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花と蛇と哲也「どうせ15回恋愛小説大賞には鼻にもかからない小説」

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静子夫人の運転手の川田が、いつもの静子夫人の家への道を行かないのにギモンと不安をもった静子夫人が川田に、おそるおそるきいた。
「あ、あの。川田さん。これは、どこへ行くのです」
というと川田は、
「なあに。ちょっと奥様がすばらしくなれるところへ寄っていくんですよ」
と、ふてぶてしく言う。静子夫人は運転手の川田に敬語をつかい、一方、川田は静子夫人にあまり敬語っぽいコトバづかいをしない。
「か、川田さん、こ、こわいわ。おねがいです。こわいことをなさらないで下さい」
と目から涙をながしそうになりながら言った。
「あんしんしなさいよ。奥様。この上ないほど親切にしていただいている奥様に何で私がひどい目にあわす理由があるんです」
といいながら川田は郊外へとハンドルを切った。
「ほんとうですね。川田さん。ほんとうにこわいことをなさらないで下さいますね」
と静子夫人は、すがるように言った。車は郊外の、ある大きな屋敷へ入った。大きな庭があり、まわりは雑木林である。車が玄関の前にとまった。
「さあ。おりな」
と川田に言われて、
「こわい。ゆるして下さい。お給料で不満があるのでしたらふやします。倍にでも」
といって静子夫人はでようとしない。とうとう川田は業を煮やして、
「ほら、とっととおりるんだ」
といって静子夫人を強引に車からひきずり出した。静子夫人は、ふるえながら、もてあました手を胸と腰におき、弱々しく歩くのだった。静子夫人は、もうこの時、覚悟していたのかもしれない。腕力ではとてもかなわないし、学校の時から、体育以外はオール5でも体育だけは、しりあがりもできないし、とびばこを前にすると、こわい、といってしゃがんでしまう静子夫人である。きっと何か川田にされるのであろうが、もう川田に心をゆだねて、できる限り川田に従えば、川田もゆるしてくれるのでは、との思いに唯一の一縷ののぞみをかけるのだった。
「川田さん。こわいことをなさるんですね」
と静子夫人が哀れみを求めるように言うと、川田はうす笑いをうかべて、
「おそろしいことなんかじゃない。すばらしいことさ。奥様は、これからすばらしくなるのさ」

静子夫人はその館に入った。自分の豪勢な屋敷と同じようだった。静子夫人がモジモジ立っていると、ケバケバしいガラのわるい角刈りのヤクザ男がでてきて、ドッカと静子夫人の前に座った。そして、わらわらと三人のズべ公が入ってきた。
「川田さん。これはいったい」
静子夫人はドキマギして言った。
「ふふ。上玉じゃねーか。ちょっとかわいそうな気もするがな」
とヤクザ男は言った。
「おくさん。あんたはこれから、ここですごすことになるのさ。もう今までの優雅な生活とはおわかれってことなのさ」
と言った。
「どういうことなんです。おしえて下さい」
「ニブイ女だな。あんたは川田に売られて、おれ達森田組のものに一生なったんだよ。川田がいい上玉があるから、ときいたんだが、合格ってわけさ。これから奥さんのすばらしい写真やビデオをつくって、かせがせてもらおうって寸法さ」
「か、川田さん」
静子夫人は柳眉をつり上げて訴えた。
「川田さん。私があなたにどんないじわるをしたっていうのですか」
というと川田は、
「おくさん。へへへ。別にオレは奥さんにウラミなんざありませんよ。むしろ奥さんにはいろいろ親切にしてもらって、何の不満もありませんでしたよ。だが、おくさん、あんたが顔も心もきれいなのがいけねえ。カンネンしな」
「この人たちは何です?」
「森田組の手下さ」
三人は、銀子、あけみ、悦子といった。三人は静子夫人に近寄って、きれいな髪ね、といって、髪をなでたり、手をさわってみたり、項にキスしてみたりする。

「ふふ。静子。もう、こっちのもんだ。今からお前はおれ達のいうことをきくんだぜ。いやがったら、痛い目にあうんだぜ」
と静子夫人をとりおさえてるチンピラが、夫人の頬にナイフをピタピタあてて言う。チンピラ達は静子夫人を取り囲むようにして座り、
「さあ。静子。おめえはお座敷芸者だ。まずは、おめえのストリップショーだ。立ったまま、一枚一枚色っぽく脱いでいくんだ」

