シェルブールの雨傘

浅野浩二

文字の大きさ
上 下
1 / 1

シェルブールの雨傘

しおりを挟む
山尾志桜里と、山下貴司、は、共に、東大法学部で、同期だった。
二人は、法学部で、法律を学びながら、ゼミで、親しくなった。
そして、二人は、よく、デートを、した。
「君がきれいなのは、無理ないな。アニーの子役に選ばれたほどだから」
と、山下貴司は、言った。
「あなただって、素敵だわ」
と、山尾志桜里は、顔を赤らめて言った。
山下貴司は、イケメンで、東大で、女生徒の憧れだった。
二人は、ともに、一緒に、法学の勉強に打ち込んだ。
「僕は、将来、検察官になろうと思う」
と、山下貴司は、言った。
「じゃあ、私も、検察官になるわ」
と、山尾志桜里も言った。
二人は、無事、東大法学部を、卒業して、ともに、司法試験に合格して、司法修習を経て、検察官になった。

二人は、ある日、渋谷で、映画、シェルブールの雨傘、の映画を見て、その後、近くの喫茶店ルノアールに入った。
「山尾志桜里さん。僕は、心から、あなたを愛しています。僕と結婚して下さい」
山下貴司が言った。
「嬉しいわ。女にとって、一番、嬉しい言葉だわ。私もあなたを愛しているわ。山下貴司さん」
山尾志桜里は、目に涙を浮かべた。
「ねえ。山下さん。子供が生まれたら、名前は、何としましょうか?」
山尾志桜里が聞いた。
「うーん。そうだなー」
と、山下貴司は、考え込んだ。
「私に提案があるの」
山尾志桜里が言った。
「何だい?」
山下貴司が聞いた。
「女の子だったらフランソワーズ、男の子だったら、フランソワ、というのはどう?」
山尾志桜里が言った。
「うん。いいね。君が望むんだったら、そうするよ」
山下貴司が言った。
「嬉しい」
山尾志桜里が喜んで言った。

