上 下
46 / 51

アーヴェン(1-2)

しおりを挟む
「ここが、その場所か……」

 アーヴェンは火山近くに生い茂る森に訪れていた。

 手帳を取り出したアーヴェンが周囲を見渡して、薮に隠れる。手帳に記されていたのは魔物の生息域、そして大移動の予兆時に生息域から離れた魔物達の移動先だった。

 それらを照らし合わせれば、一つの事実に気がつくことができる。ある場所を中心として魔物達が移動しているのだ。その場所が、アーヴェンの訪れた森である。

 アーヴェンの目的は一つ。魔物の大移動を引き起こした原因を特定することだった。

「そして現れたのは、奇妙な白い服の連中か」

 薮から覗く先に森の中で行動するには不自然な白の装いで歩く人影を発見したアーヴェンはその後を追いかける。

 アーヴェンが一人で行動しているのには理由があった。

 危険な魔物などがいた場合に、一人でいる方が隠れてやり過ごすことが容易になること。

 そして大移動の余波を上位の冒険者が片付けている状況で、一番強いのがアーヴェンであったこと。

 その二つの理由に加えて、原因が移動する可能性も踏まえてアーヴェンは大移動の翌日という最速の日程で一人での冒険に踏み出たのだ。

「追いかけた先に怪しげな建物と。一人で来て正解か。ルーとクロに隠密の経験はないだろうからな」

 懐に忍ばせた『消音』の魔道具により声も移動音も消したアーヴェンが、建物を見上げて苦笑いを浮かべた。

 荘厳な雰囲気を滲ませる大きな建物は森の中に建っているにしては不似合いなほどに綺麗さを保っている。

 まるで何処かからそのまま持ってきたかのように、建物は森の中で異様な存在感を放っていた。

「本当ならシロあたりが得意なんだろうがな。奴隷商人の撲滅に忙しいから仕方ない、か」

 建物に入り、人目を避けながらにアーヴェンは奥へ奥へと進む。

 魔物の大移動が発生した場所に集った見るからに怪しい集団。その目的をアーヴェンは調べる必要があると判断した。

「資料か何かがあると良いんだが……」

 しばらく奥に進んだアーヴェンは大きな机とそれを椅子で囲む大きめの部屋に辿り着く。

 会議室のような場所だろうと気がついたアーヴェンは紙の類がないかと周囲を見渡し、棚の引き出しを一つ開けた。

 まさにその時だ。
 
「--くそ、何もわからないのでは意味がない!」
 
 大きな声に合わせてドンッと音が響く。壁を殴りつけたような音だった。

 そして二つの足音が部屋へと迫る。

「まずいな」

 資料を探すことに意識を向けて、アーヴェンは人の接近に気がつくのが遅れていた。

 会議室に隠れられるような場所はない。どうか別の場所へ行ってくれと願うも、足音は迷うこともなく会議室へと向かっていた。

 咄嗟にアーヴェンが隠れたのは大きな机の下。少し覗かれれば見つかるようなその場所で息を潜めた。

「では報告をさせていただきます」

「良い報告か? 魔物の大移動は仕方ないとしても、ナコには姫の捜索も任せていたが」

「申し訳ありません、黒師様。姫の捜索に関しても手がかりはなく……」

 部屋に入ってきたのは、黒の装束に身を包んだ男と白の装束に身を包んだ男だった。

 その二人の会話にアーヴェンは固唾を飲みながらも耳を傾ける。

「そうか……。ひとまずその資料を、見せてみろ」

「はい。これが今回の報告書--」

 ナコの言葉が途中で止まり、バサッと紙が落ちる音が響いた。

 アーヴェンの目前に散らばる資料。ナコが資料を落としたのだ。

「申し訳ありません」

 ナコが屈み資料に手を伸ばす。

 その瞬間、机の下でアーヴェンとナコの視線が確かに交差した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ
ファンタジー
───────魔法使いは人ではない、魔物である。 この世界で唯一『魔力』を扱うことができる少数民族ガナン人。 彼らは自身の『価値あるもの』を対価に『魔法』を行使する。しかし魔に近い彼らは、只の人よりも容易くその身を魔物へと堕としやすいという負の面を持っていた。 人はそんな彼らを『魔法使い』と呼び、そしてその性質から迫害した。 四千年前の大戦に敗北し、帝国に完全に支配された魔法使い達。 そんな帝国の辺境にて、ガナン人の少年、クレル・シェパードはひっそりと生きていた。 身寄りのないクレルは、領主の娘であるアリシア・スカーレットと出逢う。 領主の屋敷の下働きとして過ごすクレルと、そんな彼の魔法を綺麗なものとして受け入れるアリシア……共に語らい、遊び、学びながら友情を育む二人であったが、ある日二人を引き裂く『魔物災害』が起こり―― アリシアはクレルを助けるために片腕を犠牲にし、クレルもアリシアを助けるために『アリシアとの思い出』を対価に捧げた。 ――スカーレット家は没落。そして、事件の騒動が冷めやらぬうちにクレルは魔法使いの地下組織『奈落の底《アバドン》』に、アリシアは魔法使いを狩る皇帝直轄組織『特別対魔機関・バルバトス』に引きとられる。 記憶を失い、しかし想いだけが残ったクレル。 左腕を失い、再会の誓いを胸に抱くアリシア。 敵対し合う組織に身を置く事になった二人は、再び出逢い、笑い合う事が許されるのか……それはまだ誰にもわからない。 ========== この小説はダブル主人公であり序章では二人の幼少期を、それから一章ごとに視点を切り替えて話を進めます。 ==========

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...