静子夫人は、いつもは和服だったが、今日は薄いブラウスにタイトスカートだった。
ふくよかな胸がブラウスを押し上げ、ムッチリした尻がスカートをパンパンに張っていた。
服の上から女の曲線美が、はっきりとあらわれていた。
静子夫人は立ったまま、もどかしそうにしている。チンピラ達のいやらしい視線が、周囲から静子夫人に集まる。チンピラ達の視線が、静子のむっちりした体にあつまる。痛いような視線を払いのけようとしても、執拗につきまとう。
「ふふ。すばらしいプロポーションじゃないか。ヒップもバストもすばらしく豊かじゃないか。いずれ時間のモンダイで、裸がおがめるんだ。あせる必要はねえや。むしろ、おめえが、そうやってじれったがっているのをみてる方がおもしれえや」
とせせら笑った。
このじらし責めは、静子夫人にとってとてもつらかった。彼らはもうすでに、視姦している。自分が女に生まれ、女の体をもっていることがつらくさえ感じだされた。何より手のやり場に困った。尻や胸への視線から守ろうと、胸や尻へ手をやると、よけいチンピラ達の揶揄にあう。
「ふふ。これからとくとおがませてもらうが、静子夫人はどんなパンティーが好みなのかな」
「白かベージュってとこだろ」
「裸にして、いろんなカッコに縛りあげてやれば、やがて時間のモンダイであえぎだすさ」
静子夫人はとうとう耐えられなくなって座りこんでしまった。これ以上チンピラ達の視線にさらされるのが耐えられなかった。
「誰が座っていいといった。立て。立って、一枚ずつ色っぽく脱いでいくんだ」
静子夫人は立てない。静子が立とうとしないので、静子夫人をおさえていたチンピラは、タバコを二本とりだして、ふかし、それを静子夫人の鼻の穴に入れ、口をふさいだ。口で呼吸できないので鼻で呼吸しなくてはならない。息を止めといて、こらえきれず吸い込んだので、タバコがいっしょに吸いこまれ、鼻腔をはげしくシゲキして、夫人はむせた。そして静子夫人の鼻毛をプチッとひきぬいた。夫人は、ひー、と悲鳴をあげた。
「さあ。静子。おめえがいうことをきかねえと、もっと痛い目にあうぜ」
「わ、わかりました」
「どうわかったっていうんだ」
「い、いうことをききます」
「具体的にいえ」
「ふ、服をぬぎます」
静子夫人はクラクラしそうになりながら立ちあがった。足がおぼつかない。チンピラの一人が静子夫人に近寄って、静子の耳に何かをささやきこんだ。
「さあ。言え」
といわれ、静子夫人は毛穴から血がふきだしそうになるほどの思いで、ささやかれたことを言った。
「し、静子のストリップショーをとくとご覧くださいませ」
といって静子夫人はわっと泣きだした。
静子夫人はそろそろと服を脱ぎだした。
ワナワナ震えながらブラウスを脱ぎ、スカートも脱いだ。
静子夫人はムッチリした体にブラジャーとパンティーだけという姿になった。

だがさすがにブラジャーとパンティーは、どうしても脱げなく、立ちすくんでしまった。
「ふふ。今度は下着姿を鑑賞してほしいってことかい」
静子夫人は胸とパンティーの前にそれとなく手が行ってしまう。ここでズべ公の悦子が、いじわるなことをした。静子夫人の後ろに、そっと忍び寄って、ハサミでパンティーとブラジャーをプチン、プチンと切ってしまったのだ。静子夫人は、あっと叫び声をあげた。パンティーとブラジャーはいきおいよく縮んでしまい、ふっくらした尻が丸出しになった。静子夫人は思わずかがみ込んだ。やぶれたブラジャーとパンティーを必死でおさえ、膝をピッタリ閉じた。だが尻はかくせない。
「ふふ。すばらしく色っぽい格好だぜ。尻は丸見えだけどな」
というとみながどっと哄笑した。
「ほら。立ちな。誰がしゃがんでいいと言った」
と言っても静子夫人は立てない。体を小刻みに震わせながら胸と秘部をおさえている。
「ほら。立て。立つんだ」

裸で、必死になって隠そうとして、身をかがませている静子夫人に、川田は、
「ほーらよ」
と言って、新品のブラジャーを投げるのだった。静子は一瞬ためらった。着る時に一瞬、こぼれ見えてしまうこと、敵に情で与えられたブラジャーをつける屈辱感、そして、パンティーとブラジャーの両方なら、ともかくブラジャーだけ着けて、下はない、というのは全裸より、よけいみじめで恥ずかしい格好になってしまう。ブラジャーで秘部を隠すためのものにしようかとも思ったが、それもやはり、おかしい。かといってブラジャーを投げ返すわけにもいかない。悪魔達は、こうして、静子夫人が困る姿を見るのを楽しんでいるのである。迷った末、静子夫人はブラジャーを着けた。着けてみて、やはり、全裸に、勝るとも劣らず恥ずかしく、惨めだった。だが、着けてしまったものを外すわけにもいかない。片手で秘部を押さえながらブラジャーを着けた胸にも自然と手が行った。ブラジャーを着ければ、胸は見られても恥ずかしくない、というものではない。
「ふふ。静子さんて、おかしな格好したがるのね」
とか、
「こんなおかしな格好したがるなんて、静子さんてMの気があるんじゃないの」
「桃のような大きなお尻は丸見えよ」
などという揶揄をうけながらも、静子夫人はなすすべもなく、隠し守れるところを精一杯手で覆い、悪魔達の刺すような視線にじっと耐えるのだった。切れ長の目からは、はやくも真珠のような涙がポタリと頬を伝わりおちた。

