童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ

文字の大きさ
上 下
4 / 17

第4話 流葉(ながれは)のステージ

しおりを挟む
「うわーー!」

 アントンは崩れた土砂に巻き込まれ、川の中まで押し流されてしまいました。

「誰かぁ……助け……」

 水の流れに浮き上がったアントンを、 激流げきりゅうはどんどん下流へ流して行きます。

 もう……ダメかも……



 アントンが あきらめかかったその時……

「小僧! つかまれ!」

 すぐ近くで誰かの叫び声が聞こえます。目を開くと、真横に葉っぱのふちが見えました。アントンは急いでその縁をつかみ、葉っぱの上に乗り移ります。

「ふぅ……間に合ったな……」

「あ……」

 葉っぱの上には、数日前に出会ったキリギリスのギリィと、見知らぬ女の人がいました。

「あら? 誰を助けるのかと思ったら……。いらっしゃい、アリん子さん」

「あの……あなたは……」

「ん? 俺はキリギリスのギリィ。で、こっちは……」

鈴虫すずむしのリンよ。よろしくね、坊や。……どうしたの? せっかく助けてあげたのに……」

 アントンは助かったことを喜んだのも つか、父アリからの言いつけを やぶってしまったという罪悪感ざいあくかんで気持ちが しずんでしまいました。アントンの くもった表情に気付いたリンが、 不思議ふしぎそうにたずねます。

「……僕……ギリィさんとは……ちょっと……」

 ギリィとリンはアントンの返事を聞くとキョトンとし、次にリンは怒った声で言いました。

「ギリィ! あんたこんな小さな子に、いったい何をしたんだい!」

「は? いや……ちょ、ちょっと待てよ! 何の話だよ!」

 リンは手に持っていた小枝でギリィを数発叩きます。

「坊や、大丈夫よ! 安心なさい。コイツが何かしてもあたしが守って上げるから」

「え? いや……あの……」

 突然の 乱闘らんとうに、アントンは驚きながら答えました。

「ち……違うんです! 別にギリィさんから何かされたワケじゃなくって……」

「あら? 違うの? なぁんだ」

「『なぁんだ』じゃねぇだろリン! 急に何しやがるんだよ!  ってぇなぁ……」

 ギリィは2本の手を使い、リンから叩かれた身体をさすっています。

「お前ぇのせいで変な 誤解ごかいされただろが、坊主! ん……お ぇは……」

 アントンの顔をマジマジと確かめると、ギリィは笑顔になりました。

「なぁんだ! あん時の小僧じゃねぇか! えっと……アトム? アントー?」

「……アントン……です」

「あっ! そうそう! それだ! 働き者のアリん子アントン!」

 ギリィは うれしそうにアントンの名前を呼びました。

「で? その坊やが、どうしてコイツにそんな 態度たいどをとってるワケ?」

 リンが不思議そうに尋ねます。

「あの……お父さんとお母さんから……ギリィさんとはお話をしちゃダメって。……会っても 無視むししなさいって……」

「はぁ? お前ぇの 親父おやじとおふくろは何言ってやがんだ? 別に良いじゃねぇかよ、お話くらいよぉ……」

「……理由は?」

 ふてくされるギリィの声に重ねるように、リンが優しく たずねました。アントンは何と答えようかと考え、申し訳なさそうに口を開きます。

「……働きもしないダメ昆虫で…… なまけ者の大人だから……」

 アントンの返事を聞いたギリィとリンは、 唖然あぜんとした顔でお互いを見つめると……やがて「クククッ!」と笑い始め、ついに こらえきれない様子で、お腹を かかえて笑い出しました。

「はーはっはっ! ダメ昆虫の怠け者だってよ!  ちげぇねぇや!」

「アハハ……ほら、見てる人は見てくれてんのよ!『ダメ昆虫のギリィ』ってさ! ウケるぅ!」

 アントンはビックリしました。 正直しょうじきに本当の話をしたら、この人達が怒り出すかもしれない……と、どこか不安に思っていたからです。それなのに……なんでこんなに大笑いをしてるんだろう?

