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「け、結婚ですか? それにその指輪は……」
思いもよらなかった言葉と贈り物にルビィの思考が停止する。
けれど今までに見たことがないような真剣な表情と声音は、ルビィにとっては痛いくらいにエーデルの言葉に嘘偽りがないことを示していた。
「本日より私は正式に騎士となりました。それに伴い私は辺境の実家に帰らねばなくなったのです。許されるならば、そこにルビィ……貴殿も連れて行きたい」
驚くほどに美しい騎士の礼をしてから跪いたエーデルはルビィの手をとる。そして指輪を差し出す姿勢のまま、返事を待つようにエーデルはルビィを見上げた。
真剣な眼差しを受けてルビィの心臓が跳ねる。トクトクと高鳴る心拍音に少なからず自分はエーデルに惹かれているのだとルビィは自覚し、けれどだからこそすぐに頷くことができなかった。
「そう言ってもらえて嬉しい、のだと思う。けれど、あまりに急過ぎるわ。踏むべき段階が私達にはあるはずよ」
侯爵の誘いを受けてすぐに嫁いだ記憶が、ルビィに落ち着けと語りかける。同じ失敗を繰り返すわけにはいかないと、ルビィは一度深呼吸した。
「嬉しい、か。今日ここに来るまではそう言ってもらえるとさえ思ってもいなかった。大きな進歩だな、これは」
少しだけ普段の調子に戻りつつ、エーデルは独り言のように呟いて微笑む。けれどエーデルはその姿勢を崩すことはなかった。
「急なことは承知している。だが、私には今日しかないんだ。貴殿を幸せにすると、騎士の名誉にかけて誓おう。だから、信用してくれないだろうか」
エーデルの瞳が揺らぐことなくルビィを見上げている。エーデルが騎士という言葉を口に出す時、そこに偽りはないだろうとルビィは付き合いからわかっていた。
信じてもいいのだろうとルビィの心は囁く。けれど理性は油断してはいけないと警鐘を鳴らしていた。
「私、わがままよ」
「知っている。俺は振り回されてばっかりだったからな。けれど、離さなかった」
エーデルが割れ物に触れるかのようにそっとルビィの手に触れる。
ルビィは一瞬だけ驚きに手をピクリと動かすも、エーデルの手を払い除けようとは思わなかった。
「贅沢だってしたいわ」
「宝石でも綺麗な花やドレスでも、貴殿が望むなら私が用意する」
「貴方を愛せるかわからないわ」
「愛してもらえるよう努力する。それでも駄目なら去ってくれて構わない」
「私と結婚しても、我が家の後ろ盾なんてほとんどないようなものよ?」
「それも知っている。私は後ろ盾が欲しくて貴殿を選んだわけじゃない」
「私は……」
ルビィの言葉がそこで止まる。いっそ自ら去ってくれればと自分の欠点を述べ続けた結果、ルビィはもうこれ以上言えることがなくなっていた。
「ルビィ、お前に何があった? 何をそんなに恐れているんだ」
エーデルがルビィの手を両手で優しく包んで普段の調子で問いかける。その気安さが、ルビィの心にかかった錠を解いた。
「裏切られるのが怖いのよ。愛されず、騙されて捨てられる。そうはなりたくないの。でも貴方でいいのかわからない!」
説明しても伝わることはないと理解しつつ、ルビィはそう吐露する。
エーデルはその言葉を受けて、少しだけ黙りこんだ。
「裏切ることがないと証明すれば、一緒に来てくれるか?」
「……そうね、証明できるのなら」
ルビィがそう答えた瞬間、エーデルは懐から取り出した短剣で自らの指先を傷つけた。
思いもよらなかった言葉と贈り物にルビィの思考が停止する。
けれど今までに見たことがないような真剣な表情と声音は、ルビィにとっては痛いくらいにエーデルの言葉に嘘偽りがないことを示していた。
「本日より私は正式に騎士となりました。それに伴い私は辺境の実家に帰らねばなくなったのです。許されるならば、そこにルビィ……貴殿も連れて行きたい」
驚くほどに美しい騎士の礼をしてから跪いたエーデルはルビィの手をとる。そして指輪を差し出す姿勢のまま、返事を待つようにエーデルはルビィを見上げた。
真剣な眼差しを受けてルビィの心臓が跳ねる。トクトクと高鳴る心拍音に少なからず自分はエーデルに惹かれているのだとルビィは自覚し、けれどだからこそすぐに頷くことができなかった。
「そう言ってもらえて嬉しい、のだと思う。けれど、あまりに急過ぎるわ。踏むべき段階が私達にはあるはずよ」
侯爵の誘いを受けてすぐに嫁いだ記憶が、ルビィに落ち着けと語りかける。同じ失敗を繰り返すわけにはいかないと、ルビィは一度深呼吸した。
「嬉しい、か。今日ここに来るまではそう言ってもらえるとさえ思ってもいなかった。大きな進歩だな、これは」
少しだけ普段の調子に戻りつつ、エーデルは独り言のように呟いて微笑む。けれどエーデルはその姿勢を崩すことはなかった。
「急なことは承知している。だが、私には今日しかないんだ。貴殿を幸せにすると、騎士の名誉にかけて誓おう。だから、信用してくれないだろうか」
エーデルの瞳が揺らぐことなくルビィを見上げている。エーデルが騎士という言葉を口に出す時、そこに偽りはないだろうとルビィは付き合いからわかっていた。
信じてもいいのだろうとルビィの心は囁く。けれど理性は油断してはいけないと警鐘を鳴らしていた。
「私、わがままよ」
「知っている。俺は振り回されてばっかりだったからな。けれど、離さなかった」
エーデルが割れ物に触れるかのようにそっとルビィの手に触れる。
ルビィは一瞬だけ驚きに手をピクリと動かすも、エーデルの手を払い除けようとは思わなかった。
「贅沢だってしたいわ」
「宝石でも綺麗な花やドレスでも、貴殿が望むなら私が用意する」
「貴方を愛せるかわからないわ」
「愛してもらえるよう努力する。それでも駄目なら去ってくれて構わない」
「私と結婚しても、我が家の後ろ盾なんてほとんどないようなものよ?」
「それも知っている。私は後ろ盾が欲しくて貴殿を選んだわけじゃない」
「私は……」
ルビィの言葉がそこで止まる。いっそ自ら去ってくれればと自分の欠点を述べ続けた結果、ルビィはもうこれ以上言えることがなくなっていた。
「ルビィ、お前に何があった? 何をそんなに恐れているんだ」
エーデルがルビィの手を両手で優しく包んで普段の調子で問いかける。その気安さが、ルビィの心にかかった錠を解いた。
「裏切られるのが怖いのよ。愛されず、騙されて捨てられる。そうはなりたくないの。でも貴方でいいのかわからない!」
説明しても伝わることはないと理解しつつ、ルビィはそう吐露する。
エーデルはその言葉を受けて、少しだけ黙りこんだ。
「裏切ることがないと証明すれば、一緒に来てくれるか?」
「……そうね、証明できるのなら」
ルビィがそう答えた瞬間、エーデルは懐から取り出した短剣で自らの指先を傷つけた。
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