川田はブラジャーだけ身につけている静子夫人の後ろに回り、胸と秘部を覆っている手をグイと後ろに捩じ上げた。
「あっ。な、何をなさるの」
静子夫人は不意打ちされて思わず声を出した。
しかし川田は、容赦なく、静子夫人の両手首を重ね合わせて縛りあげた。
手で隠していた秘部が丸出しになり、静子夫人は丸裸にブラジャーだけ身につけて、後ろ手に縛られているというみじめ極まりない格好になった。
「ああー」
静子夫人は、思わず叫んだ。
静子夫人はもう女の秘部は隠しようがない。だが何としても女の羞恥心が膝をピッタリ閉じ合わせ、女の体の最後の砦を守ろうとする。尻がプルプル震えている。前を守りつつ、後ろも、無防備だが、守らねば、という心理から尻をピッチリ閉じあわせた。
「ほら。もっとしっかり立って胸をしゃんとはるんだ」
そう言って川田は静子の尻をピシャンと叩いた。
命令されて静子夫人は直立して胸をはった。
川田は、へっへ、と笑いながら、静子夫人の後ろに回ってブラジャーを外した。
「ああー」
と静子夫人は声を上げたが、後ろ手に縛られているため、どうすることも出来ない。
ふっくらした二つの乳房が顕わになった。
もはや静子夫人は覆うもの、何一つない丸裸で後ろ手に縛られて、見られているという屈辱きわまりない姿である。

森田は、俯いている静子夫人のあごをグイと挙げた。
「ふっふ。奥さん。あんたにゃ、背中に、すばらしい女朗蜘蛛の刺青を彫り込んでやるよ。、奥さんは天女のように美しくなるぜ」
というと、静子夫人はハッと顔を青ざめて、激しく体をばたつかせながら、
「お、お願い。森田さん。そんなことだけはなさらないで。そ、そんなことだけは・・・」
それは当然だった。そんなことをされたら、もう夏、海水浴にも行けなくなるし、健康ランドにも入れなくなる。静子夫人にとって健康ランドは、楽しみの一つだった。実業家夫人というのは、夫の事業の経営に、少しでも予想外の不調が生じて、売り上げが思うようにいかないと、そのイラツキのはけ口が夫人に向けられるため、実業家夫人というのは、傍目でみるように、必ずしも楽ではない。そのため、静子夫人はストレスをため込まないため、静子夫人にとって、健康ランドは大事な楽しみだった。特に、静子夫人は、薬湯と、ジェットバスが好きだった。
「私が、あの人のお小言を聞くことで経営が無事成り立っていくならば」
と、けなげなひとり言を風呂の中で一人、つぶやくのだった。夫の事業に口出しをしない、静子夫人だったが、「不況で、人員削減しなくてはならんな」といった時、思わず、「お願いです。あなた。リストラはなさらないで」といって、「うるさい。女は仕事に口を出すな。きれいごとでこの不況を乗り切れるか」と、怒鳴りつけられたこともあった。そういうストレスを発散できる唯一の楽しみの健康ランドが・・・。そう思うと静子夫人は気が遠くなりそうな思いになるのだった。健康ランドには、入り口にも、ロッカーの一つ一つにも「イレズミのある方、暴力団関係の方の入場は、固くお断りします」と書いてある。イレズミのある暴力団員が、堂々と、健康ランドに入っても、現状では従業員は、みつけ次第追い出すことは出来ない。内心、「厄介なのが来たな」と舌打ちするだけである。しかし、静子夫人は、そういう、野放図、傍若無人、な、神経はとてもとても、もっていない。学生時代も、友達に、「ねえ。静子。明日の物理のノートとっといてくれない」と言われると、それをしないと友情にヒビが入ることを恐れて、一言逃さず、ノートして、わかりにくいところは、あとで参考書で調べて、夜遅くまでかけて、清書し直して、頼んだ友達に渡すのだった。

ここで静子夫人の高校時代の様子を少し書いておこう。もちろん、静子夫人は私立のミッション系のお嬢様女子高で過ごした。静子夫人はいつも図書館に入り浸る文学少女だった。休み時間も、借りてきた本を一人で静かに読んでいた。トルストイ、ドフトエフスキー、モーパッサン、アナトール・フランス。それらが書かれた時代に心を馳せるのだった。
「静子。本ばっか読んでないで、遊ぼうよ」
と手をひいたのは親友のA子だった。
「そうよ。今時、文学少女なんて、ダサいよ」
と言ったのは、同じく親友のB子だった。この二人が静子夫人の親友だった。いわゆる仲良しトリオ、というやつである。例によって、例のごとく、学校の帰りにバーガーショップに寄る。A子が、
「ねえ。B子。数学の矢野、ムカつくと思わない?」
と言うとB子は、すぐに、
「うん。ムカつく。いえてる」
と言う。
「静子はー?」
とA子が、静子に目を向けると、静子はあわてて、
「は、はい。ムカつきます」
と言う。A子が、
「本当にムカついてんの?静子、数学出来るのに何がムカつくの?」
と言われると、
「い、いえ。あ、あの・・・」
と口篭もってしまうのだ。
「ほーら。やっぱりムカついてないじゃない。無理に合わせなくてもいいのよ。静子は私達と違って優等生だもん」
と言われると、静子夫人は、わっと泣き出すのであった。