「ヒィヒィ……腹痛ぇ……」

 ギリィは笑いながらバイオリンを取り出しました。

「こ……この思いを……この曲に乗せて……」

 そう言うと、簡単に調律をすませたバイオリンに弓を当て、一気に 軽快けいかいな曲をかなで始めます。いつの間にか雨は止み、 あつく暗かった雲もうすれて晴れ間も見え始めていました。葉っぱの舟はまだ流され続けていますが、ギリィは上手にバランスを取りながら明るく元気な曲を奏で続けます。

 アントンは生まれて初めて聞いたキリギリスのギリィのバイオリンに圧倒されました。力強い 音色ねいろ……でも心から楽しそうに……そして、 しずんだ気持ちを引き上げてくれるような……
 
 雲の 隙間すきまからし込む陽射ひざしが、周りの水面みなもにキラキラ 反射はんしゃする流葉ながれはステージの特等席で、アントンはギリィの奏でる音色に自然と心を うばわれていきました。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ぽぽみんとふしぎなめがね

珊瑚やよい(にん)
絵本
 ぽぽみんが「いいなぁ〜」っと思ったおめめに変身するお話です。ほら子供ってすぐ人のモノほしがるでしょ?  0才から3才の子供向けの絵本です。親子で読んでいただけたら幸いです。  わーい!! おかげさまでアルファポリスの絵本コンテストで奨励賞を頂きました!! 読んでくださった皆さんありがとうございます。  いつか津田健次郎さんが読み聞かせして下さらないかな♡♡♡   《誕生秘話》  漫画『呪術廻戦』が大好きで、その中に『ナナミン』というニックネームのキャラクターがいらっしゃいます(本名 七海建人)。  ナナミンって口に出すとリズミカルで言いやすいし、覚えやすいし、響きもいいのでお得満載だと思ったの。そこから『みん』をとりました。というか私が個人的にナナミンが大好き。  『ぽぽ』はなんとなく子供が言いやすそうだから。  ちなみにぽぽみんのシッポの柄とメガネのデザインもナナミンからきています。さあくんの名前とデザインは……ほら……あれですね。ナナミンの先輩のあの方ですね。この絵本はオタクママの産物。  カタツムリは以前娘が飼っていたカタツムリの『やゆよ』。  消防車は息子が好きな乗り物。  魚は以前飼っていた金魚の『もんちゃん』のギョロ目を参考にしています。  ぽぽみんの頭の形は、おやつに娘が食べていた大福です。大福を2回かじるとぽぽみんの頭の形になりますよ。今度やってみて。アイディアってひょんな事から思いつくんですよ。  体のデザインは私が難しいイラストが描けないので単純なモノになりました。ミッフィちゃんみたいに横向かない設定なんです。なぜなら私が描けないから。  そんなこんなで生まれたのが『ぽぽみん』です。  

ボクはスライム

バナナ男さん
絵本
こんな感じだったら楽しいなと書いてみたので載せてみましたઽ( ´ω`)ઽ 凄く簡単に読める仕様でサクッと読めますのでよかったら暇つぶしに読んでみて下さいませ〜・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃

スライムのおしごと

バナナ男さん
絵本
スライムのお仕事はとっても大変! そんなスライムさんの一日を書いてみました・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃

2分で読める絵本シリーズ①『つまんない』

カワカツ
絵本
💢アンガーマネジメント(怒り感情のコントロール)を題材とした、2分で読める高学年以上向けの絵本です。

小鬼まめつぶ隊

景綱
絵本
リンちゃんはパパとママと離れておばあちゃんのうちに。 リンちゃんはパパとママに会いたくてさみしい思いをしている。 おばあちゃんのうちにある祠には豆鬼様がいた。 豆鬼様は五人でまめつぶ隊。 あずき小鬼、花豆小鬼、青大豆小鬼、そら豆小鬼、ひよこ豆小鬼の五人だ。 リンの願いを聞き入れようとまめつぶ隊はがんばる。

大人の絵本・おじさま

矢野 零時
絵本
大人の絵本ずきの人たちのために、少し残酷で悲しい話を書いてみました。 もちろん、子供である、あなたが読まれても、楽しんでいただけると思います。 話の内容ですか、それはお読みになってください。

ちきゅうのおみやげ(α版)

山碕田鶴
絵本
宇宙人の たこ1号 が地球観光から戻ってきました。おみやげは何かな? 「まちがいさがし」をしながらお話が進む絵本です。フルカラー版と白黒版があります。フルカラー、白黒共に絵柄は同じです。 カラーユニバーサルデザイン推奨色使用。  ※絵本レイアウト+加筆修正した改稿版が「絵本ひろば」にあります。

ウサギのお月さま

はや衣鳥
絵本
ぼくのともだちは、どこ? ※動物が死にます。

処理中です...