草を見つけ、美味しそうに食べています。アントンは何だか自分もお腹が空き始めて来ました。

 グゥ……キュキュ……

 お腹が空いたなと思った 途端とたんにお腹が鳴り、アントンは思わずお腹を押さえます。

「お? 何とも せつない腹の音色が聞こえて来たなぁ?」

 ギリィはそう言って笑うと辺りを見回し、適当な草へピョンと跳び上って行きました。

「さあて……上手く見つかるかしらねぇ……」

 アントンの そばにリンは寄り、ギリィの姿が消えた草を見上げます。

「え? ギリィさん……何か探し物ですか?」

 アントンも同じように顔を上げました。しばらく見上げていると……

「うわぁっ! とと……」

 突然、空からギリィが降って来ました。

「わっ!」

 アントンは急いで 退きます。ギリィは着地を失敗して打ったお尻を さすりながら、アントンに語りかけました。

「 坊主ぼうずついて来な! お ぇが好きそうな食いモン見つけたぜぇ!」

 ギリィはそう言うと、草の森へと入って行きます。

「あら? わりと簡単に見つかったわねぇ……雨上がりなのに。坊や、ついて行くと良いわ。さあ……」

 リンもギリィの後に従いました。

「え? あの……でも僕……」

 アントンは帰り道になるはずの川の上流をチラッと見ましたが、草の森に消えていく2人の背中も気になります。

 グゥ……

 再びお腹が鳴りました。アントンは覚悟を決めると、急いで2人の後を追いかけます。

「たぁしか、こっちの ほうに見えたんだけど……」

 先頭を行くギリィは進路を確かめるようにブツブツ呟きながら進みます。しばらく進んで行くと、アントンはギリィの行き先が分かってきました。

「あ……この甘い香り……」

「お? さすがアリん子だねぇ、 においで分かったかい?」

 得意気なギリィの声を聞きながら、アントンは甘い香りに向かって一直線に け出しました。

 やっぱりそうだ!

 草の森が開けた場所に、花の くきが並んで立っています。茎にはビッシリ、アブラムシの集団が雨宿りをしていました。

「お前ぇらの食いモンはあれだろ? でも交渉こうしょうは自分でしなよ」

 ギリィは楽しそうに言うと、近くの草をもぎ取り自分の口へ運びます。アブラムシの「甘露かんろ」を分けてもらうため、アントンはオズオズと進み出しました。

「あ……あのぉ……」

  茎の下のほうにいるアブラムシに、アントンはドキドキしながら声をかけます。

「お休みのところすみません……。あの……僕……お腹がペコペコなんです……。良かったら甘露を分けてもらえませんか?」

「んあ? アリん子か……勝手に吸ってってくれや」

 アブラムシは、おしりに付いている透明の球体を後ろ あしで触りながら答えました。

「ありがとうございます!」

 アントンは元気にお礼を言うと急いで茎に上り、甘露の球をつけているアブラムシ数匹の間を行ったり来たりしながら食事をしました。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

2分で読める絵本シリーズ②『まぎらわしい漢字の絵本』

カワカツ
絵本
😲見た目が似ている「まぎらわしい漢字」13組を使った、2分で読める短い文章の絵本です。高学年以上向き。

2分で読める絵本シリーズ①『つまんない』

カワカツ
絵本
💢アンガーマネジメント(怒り感情のコントロール)を題材とした、2分で読める高学年以上向けの絵本です。

おえかきのせかい

グラタン
絵本
みんなはおえかきがすきかな? きょうはみんなでおえかきをしよう! おはなやどうぶつ、おかあさんやおとうさん! なんでもかいていいよ! さぁ、おえかきのせかいにいこう!

ぽぽみんとふしぎなめがね

珊瑚やよい(にん)
絵本
 ぽぽみんが「いいなぁ〜」っと思ったおめめに変身するお話です。ほら子供ってすぐ人のモノほしがるでしょ?  0才から3才の子供向けの絵本です。親子で読んでいただけたら幸いです。  わーい!! おかげさまでアルファポリスの絵本コンテストで奨励賞を頂きました!! 読んでくださった皆さんありがとうございます。  いつか津田健次郎さんが読み聞かせして下さらないかな♡♡♡   《誕生秘話》  漫画『呪術廻戦』が大好きで、その中に『ナナミン』というニックネームのキャラクターがいらっしゃいます(本名 七海建人)。  ナナミンって口に出すとリズミカルで言いやすいし、覚えやすいし、響きもいいのでお得満載だと思ったの。そこから『みん』をとりました。というか私が個人的にナナミンが大好き。  『ぽぽ』はなんとなく子供が言いやすそうだから。  ちなみにぽぽみんのシッポの柄とメガネのデザインもナナミンからきています。さあくんの名前とデザインは……ほら……あれですね。ナナミンの先輩のあの方ですね。この絵本はオタクママの産物。  カタツムリは以前娘が飼っていたカタツムリの『やゆよ』。  消防車は息子が好きな乗り物。  魚は以前飼っていた金魚の『もんちゃん』のギョロ目を参考にしています。  ぽぽみんの頭の形は、おやつに娘が食べていた大福です。大福を2回かじるとぽぽみんの頭の形になりますよ。今度やってみて。アイディアってひょんな事から思いつくんですよ。  体のデザインは私が難しいイラストが描けないので単純なモノになりました。ミッフィちゃんみたいに横向かない設定なんです。なぜなら私が描けないから。  そんなこんなで生まれたのが『ぽぽみん』です。  

スライムのおしごと

バナナ男さん
絵本
スライムのお仕事はとっても大変! そんなスライムさんの一日を書いてみました・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃

たいせつなじかん

あおむら なつ
絵本
春のあたたかな風に誘われて、カヌーでお出かけです。大人も子供も、ゆっくりすごす時間を大切にしてほしい、、、そんな願いをこめた絵本です。

ちきゅうのおみやげ(α版)

山碕田鶴
絵本
宇宙人の たこ1号 が地球観光から戻ってきました。おみやげは何かな? 「まちがいさがし」をしながらお話が進む絵本です。フルカラー版と白黒版があります。フルカラー、白黒共に絵柄は同じです。 カラーユニバーサルデザイン推奨色使用。  ※絵本レイアウト+加筆修正した改稿版が「絵本ひろば」にあります。

おにの子

よこいみさと
絵本
鬼の子のお話。

処理中です...