ちなみに静子は、推薦入学で慶応義塾大学文学部に入った。
静子の卒業論文は、以外や以外、団鬼六作の「花と蛇」研究だった。
静子は、それを徹底的に批判し、非難し、こんな悪魔小説はこの世から無くすべきだ、と結論づけた。

悪魔達はさんざん後ろ手に縛められた丸裸の静子夫人さんざんを嬲り抜いた。
銀子、あけみ、悦子の三人がオドオド佇立している静子夫人を取り囲み、胸を揉んだり、尻の割れ目を開いたり、乳首に洗濯バサミを取りつけたり、小唄を歌わせたりした。

そして十分静子夫人を玩んだ後、森田は静子夫人を別の六畳の部屋へ連れて行った。
そこは森田組の組長の一人息子、森田哲也の部屋だった。
彼はヤクザの息子に似合わず、たいへん真面目な勉強家の秀才で、まだ高校生なのに西洋哲学を全て読みつくしているほどだった。彼は東大の哲学科を目指していて、将来は哲学者となって人類を救済することが自分の使命だと思っていた。
丸裸で後ろ手に縛られた静子夫人が入ってきて、勉強中の哲也が振り返った。哲也と目が合うと静子夫人ははっと羞恥の念が起こってきて、頬を赤くした。
「おい。哲也。お前も勉強ばかりしてないで、少しは遊べ。お前にこの女をあずけるから、この女をオモチャにして、好きなようにもてあそべ」
よいしょ。こらしょ。
そう言いながら銀子が木馬を持ってきて部屋の中に据え置いた。
それは丸い丸太に角材の脚を四本つけた簡単な木馬だった。
「ほら。とっとと木馬に乗りな」
銀子はそう言って静子夫人のふっくらした尻をピシャリと叩いた。
後ろ手に縛られた静子夫人が丸太の前でモジモジしているので、銀子は静子夫人の肩をドンと押し、片足を持ち上げて強引に静子を木馬に跨がせた。
「ああっ」
静子夫人は木馬に乗ったとたん声を上げた。
木馬の背は高く、両足首をピンと伸ばして、やっと足の親指の先が床に着くか着かないかの高さだったからである。
そのため静子夫人の柔らかい女の部分に木馬の背がめり込んできたのである。
銀子は腰を屈めると、ピクピク震えている静子夫人の片方の足首を縛り、20cmくらい余裕をつくって、もう一方の足首に縛りつけた。
これで静子夫人は木馬から降りる事が出来なくなった。
「ふふ。哲也。オレはこれで消える。静子と二人水入らずで、うんと楽しみな」
そう言って森田は銀子に目を向けた。
「おい。銀子。お前も出るんだ。人が見ていては哲也もやりにくにだろう」
「そうね。哲也さん。二人水入らずで、うんと楽しんで」
銀子は笑って言った。
森田は部屋を出た。
銀子もそれにつづいて部屋を出た。
「でも、たまには、ちょっと、どんな様子か見に来させてもらうわよ」
銀子はペロッと舌を出して笑って、戸を閉めた。
部屋は丸裸で後ろ手に縛られて木馬に跨った静子夫人と哲也の二人になった。
哲也は木馬に乗っている静子夫人をじっと眺めた。
静子夫人は哲也に見つめられて頬を赤くした。
真面目な人間に、劣情なく、裸を見られることは、助平丸出しのヤクザ達に見られる以上の羞恥を感じたからである。
哲也は保健体育や生物学の教科書や参考書を開いて、女の肉体の構造やホルモンの周期などを調べだした。
哲也は学校の成績はオール5の秀才だった。
だが哲也は学問のみに価値があるものだと思っていたので、女の事はくだらない事だと思っていたので女に関しては全く、無知だった。
そのため、いまだに、どうやって子供が生まれるのかも知らなかった。
それが目前に裸の女を見て、女とは何かという興味が起こり出したのである。