二人は、司法修習を終えて、検事になった。
山尾志桜里は、東京地方検察庁、千葉地方検察庁を経て、名古屋地方検察庁岡崎支部に着任した。
一方、山下貴司は、東京地検特捜部、法務省での勤務の他、在ワシントン日本大使館一等書記官・法律顧問、と、同じ検察官でも、司法修習を終えた後は、二人は、別々の道を歩んだ。
職場が異なって、フレッシュな気持ちで、二人は、それぞれ、仕事に夢中になった。
月日の経つのは、速いもので、会わないでいる間に、山尾志桜里と、山下貴司は、それぞれ、日本の政治を立て直す使命を感じ出した。
しかし、運命は残酷だった。
山尾志桜里は、権力の座に長くいて、腐敗した、自民党を嫌い、民主党で、政権をとって、日本を立て直そうという志に燃えていた。
一方の、山下貴司は、保守的な自民党を、改革しようと、燃えている、石破茂の水月会に入って、自民党を改革して、日本を立て直そうと、考えた。
山尾志桜里は、菅直人、鳩山由紀夫、小沢一郎、など、民主党の幹部に、勧められ、民主党から、愛知7区、から立候補し、182,028票、獲得して当選した。
一方の、山下貴司は、石破茂に、勧められて、岡山二区から、自民党推薦で、立候補して、当選した。
政党が全く異なり、政治的イデオロギーが、異なる間柄なのに、結婚する、というのは、国民の非難も、受けるだろうし、国民に、「やっぱり、政治家なんて、八百長だ」、と言われるのを、恐れ、二人は、付き合いにくく、なって、付き合いも、疎遠になってしまった。
そうこうしている内に、二人は、それぞれ、親しい人が、出来て、結婚した。
しかし、それは、本心ではなく、政治上の不本意な結婚であった。
第4次、安倍政権で、安倍晋三は、石破派の、水月会の、山下貴司を法務大臣に任命した。
ちょうど、外国人労働者受け入れ、の入管法改正案の法案で、国会は、もめていた。
山尾志桜里は、立憲民主党から、政府に、厳しい質疑をした。
そして、山下貴司法務大臣と、論戦を交わした。
しかし、山尾志桜里は、政府の方針を批判しながらも、山下貴司に対する、愛は、変わっていなかった。
山尾志桜里は、(山下貴司さん。ごめんなさい)、心の中で、謝りつつも、山下貴司法務大臣に、厳しい質問を投げかけた。
政府を批判するのは、野党の宿命である。
ある日のことである。
山尾志桜里は、買い物も兼ねて、まだ幼い娘と、渋谷に行き、喫茶店ルノワールに入った。
そこは、司法修習の時、山尾志桜里と、山下貴司が、最後に立ち寄った、喫茶店だった。
山尾志桜里は、(ああ。あの頃が懐かしいわ)、と、思いながら、娘と、サンドイッチと、紅茶を食べ、飲んでいた。
すると、ギイと、音がして、喫茶店の戸が開いた。
幼い男の子を、連れた男が入ってきた。
それは、山下貴司だった。
山尾志桜里は、びっくりした。
山下貴司は、幼い息子と一緒だった。
そして、山下貴司は、山尾志桜里の、隣のテーブルに着いた。
そして、ボーイに、サンドイッチと、紅茶を注文した。
「やあ。元気?」
山下貴司は、隣の、山尾志桜里に、話しかけた。
「ええ」
山尾志桜里は、頬を赤くして答えた。
「あなたは?」
今度は、逆に、山尾志桜里が、山下貴司に聞いた。
「ああ。元気だよ」
と、答えた。
「君と、最後に会ったのは、この喫茶店だったよね。覚えているよ。映画、シェルブールの雨傘、を見て、その後、ここで、サンドイッチを食べたよね」
「そうね」
「君は、シェルブールの雨傘、の、ヒロインの、ガソリーヌ・ドヌーヴ・・・じゃなかった・・・・カトリーヌ・ドヌーヴより、美しかった。今でも美しいよ」
「あなただって。今でも、イケメンだわ」
山尾志桜里は、顔を赤くして言った。
「あ、あの。山下貴司さん。国会で、意地悪な質疑をしてしまってごめんなさい。それに、あなたに対して、不信任決議案まで出してしまって・・・」
山尾志桜里が言った。
「いや。野党である以上、当然のことさ」
山下貴司が言った。
「いえ。わかっているわ。あなたは、誠実な人だわ。でも安倍政権に入閣した以上、強行採決は、悪いとわかっていても、安倍首相の意向には逆らえないのでしょう。あなたも、法案通過は拙速だと思っているのでしょう?」
「・・・・い、いや。そ、それは・・・そんなことはないよ」
山下貴司の言葉は苦しげな口調だった。
山尾志桜里は、ニッコリと微笑んだ。
「でも、立憲民主党は、しっかりした政党だね。与党と野党という立ち場は、違っても、僕は、一目、置いているよ」
山下貴司が言った。
「自民党でも、石破茂さん、と、水月会は、立派だと私は思うわ」
山尾志桜里が言った。
「ねえ。ママ。この人、だれ?」
山尾志桜里の娘が言った。
「この人はね、山下貴司さん、といって、私の昔の友達なの。さあ、挨拶しなさい」
山尾志桜里が言った。
「こんにちは。山下さん。私は、山尾フランソワーズと言います。よろしく」
と、山尾志桜里の娘が、山下貴司に挨拶した。
「ねえ。お父さん。この人は誰?」
山下貴司の幼い息子が、父親に聞いた。
「この人はね。僕の昔の友達なんだ。挨拶しなさい」
そう言われて、山下貴司の幼い息子は、山尾志桜里に、向かって、
「はじめまして。山下フランソワ、と言います」
と、ペコリと、頭を下げた。
「こんにちは。山下フランソワ君」
と、山尾志桜里は、フランソワの頭を撫でた。
山尾志桜里は、感激して涙を流した。
(ああ。この人は、私との約束を忘れないでいたのね)
山尾志桜里の娘と、山下貴司の息子は、すぐに、仲良くなって、キャッ、キャッ、と、はしゃいでいた。
外では、小雨が降り出した。
山下貴司は、時計を見た。
「君とは、もう少し話したいが、マスコミに知られると、週刊文春、や、フライデーなんかに、色々と、悪い記事を書かれるからね。そろそろ、別れよう」
「そうね。それが、私たちの宿命ね」
と、山尾志桜里が言った。
山下貴司は、立ち上がって、息子のフランソワを呼んだ。
「おーい。フランソワ」
山尾志桜里の娘のフランソワーズと、友達になったばかりの、フランソワは、父親に呼ばれて、父親の所に行った。
「山尾志桜里さん。では、さようなら。お互い、頑張ろう。また国会で論戦を正々堂々としよう」
と、山下貴司は、山尾志桜里に言った。
「山下さん。あなたも、頑張って」
山尾志桜里が言った。
「山尾志桜里さん。フランソワーズちゃん。さようなら」
山下貴司の幼い息子、フランソワは、そう言って、ペコリと頭を下げた。
そして、山下貴司は、幼い息子を連れて、喫茶店ルノワールを出ていった。


平成30年11月28日(火)擱筆
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

マッサージ物語

浅野浩二
現代文学
マッサージ物語

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

野田イクゼ

浅野浩二
現代文学
野田イクゼ

少年とOL

浅野浩二
恋愛
中学生の男の子と20代のOLの海水浴場での出会いの恋愛小説です。

ある複雑な家族の話

浅野浩二
現代文学
ある複雑な家族の話

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

下着売りの少女

浅野浩二
現代文学
「マッチ売りの少女」のような「下着売りの少女」です。

虫歯物語

浅野浩二
恋愛
虫歯物語です。

処理中です...