哲也は本を読み終わると静子夫人の所に行き、太腿を触ったり、胸を触ったりと静子の体を触り出した。
しかし、それは劣情からではなく、女というものを知ろうとする知的好奇心の手つきだった。
そして静子夫人の体を触っては、本を読み、ふむふむ、と納得したように、一人で肯いた。
そしてまた、静子夫人の体を調べだした。
哲也は静子夫人の尻の割れ目をグイと開いた。
「ああっ。哲也さん」
黙って羞恥に耐えていた静子夫人が思わず声を出した。
「て、哲也さん。は、恥ずかしいわ。あ、あんまり見ないで。お願い」
静子夫人は顔を赤くしながら声を震わせて言った。
本当の学者は何か疑問が起こると、とことんまで調べようとする。
哲也は自分の知的好奇心の暴走に、静子夫人の発言によって気づかされた思いがして、静子の体を調べるのを止めた。
それで机にもどったが、あいかわらず、本を読んでは、静子夫人の方に視線を向けた。
哲也の視線は静子夫人の女の部分に集中した。
静子夫人は、それを感じとって、顔を赤くして女の部分を木馬で隠すように腰を動かした。
それでも哲也の視線は一点、木馬に隠された女の部分に集中している。
「あ、あの。て、哲也さん」
と言って静子夫人は切り出した。
「た、助けて」
静子夫人は顔を赤くして小声で言った。

言われて哲也は能面のような顔つきで静子夫人を見たが、頬杖をついて考え出した。
哲也は小声でボソッと呟いた。
「静子夫人は助けて。という。しかし、僕は哲学者として、身を立て生きようと考えている。ニーチェも言っているが、真理は善悪を超越したところに有る。僕が今、助けることは簡単だ。しかし、それは安易な感傷主義、英雄主義ではないのか。人類を滅ぼしてきたのは、安易な感傷主義ではないか。行動は、戦士、政治家の徳であり、静観することが哲学者の徳で、僕はそれを堅持する、と誓ったではないか。そもそも僕は善と悪の定義をできていない。芭蕉も深い哲理を内に秘める人であったが、路傍に捨てられた赤子をみて、ああ、汝、汝が運命のつたなさを泣け、といって、手を出さなかった。ここは、やはり、ことの成り行きを静観すべきだ」
哲也はそんな独り言を言った。
「ああ。哲也さん。理屈を言ってないで助けて」
静子夫人は、すぐに哀切的な口調で言った。
「理屈だと。これは真理の追究のための真剣な戦いなのだ」
哲也は怒鳴った。が、すぐにはっと気づいたように黙り込んだ。
合理主義をモットーとする彼は、感傷的に怒ろうとした自分を恥じたのである。
「哲也さん。ねえ。うん。いや。助けてくれたら、いいことさせてあげるわ」
と静子夫人は口を半開きにして豊満な乳房をプルンと揺すり、媚態を示した。
静子夫人は、この変人に色仕掛けで誘いをかければ、自由になってこの屋敷を脱出できるかもしれないと考え、それに一縷の望みをかけようと思ったのだ。

哲也は一瞬、つられそうになったが、煩悩、欲情、感情、の赴くまま、これら、すべては哲学者の敵だ。と自分に言い聞かせた。人をだます、色仕掛けは、はたしてよい徳といえるだろうか。という理屈がついたのはいうまでもない。
静子夫人は、
「あはん。あっは~ん」
と切ない、喘ぎ声を出しながら、体を海草のようにくねらせ、哲也にねだるように言うのだった。
「ねえ。哲也君。哲学なんかより、私と一緒に遊ばない。そっちの方が面白いわよ」
哲也は、
「何を!!」
と言って、目を吊り上げて、立ちあがった。静子夫人をぶってやろうかと思った。これは、自分が子供扱いされた侮辱からではなく、自分が絶対の真理だと思う哲学が侮辱された、と思ったからだ。彼の直感がそう感じた。しかし、手を構えてぶとうかと思っていた時に、別の考えが浮かんで彼を思いとどまらせ、彼は力なく、椅子に座りこんでしまった。
「哲学より、欲情的行為の方が面白い。静子夫人はそう言った。しかし、静子夫人が言った、この命題が非であるとどうやって証明すればいいのだ。哲学は確かに真理だ。しかし、哲学が欲情行為より、面白さ、という点で、上であるとは、証明されていないではないか。証明されていないものを否定することほど非哲学的行為は無いではないか」
こういう理論が彼の頭を擦過したからである。
「ああ。哲也君。哲学とか、難しいことを考えるえらい人は、目前で困っている人を助けてはくれないの」
といって静子夫人は、
「ああん」
といってプルンと豊かな胸をゆらした。これをみて、さすがの哲也も、劣情に負けそうな気が起こって立ちあがろうとした。が、自分に、
「待て。劣情が起こって女に触れる。これは、カント哲学でいう、因果律の奴隷以外の何物でもないではないか。人類のおろかな歴史は、人間がこの因果律で行動してきたところにある。ユートピアを実現させる人間の自由を獲得するには、この因果律を何が何でも截ち切ることからはじめなくてはならない」
そう思うと哲也の目には、静子夫人の媚態が人類を破滅に導く悪魔のささやきに、見えてくるのだった。やはり、この悪魔は懲らしめなくてはならない。と、静子夫人をみているうちに思うのだった。そして、静子夫人をいたぶっている森田組とは、そのことを自分より先に考えているようにも思え、哲也は自分をこえた思想的論敵なのかもしれない、とおそれを感じて、難しく考え込むのだった。

「ああ。哲也君。お願いだから、助けて。難しいことを考えるえらい人は、困っている人を助けてはくれないの」
哲也は一瞬、この、きわめて明白で、妥当に思える、訴え、を、実行に移すことに何の間違いもないように思えた。哲也の心のうちに、その行動に、誤りが全くないか、どうかを検証してみた。
「確かに彼女の言うことは正論だ。それにしたがって行動しようしとしている僕は、因果律に支配されていることになる。しかし、自由を得る因果律の破壊は、人間の営みのすべてに当てはめるべきことではない。曖昧模糊として、自分でも正しく掴めない、正義の名をかりて、その実、自分の無意識下で、自分の欲求を満たしたい、不純な夾雑物が、あるような時に、いさめなくてはならないことであり、この場合には、何ら不純な夾雑物はないのではないか」
そう思うと、
「よし」
と思って、哲也は静子夫人を助けようと近づいた。静子夫人は、
「ああ。ありがとう。哲也君」
と言って、涙を流した。この涙をみた時、また、哲也に、別の考えが進入してきた。彼は自分に言い聞かせた。

「僕は自分が哲学者になると、かたく決心した。哲学者は、どんなことがあっても自分を、テオリア、の立場に置かなくてはならない。哲学者は、この世とかかわりを持ってはならない。もし、ほんのちょっとでも世界と関わったら、もはや世界は、純粋な客体ではなくなってしまう。自分の行為が混じった世界となり、純粋に世界を客体としてみることは、不可能となる。自分が、関わった世界を客体としてみようとするなど不純な行為、以外の何物でもない。そういう、きれいな使い分け、をするのは、ニセ哲学者だ。行動が小さければ、世界は、変わらないという考え方は邪道だ。大海に一滴ならインクをたらしても、大海は、変化しない、と考える誤りと同じだ。僕はもはや哲学者の資格を失い、僕は社会の一員となり、僕を含めた世界というものを別の純粋な哲学者に、考究してもらうことになる」
こんなプライドが静子夫人を救出から阻止した。
静子夫人は希望をたたれてガックリした。
「かなしいわ。私。でも、よくわからないけど、哲也君のように、真面目にものを考えている人に、見守られていると、何だか幸せだわ。私ってMの気があるのかもしれないわね。あの人達は、無理難題をふっかけて、私をいじめることしか考えていないんですもの」
と言って、切れ長の目から一筋、涙を流した。

そこへ森田が入ってきた。
森田は夫人をみると、理由も言わず、いきなり、静子夫人をピシャリと平手打ちした。
「な、何でたたくのですか。人をたたく時には、理由くらいおっしゃったらどうです」
「おー。このアマ。いつのまにか反抗的になりやがった。奴隷という自分の立場を忘れやがったのか。たたく理由なんざねえよ。たたきたくなったから、たたいただけよ。いつの間に、どういう心境の変化で生意気になりやがったんだろうね」
哲也の真面目さに、ほだされて、悪に立ち向かう勇気、から、つい、もらしたコトバだったが、同情を求めるように、チラと哲也の方をみたが、無表情にして、一心に、静子夫人をみている哲也をみると、希望を失った落胆から、哀しげな表情にもどり、森田に向かい、
「ごめんなさい。生意気なことをいった静子を、うんとお仕置きして下さい」
と訴えるように言うのだった。
「おー。やっぱり調教した甲斐あって、人間が出来てきたじゃねえか。よし。望み通りうんと仕置きしてやるぜ。だが丸裸ではかわいそうだからな。褌はさせてやるぜ」
と森田は薄ら笑いで言った。
「暴逆的に全部脱がせないで、褌はさせるとは、この男達、武士の情けがある、のだ。やっぱり根っからの悪い人間ではないのだな」
と哲也は感心するのだった。

「ああ。哲也さん。違うのよ。わざと褌をつけさせて、この男達は私を心のそこから、おとしめ、なぶりぬいているだけなのよ。武士の情けなんかではないのよ。こんなことされるの、裸にされるのより、もっと惨めで恥ずかしいの。SMがわかる人なら、それはわかるわ。哲也さんはSMがわからないから武士の情けなんて、悪魔たちを変な風に解釈してしまうのよ」
と叫びたい思いだった。

「へっへっ。あとで浣腸もしてやるよ」
森田は薄ら笑いして言って静子夫人の豊満な尻をピシャリと叩いた。
哲也は、小首をかしげた。
浣腸・・・。何のために浣腸するんだろう。女は便秘症が多いから、静子夫人も便秘症で、きっと便秘を楽にしてやるためだと思い、ヤクザにもやさしさ、が、あるのだなと、感心するのだった。
静子夫人は、いいかげんあきれて、
「私は便秘症ではありません。全くニブイったら…このうすらトンカチ!!」
と、一瞬言ってやりたい気持ちになるのだった。

それじゃあな、と言って森田は部屋を出て行った。
それと入れ替わるように銀子が入ってきた。
銀子はしばし木馬に跨っている静子夫人を眺めていたが、
「ふふ。いいスタイルね。美しい夫人の乗馬姿は、なかなかいかすわ」
と言った。
静子は恥ずかしそうに顔をそむけた。
銀子はつづけて言った。
「普通、拷問用の木馬の背は、削って尖らせてあるものだよ。そんなスベスベした丸い背に乗せてもらえるなんて、幸せじゃないか」
そう言って銀子は静子夫人の尻をピシャリとたたいた。

哲也は腕組みして考え込んだ。
「幸せ。なぜ幸せなのだろう。確かに日本は、大戦後、驚異的な経済成長をして、GNP世界第二位国になった。戦争中の日本に比べれば、確かに、日本人は物質的に豊かになった。しかし、この状況は幸せ、とは、思えない。戦時中に比べると現代は、格段の幸せの時代だ。しかし、人々は、物質的享楽にうつつをぬかし、その幸せのありがたさを忘れている。もしかすると銀子は、そういうことを言っているのかもしれない。戦時の不幸を忘れるな。感謝の心を忘れるな。と。戦時中は食糧は、配給制になり、いつ空襲に襲われるか、わからない暗黒の時代だった。確かに戦時中の悪夢の時代に比べれば、相対的に幸せ、といえるのかもしれない」
そう考えると、哲也は、銀子が深い思慮を持った憂国の女士に見えて、敬意の気持ちが起こってくるのだった。

銀子はしばし、木馬に跨っている静子夫人を眺めていたが、ニヤリと笑い、静子夫人の乳房を指先で突いた。
「これは何?」
銀子は楽しそうに聞いた。
「そ、それは静子のおっぱい」
静子夫人は顔を真っ赤にして言った。
銀子は、ふふふ、と笑った。
「これは何?」
そう言って銀子は静子夫人の乳首をピンと指ではじいた。
「そ、それは静子の乳首」
静子夫人は、顔を赤くして答えた。
銀子はまたしても満足げに笑った。
「じゃあ、これは何?」
と言って銀子は静子夫人のヘソをつついた。静子夫人は、悪魔達のからかいにいいかげん腹を立て、
「それは、臍にきまってるでしょ。そんなことも分からないの。あなた幼稚園からやり直したらどう」
とキッと言った。銀子は、
「あっ。言ってくれたね。今の反抗は高くつくよ。ある責めを、勘弁してやろうかと迷っていたけど、やっぱり決行ね」
と言ってピシャリと平手打ちして部屋を出ていった。

銀子はすぐにもどってきた。籠をもっている。
中で何かがゴソゴソと気味悪く蠢いている。
銀子はおもむろに籠をあけて、中のものを取り出した。
それは2mもある錦蛇だった。
銀子がヘビの頭をつかんで静子夫人の方に向けた。
「ひいー」
静子夫人は思わず声を張り上げた。
そして恐怖に全身を震わせ、身を引いた。
ヘビはチョロチョロと赤い舌を出して物欲しげに静子夫人を見ているようにみえた。
「ねーえ。かわいいヘビちゃん。奥さまの体の上を這い這いしたいのね」
銀子はそう言ってヘビの頭をなでた。
「はいはい。待ってな。これから二人でゆっくりランデブーできるのよ」
銀子はヘビに言い聞かすように言った。
静子夫人は恐怖におののいて、
「ぎ、銀子さん。や、やめてー。助けてー。な、何でも言うことは聞きます。それだけはやめて」
と哀願するのだった。
静子夫人はヘビが自分の体の上を這いまわるのを想像して何度も哀願した。
銀子はしばし、余裕の表情でヘビの体を撫でながら、怯える静子夫人を見ていたが、いきなり、ヘビを裸の静子夫人の体に巻きつけた。
「ひいー」
静子夫人は絹を裂くような悲鳴を上げた。
だが、後ろ手に縛られて、木馬に跨っているため、どうすることも出来ない。
ヘビは静子夫人の体のぬくもりを楽しむかのようにズルズルとゆっくり静子夫人の体の上を這い回りだした。
「ひいー。と、とって。とって下さい。お願いです。銀子様」
静子は青ざめた顔で訴えた。
銀子は、ヘビを巻きつけられた静子夫人を笑いながら眺めていたが、しはしして、おもむろにヘビを取り、籠の中にもどした。
「か、感謝します」
静子夫人は汗だくで言った。
銀子はニヤニヤ笑っている。
静子夫人は、やっと地獄の責めから開放されて、ハアハアと荒い呼吸をした。
「ぎ、銀子さん。私から何もかも奪い取って、惨めのどん底に落してさも楽しいことでしょうね。いいですわ。もう、助かることなど諦めました。惨めのどん底で生き恥を晒す私をうんと笑うがいいわ」

黙って見ていた哲也は額に皺を寄せ考え込んだ。

マルクスは人類の歴史は、階級闘争の歴史と、喝破したが、確かに裕福な資産家の夫人がこうしてヤクザ達にみぐるみ剥がれているのは、やはり、階級闘争の歴史の現実で、マルクス哲学が、まざまざと目前で現実として証明されているのを見せつけられているような気がして、かの偉大なドイツ哲学者にあらためて感服するのだった。
哲哉はそんな事を小声でブツブツ呟いた。
静子夫人もいいかげん、この変わり者にあきれ果て、
「感心してる場合じゃないでしょ。何もかも私から奪い取って、搾取しているのは、この人達ではありませんか。私の方こそ、階級闘争の革命をしたいくらいですわ」
と、憤怒の目をチラと哲也に向けるのだった。

「じゃあ、また後でうんと楽しい事をしてやるからね」
と言って銀子はヘビの入った籠を持って部屋を出て行った。

銀子が去った後、哲也は立ち上がった。何か名セリフを言おう、という考えが哲也を立ち上がらせたのだ。偉大な思想家は、皆、名言を言うので、自分を偉大な思想家と信じる哲也は、名セリフを言うべきだと思ったのだ。それで、芭蕉が旅の道中で、路傍で泣く赤子をみて、
「ああ。汝、己が運命のつたなさを泣け」
と言って去ったのを思い出し、
「ああ。女よ。汝、己が運命の不遇なるを泣け」
と詠嘆的に言った。教養のある静子夫人は、これが芭蕉の「野ざらし紀行」の言葉を借りたものであることを、すぐに感じ、内心、
「芭蕉は一人旅の道中だったから、路傍の赤子に会うたびに、いちいち身元ひきうけ人になるお金も時間もなかったからでしょ。あなたは、縄を解いて、逃がしてくれれば、それだけでいいではないですか。全然当を得てないわ。もう、いいかげんにして。このウスラかんちがい!!あなたの考え方の間抜けさにこそ、私は泣きたいですわ」
と内心、叫びたくなるのだが、森田の息子の機嫌を損ねては、自分が不利になるだけなので、さも感動したように、
「ああ」
と言って、ガックリ肩を落し、絶望した女らしく演じてみせるのだった。それをみて、哲也は、
「やはり俺は偉大な思想家なのだ」
と、勇壮な表情で、納得したように、得心するのだった。

しばし静かな時間がたった。
木馬の上で静子夫人は疲れ果ててた。
もう、怒る気力も失せていた。
「哲也さんてどこどこまでも冷たいのね。人間的でないのね。でも哲也さんは感情の赴くままに行動していないんですもの。哲也さんに見守られているとこんな苦しみも何だか快感に変わっていくような感じだわ。もう静子は哲也さんに見守られているのなら、どんな酷いことをされても幸せです」
ここにきて、哲也にも悩みの感情が起こり出した。純粋なテオリアなど存在しない。現に彼女の心は僕の存在によって、影響を受けて変化、作用、している。自分が善意で静子夫人を救出する。これは意志だ。しかし静子夫人を世界を救う哲学のために静観する。これもやはり意志だ。現に彼女は僕の静観という態度によって影響を受けている。世界に影響を与えている。触れている。テオリアとは単なる即物的なものではない。本当のテオリアとは精神的にも世界と関わりを持たないことだ。静子夫人は今、善悪を超えた境地にいる。むしろこの精神が開放された時、彼女がどう行動に出るか、ということに人類の行きつく先の、答えがあるのではないだろうか。
この思いが哲也の中でどんどんふくらんでいった。
「認識の最良の方法はテオリアなんかじゃない。認識の最良の方法は行動だ」
哲也はそう言った。
哲也は立ち上がって静子夫人の縄を解いた。
「ああ。哲也さん」
静子夫人は哲也にしがみついて泣いた。
「逃げなよ。服もあるよ。僕を縛って、ナイフで人質にしなよ」
「誰がそんなことするもんですか」
哲也はズボンとシャツを静子夫人に渡した。
静子夫人は、いそいでそれを履いた。
静子夫人は哲也にしたがって屋敷から彼らに見つからないよう出た。
家に戻った静子夫人は夫に一切を話した。
夫には代議士の友人も多く森田組を潰すことなど、わけはなかった。
静子夫人は悪事を働かないことを条件に森田組の事は警察には言わないと電話した。森田組は、しぶしぶそれを受け入れた。
しかし、静子夫人は一人でいると時々、耐えられない思いになるのであった。
そして時々、哲也に電話をかけてこう言った。
「て、哲也君。お、お願い。家に来てくださらない。今日も静子をうんといじめて」
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